My Hair is Bad 「ファンタスティックホームランツアー」 @横浜アリーナ 4/17
- 2019/04/18
- 00:26
昨年3月末には日本武道館でワンマンライブを行い、2daysともソールドアウトさせるという名実ともにアリーナクラスの規模に足を踏み入れたことを証明した、My Hair is Bad。
昨年末にリリースした新作「hadaka e.p.」を引っ提げた今回の「ファンタスティックホームラン」ツアーはさらに規模を拡大し、関東は横浜アリーナでの2days。どちらも平日であるにもかかわらずチケットはソールドアウトしているというのは本当に凄い。この日は2daysの2日目にして、ツアーセミファイナル。
アリーナはスタンディングというライブハウスのバンドがそのままアリーナでライブをやるという熱気が満ちた19時ちょうどに会場が暗転すると、おなじみのThe Band「We Can Talk」のSEが流れると、1人ずつメンバーが登場。椎木知仁(ボーカル&ギター)とバヤこと山本大樹(ベース)がやまじゅんこと山田淳のドラムセットに集まって拳を合わせて気合いを入れると、
「新潟県上越市から来ました、My Hair is Badです!」
という挨拶の自身のバンド名を噛んでしまい、いきなり何を言っているのかよくわからなくなってしまった椎木だが、1曲目の「惜春」が始まると、フレーズの語尾に「うるぁ!」と力を入れるという気合いの入りっぷりを見せる。それは続く「グッバイマイマリー」でも変わらずだが、これはいきなり噛んでしまったことを取り返そうとしていたのだろうか。
しかしながら椎木は
「おめーよー」
といきなり噛んだことを山本に突っ込まれながらも、
「絶好調だから。自分自身のことはよくわかる」
と絶好調っぷりをアピールしながら、新作収録の「微熱」から、序盤だからいかにもマイヘアらしいエモーショナルなギターロックをかき鳴らして勢いをつける!という感じにはならず、むしろ「愛ゆえに」「接吻とフレンド」というポップな感触の曲を続ける。
正直言って、マイヘアはかなりライブに波があるバンドだ。毎回毎回100点を超えるような点数を叩き出すバンドではないし、そもそもがそのライブのスタイルがゆえに安定感という言葉が全く似合わない、打率.250くらいだけどホームラン40本を打つ、みたいなバンドだ。実際に毎回ツアータイトルは「ホームラン」を冠しているのもそういうバンドでありたいという意識ゆえだろうか。(1回「セーフティーバントツアー」というホームランバッターとは真逆なタイトルをつけたこともある)
実際に武道館2daysの時も初日は2日目に比べるとそこまでではなかったというし(自分は2日目しか行かなかったのだが、椎木本人もライブの振り返りインタビューで「初日はフワフワし過ぎてて記憶がない」と言っていた)、ここまでの演奏を見ていると、どうも完璧には噛み合っていないというか、椎木がいきなり噛んだ(しかもその釈明的なMCですら噛んでいた)ことによって浮き足立っていたのか、これは今日はホームランというか外野フライくらいの日かもしれないと思っていた。
しかし椎木がポロポロとギターの音を鳴らしてから(流れ的にもその音を聞いた時はバラード的な曲をやるのかと思っていた)演奏された、このバンド最大の代表曲と言っていい「真赤」からは一気にスイングが変わった気がした。当てにいくようなスイングから思いっきりフルスイングするというマイヘアらしいものに。
