フロイトは夢を解釈するために「自由連想法」を用いましたが、ユングはその他に「拡充法」という方法を使いました。
拡充法は、夢に出てきたものから思い浮かぶことを、ブレーンストーミングのようにいくつも挙げていくやり方です。
自由連想法と似ているようですが違うのは、自由連想法が深く狭くイメージを掘っていくのに対して、拡充法ではイメージをどんどん拡げ膨らませていくところです。
例えば、夢に出てきたAというものについて、
自由連想法では、
Aから思い浮かぶのはB→Bから思い浮かぶのはC→Cから思い浮かぶのはD→Dから思い浮かぶのはE→Eから…というふうに連想をしていきますが、
拡充法では、
Aから思い浮かぶのはB→Aから思い浮かぶのはF→Aから思い浮かぶのはG→Aから思い浮かぶのはH→Aから…というように、Aについてのイメージをひたすら挙げていきます。
フロイトは夢を無意識の願望充足として捉え、ありのままでは意識が受け入れられない願望を意識が受け入れやすい形に歪曲して夢が作られているという考えのもと、歪曲される前の無意識の願望は何なのかを探ることを重視したので、自由連想法を重宝しました。自由連想法は、A→B→C→D→E→と直線的にイメージを掘り進める方法なので、もともと根っこにあるもの(無意識の願望)を突き止めるのに適していたのです。
ユングも、夢が個人的無意識から来ているものである場合には、夢の個人的な文脈をはっきりさせるために自由連想法を使いましたが、夢が集合無意識(普遍的無意識)から来ているもののときには拡充法を使いました。
ユングにとって夢は夢そのものであって(夢の歪曲化の否定)、夢の隠された意味よりも、夢という体験の夢を見た人への影響力を重視しました。拡充法によって夢のイメージをいろいろに味わうこと、夢を懐の中で温め夢にしっかり向き合うことで、夢(無意識)と意識の統合を図り、個性化(自己実現)を目指したのです。
ユングは次のようにも言っています。
「自由連想はコンプレックスへと導く。しかし、私が知りたいのは夢がコンプレックスに対して何を言おうとしているのかということであって、何がコンプレックスかを知りたいのではない」
また、フロイトの自由連想法では基本的に夢を見た人が一人で連想していくのに対し、ユングの拡充法では、夢を見た人が連想に詰まった時には、セラピストも神話や物語などの知識をもとに連想したイメージを夢を見た人に伝えます。
フロイトよりも夢を見た人とセラピストの共同作業という面が強くなっています。これも、夢を見た人が夢をしっかりと体験する一助となります。
(次回に続きます)