2020/12/09
2020/12/9(水) 近況とお知らせ
お久しぶりです、渡瀬です。このブログの更新も二〜三年ぶりという酷い状態なのですが、長らく音信不通となってしまい、本当に申し訳ありません。
最新刊の発売から一年以上が経過してしまいましたので、節目として、今回はいくつかのお知らせをば……
まず、2019年9月に発行しました「妖姫ノ夜」につきまして。
こちらは発行から一ヶ月後の、昨年十月の段階で、編集部から打ち切りを申し渡されていました。
正確には「一巻で即打ち切るほど酷い売り上げではなかったものの、二巻で終わらせて欲しい」といったお話でした。
ただ、そこに至るまでの電撃文庫編集部とのやりとり、経緯につきまして、いくつか困惑している部分があり、迷った末、現在「妖姫ノ夜」の版権の引き上げを編集部にお願いしている状態です。
今後についてはまだ未定なのですが、基本的にはWEBでの掲載、あるいは電子書籍等での同人誌扱いでの継続を模索しています。
版権が手元に戻り次第、改めて考えていくつもりですが、続きについてはもうしばらくお待ちいただけましたら幸いです。
……と。
事の詳細な経緯については、このまま触れずに流そうかとも考えたのですが――
「妖姫ノ夜」一巻をお買い上げいただいた方には、丸々一年、ほぼ音沙汰なしでお待たせしている手前、最低限の報告は必要と感じ、どうしても主観的かつ冗長にはなってしまうのですが、年越しの前にこちらにまとめることにしました。(※以下、長いです)
そもそもの発端は、2019年9月に刊行された「妖姫ノ夜 ~月下ニ契リテ幽世ヲ駆ケル~」の、タイトルに関する編集部とのやりとりでした。
こちらの作品は、事前の発売予告には流れていた通り、本来は「夜霧と今夜の化猫堂」というタイトルで、以前の担当氏の元で書かせていただいた作品です。
2019年の春先に、お世話になった元担当氏の退職日が近づいてきたため、新規の担当氏へバトンタッチされる形で、発刊の予定が引き継がれました。
こちらの新担当氏は、作品のタイトルを当初から変更したかったようです。当時の広告などでの予告には、「夜霧と今夜の化猫堂(仮)」という表記がついており、「こちらは仮題のつもりはないのに、どうして(仮)が外れないのだろう」と不思議には感じていましたが、この時点ではよくあることと思い、流していました。
その後、タイトルについて「変更したい」と新担当氏から連絡があり、うかがったタイトル案は「妖姫の守り人」というものでした。
このタイトルから連想される作品群に敬意を持つ身としては、「それだけは絶対にやめてくれ!」と抵抗し、このタイトル変更についてはどうにか避けられました。
内容がパロディや二次創作ならばともかく、この時ばかりは本当に焦りました。
その後、初校(発売前の、著者による校正チェックの作業)を済ませ、この時点でもまだ、タイトルは「夜霧と今夜の化猫堂(仮)」のままでした。
時期にして発売一ヶ月前の、2019年八月上旬。
絵師さんも決まり、「もう(仮)はとったほうがいいんじゃないか」とも思っていたのですが、ここで想定外の事態が起きました。
深夜の零時頃。
新担当氏から「タイトルを変更したい」「明日の朝までに決めたい」という電話連絡がきました。
朝まで残り八時間あまり、あまりに急な話で、「なぜ」と問い返したところ、「発注した表紙と、タイトルのイメージがあわない」との返事。
通常、「タイトルにあわせて表紙を決める」ものと思っていた自分は耳を疑いましたが、そうは言っても既に発売一ヶ月前、絵師さんは作業中、「このタイミングで構図や人物の変更は無理がある」と判断し、ひとまず朝まで時間をもらい、新担当氏と断続的に電話のやりとりをしつつ、「電話で聞いた表紙の構図と、違和感のなさそうなタイトル」を考え、朝の八時頃にメールにて連絡しました。
その時に、担当氏からの案として提示されていた「妖姫ノ夜」というタイトルに関しては、
「二巻以降の内容とそぐわないので避けて欲しい」
「もしこれを使いたい場合、あくまでサブタイトルにとどめて、シリーズ名はこちらで新たに考えたものにして欲しい」
「もしメインのタイトルにした場合、続刊はそれぞれ〝○○ノ夜〟などのような形で、毎回タイトルを変更していかざるを得ない。何冊も出せるならいざ知らず、三冊程度で終わらせることになった場合には、読者に混乱を招くだけでリスクが大きい」
と重ねてお願いし、ひとまずその日は連絡を待ちました。