だからこそ続く「悪い癖」という「一目惚れ e.p.」に収録された曲を続けた流れで、決して激しい曲ではないけれど椎木はいたるフレーズを叫ぶようにして歌っていたのはやはり「真赤」から自らのスイングを取り戻したのだろう。それはそうしようとした、というよりも曲を演奏したらそうなった、という本能的な感じがするけれど。
ちなみに武道館の時にこの「悪い癖」を演奏した時はメンバーの演奏する姿が映るスクリーンがセピア色にアレンジされることでまさに
「二人の映画に乾杯を」
という最後のフレーズが際立っていたのだが、この日はそうした演出はなし。というかこの中盤までは本当にアリーナでのライブなのかというくらいにストイックに、MCもほとんど挟まずに曲を演奏する姿だけをひたすら見せていくというものだった。
なので「今回はアリーナとはいえそういうモードのツアーなんだろうな」と思っていたら「卒業」でステージの後ろに金色の星が煌めくような演出が施され、どうもそういうわけでもないようだ。決して演出面にばかり目がいくというのではなく、演奏する姿と曲を引き立てるという最低限と言ってもいいものだったが。
楽曲の歌詞での言葉数の多さとそれをスムーズに乗りこなすのとは対称的にどうにもまとまらないMCはややグダっとしてしまっていたが、それを搔き消すかのように「アフターアワー」からはアッパーかつエモーションなギターサウンドとメロディのこれぞマイヘアというイメージの曲が続く。山本も足を高く蹴り上げながらベースを弾き、山田の高い位置にあるシンバルの音も力強さを増していく。
というかマイヘアは椎木の言葉や歌詞やキャラが強すぎるが故に若干山本と山田は地味なイメージを持たれがちだが、ライブを見るとこの2人のリズムの強さがマイヘアをこの規模でライブができるバンドたらしめているということがよくわかる。これだけ広い会場であってもライブハウスと変わらないような印象を受けたり、ついついリズムに合わせて頭が上下に動いたりするのもこの2人の演奏の強さゆえである。
真っ赤な照明がメンバーを照らすハードな音像と攻撃的な歌詞の「ディアウェンディ」では椎木がマイクスタンドを倒して山本のマイクスタンドの前に行って歌い(それを察知してすぐにマイクの前からズレるという抜群のコンビネーションを見せる山本はさすが)、スタッフがマイクスタンドを直したにもかかわらずまたマイクスタンドを倒し、その倒れたマイクスタンドで無理矢理歌おうと自身もステージに倒れこみながら歌う。その際に口を切ってしまったのか、椎木はその後に口の周りが赤くなってしまっていた。
そんなやりたい放題にもかかわらず曲間なしに「元彼氏として」を演奏するので、椎木のギターのチューニングはかなりズレているように感じたし、ポエトリーリーディングというかラップというか、という言葉数が押し寄せる「燃える偉人たち」ではギターの音そのものが出なくなってしまう。それ故にギターをスタッフに任せた椎木はステージを飛び降りて客席に突入。当然その間は歌も歌っていないわけだが、最後にギターが復旧するまでずっとリズム隊は演奏を続けていたことがこの曲を演奏したという事実を確かに残していた。
「予定調和なライブはやりたくないけど、結果的に予定調和なライブにはならなかった!」
と髪型が乱れまくった椎木がアクシデントも含めてロックバンドのライブであるという自分たちの意識を示すと、
「良いライブがやりたいわけでもなく、CDがめちゃくちゃ売れてほしいわけでもない!ただみんなに喜んで欲しいし、ビックリして欲しいだけだ!
観客に悪態をつくと素直になれって言われる、感謝すると椎木らしくないって言われる!
