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May 20, 2006

「韓流」は何をもたらしたか?

5月20日に大阪市立大学で行われた国際高麗学会のシンポジウムに参加してきました。僕はこの学会、参加するのは初めてでした。
シンポのテーマは「どうなる日韓関係:韓流と嫌韓流、二つの潮流を読む」というもの。パネラーとして、以前からの知り合いの先生方が参加していたので、そのお顔を拝見しに行ったのでした。

シンポジウム「どうなる日韓関係:韓流と嫌韓流、二つの潮流を読む」
コーディネーター 朴 一(大阪市立大学)
第1報告 姜誠(ノンフィクションライター)
第2報告 綛谷智雄(第一福祉大学)
コメンテーター:藤永壯(大阪産業大学)、高吉美(兵庫部落解放人権研究所)

コメンテーターを務められた藤永先生とはもともとの知り合い(僕から見れば、朝鮮近代史研究のの先達です)、綛谷先生とは、ネット上でやりとりをしていたのですが、実際にお会いするのは初めてでした。実は、このシンポは、『まじめな反論 『マンガ嫌韓流』のここがデタラメ』(コモンズ)という本の出版に合わせたもので、パネラー、コメンテーターの先生方は、この本の執筆者でした。
シンポジウムでは、様々な問題提起がなされましたが、印象深かったのは、以下に挙げる点でした(以下のまとめの文責は僕に帰します)。

Antikenkan まず、姜誠さんの発表とコメントですが、「嫌韓」は、様々な要因が組み合わさっているとの指摘が印象的でした。まず、「嫌韓」と対をなす「韓流」ブームですが、その担い手となった「冬ソナ」支持者の実年女性に対するバッシングというのも、ちょっと前の男性向け雑誌には顕著だったそうです。これなど、racismとsexismの組み合わせといえるでしょう(この話を聞いて、僕は大袈裟かも知れませんが、例えば金子文子や、「日本人妻」の問題を思い出しました)。「嫌韓」の発露は韓国と日本の外交問題(戦後補償問題、靖国問題、従軍慰安婦問題など)や、北朝鮮の拉致問題などが勿論引き金になっていますが、国内的な要因も大きいのでは、という指摘もありました。よく言われることですが、「勝ち組」「負け組」という残忍な二分法で人々を分ける発想など、新自由主義的な社会でのストレスを、叩きやすい「敵」を見つけて晴らす、という一つの運動が「嫌韓流」ではないか、ということです。そして、国外を見ると、911テロやイラク侵攻などへのアメリカの対応を見て、「力が全て」「対話は不可能」という一種のシニシズムが蔓延し、それも「嫌韓」の流れに棹さしているのではないか、という指摘は興味深いものでした。このシニシズムは「営業右翼」と呼ばれる「強い言説(実際きつい調子での論説を載せると、雑誌は売れるそうです)」への傾斜を促していると、僕も思います。
綛谷さんは、「嫌韓」というのは急に湧きあがったものではなく、戦後日本にずっと伏流していた「本音」が形をかえて現れたものではないか、と指摘していました。簡単に言えば「戦前の日本はそれほど悪くなかった」「植民地では良いこともした」というような「本音」です。これは別に新しい考えでもなんでもなく、戦後から一貫して、ある層が保持してきた考えだと僕も思います。そして、良く「嫌韓」的な人が指摘するように、いわゆる「反日」的な作品(小説・ドラマ・マンガ)が韓国で製作されているのは残念ながら事実ですが、それには「反省しない日本」という像(イメージ)が反映しているのではないか、とも指摘されていました。そして、これまた重要なのですが、そのような「頭でっかちのイメージ」で造られた日本像はおかしい、といっている「知日派」の知識人も、韓国にはどんどん出てきているのです。要するに、向こうを一枚岩と捉えて十把一絡げに批判しても、意味がないということです。
あと、司会者を務めていた朴一先生がおっしゃっていたのですが、「韓流」は在日コリアンの上を素通りしていったが、「嫌韓」には巻き込まれてしまったという感が強い、とのコメントも、僕には印象深かったです。確かに、「韓流」は韓国への興味を増大させた(特に今まで韓国に無関心か、漠然と悪感情を持っていた層の興味をかき立てた)という功績は否定できませんが、それが自分の「隣人」たる在日コリアンへの興味などへ向かったか、といえば、やはり疑問とせざるを得ません。でも、「近所づきあい」のレベルでは確実に前進した面も存在することも指摘されましたし、「韓流」のドラマを輸入するときにその「仲立ち」をしたのは在日コリアンの人々でもありました。そういう「プラス」の面も評価するべきだとの声もあり、これにも僕は大きく頷きました。「嫌韓流」という潮流も、無視できないとは思いますが、実際は「韓流」もしくは「知韓」「好韓」(裏返せば韓国側の「知日」「好日」)の傾向が着実に根を張っているのだから、そちらに希望を託したいとのまとめで、今回のシンポは幕を閉じました。