それから三日ほど過ぎて、新担当氏から、「編集会議にて、タイトルは〝妖姫ノ夜 月下ニ契リテ~〟に決まりました」との連絡がありました。
こちらで新たに考えたタイトル案、及び懸念点や要望はすべて黙殺され、脱力感で、しばらくは何も考えられませんでした。
今にして思えば、この時に出版契約を拒否し、版権を引き上げておくべきだったのですが、「新担当氏がここまでゴリ押しでタイトル変更を強行するからには、何か心算があるのか」という思いと、「タイトルはともあれ、一応は新作を文庫本の形で読者さんにお届けできる」点、また「発売日まで一ヶ月を切っている現状、既に印刷所も営業関係も動いており、この時点での延期は厳しい」という自分の日和見な判断も災いし、「これで続刊をきちんと出していけるなら」と、その場では堪えました。
今でもこの判断については後悔しています。
そして発売から一ヶ月後、2019年10月の打ち合わせ時、先述の通り、編集長も同席の上で打ち切りを通告されました。
この時、「夜霧と今夜の化猫堂」という当初のタイトルのままであれば、このタイトルに似合うような、残り一冊での終わらせ方も考えてあったので、問題なく受け入れていたように思います。
ただ、「妖姫ノ夜」という、自分にとっては想定外の、名付けの意図すらよくわからないタイトルへ一方的に変更された上で、「次の二巻目で終わらせて欲しい」といわれても、途方に暮れるしかありませんでした。
元々、「妖姫ノ夜」というタイトルにするならば、「続刊ではタイトルを毎回変える形式にせざるを得ない」という前提がありました。
この認識は新担当氏との間でも共有していたはずなのですが、「シリーズとしてのタイトルが存在しないまま、二巻でタイトルを変更して、いきなり終わらせる」というのはあまり聞いたことのない事例で、葛藤した末、「続きはウェブ連載でどうか」という提案をしました。
この案は通ったのですが、前担当氏や編集長も交えたこの打ち合わせの終了間際、新担当氏から「二巻ももう出せないと思います」とはっきり明言され、「ウェブ連載」の結果がどうであれ、もう編集部側に続刊を出す意志はないことを理解しました。
その後の半年程、これまでお世話になってきた電撃文庫との取引を、今後どうするべきなのか、悩み続けました。
自分は大学卒業後、すぐに電撃大賞にて拾っていただき、以来二十年、ほぼ電撃、及びメディアワークス文庫ひとすじで物書きを続けてきました。
僭越ながら、電撃文庫には愛着も深く、またお世話になってきたことへの感謝もあります。
歴代の担当氏に対しても、物書きとしては地味な作風である自分を、根気よく育てていただいたとも感じています。その感謝の思いは今も変わりません。
ただ、少なくとも「妖姫ノ夜」(原題「夜霧と今夜の化猫堂」)という作品については、発売直前での騙し討ちじみたタイトル変更の強行、その後の打ち切り通告に関連して、少なからず思うところがありました。
この先、仮に新作を書けたとしても、今後は「こういうこと」が続くのだろうとも感じました。
作品のタイトルは本来、著作者人格権とも深く結びついたものです。それをあっさりと無視された上で、なお続刊への芽もなくなった今、作品のために作者がとれる行動には、どういったものがあるのか――
迷った末の2020年3月、電撃文庫編集部へ、「妖姫ノ夜」版権の引き上げをお願いしました。
自分も四十歳をこえ、そろそろ人生の残り時間を考えるべき年齢にさしかかっています。
商売として成り立たないのは仕方がない、ただ作品としては、やはり元のタイトルに戻した上で、きちんと完結させてやりたい。その思いに素直になろうと決め、この判断に至った次第です。
またこの方針に伴い、今後、「陰陽ノ京」の続刊についても、もはや電撃文庫系からの出版は難しいものと判断し、別の方向から続刊への道筋を探るため、あわせて版権の引き上げを申請しました。
こちらは元々、決して売り上げが良くはなく、なかば自分の趣味で出させていただいていた作品です。
それでいて、昔馴染みの読者さんからは時に続刊を望む声をお送りいただける、嬉しくも心苦しい作品でもありました。
なお、既に完結している「空ノ鐘の響く惑星で」と「輪環の魔導師」、エピソードが独立していて電子化も済んでいる「パラサイトムーン」「ストレンジムーン」、そもそも単作である「源氏物ノ怪語り」などについては、版権はそのまま電撃文庫・メディアワークス文庫にあります。
もちろん、川原先生のSAOのスピンオフとして書かせていただいた「クローバーズ・リグレット」や、SEGA様の「ワールドエンドエクリプス」などについては、そもそも世界観をお借りした立場なので、こちらから版権をどうこうという可能性は一切ありません。
