7/12 県立千葉工業高校の就職実績がスゴすぎる件 |

(写真)千葉県立千葉工業高校の天野角男校長と旋盤部の生徒たち
芝浦工業大学の柘植綾夫学長@ayao_tsugeにお会いした私は、次に、豊洲から有楽町線に乗って新木場で乗り換え、京葉線の終点、蘇我駅に向かった。ここにあるのが千葉県立千葉工業高校である。6月22日に千葉県高等学校教育研究会進路指導部会での講演を依頼された際、この進路指導部会の
会長が、千葉工業高校の天野角男校長であった。しかも天野校長は東洋大学工学部卒で私の大先輩にあたることが判明し非常に話が盛り上がり、これはぜひ千葉工業高校を見学せねばということで、今回お邪魔したのである。この千葉工業高校で私は衝撃的な体験の数々をすることになる。
千葉工業高校は、全日制の工業化学科(1クラス)、電子機械科(2クラス)、電気科(1クラス)、情報技術科(1クラス)と、定時制(4年間)の機械科、電気科(各1クラス)からなり、全日制の生徒数は596名(22年度)、全日制の教職員は72名。定時制は生徒175名、教職員28名。
平成21年度の進路状況は、大学・短大35名、専門学校41名、就職105名(12月末・求人615社)、公務員2名など。ほとんど就職じゃないかと思うだろう。しかし!この中身が凄いのである。工業化学科は東京ガス、旭硝子、チッソ石油化学、協和発酵ケミカル、富士フィルムRIファーマ、
吉野石膏、JFEスチール、大日本除虫菊、イトーキなど。電子機械科は宇部興産、新日本製鐵所、三菱化学メディエンス、JFEメカニカル、東京ガス、シャープドキュメントシステム、日野自動車、京葉臨海鉄道、NTTエムイー、三井造船千葉機工エンジニアリング、JFE鋼管、東京電力千葉支店、
古河電気工業、日立ディスプレイズ。電気科は東電工業、東京電設サービス、関電工、東京メトロ、フジクラ、日清製粉、三井造船千葉事業所、成田空港給油施設、関東電気保安協会。情報技術科は東京ガス、出光興産、菱電エレベータなど、就職内定率は100%。もちろん正規採用で技術系優良企業ばかり。
配送やレジなどのサービス産業への就職は一切ない。進学もほぼ100%。社会基盤整備に貢献する電気、ガス、水道、交通、情報、環境など責任ある社会インフラの分野にばかり就職している。大手企業では千葉事業所での採用が多い。千葉県には工業高校は、わずか8校、工業と名乗る高校は4校しかない。
「大学を出ても、ものをつくれるエンジニアには、なかなかなれません」と天野校長は言う。「私も工学部を出たが、実務のできる人は少ないと感じる」と。工業高校でものづくりを学び、大学で理論を学んでこそ、本当にものづくりのできるエンジニアになれるのではないか、と天野校長は問いかける。
「感性の鋭い高校生の時期に、ものづくりの基礎を学んだ方が、本当のエンジニアになれるんじゃないか」と天野校長。工業高校の魅力が中学に伝わらず、工業高校は人気がないが、誰もが普通高校に行ったところで、手に職をつけなければ、ろくな就職先がない子もいるじゃないか、と。
「キャリア教育とは、大学でどう就職するかを考えるんじゃなくて、中学生で『人生とは何か』を教えることなんじゃないか」と天野校長は言う。親も先生も子どもも、誰もがホワイトカラーを目指すから、普通高校は工業高校より偉いと思い込んでいる。日本は製造業が衰退しているといっても、これからも
工業立国でやっていくしかない。サービス産業や観光産業だって、社会基盤が整備されていなければはってんしようがなく、そうした社会基盤整備は工業高校の出身者が支えているのだ。工業高校=ブルーカラー=ダサいというのは、中学の先生が普通高校、普通大学しか知らないせいではないのか。
工業高校の就職先は抜群に良い。普通の大学を出ても入れないような一流メーカーに入れる。こうした企業は幹部は東大修士、現場の社員は工業高校卒を採用する。実際にものが作れる、現場で作業ができる工業高校卒業者は、本物の即戦力なのだ。授業の1/4は専門教科である。
「普通高校を出ても接客業しかない」という現実の前に、工業高校は非常に魅力的である。ただし、今どきのエンジニアは黙って良い仕事をするだけではなく、元気のある、しゃべれるエンジニアが求められているとも。企業が社員を育てる力がなくなり、普通高校の子に仕事を教えてくれなくなった。
求人も出さない。工業大学に出さない求人が工業高校には来ることもあるという。「大学の工学部は大きすぎる。ウチは1学科1クラス40人、1人1台の装置がある。と天野校長。「子供たちを何でも普通高校に送りたがるのは、問題の先送りだ」と天野校長は憤る。
「今の中学生は精神的にも肉体的にも成長著しく、ロボットをつくらせても生徒会活動をやらせても一生懸命だ。今の中3はかつての高3ぐらいの力は確実にある。早いうちに、若いうちに才能の芽を伸ばす、人生の選択を決めるという道があっても良いはずだ」と天野校長。私には目からウロコの発言だった。
「本当にエンジニアになりたい若い子のために、中学からお金をかけて実験設備やマシーンを揃え、もっと中学と工業高校の連携を密接にできないか」と天野校長。県はお金がかかる工業高校を潰したがっているが、一人の人間の社会への貢献を考えたとき、工業高校の貢献度たるやすごいものだ!という。
「工業高校は一度就職したら、一生、正社員のエンジニアなのです。すごい社会貢献だと思いませんか?」天野校長の気迫に私も圧倒されそうだ。「中学の先生は初任研修で工業高校を見てほしいし、高校の先生は初任研修で工業大学を体験したほうがいい」「中学の先生はキャリア教育を会社に送ることだと
思っている」(天野校長)。千葉工業高校は1クラス40人だが、6~7人のグループに1人の先生がついて実験や実習などをするため、大学よりも少人数教育なのだという。「大学はマシニングセンターを使いますが、高校は手作業の旋盤で勉強します。1000分の1ミリを刻みこむのです」。
「こんにちわ!」と元気よくこちらに挨拶してくれる生徒たち。千葉工業高校の「旋盤部」という部活動の部員だ。作業服を着ているので本物のエンジニアのようである。作る製品の誤差は0.01ミリまで。髪の毛の1/10ミリの世界である。千葉工業高校旋盤部の成績は、全国高校生ものづくりコンテスト
の千葉県予選で今年優勝。8月には関東大会、10月には全国大会がある。こんなところで静かに甲子園の熱戦が繰り広げられていた。「ウチの卒業生は、研究開発のオーダーにこたえられる技術を持っています。何でも海外流出でいいはずがない。だから工業高校は大切なのです」と天野校長は力説する。
「技術屋の感性は手仕事で磨かれる。手を使えば脳の中で理解が進む。プログラムをするのだけがエンジニアではありません」と菊池貞介教頭は言う。これが工業高校の世界だったのか。私にとっては新鮮な驚きの数々だった。工業高校の教育のあり方は、大学研究をする上でも多くの示唆に富んでいる。