さて、休憩時間や懇親会で、色んな先生と雑談したのですが、実際若い世代は、果たしてどれだけ『マンガ嫌韓流』を読んだり知ったりしているのか、という話題で、ある先生曰く「僕の教えている1年生では、98%は知らなかった」とのこと。僕も、大体そんなものかな、という気がします。ただ、ネットにどっぷり浸かっている層では、その比率が上がるかも、という気はします。ネット上は、自分と意見を同じくする(もしくは敵対する)言説を一気にまとめ読みできるメディアですからね(mixiのレビューでも、噴飯もののがたくさんありました)。
あと、ちょっと気になる傾向として、けっこう「勉強熱心」な学生が、「歴史の真実」というようなあおり文句に惹かれて、『マンガ嫌韓流』のような本を読むのではないか、という指摘がありました(でも「勉強熱心」と言ったって、あのマンガとかを読んで「目が開いた」と言っているレベルですから「もうちょっとお勉強してきてね」としか言えないのですが)。僕自身は、まともに僕に例の本のような意見をぶつけてくる学生には(幸い)当たったことがないのですが、民主党前代表の前原さんの選挙事務所でバイトしていた学生が僕に「(民主党右派的な)改憲論」をぶってきたのには微苦笑させられた、という経験はあります。ともかく、「嫌韓」的な物言いをする学生に「とにかくこれを読んでご覧。読んでから韓国のことを語ってご覧」と手渡せる本が出版されたことは嬉しいことです。
この本がネットにうごめく嫌韓厨の「心」に届くとは、残念ながら考えにくいですが(でも、100人中数名は「転向」してくれないかな、と期待していますが)、この本の執筆者は「俺がやらねば誰がやる」との義侠心で執筆なさったと思います。僕ももちろん、その心意気を支持します。

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Comments

 丁寧なご報告・ご感想、ありがとうございます。
 川瀬さんのようなしっかりした若い方に支持していただけると、
心強いですね。 
 私もあの本が、「バカの壁」で心を蓋った「嫌韓厨」の心を動かせるとは期待しておりませんが、「悪質な民族差別デマに正面から異をとなえる大人がいる」ということを示した点において、ある程度の意義があったと思います。
 「2ちゃんねる」でも、けっこうヒステリックに反応してくれている
ようですし・・・^^


 

かせたにさま
ご報告の趣旨を曲げていないかを気にしていたのですが、上記のようなお言葉をいただきホッとしています。

>私もあの本が、「バカの壁」で心を蓋った「嫌韓厨」の心を動かせるとは期待しておりませんが、「悪質な民族差別デマに正面から異をとなえる大人がいる」ということを示した点において、ある程度の意義があったと思います。

僕も同感です。自分の聞きたい話しか聞かないのは、お菓子ばかりをほしがる「子供」と同じですから、そのような「子供」には、「大人」の有様を見せなければ、と思います。

「自分がされては嫌なことは人にはするな」という孔子様の教えを僕は忠実に守っているだけなんですけどねえ・・・。

こんにちは。
>「韓流」もしくは「知韓」「好韓」
私もこの点、実は楽観的なのです。例えば20年前、韓国の俳優の名前を知っている日本人はほとんどいなかったし、映画やドラマも観られなかった。「在日」は周りにいたけれど、韓国ないし朝鮮半島は実際眼中にすらなかったのではないでしょうか。
それが今では雑誌ができ、毎週放送・上映されている。そこから例えば「反韓」感情が生まれるとは考えにくいのです。またキムチだけでなく、朝鮮半島の文化全体への関心もすごく高まっている、と思います。
同じことは中国に対しても言えるかと。

あ、それからまたまた同じ人が私のブログに絡んできました。
今度は「植民地」論争です(笑)。

虎哲さん
僕も、虎哲さん同様、この件に関しては「草の根レベル」で楽観視しています。文化的にも経済的にも無視できないレベルの関わりが積み重ねられていますからね。

>あ、それからまたまた同じ人が私のブログに絡んできました。
>今度は「植民地」論争です(笑)。

ご愁傷様です(笑)。上記に紹介した本でも紹介してあげてください。

どうもご無沙汰しております、マイカ@アメリカです。いつもたいへん興味を持って川瀬先生のブログを読ませていただいています。

先週のシンポジウムについてのご報告も、とても勉強になりました。僕は先月、たまたまこちらの日本系書店で『マンガ嫌韓流』に実際に目を通す機会があったんですが、やっぱりちょっと驚くしかないような内容でした。そのようなマンガに、建設的な形で対応している方々がいらっしゃるとは、とても心強いことです。

去年から、アメリカのマスコミでも多少『嫌韓流』を取り上げることがありました(たとえばニューヨークタイムズ誌に、「Ugly Images of Asian Rivals Become Best Sellers in Japan」というような記事が出たりする程度)。しかし、アメリカの言論のなかに、その現象の原因に関しては、どちらかというと、日本とその隣国の外交問題や、いわゆる「脱亞」思想しか取り上げられないと思います。しかし、お陰さまできょう初めて知ったんですけど、「国内的な要因も大きい」んですね。考えてみれば、差別とか偏見というのは、そのうわべの対象とは関係のないところに起因する場合が多いものですね。

残念ながら例の「力が全て」とか「対話は不可能」というような雰囲気をつくり出しているのは、他ならないわがアメリカです。早く京都へ帰りたーい!