でも俺は俺の歌詞に一度でも共感してくれたやつや、俺に似てるやつを俺は救ってやりたい!つまりここにいるみんなを救ってやりたいんだ!」
と、まさかそんなことを口にするとは、と驚いてしまう言葉を続けて「フロムナウオン」へ。これはフェスやイベントではなくてマイヘアのワンマンだ。だから悪役になったりする必要はない。いつにも増して言葉の中に観客への感謝を示すものが多かったのもこの景色が導いたものなのだろう。
「フロムナウオン」が終わるとライブもそろそろ終わりかな、と思ってしまうのはだいたいフェスとかでこの曲の次にやる曲が最後の曲になりがちだからなのだが、やはりワンマンではまだこのボリュームで終わるわけはない。しかしながら
「大人も子供も老人も、みんな最後には…!」
と言って新作e.p.のタイトル曲である「裸」が演奏されると、ステージ上空のスピーカー周りが夜空の星空を思わせるように煌めく。これは武道館でもやっていた演出であったが、上空すらも広い横浜アリーナはより一層星空のように煌めいていた。椎木の言葉の続きはこの曲の
「いくら愛や教養を見せ合っても 辿り着くのは裸だ」
というフレーズで答えが出される。それが「hadaka e.p.」で最も言いたかった一行であり、e.p.のタイトルをこの曲にした理由であろう。
そんな演出と「戦争を知らない大人たち」の
「Good night…」
というリフレインがさらにライブのクライマックス感を煽るが、
「俺はバッドエンドは嫌だ。最後に人がたくさん出てくるような映画が作りたい。みんなが映画を作るならどんな映画にしたい?」
と問いかけて新曲「芝居」を演奏するというまだまだ終わりは見えない。「芝居」は歌詞をしっかりと聞かせるような歌を前面に押し出した曲であるし、いわゆるラブソングとは全く違う歌詞であるだけに、早く歌詞カードをじっくり見ながら聴きたいところ。
「前に進むための歌」
と言って演奏された「hadaka e.p.」の1曲目である「次回予告」の
「続きはこれから」
というフレーズは始まりのようでいて締めにも相応しいなと思ったのだが、これでもまだ終わらない。
「みんな歌えたら歌ってくれ!」
と椎木が言うと「ドラマみたいだ」ではこの広い横浜アリーナを包み込むかのように合唱が起こる。
マイヘアはそんなにこうして観客に歌わせることをしないし、そもそも椎木が歌ってこそマイヘアの曲になると思っていた。でもこうしてたくさんの人が合唱することによって、マイヘアの曲はマイヘアだけの曲でなく、マイヘアの曲が自身の中に流れている人生を送ってきた人たちの曲にもなっているということを実感することができた。この美しい光景はまさに、ドラマみたいだ。
ここまでに何度となく「これが最後の曲かな?」と思う場面もあったが、椎木が
「最後の曲!」
と告げて、いよいよ本当に最後に演奏されたのは「告白」。序盤こそ心配なところもあったが、最後のこの曲は完全に音源を何倍、何十倍も超えていた。だからこそなかなかこの規模では出にくいダイバーがアリーナスタンディングで続出していた。この曲から溢れ出る音の衝動に耐えきれない。それが伝わってくるようなダイバーたちの姿だった。9回裏のツーアウト、本当に最後の最後に飛び出した、マイヘアの特大ホームランだった。
かなり長いアンコール待ちの時間(椎木の口の止血をしていたのだろうか?)を経てメンバーが再びステージに登場すると、椎木は缶ビールを一気飲み。すると「ワンモー!」の声とともに山田がリズムを刻み、舞台監督がもう1本持ってきたことで2本目の一気飲み。
その一気飲み連発によって気分が良くなったのか、椎木は前日の2daysの初日のライブが終わって家に帰った後にセンチメンタルな気持ちになったことを語る。
「メンバーとマネージャーとカメラマンのLINEグループがあるんだけど、すごい真面目な長文で「今日のライブは○○だったと思うんですよ」みたいなLINEを送ったら、やまじゅんが
「泊まりに来る?」
みたいな返信してきて、マネージャーも
「行く行く!」
みたいに言ってて(笑)
バヤはドラゴンボールの悟空が元気玉作ってるスタンプ送ってきて(笑)
もう一回長文で
「やっぱり今日のライブは○○だったと思うんですよ!」
