クイック・ジャパン74
沖縄に行ったり仕事をしたりと忙しい間に、Quick Japan Vol.74が発売されたのだ。この本は何とPerfumeについての特集号で、僕も文章を書かせていただくことができた。依頼されて、そういう機会はもうないかもしれないと思ったので、すぐに引き受けた。語り尽くせない色々な経緯があって、できあがったのはこういうものである。
この中の「Perfumeの魅力を引き出す映像世界」という記事はばるぼらさんが担当されていて、それだけでも読むべきだと思うのだが、僕もこの中で、冒頭のイベントレポートとPerfumeへのインタビュー、そしてヒストリーの作成を担当している。冒頭に来ているイベントレポートは、この特集のすべてをフォローする内容になるものだ。一読すれば分かるように、ここで僕はPerfumeのことではなく観客のことを多く書いている。幸いなことに編集部のオーダーがPerfumeを今取り巻く状況の分かるものにしてというものだったので、そのような書き方ができた。僕はPerfumeを僕らがどう受け入れるかという話がしたかったので、最適だった。この中で僕が何を言っているかというと、誰かが愛を禁じるなら、我々はアイドルを見失うだろうということだ。愛をまぜかえすことに貧しい情熱を傾ける言葉たちによって、アイドルだけでなく、あらゆる愛が不可能になる。やがて、対象を好意的に語ることは憚られるようになるだろう。僕はPerfumeがクラブユースに堪える楽曲を持つからといって、「アーティスト」として分類し「アイドルなどという程度の低い存在ではない」となぜ言わなければならないのかと考えていたが、しかし同時にアイドル好きの人が「音楽目当てでPerfumeを語る奴はウザい」と言うのも悲しいことだと思う。人をどこかの派閥に組み入れて綱引きをするとき、アイドルのファンはオタクで、気持ちの悪い、恥ずかしいものだという、本当は何の裏付けもないレッテルを貼るのにお互いが夢中になってしまうとき、もう誰も対象自体なんか見ていない。これは、アイドルの話だけじゃない。自分の好きな何かについて、それをどれだけ好きか語ることはなぜ困難になっているのだろうか?素敵な存在を前にしているのに、一体我々は何をやっているのだろう?QJで宇多丸さんはこう書いている。【FEATURES.1】
Perfume
「アイドル」の意味を回復する3人
■2007.9.17 新曲「ポリリズム」発売記念イベントレポート
■本誌独占!Perfume10,000字インタビュー!!
アイドルとして、テクノとして、どんな楽しみ方をされてもいい
■私がPerfumeを好きな理由。
ピエール中野(凛として時雨)/大谷ノブ彦(ダイノジ)/
後藤まりこ(ミドリ)/サエキけんぞう/辛酸なめ子/SPECIAL OTHERS/
西脇彩華(9nine)/掟ポルシェ(ロマンポルシェ。)
■Perfumeヒストリー 2000.2007
■振り付け解説①「エレクトロ・ワールド」
■Perfume全シングル・アルバム・DVD解説
■中田ヤスタカ(サウンドプロデューサー)インタビュー
Perfumeのスタッフは、ものすごい天才か、
ものすごい勘違いをしているか、どっちかです
■Perfumeの魅力を引き出す映像世界
アートディレクター・関 和亮インタビュー
■振り付け解説②「チョコレイト・ディスコ」
■特別寄稿
宇多丸「Perfumeという〈奇跡〉」
■Perfume、渋谷HMVの自動ドアにサインしてきちゃいました!!/読者プレゼント
アイドルを誰もが見捨てている。我々がここで正しく捉えなければならないのは、アイドルソングに対して期待しない風潮を作り出しているのが、作り手と聴き手の両方だということだ。だからと言って握手会参加券が入っているCDを買うなと言うわけではないし、曲さえ良ければアイドルとして評価しろ、というのではない。ただここには、そのものを認める態度がないと思う。Perfumeはついに今、僕がずっと不満だった「アキバ系」「クラブ系」どっちかに偏ろうとする売り方を脱することができつつあるのではないか。それなのに、今度は聴き手の側からカテゴライズが開始されるなら、Perfumeの新しさなんて何にも残らないはずだ。大半の女性アイドル歌手には、「どうせ誰も本気で歌なんか聴きゃしないんだから、この程度で十分でしょ」と言わんばかりの、やっつけ丸出しの曲しか与えられないのが、今も常識です。そして、これはさらに情けない話、実際のところ曲の良し悪しよりも、「握手会参加券封入」とかの方が、遙かに売り上げに結果を残すことが多いのも事実。
