松永和紀さんの講演会があるというので行ってきた。場所はエポカルつくばの国際会議場。
紹介があって 2 時間程度講演。
冒頭に「メディアによる情報災害が起っている」というつかみがあって、放射線の影響、ほどほどにリスク管理をしていこうという話、新基準値の話とこれまで
のモニタリング結果 (現状の内部被曝は少ない)、放射線検査の意味
(高線量のものを検査で堰き止めているわけではない。現状把握と対応のためのもの)、商業主義の酷いメディアの報道について、リスクアセスメント...
あたりで時間切れ。
以下質疑と感想。
(Q1) あらゆる情報にはバイアスがかかっていると思う。意見を聴くと、原発推進派かどうか考えるようになった。ICRPの基準も原発が成り立つがどうかで決めたと聞いている。従って ICRP の基準にのっとってやるというのはどうか。
(A1) それでも ICRP は一番信頼できる団体だ。ECRR といったものもあるが科学的ではないと思う。バイアスはもちろんある。
(I1) 意見の正確さと、原発に対する賛否は無関係。ICRP
の基準は疫学的な影響が見られない部分、つまり ND
の部分において、原子力産業が労働者の安全をどう守るかその基準を示したもの。健康影響の無い部分でどう線を引くかという時に、経済的な基準で線を引こ
う、となっても何の不思議もない。むしろ100mSvまではなんでも OK、になっていないことに注目すべき。
(Q2) 米国科学アカデミーの報告によれば、100mSv でガン死が 40/100 から 41/100 になるとあった。また、広島長崎の解析から 10mSv で胎児に影響があるというものがあるがどうか。
(A2) 米国科学アカデミーの報告も読んだが、数字については記憶していない。日本ではガン死の率はもっと低いと思う。
(I2) 前半はそんなもんだろう。後半はにわかには信じ難い。広島長崎の調査は事後予測で、多くは 1Sv とか 2Sv とかそんなレベルの話だよね。10mSv
なんてどうやって計ったのだろうか。それと、疫学は確率的な議論なので、低線量でも影響があるという結果も当然ある。しかし、それは少数派。また、真に問題なのは、どの程度影響があるか、の部分。
(Q3) 高線量、広域的な除染は不可能だと思う。明治時代にも例があるが、(社会環境を破壊しない) 集団移住を考えるべきではないか。
(A3) 思ったよりも土から植物に移行しないことが判ってきた。高い値がでるのも林の中の田圃など一部だけである。その土地で、数十
Bqの放射線なら気にしないという消費者の力を借りて (農業をしながら)
生きていきたいという意見もある。どちらにしても決めるのは居住者であって、外部の人間 (や行政) ではない。
(Q4) 食品放射線基準について、乳児も同じ 1mSv なのか。どう考慮してあるのか。
(A4) 成人と乳幼児とでは換算係数が違う。Sv になった時点で考慮済み。
(I4) そこまで勉強しているなら知っているはずだと思う。
(Q5) カリウムとセシウムとでは影響が違うと聞いている。(現在の陰膳検査において検出される Cs の量が K40 のブレの範囲だという講演中の説明は) それでも成りたつのか。
(A5) 説明不足だった。Cs の係数は K40 の 2 倍。でも大意は変わらない。
(Q6) 魚介類について生物濃縮はないといったが、どのような根拠か。
(A6) メチル水銀の濃縮係数は 10 万、100 万のオーダーであるが、セシウムの場合は 100 のオーダー。普通、科学的な意味で生物濃縮という時は 1000 のオーダーからなので、その意味では生物濃縮はないという表現になった。
(Q7) つくばで農業をやっている。農産品を検査してもらったが ND だった。とはいえ、どう消費者に説明していったら良いのかがわからない。
(A7) (機器がないので追加の) 検査も簡単ではない。どんな努力をして農業をやっているのか、転土や肥料で工夫していることを消費者に発信してはどうか。そういう「顔の見える」農業が理解に繋るのではないか。もちろん私もライターとして努力したい。
(I7) 参考になる。 海原雄山の言葉に「人の心を感動させる事が出来るのは人の心だけなのだ。」という言葉がある。努力している様を見せて消費者に理解を、というのは、それに通じるものがあると思う。不安は数字や事実だけでは拭えないが、心があれば可能なのだろう。
http://www.foocom.net/ や松永さんの blog は良く読んでいるので、特に目新しい話はなかったが、全体としては良かった。だた、もっと時間があるともっと良かったと思う。
もうひとつ、今回の講演会の主催は意外なことに水戸 COOP だった。COOP といえば過激な消費者運動、つまり「放射線はゼロでなきゃ駄目」みたいなことを言う団体だという印象だったからだ。しかし考えてみれば、COOP には産地直送産物といった、生産者と一緒に行動している部分もあるわけで、それが今回の「まともな」講演会に繋ったのだと思えば納得できる。