って送っても変なスタンプしか返ってこなくて。
「みんな真面目に話す気ないんですね」
ってLINEを送信しようかどうしようかって思ってたら、やまじゅんから長文のLINEが返ってきました(笑)」
と山田の真面目さをうかがわせるエピソードに観客は大きな拍手を送ると、山田が照れ臭そうに笑う顔がスクリーンに映し出される。やっぱりマイヘアは椎木だけのバンドではない。この3人が揃うことによってマイヘアになるのだ。山本はその煽りでビールを一気飲みさせられていたけど。
「メジャーデビューして3年か。インディーズでCDを出す時にメンバーとTHE NINTH APOLLOの社長で喫茶店で話してたら、
「マイヘアはメジャーデビューするバンドになるよ」
って言われたのを覚えていて。実際にメジャーデビューする時にいくつかの会社から声をかけてもらったんだけど、やっぱり胡散臭い大人もいて。でも飯を食いに行かせてもらった時に
「マイヘアは横浜アリーナでやるバンドになると思うよ」
って言ってくれた、EMIの渡辺さんを信じてきて、今ここに立ってます!チーム、スタッフ、そしてみんなに本当に感謝します。ありがとう!」
と椎木はかつてないほどに素直に自分たちの周りにいる人たちへの感謝を告げ、さらに
「さっき救ってやる、って言ったけど、俺たちの方がみんなに救われてます」
とまで言った。それはこのバンドから聞くことになるとは思わなかった言葉だった。でも椎木は確かにこの日そう言った。目の前に自分たちの音楽を聴いてくれていて、ワンマンに来てくれる人たちがこんなにいる。ライブハウスのイメージが強いマイヘアがアリーナでワンマンをやって得た最も大きなものはその実感を得られたことなんじゃないかと思う。
だからこそ
「My Hair is Badで1番温かい歌」
と言って演奏された「いつか結婚しても」はこの日最大の大合唱を生み出していた。
そしてバンドは次の街へ向かう。一年のほとんどをライブをして生きているバンドだから。ライブが終わったら次のライブへ、次の街へ。そんな想いが込められた「音楽家になりたくて」で終わりかと思いきや、
「やっぱりもう1曲やります!」
と言ってトドメとばかりに「エゴイスト」を演奏すると、山田がスティックを客席に投げ入れた後もなかなかステージから去ろうとしない椎木。その姿はもうちょっと長くここにいたいと駄々をこねる子供のようだった。なんとなく、椎木がたくさんの女性から支持されているのがわかったような気がした。
ホームランは野球の華だ。王貞治や松井秀喜の例にもれず、いつだってホームランバッターは野球少年のヒーローだった。
しかしメジャーリーグにおいてはデータ解析が進み、「一定以上の打球速度と一定の打球角度で打ち上げたボールはホームランになりやすい」という「バレルゾーン」に打とうとする「フライボールレボリューション」がバッティングの主流になっている。
(イチローが引退会見時に「野球が頭を使わなくていいスポーツになってきている」と言っていたのも、ある意味では小技や戦略を一切使わずに大味な試合になりがちなこのトレンドに対してのことだと思われる)
しかしマイヘアはそうしたホームランの打ち方を技術や練習ではなく、本能で体得しているかのようだ。だからこそこの日の「燃える偉人たち」のアクシデントのようなワンバウンドするかのようなボールですらホームランにすることができる。
アリーナクラスでライブができるバンドは得てしてホームランを打つようなライブができるバンドばかりだが、その中でもマイヘアの飛距離は随一だと思う。それはドカベンで言うならば数の山田太郎ではなく飛距離の岩鬼正美。ロックバンド界の岩鬼的な存在であるマイヘアは横浜アリーナを超えて横浜スタジアムまで届くくらいの特大ホームランを放った。
素晴らしい歌詞と言葉の強さを持っているバンドだとは思っているが、決して共感しているわけではないし、自分はあらゆる面で椎木には全然似ていないと思う。だから熱にうなされるほどではない。そう、このバンドに抱く思いは、ずっと微熱。
1.惜春
2.グッバイマイマリー
3.18歳よ
4.微熱
5.愛ゆえに
6.接吻とフレンド
7.真赤
8.悪い癖
9.運命
10.卒業