マイカさん、お久しぶりです。コメントありがとうございます。

>僕は先月、たまたまこちらの日本系書店で『マンガ嫌韓流』に実際に目を通す機会があったんですが

あんな racism & revisionism 丸出しの本まで輸出されているとは・・・。日本の恥です。

>やっぱりちょっと驚くしかないような内容でした。そのようなマンガに、建設的な形で対応している方々がいらっしゃるとは、とても心強いことです。

僕もそう思いますし、その助力をできるだけしていくつもりです。

>しかし、お陰さまできょう初めて知ったんですけど、「国内的な要因も大きい」んですね。考えてみれば、差別とか偏見というのは、そのうわべの対象とは関係のないところに起因する場合が多いものですね。

僕もついつい国外的な原因にばかりに目が行っていたのですが、ナショナリズムというものは、やはり国内的な問題が大きいのですよね。国内的な問題から目をそらす、という目的で外国と衝突したり(時には戦争したり)、ナショナリズムやxenophobiaを煽動することが多いのは、歴史の教えるところだと思います。

>残念ながら例の「力が全て」とか「対話は不可能」というような雰囲気をつくり出しているのは、他ならないわがアメリカです。早く京都へ帰りたーい!

いえいえ、アメリカには、マイカさんをはじめとする方も多いことは承知しています。僕はどちらかというと、アメリカに反撥するというよりは、アメリカの政策に盲従する日本政府を憎んでいます(笑)。
また京都や日本にいらっしゃるときは、連絡してください。

>自分の聞きたい話しか聞かないのは、お菓子ばかりをほしがる「子供」と同じですから、そのような「子供」には、「大人」の有様を見せなければ、と思います。

反日左翼にも当てはまる言葉だと思うのですが、自覚がないんだろうねぇ。

サヨクのお子様が寒流、ウヨクのお子様が嫌寒流

どっちも同レベルだね。

こんにちは。
ご無沙汰しております。

私自身は、以前は「韓流」をやや否定的にとらえたりもしていました。
大量に映画やドラマが日本で流入するようになって、玉石混交の感があったのと、
(勿論、チャングムやモレシゲやクッキなどは興味があるのですが、なかなか時間がなくて・・・)
>「韓流」は在日コリアンの上を素通りしていった
という朴一先生のコメントですが、私も同様に感じていたからです。

ただ、最近思うようになったのは、
「嫌韓流」とまでいかなくとも、近頃のマスコミの報道姿勢と軌を一にするかのように「韓流」を卒業した人たちは、悪い言い方をすれば所詮その程度の人たちだったのでしょう。在日コリアンの存在すら関心がなかったり。
逆に、これは私の周囲の話ですが、本当にハマってしまった人々は今でもハマっているし(それも、少なくない)、韓国語も熱心に勉強しているし、在日コリアンへの関心も高まっているみたいですね。
井筒監督の「パッチギ」の影響もあるでしょうね。

だから、「韓国の○○に関心がある」という人たちも精選されつつあるようなので(笑)、そういう意味では私も楽観視しています。

今や社会制度史の研究書まで翻訳されて、ジュンク堂に売ってましたし・・・。
朝鮮史を取り上げる学生さんも増えているんでしょうね。
府立大ではどうですか?

紹介されている本はまだ読んでいません。
是非・・・とは思いますが、「嫌韓流」は手に取る気すら起こりません。(笑)
私の通っている講座の交流会(=飲み会)でも、話題にすらなりません。皆が本音で意見をぶつけ合う、オープンな場ですから。
あ、講座は現在順調に開講されています。
これも川瀬先生をはじめ、多くの方に協力いただいたおかげです。
あらためて、お礼申し上げます。

サンジョンさま
お久しぶりです。お元気でしたか?

まだ府立大で朝鮮史を卒論などで取り上げる学生さんは残念ながら少ないですが、昔のように視野にすら入っていないという状況ではないので、喜ばしいことです。
「韓流」というのも、その深さ浅さは人によりけりでしょうけど、僕はポジティブに捉えています。サンジョンさんがおっしゃるように、そのまま韓国語の勉強をしたりする層は確実に増えているわけですし。
ただ、「韓流にはまったんなら、ここまでの問題関心を持つべきだ」という教条的な物言いは、せっかくの韓流熱に水を掛けるようなものですから慎もうかな、とは思っています。

『嫌韓流』は無理に手に取るほどのものでもありませんよ。どれほどメチャクチャかは、上記の反論本がいってくれていますので、こっちを読めばいいです。

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