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2006.11.12

エセ科学「水からの伝言」への注意を喚起する

「水からの伝言」を信じないでください

 物理学者の田崎晴明氏(学習院大学)が、上記のページを公開した。

 科学教育という面でも、世間におけるエセ科学の蔓延を食い止めるという意味でも極めて重要なページだと思うのでリンクする。

 水は確かに生命にとって重要な物質であり、しかも他にない特異な物性を示す。しかし、「水が人間の思念に反応して美しく結晶する」という主張は、科学的方法論の示す真理と、人間の感性が掬い上げる審美的な意味での美とを意図的に混同した嘘でしかない。

 嘘を世間に流布するのはいけないことだ。小学生にも分かる話。

 各種検索エンジンで「水からの伝言」を検索した時に、上記ページが上位に来るように、出来る限り多くの人が、上記ページにリンクしてくれればと願う。


————————————


 それでも「水からの伝言」を信じたい人には、以下の事実を指摘しておくことにしよう。

 「水からの伝言」を主張する江本勝氏は、アイ・エイチ・エムという会社を経営している。

 このページを見ると、この会社は波動測定器「HADO R」という計測機器を開発していることがわかる。詳しいページは工事中ということになっている。

 ところが、同じアイ・エイチ・エムの販売ページには、この「HADO R」の詳細が掲載されている。

 波動測定器HADO“R”


 そこにはこんなことが書いてある。


 HADO“R”は、世界のさまざまな「エネルギー測定器」事情を調査し、欧米で注目されている代替医療、その筆頭のホメオパシー医療の歴史についての研究を進め、足掛け4年の開発期間をかけて創り上げた国産型波動測定器です。特に200年もの歴史を持つホメオパシーとの関係性を考慮し、波動発生回路部を“電磁ホメオパシー”として位置付けています。また、HADO“R”のセンス回路にはこれまで日本で紹介されているプローブ型の感知システムとは別の、磁界吸収感知型のハンドプレートを採用しています。これによりオペレーター(測定者)を増幅器として使う必要がなく、より客観的な測定が実現できるようになりました。

 であり、

・1688コードが収められている「コードBOOK」から転写項目を選択し、さまざまな波動情報水をつくることができます。 ・症状、病名、身体組織、そして100を超える心理面に関する波動コードにより、それぞれにおける被験者の波動適応力を分析できます(波動セラピーの項参照)。 ・ハンドプレート上に健康食品・化粧品その他を同時にのせて、被験者との波動の相性が計測できます。 ・心理面の分析! 100コード以上からなる心理面関連コードを駆使した、こころとからだの関係を分析できる点が最大の特長です。

という。

 色々突っ込みどころ満載なのはさておいて。

 測定とは物理的な変化を計測することであり、波動を測定するというならば、波動というものが物理的世界のどのような物理量に変化を与えるかが明らかになっている必要がある。

 ところが最後まで読んでも、この「HADO R」が具体的にどのような物理量を測定しているのははっきりしない。測定器と言いつつ何を測定しているか不明というわけ。

 ここで注目すべきは以下の記述だ。

波動測定器 HADO“R”

本体価格  ¥1,890,000 (税込)
研修費用 別途(半年間プログラム 735,000円(税込)〜)
研修場所に付きましては、お問い合わせください


 「水からの伝言」の提唱者である江本勝氏は、どのような物理量を測定しているかはっきりしないカッコ付きの“測定器”を、189万円で販売し、さらに半年の研修費用として73万5000円を徴収しようとしているわけだ。

 189万円73万5000円

 さて、そのようなことをする人物による「水からの伝言」という主張は、常識で判断して信ずるに足るだろうか。

 少なくとも私は信用しない。

追記:「水への伝言に一言いいたいけれど、自分が張ったリンクでアイ・エイチ・エムのページランクが上がるってのもなあ」と思う方に。
 Googleの場合、リンクのタグ中に「rel="nofollow"」と入れておくと、そのリンクはページランクにカウントされない。

米Google、リンク属性を利用したコメントスパム対策機能(Internet Watch、2005年1月19日)。

 トラックバックを張ってくれたWeb屋のネタ帳さんからの情報だ。どうも有用な情報をありがとうございます。
[2006.11.13記]


 水について本当のところを知りたい人は、「水から伝言」などではなく、この本を読もう。北海道大学で長年氷雪の研究に従事してきた研究者による、氷と水に関する一般解説書だ。

 「圧力や温度によって14種類もの異なる構造を持つ氷が存在する」、あるいは「氷も焼結する」など、氷が常識で思いも寄らない性質を持っていることが次々と説明されるのは楽しい。

