2010/11/09

起業に失敗しても懲りずに頑張る人のお話

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ビジネススクールでの話一般にありがちなことだが、生存者バイアスという問題がある。毎日、ランチセッションに来るスピーカーは、何だかんだで成功しているから呼ばれていることが多い。そんな人たちに幾度となく接して、アニマル・スピリッツをがっつり蓄えよう、というのが、当校のウリでもあるように思う。


しかし、たまに来るのが、名誉ある敗者。敗者とはいっても、借金まみれではなく、そこそこの値段でエグジットしているようなケースも多いのだが、とかく、時代に愛されなかった、というストーリーが語られることが多い(*1)。


昨日は、二つの素晴らしいアイデアで起業しながらも、成功するには至らなかったFriendster創業者Jonathan Abramsの話を聞いてきた。





彼の人生と、Friendsterのタイムラインを追うと以下の通り:



90年代半ば:Jerry Kaplanが失敗について書いた本”Startup:sillicon valley venture”を読んで、逆に起業家的生き方を決意。ヤフーとネットスケープにレジュメを送り、返信のあった後者に勤めるためにカナダからシリコンバレーに移住。

1998年:ソーシャル・ブックマーキングサイトのHotlinksを創業。Deliciousが出てくる5年前であり、なかなか流行らなかった。
1999-2001年:ドットコムバブルの中、慣れない社長職。良い人材を集めることができなかった。事業は失敗、私生活でも失敗、人生最悪の日々。

2002年:お葬式状態になったシリコンバレーにて、次の起業プランを思いつく。コンセプトは、
1)オンラインデート/仕事目的といったいやらしさのないネットワーキングサービス
2)友人同士でウェブサイトの紹介
3)6 Degreesは遠すぎるから、3 Degrees位のネットワークを作る
友人に意見を聞くと、半数は「今まで聞いた中で最もバカなアイデアだ」、半数は「面白そうじゃん」。とりあえず友人の持っていたサーバーを借りて、Friendsterを構築開始。



2003年3月:サービスをローンチ。口コミのみで、10月までに230万人のユーザーを獲得。同月、13ミリオンを複数のVCより調達。様々なメディアで絶賛の声。時代の寵児になり、Friendster中毒、といった言葉が雑誌を飛び交う。

同時期、通称Six degrees patent騒動(参照)において、友達だったLinkedin創業者に特許取得で出し抜かれる。


2004年3月:社長をクビになる。その後、開発言語を変えるために、会社ではすべてのコードをリライトする悪夢が。システムが長期間動かなくなる。


2005年:4人目の社長が登板。不発に終わったM&A努力など。


2006年:経営再建計画により持ち分大幅低下。


2009年12月:マレーシアの企業に40ミリオンで売却。



こうやって見ていると、98年にソーシャルブックマーキング、03年に純粋交友目的のネットワーキングサイトと、どちらも、5年後には世界を支配するアイデアに取り組んでいたにも関わらず、時代に愛されなかったことになる。しかも、本人は04年にクビになってからも、06年にパーティ系ネットワーキングサービスSocializrを起業したり、クラブハウスを共同で経営したりとなどと活動中。要するに、懲りずに頑張っている。

彼は、そういった自分の経緯を振り返りつつ、起業家の生き方について語った。
  • BusinessweekやVanity Fairの表紙を飾ったりする若い起業家の姿というのは、マスコミの格好のエサ。あのGet rich young像に釣られないことがそもそも大事。Kevin Roseは60ミリオンを手にすることはなかった。あの流れに乗せられると、失敗しに行っているようなもの。
                   
  • Illusions of Entrepreneurship参照)でも有名だが、平均的なスタートアップは5年で失敗する。そして、創業した人は、他の会社に雇われていた場合に比べて、10年間にわたり35%低い給料に甘んじなければならない。要するに、平均的な起業家は人生を失敗している。
  • Lean startupの思想とも繋がるが、起業は失敗して当然なのだし、富や名声はなかなか得られない。起業したての頃は、メディアが注目してくれたり、凄い人たちと接することができるかもしれないが、楽しいのは最初だけ。Marc Andreesenですら、Why not do a Startupという記事(参照、*2)を、もう閉鎖したブログに書いていた。
  • シリコンバレーは、確かに失敗に寛容かもしれない。しかし、ギロチンが落ちてくることに変わりはない。毎日のように起業家が悪夢に怯えるのも変わらない。
  • しかも、創業者兼社長、というスタイルは投資家には不人気だ。そこそこ成功したベンチャーでも、5社に4社では創業者だったCEOがおおかた不本意な形で追い出されている。しかも、業績が良い時ほど追い出されやすい。
  • 結局、すばらしいアイデアに基づく2社を起業して、失敗して思うのは、あるアイデアで実際に成功できるかなんて分からない、ってことだった。でも、もう一つ言えるのは、一社目の失敗があったからこそ、2社目ではそこそこスケールするまで耐えることもできた、ということだった。
  • 何が自分を起業に駆り立てるのか、という質問への答えを考えてみた。答えはこうだ。

