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マイ・ライフ・アズ・ア・ブック My Life as a Book

ティーバラこと田原弘毅のブックレビュー。 2003年から読んだ海外小説の感想をつらつらと。

山岸真編『90年代SF傑作選〈上・下〉』

・山岸 真編『90年代SF傑作選〈上・下〉』(ハヤカワ文庫SF)

 1990年代に発表された英語圏SF短篇のうち、山岸真氏が粋を凝らしたアンソロジー。上下巻ともに11ずつの作品が収録されている。
 ラインナップは、有名どころだけをとっても、バクスター、シモンズ、レズニック、イアン・マクドナルド、ビッスン、ソウヤー、コニー・ウィリス、テッド・チャン、イーガンというただならない顔ぶれ(ジョナサン・レセムがいたのはうれしかったなあ)。

 上巻で印象的だったのは爆笑の「魂はみずからの社会を選ぶ―侵略と撃退:エミリー・ディキンスンの詩二篇の執筆 年代再考:ウェルズ的視点」(ウィリス)、人類発祥の地で人類の趨勢を俯瞰する「オルドヴァイ峡谷七景」(レズニック)、ホラーよりむしろ恐ろしい「フラッシュバック」(シモンズ)。
 そして絶品は、どうしてこんなのが思いついたのかと驚嘆させられるファンタジー「わが家のサッカーボール」(イアン・R・マクラウド)。これはどんな話かというとタイトルどおり「わが家のサッカーボール」の話なのです。わからない? 読めばわかります、ええ。不覚にも感動しましたよ。
 下巻ではさらに快作が目白押し、ハッタリが可愛らしい「ホームズ、最後の事件再び」(ソウヤー)、グロテスクで皮肉なシステム「誕生日」(フリーズナー)はラストが哀切で、悲しき生物兵器を描く「フローティング・ドッグズ」(マクドナルド)は個人的に涙ツボ、発端のホラ話から悪夢的な結末に至る「人間の血液に蠢く蛇 その実在に関する3つの聴聞会」(ガードナー)、90年代の「万華鏡」ともいうべき「棺」(リード)もいい。
 しかし群を抜いてすさまじいのは巻頭の「マックたち」(ビッスン)。これはまあ「よく掲載されたものだ」と呻きたくなるような奇怪作。最後の一行の恐ろしいこと…。このおかげなのか上巻より下巻の方がさらにレベルが高く感じた。

 『80年代SF傑作選』との決定的な差は、英米だけでなくオーストラリア、カナダの作家が含まれていることだろう。総じて駄作がほぼなく、極上のアンソロジー。河出文庫の『20世紀SF⑥90年代』との併読が望ましい。お買い得です。アンソロジーマニアとして☆は大サービス。

☆☆☆☆☆2005年12月6日読了

テーマ:海外小説・翻訳本 - ジャンル:小説・文学

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