11.アフターアワー
12.クリサンセマム
13.ディアウェンディ
14.元彼氏として
15.燃える偉人たち
16.フロムナウオン
17.裸
18.戦争を知らない大人たち
19.芝居 (新曲)
20.次回予告
21.ドラマみたいだ
22.告白
encore
23.いつか結婚しても
24.音楽家になりたくて
25.エゴイスト
次回予告
https://youtu.be/1Kab8gpgjd4
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昨年末にリリースした新作「hadaka e.p.」を引っ提げた今回の「ファンタスティックホームラン」ツアーはさらに規模を拡大し、関東は横浜アリーナでの2days。どちらも平日であるにもかかわらずチケットはソールドアウトしているというのは本当に凄い。この日は2daysの2日目にして、ツアーセミファイナル。
アリーナはスタンディングというライブハウスのバンドがそのままアリーナでライブをやるという熱気が満ちた19時ちょうどに会場が暗転すると、おなじみのThe Band「We Can Talk」のSEが流れると、1人ずつメンバーが登場。椎木知仁(ボーカル&ギター)とバヤこと山本大樹(ベース)がやまじゅんこと山田淳のドラムセットに集まって拳を合わせて気合いを入れると、
「新潟県上越市から来ました、My Hair is Badです!」
という挨拶の自身のバンド名を噛んでしまい、いきなり何を言っているのかよくわからなくなってしまった椎木だが、1曲目の「惜春」が始まると、フレーズの語尾に「うるぁ!」と力を入れるという気合いの入りっぷりを見せる。それは続く「グッバイマイマリー」でも変わらずだが、これはいきなり噛んでしまったことを取り返そうとしていたのだろうか。
しかしながら椎木は
「おめーよー」
といきなり噛んだことを山本に突っ込まれながらも、
「絶好調だから。自分自身のことはよくわかる」
と絶好調っぷりをアピールしながら、新作収録の「微熱」から、序盤だからいかにもマイヘアらしいエモーショナルなギターロックをかき鳴らして勢いをつける!という感じにはならず、むしろ「愛ゆえに」「接吻とフレンド」というポップな感触の曲を続ける。
正直言って、マイヘアはかなりライブに波があるバンドだ。毎回毎回100点を超えるような点数を叩き出すバンドではないし、そもそもがそのライブのスタイルがゆえに安定感という言葉が全く似合わない、打率.250くらいだけどホームラン40本を打つ、みたいなバンドだ。実際に毎回ツアータイトルは「ホームラン」を冠しているのもそういうバンドでありたいという意識ゆえだろうか。(1回「セーフティーバントツアー」というホームランバッターとは真逆なタイトルをつけたこともある)
実際に武道館2daysの時も初日は2日目に比べるとそこまでではなかったというし(自分は2日目しか行かなかったのだが、椎木本人もライブの振り返りインタビューで「初日はフワフワし過ぎてて記憶がない」と言っていた)、ここまでの演奏を見ていると、どうも完璧には噛み合っていないというか、椎木がいきなり噛んだ(しかもその釈明的なMCですら噛んでいた)ことによって浮き足立っていたのか、これは今日はホームランというか外野フライくらいの日かもしれないと思っていた。
しかし椎木がポロポロとギターの音を鳴らしてから(流れ的にもその音を聞いた時はバラード的な曲をやるのかと思っていた)演奏された、このバンド最大の代表曲と言っていい「真赤」からは一気にスイングが変わった気がした。当てにいくようなスイングから思いっきりフルスイングするというマイヘアらしいものに。
だからこそ続く「悪い癖」という「一目惚れ e.p.」に収録された曲を続けた流れで、決して激しい曲ではないけれど椎木はいたるフレーズを叫ぶようにして歌っていたのはやはり「真赤」から自らのスイングを取り戻したのだろう。それはそうしようとした、というよりも曲を演奏したらそうなった、という本能的な感じがするけれど。
ちなみに武道館の時にこの「悪い癖」を演奏した時はメンバーの演奏する姿が映るスクリーンがセピア色にアレンジされることでまさに
「二人の映画に乾杯を」