また、パラサイトムーン系に関しては、そもそも「エピソード単位でタイトルや主人公が変わる」形式であるため、新しい話を書いたとしても、「同一タイトル(シリーズ)・同一内容が問題となる出版契約の縛りを受けにくい」という個別の事情もありました。
今回、「妖姫ノ夜」(=夜霧と今夜の化猫堂)の版権を引き上げたのは、一巻のタイトルを当初の案に戻した上で、WEBでの掲載等を経て完結を目指すためです。
また「陰陽ノ京」についてはまだ電子化もされていないため、改稿を経た上で電子書籍化を進めつつ、細々とでも続きを書いていければと考えています。
いずれにせよ、電撃文庫版の「妖姫ノ夜」、電撃文庫、MW文庫の「陰陽ノ京」シリーズに関しては、今後、そう遅くないタイミングで絶版となる見込みです。
昨今のコロナ禍によって、編集部の通常業務にも少なからず影響がでており、版権の引き上げに関する法的な作業においても、様々な方に力をお借りし、またご迷惑をおかけしています。たいへん申し訳ありません。
なお、作者個人の近況と今後についてですが――
「夜霧と今夜の化猫堂」(刊行時タイトル・妖姫ノ夜)の今後についてはまだ何も決まっていないのですが、「陰陽ノ京」については、知人の紹介で書籍化のご協力をいただけそうな目処がつきつつあり、現在は上記の版権返還を待ちつつ、既刊の改稿と続きを書く作業に入っています。
さすがに二十年前の原稿となると粗が目立ち、特に陰陽の一巻あたりは「ほぼ書き直したほうが良いのでは……?」と頭を抱える日々です。
ちょっと手間取るかもしれませんが、来年の後半頃には何か、新しいお知らせができるかもしれません。
久々の、そして長々としたご報告で申し訳ありません。
今後、どういった方向で動いていくか、まだ今の時点では決めていないことも多いのですが、今回は「もう続きを出せない」というご報告ではなく、「続きを書くために、別方向から動いている」という経過のご報告になります。
何卒、ご理解とご容赦をいただけましたら幸いです。
コロナ禍に加えての酷暑を経て、季節も秋から冬へと移ろい、いつの間にやら年の瀬となってしまいました。
今年はいろいろな場面で、学生・社会人問わず、望まぬ変化や停滞を余儀なくされた方が多いのではとも思います。
また医療関係をはじめ、現在進行形で酷い困難の中にある方々も多いはずですが、どうか皆様、お体に気をつけて――!
自分も今年は、ぐだぐだと思い悩んでばかりで何もできませんでしたが――それでも気力だけは取り戻しつつありますので、版権問題が終わり次第、来年はまた初心に戻って、可能な範囲で書き物をしていければと思います。
それではまた、近くお目にかかれることを願いつつ。
2020/12 渡瀬草一郎
( 蛇足 )
そんな感じで、実は昨年の新刊以降は割と鬱々だったのですが……
追加で版権引き上げというデリケートな案件も抱えてしまい、なかなかツイッターなどに近況をあげるのも躊躇われ(……というか、本気で「何て書いたらいいのかわからなかった」というのが本音です……)、最近になってようやく思考が落ち着いてきた次第です。
ついでにここ半年ほどは、「軽めで明るいモノでも書いて、せめて少しでも精神状態を軽くしよう!」と、リハビリ&習作がてら、趣味に走ったモノを水面下で書き散らしていました。
このまま死蔵しよーかとも思ったのですが、長くなりすぎてなんだか惜しくなってきたため(※貧乏性)、今日からこっそり投下していこうと思います。
「そんなんええからはよ陰陽書いとけ!」と、脳内でもう一人の自分が怒っているものの、割と書くものに精神状態を引きずられる性質なため、今はちょっと軽いモノでリハビリしないと自律神経やなんかに影響しそうで……!
普段の自分の作風とは違う上、作者名もなんかアレなことになっていますが、年末年始の暇つぶしにでもご笑読いただけましたら幸いです。
>> 我が輩は猫魔導師である!
https://ncode.syosetu.com/n6891gq/
あと知人の紹介で、ユーチューブで配信されるホラー漫画動画のシナリオにもちょっとだけ参加させていただいてたりします(匿名参加です)
多数の作家さんが関わっているので、自分が書いた本数は少ないのですが、こちらもよろしければぜひー。
>> 不思議のタネ
https://www.youtube.com/channel/UC9asBVz_NISJoBEQFQRnIIA
(ΦωΦ)ノシ