 最終章では「ボイジャー」などの惑星探査機が木星や土星の衛星で見つけた氷と、その振る舞いについての新しい知見がまとめてある。

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Comments

上記「水からの伝言」を拡大解釈すると化学製品歩留まりが悪いロットでは工場で働いている人が汚い言葉を吐いているという推論ができますね。

製造現場できれいな言葉を話しても、化学産業では反応温度と原料の不純物含有量で出来は決まります。(きれいな言葉で歩留まりが変化すれば万々歳ですが、未だに見たことがありません(笑)
べーらんめー調の親方のラーメン屋でもうまいラーメンは良いラーメンです。要は外部の人間が評価するのは製品という結果だけです。(きれいな言葉は関係ありません!)

失礼!

この話をなさる先生は若くて熱心な先生が多いのも困ってしまいます。
webでも少し触れられていますが、科学を離れて、教育学的にはここに2つの大きな問題見ることができます。
1つは、価値判断の外在という問題です。
物事の善悪を外部(水の結晶)にゆだねてしまうその危うさ。なぜ自分の心で判断しないのでしょうか。
また、その善悪を教師がスケールとなって教えることができないのでしょうか。
2つは、結晶が美しいかどうかで価値を判断するという外見重視性
教師はよく、外見で物事を判断してはいけないとか言っておきながら、矛盾してますよね。
この2つは、近年の教師の権威の失墜と対をなす問題だと思います。

念のため、「エイチ・アイ・エム」でなくて「アイ・エイチ・エム」ですね。対抗勢力に揚げ足を取られる前に指摘させてください(笑)ともかく、これまで「水からの伝言」の内容のほうにしか目が行ってなかったのですが、商売のほうも確かにいろいろと問題がありそうですね…

 うわ、恥ずかしい!ご指摘ありがとうございます。直しておきました。

 そうなんです。商売も問題ありなんです。「好意を得てから金を引き出す」という詐欺の基本を思い出してしまうところではありますね。

 学校での水伝実践は、TOSSが率先してやっちゃいました。AERAの記事以降、だいぶ減ってはいるようです。批判は出しておいたのですが、大学の一般教養でこの話をとりあげると、学校で教わったというコメントを書いてくれる学生さんが毎回何人か居るという状態です。
「TOSSランド」(教育技術法則化運動)へのコメント
http://atom11.phys.ocha.ac.jp/wwatch/misc/comment_misc_06.html
 なお、波動な人々の宣伝にも、科学の立場からツッコミをいれてみました。
「波動」系水商売を斬るー量子力学の正しい理解のために
http://atom11.phys.ocha.ac.jp/wwatch/appendix/app30.html

 波動の産業への入り込みと弊害については、別冊宝島「トンデモさんの大逆襲」に「波動汚染」という記事があって、そこに詳しくまとめられています。

 90年代の終わり頃に、農業コンサルタントの人からメールをもらったことがあります。「有機農法で作った野菜が、栄養素の分析をしても農薬や化学肥料を使って作った野菜と差が出なかったので、差のでる測定法を探していたら波動に入り込まれた。設備として数百万円で測定器を農家に売りつけていた。その後インチキだとばれて商売できなくなったので、波動な人達が水に目を付けたから気を付けろ」という内容でした。水からの伝言が出たのがその後まもなくでした。

 apjさん、どうもはじめまして。

 TOSSは「水からの伝言」を別にしても、気に喰わん運動だなという印象を持っております。要は教師という職業に、ファストフードチェーン並のマニュアルを作ろうという運動なんですが、どう考えても行きすぎのように思えますので。

 効果的な指導にノウハウがあるのは認めますが、所詮教師と教え子は人対人の関係ですから、マニュアル指導の裏に実力がなければ、見透かされてバカにされるだけででしょう(自分が子供の頃を思い出しても、けっこう力不足に思える教師をバカにしていた部分があったし)。マニュアル指導が効くのは小学校低学年が限界では。

>数百万円で測定器を農家に売りつけて
 これは立派な刑事事件ですね。波動測定器も、買っちゃった人がいるんでしょうか。私には、アイ・エイチ・エムの製品は軒並み詐欺に見えるんですけれども。

「波動汚染」ってのは的確な言葉ですね。がんがんつかいましょう。

また、フェイスブック上でまん延し始めました。
根本泰行先生とかフェイスブックでそれなりの支持を得ているちゃんとしたお医者さんが大絶賛しますから、
信者さんのような人達がいっぱいいるようで、ちょっと昔詐欺だったことを書くととんでもなく信者さんから攻撃を受けました。このホームページをはっつけようかとも思ったのですが怖いです。彼らは正気ではないので、無駄ですね。

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