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「其の夜の真心」 息もつかせぬキャプラのスクリューボール

シネマヴェーラでフランク・キャプラ特集が始まりました。見てない作品が多いので、この機会にと一つ見に行きました。まずは、フランク・キャプラ監督が最も輝いていた頃の、1934年の映画です。
原題:Broadway Bill (1934)

あらすじ
ダン(ワーナー・バクスター)は、ヒギンズヴィルに君臨している義父のJ.L.ヒギンズ(ウォルター・コノリー)の紙箱会社を経営していました。ヒギンズの長女マーガレット(ヘレン・ヴィンソン)と結婚してこの地位にあるものの、紙箱の仕事には興味が持てず、かつて身を置いていた競馬の世界に戻ることを夢見て、サラブレッドのブロードウェイビルの調教に余念がありません。ダンは、未婚で義理の妹のアリス(マーナ・ロイ)から夢を追うように励まされています。ある日いやいや会議に出たダンは、事業の落ち込みを叱責され、JLに馬を手放して仕事に専念するように命じられると、辞職してブロードウェイビルとともにヒギンズヴィルを飛び出しました。

ダンはインペリアル競馬場に着くと、インペリアルダービーにビルをエントリーしようとしますが、登録料500ドルの持ち合わせが無く、まず50 ドルでエントリーできる一般レースで優勝して登録料を稼ごうとします。しかし、ビルはレースで騎手を振り落として逸走してしまい、ダンは妻のマーガレットに、馬を落ち着かせるために、ビルと仲良しの鶏のスキーターを連れて来るようにと手紙を書きました。妻の代わりやってきたのは、ダンに恋しているアリスでした。アリスはそのままビルの世話をすることに決めてしまい、さらに登録料を捻出するために、内緒で自分のコートや宝石を売り、それと知らないダンに理由をつけて登録料を渡します。ところが、ダービーの前夜、ダンは馬の餌と厩舎代を支払っていなかったとして、馬は拘束され、ダンは刑務所に入れられてしまいました。

一方ある富豪が、ブロードウェイビルに冗談で2ドル賭けたことから、ビルが優勝するという噂が広まり、これは他の馬のオッズを上げることになるので、別の馬で勝負しようとしていたブックメーカーのエディ・モーガン(ダグラス・ダンブリル)を喜ばせます。ビルが拘束されていることを知ると、棄権されるのを防ぐために、エディはダンを刑務所から釈放し、トップジョッキーをビルを抑えるように買収して、ブロードウェイビルに乗れるように手配します。ところが、レースが始まるとブロードウェイビルは、ジョッキーの抑えもはねのけて勝利に向かって走り、見事優勝。しかし、ゴールラインを越えると、ブロードウェイビルは倒れ、心臓の負荷で亡くなってしまいました。そしてビルの葬儀の後、ダンはアリスを残して競馬場を去っていきました。

2年後、ダンとマーガレットは離婚しており、JLは金の亡者のような行いを改め、保有資産をすべて元の持ち主に戻そうとしていました。そして、一族に最後の売却を通知しているところに、ダンが車のクラクションを鳴らしながら到着し、JLに「プリンセスを暗い塔から解放しろ」と要求します。これを聴いて喜んだアリスが駆け付けると、そこにはダンとともに、2頭のサラブレッドが待っていました。二人が新しい門出の準備をしていると、JLも一緒に連れて行ってくれと追って走り出すのでした。


其の夜の真心

フランク・キャプラ監督の作品はけっこう好きで、いくつかの作品を見ましたが、シネマヴェーラでフランク・キャプラ監督の特集が組まれているので、まだ見たことのないこの作品を見に行きました。この時期の作品の中では、見る機会の比較的少ない作品だと思います。で、感想はというと、とても面白かった。見て良かったなぁ…という感じが残りました。まずは、息もつかせぬコメディ展開が素晴らしい。キャプラの同年の作品としては、名作の「或る夜の出来事」がありますが、この作品も負けず劣らず、笑いの絶えないスクリューボールコメディでした。

そして、映像のメリハリが素晴らしいというか、衝撃的です。後半の富豪が2ドルで馬券を買ったという噂が広まるところ。これは、その前の競馬場で穴馬情報が広まるところと呼応しますが、この広まり方に後年の「群衆」の雰囲気を思わせる、群集心理を感じました。そして、ブロードウェイ・ビルの衝撃的な場面。可哀そうですがこの衝撃は見事でした。ブロードウェイ・ビルには、いろいろな思惑で動く社会に対する、純真無垢な魂の叫びを感じます。コメディで終わらない、キャプラの社会に対する良心を感じます。