    よく、わからない

    別に、意識して起業家的であろうとも思わなかった。気が向いたからやってきただけ。起業家というのは、何か良い思いつきを行動に起こせる人のことを指す。その間には恐怖のキャズムがある。そこを、Just Do Itと乗り切ることは、本当は誰でもできるはず。
  • 恐怖とは、視点の問題。何が本当の成功/失敗なのか?誰の評価を気にするべきなのか?それをちゃんと考えれば、気は楽になる。それでも経営は怖いものだけど。
  • チャーチルの言葉に、「成功とは、失敗から失敗へと情熱を失わずに進むことである。」 (Success is the ability to go from one failure to another with no loss of enthusiasm)というのがある。これ、悲しいけど自分にはおそろしく当てはまっている。
  • Friendsterの敗因は、システムの書き換えで失敗したことと、既にリッチな人たちを役員に置いたことで、ハングリーさが欠如していたこと。こういったことは、取り返しがつかないミスになる。
  • ザッカーバーグが同じ失敗をしないためには、彼ができるだけフェイスブックの持ち分を保つことが大事だろう。あと、大企業病にならないことが大事。イノベーティブな文化は、大企業では簡単に死んでしまう。
  • 会社を起こすなら、できるだけVCにコントロールを与えないことが大事だ。Sixth Apartは、VCによりつまらない会社になってしまった典型例だと思う。VCではなく、今はやりのスーパーエンジェルとか、そういった人たちの助けをあおいだ方がよい。

話を聞いていて思ったことは二つ。

一つは、ありふれた事だが、起業をする人というのは、リスクに対する見方が異なっているということ。(1)誰かにアイデアを奪われること、と、(2)アイデアを実行して失敗すること、のどちらをリスクとして認識するのかという点に、論点は尽きると思う。

もう一つは、ネットビジネスにおけるVCの役割について。
最近、ロン・コンウェイやセコイア・キャピタル、様々な創業者、Yコンビネーターといったエコシステムの主役の話を聞く中で、起業家の尖ったアイデアには、できるだけVCを近づけないことが大事、という黄金律を感じつつある。
資本構成にVCの大型投資を入れた時点で、事業のエッジとは関係性の低い、収益化に向けたタイムリミットがある程度発生する。そして、気づけば社長が追い出されていたり、拙速な戦略を採ったりと、角を矯めて牛を殺すような行動に企業が陥ることも。
一方で、GoogleがYahooへのサービス提供を目論んでセコイアに出資を頼んだ様に、VC特有のネットワークを通じて、アイデアを開花させる経路も見逃すことができないし、VCの大型投資なくしては、できない事業展開だって沢山ある。
二つのバランスが大事になる中で、昔に比べると、クラウドを使えたり、色んな要素が変動費化できることもあり、ベンチャー企業に有利(VCの投資には不利)な側面が増えているんじゃないか、と感じている。


(*1)
今までも何度か聞いたことがある話としては、東海岸の某校では卒業後の同窓会には基本的に成功している人しか来ないが、GSBの同窓会には敗者も堂々と来る、みたいな話がある。もちろん、デマだろうけど、まあこの地特有の風情やメンタリティを表すエピソードといえる。

(*2)
その文中に、中々壮絶な一節がある。;
You will flip rapidly from a day in which you are euphorically convinced you are going to own the world, to a day in which doom seems only weeks away and you feel completely ruined, and back again.
Over and over and over.
(意訳:世界を支配できるアイデアに熱狂する日もあれば、もう世界はおしまいだと思うような日もある。その行き来を、何度も、何度も、何度もするのだ)

6 comments:

  1. 「ザッカーバーグが同じ失敗をしないためには、彼ができるだけフェイスブックの持ち分を保つことが大事だろう。」など、面白い内容でした。ありがとうございます!

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  2. 面白く読ませていただきました

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  3. これは名エントリ!ベンチャー社長は皆読むべし

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  4. VCとの距離感をいかに保つか、自分のビジネスとの相性も含めて考えていかないと金融資本主義の波に飲み込まれてしまうわけですね。良い実例をありがとうございました。

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