飯館村自死裁判に関するご報告
平成30年2月20日、福島第一原発事故時に飯舘村最高齢だった102歳の大久保文雄さんが自死された件で、東京電力の責任を問う裁判の判決が出されました。
当該裁判では、主として文雄さんの死亡と事故の因果関係の有無及び死亡慰謝料の金額(事故が自死に寄与した割合)が争われましたが、判決は因果関係を認め、事故が自死に寄与した割合を6割と判断しました。
これまでも、事故と自死の因果関係を認める裁判はいくつか出されています。今回の裁判が、労災のストレス強度評価表を用いて因果関係を認めた点は、従来の裁判と同様です。特筆すべきは、うつ病等を経て正常な判断ができなくなった上での自死でなければ、そこに自らの判断が介在する以上因果関係は認められないと主張する東京電力の判断を正面から否定したことにあります。これまでの裁判では、うつ病等の病状を介在させることが必須であるかのように読める部分があり、結果として避難に馴染めずうつ病等を発症して自死に至った案件ばかり因果関係が認められてきました。しかし、大久保さんに関しては、避難を嫌ってその前に自殺しており、一見して「覚悟の自殺」であったこと、即ち必ずしも何らかの精神障害を発症して自死に至ったとは言い切れない点があり、弁護団は、精神障害を介在せずとも事故による強度のストレスによって死を選ぶしかない状況に追い込まれることがあるという主張を続けてきました。つまり、今回の判決は、正常な判断を以てしても死を選ぶしかない状況に陥る者がいるという、事故によって生じるストレスの大きさを正面切って認めたものと評価できます。
一方で、寄与の割合を下げられた理由のひとつに、大久保さんの息子が事故直前にすい臓がんによる余命宣告を受けていたことが挙げられています。大久保さんは当時、息子の病状については一切知らされていませんでしたが、何某かの重篤な病を患っていると悟ることはあるだろうということで、これが自死の一因になった可能性があるというのです。しかし、102歳の大久保さんは、その年齢からこれまで何度も逆縁の憂き目に合ってきましたし、数年前には愛妻すら失っていますが、それでも毎日を堅実に生きてきたのです。今更、息子が先に逝くことを悟ろうとも、あと少しで自身も寿命を全うすることになるとわかっていながら敢えて後追いを選ぶとは考え難いにも関わらず、このことが自死の引き金になったと判断されたのは遺憾であると言えます。
現在、この国はあの大事故を経てなお、原発政策を推進しようとしています。そうして無理に再稼働させ、あるいは新設する原発を廃する方法も見出せぬままに、です。大久保さんの教訓が、このような政策に対する一石となることを期待して、今後の情勢を見守りたいと思います。
(石丸 文佳)
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