という最後のフレーズが際立っていたのだが、この日はそうした演出はなし。というかこの中盤までは本当にアリーナでのライブなのかというくらいにストイックに、MCもほとんど挟まずに曲を演奏する姿だけをひたすら見せていくというものだった。
なので「今回はアリーナとはいえそういうモードのツアーなんだろうな」と思っていたら「卒業」でステージの後ろに金色の星が煌めくような演出が施され、どうもそういうわけでもないようだ。決して演出面にばかり目がいくというのではなく、演奏する姿と曲を引き立てるという最低限と言ってもいいものだったが。
楽曲の歌詞での言葉数の多さとそれをスムーズに乗りこなすのとは対称的にどうにもまとまらないMCはややグダっとしてしまっていたが、それを搔き消すかのように「アフターアワー」からはアッパーかつエモーションなギターサウンドとメロディのこれぞマイヘアというイメージの曲が続く。山本も足を高く蹴り上げながらベースを弾き、山田の高い位置にあるシンバルの音も力強さを増していく。
というかマイヘアは椎木の言葉や歌詞やキャラが強すぎるが故に若干山本と山田は地味なイメージを持たれがちだが、ライブを見るとこの2人のリズムの強さがマイヘアをこの規模でライブができるバンドたらしめているということがよくわかる。これだけ広い会場であってもライブハウスと変わらないような印象を受けたり、ついついリズムに合わせて頭が上下に動いたりするのもこの2人の演奏の強さゆえである。
真っ赤な照明がメンバーを照らすハードな音像と攻撃的な歌詞の「ディアウェンディ」では椎木がマイクスタンドを倒して山本のマイクスタンドの前に行って歌い(それを察知してすぐにマイクの前からズレるという抜群のコンビネーションを見せる山本はさすが)、スタッフがマイクスタンドを直したにもかかわらずまたマイクスタンドを倒し、その倒れたマイクスタンドで無理矢理歌おうと自身もステージに倒れこみながら歌う。その際に口を切ってしまったのか、椎木はその後に口の周りが赤くなってしまっていた。
そんなやりたい放題にもかかわらず曲間なしに「元彼氏として」を演奏するので、椎木のギターのチューニングはかなりズレているように感じたし、ポエトリーリーディングというかラップというか、という言葉数が押し寄せる「燃える偉人たち」ではギターの音そのものが出なくなってしまう。それ故にギターをスタッフに任せた椎木はステージを飛び降りて客席に突入。当然その間は歌も歌っていないわけだが、最後にギターが復旧するまでずっとリズム隊は演奏を続けていたことがこの曲を演奏したという事実を確かに残していた。
「予定調和なライブはやりたくないけど、結果的に予定調和なライブにはならなかった!」
と髪型が乱れまくった椎木がアクシデントも含めてロックバンドのライブであるという自分たちの意識を示すと、
「良いライブがやりたいわけでもなく、CDがめちゃくちゃ売れてほしいわけでもない!ただみんなに喜んで欲しいし、ビックリして欲しいだけだ!
観客に悪態をつくと素直になれって言われる、感謝すると椎木らしくないって言われる!
でも俺は俺の歌詞に一度でも共感してくれたやつや、俺に似てるやつを俺は救ってやりたい!つまりここにいるみんなを救ってやりたいんだ!」
と、まさかそんなことを口にするとは、と驚いてしまう言葉を続けて「フロムナウオン」へ。これはフェスやイベントではなくてマイヘアのワンマンだ。だから悪役になったりする必要はない。いつにも増して言葉の中に観客への感謝を示すものが多かったのもこの景色が導いたものなのだろう。
「フロムナウオン」が終わるとライブもそろそろ終わりかな、と思ってしまうのはだいたいフェスとかでこの曲の次にやる曲が最後の曲になりがちだからなのだが、やはりワンマンではまだこのボリュームで終わるわけはない。しかしながら
「大人も子供も老人も、みんな最後には…!」
と言って新作e.p.のタイトル曲である「裸」が演奏されると、ステージ上空のスピーカー周りが夜空の星空を思わせるように煌めく。これは武道館でもやっていた演出であったが、上空すらも広い横浜アリーナはより一層星空のように煌めいていた。椎木の言葉の続きはこの曲の
