たごもりすメモ

コードとかその他の話とか。

くもりのち晴れ、ときどき、コストセンター

直接成果が外に出ない僕らの仕事は大抵、最初は空模様が怪しい。いまいち見通しが悪くテンションも上がらない曇り空が続いたあと、努力が報われれば、ありがたくもそのうちに晴れ間が見えるようになる。たまにとんでもない快晴にめぐりあえることもある。

でも途中で目的地を見失ったり、脚が萎えてその場にくずれおちたりすると、天候はあっという間に変わる。動けないうちに嵐がやってくる。

その嵐には僕の中では、コストセンターというラベルが貼ってある。

storm
http://www.picgifs.com/wallpapers/storm/wallpaper_storm_animaatjes-9-970507/

あまり好きな表現ではないが、コストセンターという言葉がある。この言葉の定義自体いろいろあるらしいというか、明確には定義があるようだというのはこのあたりを読むとふむふむという感じ。
だが、おそらく多くの人の頭には「コスト(費用)だけが集計され、収益は集計されない部門。」という定義のほうが浮かぶんじゃないかと思う。このエントリでのコストセンターという言葉も、そのような意味で使う。それがけしからんと言われても他に適切な言葉が思い当たらない。すみません。

さて、自分は社内では開発支援チームというところで働いている。主なお仕事は読んで字のごとく、開発をやるチームの支援だ。彼らの日々の開発の助けとなるようなことをやる。直接的に弊社の主要業務(インターネットサービスの開発)に従事するわけではなく、そういう意味で、直接お金を稼ぐ仕事をしていない。また自分が書いたコードが、直接自社サービスのユーザの使い勝手に貢献したりするということもあまりない*1。

ということで、自分がいるところはコストセンターだ。……と、数日に一度は自覚的に考えるようにしている。好きな表現ではない分よけいに自覚的であると言ってもいいと思う。

僕らの仕事は直接ユーザの手元に反映されない。されることが少ない。しかも僕らの仕事は社内の開発者を助けるためのものなので、それは逆説的に、彼らの手元に届くものを作らないと意味がない、ということでもある。社内のエース級のソフトウェアエンジニアが日々ぱっぱっとやっつけてしまっていることを、いやもっとこうした方がいいと納得させられるものになんとか仕上げないと、そうして使ってもらわないと意味がない。

僕がなにか大きめの、自社内での仕事を効率化するための機能開発に手をつけたとき、1ヶ月や2ヶ月の日数をかけてもひと段落もつかないこともある。もちろん何をやっていてどのような状況にいるのかチーム内では知らせるようにしているが、おそらくほかのチーム、ほかの開発者から見たとき、そういう状況の僕は何者にも見えない。
あいつは2ヶ月も何をやってるんだ? ここに俺たちが困っているパフォーマンスの問題があって、あいつの手が役に立ちそうなもんなのに、それを放っていて何を考えているんだ?

たまに自分がどこにいるか分からなくなることもある。入らなくてよい森の奥深くにいることに、ある日ようやく気付くこともある。そういうときは泣く泣くその旅を諦め、出発点に一度戻る。"rm -r ./" で戻れるのがこの旅の気楽なところだ。時間だけは戻ってくれないが。

晴れ間を求める旅の途中、脚が萎えて何度も座り込みそうになる。座り込んだら嵐がやってくるとわかっているので、僕は長めの旅に出るとき、かならず何本もの丈夫な杖を持っていく。
杖にはそれぞれ違う名前がついているが、一番頼りにしているものには大抵「利点」と深く彫り込んである。その下には続けて「これが完成すれば誰にとっても便利なものになる」。他の杖は場合によっていろいろだけれど「発見:みんなの気付けなかった情報を掘り当てる」だとか「広報:この仕事を広く知られるのは宣伝になる」だとか「利益:サーバの台数がだいぶ減る」だとかだ。

旅をしました、結果、違う場所に座り込むことができました。天気はあまり変わりません。これじゃ何も意味がないし、そういう旅はたいてい途中で目的地を見失う。コストセンターという名の嵐に襲われる。

大事なのは、自分が何のためにその旅をしているか、聞かれたときにすぐに答えられるようにしておくことだ。
自分はどこに行きたいのか。そこに行きつけば何があるのか。それは旅の出発点に座り込んでいるよりも、何がどれだけマシなのか。誰にとってどういう物がもたらされるのか。

確実に手に取れるかどうかはわからないかもしれないけれど、少なくとも自分はそこにこんな宝物があるはずだと、そう思っているから旅をしているのだと。
みんなにこんな素敵な宝物を渡すために旅をしているのだと、それがどれだけ輝いているものなのかを、手にとってもいないうちから、旅に出ようとしているそのときから、声を大にして言えるようにしておくのだ。
それが僕らの仕事を、価値あるようにやりとげるために、最も大切なことだ。

*1:全く無いわけではないけれど。それに我々の仕事をうまくやるとサーバの台数が半分になってコストが物凄く圧縮されたりすることもあり、それは利益に大いに貢献する。……が、まあ、それも置いておく。