「長期停滞からの脱却」は本当か?実質賃金の現実 海外に漏れ出す付加価値、労働への分配も高まらず
物価上昇を上回る賃金上昇、すなわち実質賃金の上昇が起こるかどうかが注目されている。コロナ禍後に実質賃金が低下した背景を掘り下げる。
現在では、実質賃金の上昇は、日銀が物価上昇に見合った賃金上昇を注視しているという意味で金融緩和政策の解除条件の1つにもなっている。また、実質賃金の向上は、現在進行形で検討されている基礎・所得控除の引き上げのような減税政策の効果を評価する際の目安にもなっている。
それだけに、実質賃金の低下のマクロ経済学的な背景を見定めることは、政策的にもきわめて重要である。
本稿では、実質賃金の低下について、21世紀初頭からの長期停滞の文脈でなく、新型コロナ禍が終息した2021年以降の期間に着目していく。
結論を先に述べると、まず、交易条件(輸入価格に対する輸出価格の比率)が大きく悪化したために、労働所得の原資となる付加価値の伸びが物価上昇に追いつかなかった。国内で産み出した付加価値が貿易によって海外に漏出してしまってきた。
付加価値が海外に漏出しても、国内にとどまった付加価値から労働所得として分配される比率が上がれば、実質賃金が上昇する余地はある。
ところが、『「人手不足」は本当か?データからわかる現実とは』で論じたように、新型コロナ禍後に労働市場が大きく変容し、マクロレベルで超過供給が生じた。そのため、労働への分配比率を引き上げるほど労働者の賃金交渉力が高まる地合いにはなかった。
先に実質賃金が決まる
さて、賃上げに関わる政策論争は、物価と賃金という2つの名目価格について別々に議論されることが多い。たとえば、日本銀行がインフレ率を2%前後に制御することを前提として、2%を越えるような賃上げを実現することで実質賃金の向上を目指す、というような具合である。
しかし、マクロ経済モデルの市場均衡では、物価水準と名目賃金が別々に決まるのではなく、名目賃金を物価水準で割った実質賃金がまずは決定される。
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