ヘビを食べるにはヘビになるに限る
ヘビが細長い体と手足なしに移動できる能力を手に入れて、この能力を生かして繁栄しはじめると、繁栄したヘビ類をエサとする別種のヘビ(コブラ)が誕生する。ヘビを食べるには、獲物のヘビ同じように細い体と手足なしに移動できる能力を持っていることが有利に働く。
空を飛ぶ鳥が増えれば、鳥を食べる鳥(ハヤブサ)が登場する。
海に進出したクジラがイカを餌にして増えていくと、クジラを食べるクジラ(シャチ)が生まれる。
蚊の仲間にも他の蚊のボウフラを食べる種類(オオカ、カクイカ)がいるらしい。
ことほどさように、生命の肉体は資源(エサ)となって、捕食動物を生むのである。
肉体は資源であり、資源(エサ)が豊富になればこれを利用しようとするものが(特に同じような能力を持つものの中から)生まれてくることがわかる。
肉体という資源に関しては、共食いという行動もある。
共食いは種の繁栄に逆行する行動のように見えるが、合理的だから起きるはずである。それを説明するには、人間の行う牧畜から話を始めるとよさそうだ。人間は自分では食べることのできないような植物を肉に変える方法を発見した。高緯度地方に住む人々は、夏の豊富な緑を餌に動物を飼い、冬を前に殺して肉にする。こうして、農耕に向かない寒い土地でも、植物を肉に変えて生きることができる。ヨーロッパで肉食が進んだ理由である。
インドネシアのコモド島だけに住むコモドオオトカゲは成獣が幼獣を襲って食べてしまう。ヨーロッパにおける牧畜との類推から、このような行動も、自分では食べることのできない食物を間接的に取り入れることになっている可能性が考えられる。つまり、成獣の餌になる大型動物の少ないコモド島で、虫や小型の爬虫類を食べて育ったコモドオオトカゲの幼獣が、成獣のエサになることで種を維持しているかもしれないのである。
同じようなことが、ホッキョクグマの共食いにも考えられる。ホッキョクグマの共食いは、地球温暖化の影響でエサが少ないせいで起きているように伝えられることが多いが、元々食糧の季節変動の多い地域に暮らすために、アザラシの豊富に得られる季節に太った仲間を、アザラシの捕れない季節にエサとして利用することでホッキョクグマは種を維持してきた可能性があるのだ。
こうして資源としての命とその利用について考察してみると、資源が増えればそれを狙うものが生まれ、しかも、獲物と似た性質を持つものから生まれやすく、そのうえ、資源の利用には倫理など無関係であることが見えてくる。その上で人類を考えると、ヒトは肉体という資源であるだけではない。労働力として、消費者として、研究者として、芸術家としてなど、ヒト特有の価値を持つ存在でもある。文明は、こうしたヒト独自の資源としての価値を高めるように、ヒトを家畜化する方向に発展してきたのだと、私は考えている。
それが前回書いた記事である。