そもそもPerfumeが僕にとって面白かったのは、彼女たちは僕らのそんな態度をなで斬りにしてくれる存在だったことだ。楽曲の完成度が高く、パフォーマンスはアイドルそのものなのである。しかもメンバーはアイドルという認識を揺らがせる態度であけすけに何でも自由に語る。相反する極端な要素を高い完成度で併せ持ってしまうと、誰もが認めざるを得なくなる。僕は爺さんなのでそこに皮肉さやパンキッシュなものを感じようとしてしまうが、彼女たちにはそんなものすらなくて、僕はそこに快感を覚える。セオリーを守ろうとか、タブーを「あえて」侵そうとか、そういう感覚が全くないままに易々とこなすのだ。圧倒的な存在。それは、今の10代とか20代前半に僕が抱いている期待に近い。QJのインタビューでは、メンバーのそういう側面が出ないかと思って作ってみた。そのことが、つまらないことにこだわっている僕たちを解放してくれるのではないかと思ったのだ。子供の頃からSPEEDが好きだったけど、アイドルだとかアーティストだとか考えたことはなくて、ただ歌手として好き。プリキュアも好きだし、オシャレな音楽も好き。彼女たちはそう言った。そして、僕はニコニコ動画をどう思うか聞いたし、こんな質問もしたのだ。
もちろん、彼女たちは期待を裏切らない返事をしてくれた。素晴らしいことだと思う。「その人たちがいなかったら、今のPerfumeはないと思います」と言ったときの、あ~ちゃんの真摯な目が印象的だった。どうしても諸手を挙げて誰かを好きだと言えないような人は、自分たちがひょっとしたらプロデュース陣に踊らされているんじゃないかみたいなことを言うかもしれない。そういう物語が楽しいものだと思いたい人もいるのだ。以前の記事にも書いたが、例えば楽曲を作っている中田ヤスタカとか、アミューズや徳間がPerfumeにおいて特権的な存在であるように感じるかもしれないが、Perfumeが最も面白いのは、誰も中心にいないことだと僕は思う。中田ヤスタカはインタビューの中できっぱりと「Perfumeは誰にもコントロールされていない」と言っているのだ。この先、誰かがPerfumeを牛耳るのかどうか僕には不明だが、今はそうじゃない。それで僕は特集のリードに密かにこう書いたのだ。では今からPerfumeを「アイドル」としてファンになる人がいてもいいですか。
いつか裏切られると暗い期待をして時代を過ごすのは誰かの勝手だが、物事が繰り返しなら、そうやって座していることも正解じゃない。アイドルだから聴くのが恥ずかしいとか、あれはサブカルだとか、オタクだとか、黒歴史だとか、言い過ぎたあげくにいつの間にか衒いなく対象を好きだと言えなくなってしまうようなことを、僕は今やめていいと思う。そういう頃もあったし、そういう時代はまたいつか来ると思う。でも今は停滞の中に身を委ねてはいられない。「あえて」も「ネタ」も、もういいだろう。もし自分の好きなものを好きだとだけ言って、お互いにそうあれるならPerfumeなんて好いてくれなくてもいいくらいだ。Perfumeとハロプロの違いを知りたい人にはインタビューの欄外にある「私がPerfumeを好きな理由。」の掟ポルシェさんと辛酸なめ子さんの文章が最適だと思う。でもこれを読んで、ハロプロのことを否定し始めなくてもいいのだ。Perfumeがいいと言うことは、ハロプロのここがダメでPerfumeはここが新しい、次はこれだ、と言うことではなかった。Perfume自体がそれを体現するグループなのだから、僕らも彼女たちの物語に集中しよう。この欄のちゃあぽんのインタビューは、涙なくしては読めないものなのだから。今や僕たちは、彼女たちがいつかアイドルじゃなくなることまで知っている。でも、だったら躊躇する理由はどこにもない。モタモタしてると彼女たちを見過ごして、ただ時代が過ぎていってしまうんだ。
この特集の記事はすべて、まず、Perfumeのことを知らない人に向けて書かれている。だから僕のレポートも「Perfumeってどんなものだろう?」という内容なのだ。実際この記事はいろんな人に向けて書かれていて、初期のQJの読者だったであろう、一定の年代の人にしか分からないこともわざと書いてある。だが、それとは別に、単純にPerfumeのファンの人にとっても読めるものにできたつもりだ。特に、今のPerfumeを取り巻く状況に少し複雑な思いを抱いているであろう、あの頃のファンたちにも届いていればいいと思う。三軒茶屋のツタヤで、サンリオピューロランドで、亀戸で、広島で、人が全然いない海岸で、雪の降る歩行者天国で、そしてネットラジオで(もちろんだ)。あのころ僕と一緒に本当に大切そうにPerfumeを聴いた人たちが、今どんな気持ちでいるのか僕は想像できなくもない。だから僕の文章を読んで、彼らがこれからもずっと変わらず彼女たちを見守っていられる気持ちになってくれればうれしい。