久しぶりにキャプラ監督の作品を見て、戦後の映画の復興時に設立したリバティ・フィルムの3人を思い出します。ウィリアム・ワイラー、ジョージ・スティーブンスとフランク・キャプラの3人。ウィリアム・ワイラーは完璧なまでに構築感のある質の高い映画を作りますが、その向けられた方向はまさにフランク・キャプラが描いた群集心理を操作する力を持っていました。ジョージ・スティーブンスは、のちにイージー・ライダーで描かれるような、アメリカ社会の田舎の保守的な不寛容を体現しているような人物という風に思えてなりません。そんな中でフランク・キャプラの作品からは良心を感じます。古い作品や戦後の作品を見ていないので、なんとも言えないところもありますが、やはりキャプラの作品は好きなのです。

2024.7.14 シネマヴェーラ渋谷にて

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

「北ホテル」 連綿と流れる市井の人情とサスペンスとロマンス

たまたま古書店で見かけて買った、古びた角川文庫の「北ホテル」。映画化もされている小説ですので、読後、引き続き映画鑑賞としました。監督はマルセル・カルネ1938年の映画です。
原題:Hôtel du Nord (1938)

あらすじ
パリの運河にそった界隈に、労働者たちが多く住んでいる北ホテルがありました。ある日、お祝いの宴で賑やかな北ホテルに、若い男女が一夜の宿を求めてやってきます。女中のジャンヌ(シモーヌ)が部屋に案内した二人はピエール(ジャン・ピエール・オーモン)とルネ(アナベラ)。二人は生活がうまくいかず、部屋で心中を企てていました。その夜、最後のキスを交し、ピエールは拳銃でルネを射ちますが、銃声を聞いて隣の部屋のエドモン(ルイ・ジューヴェ)が駆け付け、呆然としているピエールをまず逃がすと、警察に通報し、ルネは病院に運ばれていきました。

混乱するピエールは、公園のしげみにピストルを捨てて走り出し、跨線橋から飛び降り自殺をしようとしますが臆してしまい、翌日警察に自首します。ルネは病院で一命をとりとめました。ルネの前に警官に連れられたピエールと共に質問を受けますが、二人とも相手を庇い、自分が撃ったと主張しました。ルネはやがて全快し、北ホテルの主人にお礼に訪れると、ホテルで女中として働くことになります。そして、ピエールの元に度々面会に訪れますが、ピエールは自分の行ったことに耐え兼ね、敢えてルネを遠ざけるような発言を繰り返すのでした。

北ホテルでは、集まる面々は美しいルネを口説こうと必死です。その中でエドモンも寡黙ながらすっかり心をルネに奪われていました。エドモンは同棲していた娼婦のレイモンド(アルレッティ)と手を切り、ルネに接近すると、ピエールの態度に絶望していたルネもエドモンに心を許し、二人は外国に逃げることにします。その頃エドモンがかつて警察に売った昔の仲間が、出所してきて彼を狙っていたのです。二人は楽し気にマルセイユの港まで行きますが、ルネはエドモンから、心にピエールへの想いが強く残っていることを指摘されると、自分を偽っていたことに気付き、エドモンに黙って北ホテルへ帰ってしまいます。そして再びピエールに面会し、数日後に出所が決まっているピエールも、ルネに心を開きました。

七月十四日、パリ祭で街は遅くまで賑わってきました。この日ピエールが北ホテルを訪れ、ルネと旅立つ予定でした。そこにルネを追ってエドモンが帰ってきます。ルネはエドモンにピエールとやり直すことを伝え、エドモンを追っている昔の仲間が部屋で待ち伏せていると伝えます。エドモンは自ら敢えてその部屋に入り、相手に拳銃を渡して自分を撃たせてしまいます。しかしその音も街の喧騒にかき消され、それと知らず早朝迎えたピエールとルネは希望に向かって北ホテルを去っていくのでした。


北ホテル

冒頭にも書きましたが、ウジェーヌ・ダビの原作を読んでから、この映画を見始めました。小説は、北ホテルに集まる人々を活き活きと描いた群像劇で、悲喜こもごものエピソードがたくさん綴られていました。映画の方はピエール・ルネ・エドモン・レイモンドを巡る恋愛劇となっていて、サスペンス的な雰囲気も盛り込まれ、立派な娯楽作品となっています。小説の中に入ればエピソードに一つという位置づけになるようなお話ですが、映画では小説の設定をうまく散りばめながら、新しいストーリーとして作り上げられていました。

小説の方は、主役は北ホテルとその主人夫婦で、市井の人々を愛おしく描く形になっていたのに対し、ここではサスペンスとメロドラマの部分が強調された形となっています。そのあたりは、当時の映画ですので十分予期していましたし、その中でもこの北ホテルが活き活きと描かれることには変わりありません。冒頭に北ホテルに向かっていき、ラストで北ホテルから離れていく。映画の情景として、この北ホテルとそこに住む面々が美しく描かれており、見事な構成になっていると思いました。