僕がもう1つ担当した「Perfumeヒストリー」は、作るにあたって、norさんをはじめとするPerfumeのファンの方々に協力していただいた。一人一人にお礼を言えないけれど、皆さん本当にありがとうございました。このヒストリーはPerfumeのメンバーに渡して、それを見ながらインタビューを行ったのだけれど、三人はすごいすごいととても喜んでいた。ファンたちは彼女たちのことをこんなに熱心に見ているんだということをメンバーに分かってもらいたかったので、とてもよかった。この記事は特集内ではそこそこ資料としての価値がある部分かもしれない。でも僕は今回は資料として価値があるものを作っても意味がないと思ったので、例えば単なる「ヒストリー」じゃなくて「全仕事」にするなど、そういうアイデアは一切挟まなかった。どちらかというと不要な部分をどんどん排除して、インタビュー記事に関連する部分と、エピソードとして面白い部分だけを残していった。雑誌の役割はこうだという意志でそうした。熱心なファンが個人で情報を発信する時代に、マスメディアが同じものを作って競い合うのは意味が少ない。究極的にはファンジンを作れば熱心な個人には適わないし、できる限り多くの人に読んでもらいたい雑誌編集者ならファンジンを作りたいとは思わないだろう(そういう本作りを否定はしないが)。カルチャー雑誌はいまだに90年代以前の手法でカタログ本を作っていることもあるが、インターネットで個人がもっと偏執的な情熱を見せているときに、もうあのやり方はいらないと思う。それよりも、それぞれのページがなぜ必要なのかを深く考えて、全体を読み物として筋の通ったものにして、きれいにレイアウトしてあげる、編集という仕事の当たり前の面をもっと見せればいいのだ。それが雑誌というメディアの醍醐味なのだから、見失ってはいけないはずだ。それを個人に投げれば、個人はそれを吸収して、さらにマスメディアには太刀打ちできないようなものを投げ返してくるだろう。そのおかげでマスメディアはさらに伸びることができると思う。
逆に言えば、僕らにとって面白いのは、本が出た後のここからだ。今回掲載したヒストリーは、実は完全なバージョンではない。読み物として不要な部分や、掲載されたインタビューでは言及されていない部分は惜しげもなく削除した。繰り返すが、それが雑誌の良さなのだ。実際それぞれのエピソードは蘊蓄として読んで楽しいものになったと思う。そして、詳細さを求めるものは今は雑誌じゃなくてネットにあるべきだと思う。だから僕は、Perfumeのメンバーに渡したバージョンを、今ここに公開しよう。ファンの人はどうか好きに使ってください。いくら配布しても、加工しても、追加しても、別の場所で使ってもいいです。むしろどんどん追加してほしい。最初の一瞬だけ全仕事を作ろうかなと思ったけれど、インタビューに持っていくのにも不要だと思ったのですぐにやめて不要な項目をざくざく削除したのだ。だから、まだ全然足りていないこれを基にして全仕事のヒストリーを作るのもいいと思うし、メディアの出演情報などについては必ずしもすべてについて確認を取っていないので、1つずつ集めるのもいいかもしれない。その代わり、間違えている部分があったら、僕に断らなくていいから、よかったらこっそりと直しておいてください。どうか、Perfumeを楽しんでください。
めでたいことに、今号はどうやら好評で品切れが続出し、早くも増刷がかかりそうという話だ(これで誤植も直せるわけだ)。しかし逆に言うと品切れになるというのは、書店の人や、どうかすると太田出版が「Perfume特集なんて売れないだろう」と判断してあまり店頭に並べなかったということだから、悔しいじゃないか。今のQJの方向性を決定づけるほど売れたのはたぶん「水曜どうでしょう」の号じゃないかと思うんだけど、そこまでいかなくても、何だかおかしなことが起きていると思わせるほどに売れてたらいいのにと本当に思う。
アイドルは決して我々を試さない。アイドルは原則的に我々を愛するし、自分たちに対する我々からの愛を疑わない。我々が試されているのは、ただ我々自身によってのみである。彼女たちの一途さを受諾するかどうか、我々は逡巡している。我々がアイドルに戸惑うときも、アイドルはただじっと我々に愛されるのを待っていてくれるのだ。我々はアイドルに許されている。愛とは何か。それは物語を信じる力だ。昨日書いた記事にも書いたことだ。しかしここではもちろん、七里の鼻の小皺の記述を引用するのがふさわしいだろう。
もちろんだ。彼に応じよう。各々、展開しよう。疲れればまた煙草を吸ってビールを飲んで一服しようじゃないか。そしたら僕はまた奴らを高く吊るす。さあ、連中が僕のやった有様を見るだろう。戦況は以前にはずっと絶望的だった。しかし世界を変えるのは我々だ。我々自身だ。我々は人々にあんな態度を強いているものを退けられる。「コンピューターシティ」を聴けば分かる。われわれは、一人一人社会に入り込んだ、ゲリラ部隊のようなものなのだ。もう、そろそろ点呼をとろう。社会が、愛を禁じる場面をみつけては、各個撃破する。その約束のもとでなら、どれだけ離れていても、われわれは想像力の眼差しを交わすことができるだろう。
もうすぐ変わるよ 世界が
もうすぐ僕らの何かが変わるよ
完璧な計算で造られたこの街を
逃げ出したい 壊したい
真実はあるのかな
完璧な計算で造られた楽園で
一つだけ嘘じゃない
愛してる
2007.10.16 | | コメント(34) | トラックバック(3) | [文章] [音楽] [アニメ]