1938年と言えば、トーキー映画も発展し、翌年には風と共に去りぬなどのたくさんの名画が生まれてくる、映画が最も充実して発展していた時代と思います。そんな時代のフランス映画の名品で、いつまでもそこにある様な美しい映像と、しっかりした構成と演技で作り上げられたマルセル・カルネ監督の名品だと思います。俳優としては、ルイ・ジューヴェと、アルレッティの演技の素晴らしさとアナベラの可憐さでしょうか。当時のパリの雰囲気にも誘ってくれる、素晴らしい作品でした。

2024.7.13 自宅にてAmazonPrimeにより鑑賞

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「炭坑 (1931)」 市民の連帯はあっても戦時には変わりなし

超久しぶりに映画を見ようと思って、シネマヴェーラ渋谷に出かけてみました。新しい話題作とかではなくて、1931年の映画で、監督はG.W.パブストというもの。久しぶりとはいえ、選んだ映画は、世の中の流れとは全く別の世界で映画を観ています(笑)。いわゆる反戦映画に分類されますでしょうか。当時はキネ旬4位となりました。
原題:Kameradschaft (1931)

あらすじ
独仏国境の炭坑地帯。炭坑は両国にまたがり、坑道も地下で繋がっていましたが、その一部は戦争の結果、国境が移動したという経緯もあり、両国の住民感情も穏やかなものではありませんでした。

ある日フランス集落を訪れた三人のドイツ人坑夫は、ダンスホールで相手にされずに追い出され、憤慨します。その翌日フランス側の坑道内で爆発が発生、フランス坑夫6百人が取り残されてしまいました。この報はドイツ側の炭坑にも伝わり、国こそ違えど、同じ坑夫仲間だと、責任者容認の元で、ドイツのボランティア救援隊は、用意を整え国境を越えて、フランスの炭坑に向かいました。フランス炭坑の入口には、取り残された坑夫の家族達が押し寄せて、不安と恐怖で落ち着きを失い、騒然とした状況でしたが、そこにドイツ坑夫の救援隊が到着し、ドイツ人を敵視していたフランス人たちは、夢想だにしなかった救援に、驚異の目を見開きます。

この時、前日にダンスホールでフランス人たちから追い出された3人の坑夫は、非番ではないため救援隊に加わっていませんでした。しかし、時がたつと同じ坑夫の苦境を想い、意を決してフランス労働者の救援に向かう事にします。彼らは坑道内の国境の柵を破壊して、フランス側に入り、爆発に苦しむ老鉱夫とその孫の若者を発見しました。しかし、再び坑道内の崩壊が発生し、彼等五人を狭い坑道内に閉じ込められてしまいました。その頃地上では、正規の救援隊もひと通りの捜索を終え、生存者の救出は完了したと思われていましたが、最後に確認のために坑道内の各拠点に電話をしたところ、この5人が見つかり、捜索隊によって無事救出され、捜索は完了しました。

後日、作業中に負傷したドイツ人達の傷も癒えて、フランスの病院を退院。多数のフランス坑夫が国境まで見送り、互いの口か感謝の言葉と、同じ坑夫としての連帯の言葉が発せられます。しかし、その頃地下の坑道内の国境では、破壊された鉄柵が、新たに入念に修復されているのでした。


炭坑

炭鉱事故の救出劇と、第一次大戦の独仏の対立を重ねた反戦映画でした。パブスト自身も、第一次大戦中にフランスの収容所に入れられたという過去を持っていて、その経験も反映されていると思われます。救出劇のサスペンス感も秀逸であり、さらに、独仏の対立もさることながら、鉱夫を気遣う家族たちの姿がことさらに強調され、主題を際立たせていると感じました。

同じ坑夫仲間としての連帯は、戦時下と言えども国を越えて発揮されるという演説調の結論は納得感はありますが、それ自身を自らシニカルに否定していくラストは、リアルに連綿と続く現実を突き付けてきます。炭鉱夫や家族などの市民の激情に対し、全く彼らの行動を否定せず、寧ろ利用さえしながら、穏便に職責を執行していく上層部や軍部の姿は、お役所的で全く攪乱や軋轢を起こさない分、結果として妙に現実的に感じられました。

トーキー初期の作品という事で、多少のぎこちなさは残りますが、スリリングでバランスの取れた作品になっていると思いました。俳優の個人技の目立つ作品というよりは、全体的なストーリーを描く迫力のある作品ですが、演技という意味では、国境の壁を崩していく3人のドイツ坑夫が目だっていたと思います。1931年に制作された傑作の映画だと思いました。

2024.7.11 シネマヴェーラ渋谷にて

テーマ : 映画レビュー
ジャンル : 映画

プロフィール

torrent13

Author:torrent13
映画は見たり見なかったりでしたが、ベトナム在住時代に、時間があるので映画を集中して見ながら始めたブログ。帰国しても続けています。昔はSF映画と、ミニシアターが好きでしたが、その後は西部劇、そして、最近では邦画や古いハリウッド映画などにも見る範囲を広げてきました。

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