「いくら愛や教養を見せ合っても 辿り着くのは裸だ」
というフレーズで答えが出される。それが「hadaka e.p.」で最も言いたかった一行であり、e.p.のタイトルをこの曲にした理由であろう。
そんな演出と「戦争を知らない大人たち」の
「Good night…」
というリフレインがさらにライブのクライマックス感を煽るが、
「俺はバッドエンドは嫌だ。最後に人がたくさん出てくるような映画が作りたい。みんなが映画を作るならどんな映画にしたい?」
と問いかけて新曲「芝居」を演奏するというまだまだ終わりは見えない。「芝居」は歌詞をしっかりと聞かせるような歌を前面に押し出した曲であるし、いわゆるラブソングとは全く違う歌詞であるだけに、早く歌詞カードをじっくり見ながら聴きたいところ。
「前に進むための歌」
と言って演奏された「hadaka e.p.」の1曲目である「次回予告」の
「続きはこれから」
というフレーズは始まりのようでいて締めにも相応しいなと思ったのだが、これでもまだ終わらない。
「みんな歌えたら歌ってくれ!」
と椎木が言うと「ドラマみたいだ」ではこの広い横浜アリーナを包み込むかのように合唱が起こる。
マイヘアはそんなにこうして観客に歌わせることをしないし、そもそも椎木が歌ってこそマイヘアの曲になると思っていた。でもこうしてたくさんの人が合唱することによって、マイヘアの曲はマイヘアだけの曲でなく、マイヘアの曲が自身の中に流れている人生を送ってきた人たちの曲にもなっているということを実感することができた。この美しい光景はまさに、ドラマみたいだ。
ここまでに何度となく「これが最後の曲かな?」と思う場面もあったが、椎木が
「最後の曲!」
と告げて、いよいよ本当に最後に演奏されたのは「告白」。序盤こそ心配なところもあったが、最後のこの曲は完全に音源を何倍、何十倍も超えていた。だからこそなかなかこの規模では出にくいダイバーがアリーナスタンディングで続出していた。この曲から溢れ出る音の衝動に耐えきれない。それが伝わってくるようなダイバーたちの姿だった。9回裏のツーアウト、本当に最後の最後に飛び出した、マイヘアの特大ホームランだった。
かなり長いアンコール待ちの時間(椎木の口の止血をしていたのだろうか?)を経てメンバーが再びステージに登場すると、椎木は缶ビールを一気飲み。すると「ワンモー!」の声とともに山田がリズムを刻み、舞台監督がもう1本持ってきたことで2本目の一気飲み。
その一気飲み連発によって気分が良くなったのか、椎木は前日の2daysの初日のライブが終わって家に帰った後にセンチメンタルな気持ちになったことを語る。
「メンバーとマネージャーとカメラマンのLINEグループがあるんだけど、すごい真面目な長文で「今日のライブは○○だったと思うんですよ」みたいなLINEを送ったら、やまじゅんが
「泊まりに来る?」
みたいな返信してきて、マネージャーも
「行く行く!」
みたいに言ってて(笑)
バヤはドラゴンボールの悟空が元気玉作ってるスタンプ送ってきて(笑)
もう一回長文で
「やっぱり今日のライブは○○だったと思うんですよ!」
って送っても変なスタンプしか返ってこなくて。
「みんな真面目に話す気ないんですね」
ってLINEを送信しようかどうしようかって思ってたら、やまじゅんから長文のLINEが返ってきました(笑)」
と山田の真面目さをうかがわせるエピソードに観客は大きな拍手を送ると、山田が照れ臭そうに笑う顔がスクリーンに映し出される。やっぱりマイヘアは椎木だけのバンドではない。この3人が揃うことによってマイヘアになるのだ。山本はその煽りでビールを一気飲みさせられていたけど。
「メジャーデビューして3年か。インディーズでCDを出す時にメンバーとTHE NINTH APOLLOの社長で喫茶店で話してたら、
「マイヘアはメジャーデビューするバンドになるよ」
って言われたのを覚えていて。実際にメジャーデビューする時にいくつかの会社から声をかけてもらったんだけど、やっぱり胡散臭い大人もいて。でも飯を食いに行かせてもらった時に
「マイヘアは横浜アリーナでやるバンドになると思うよ」
って言ってくれた、EMIの渡辺さんを信じてきて、今ここに立ってます!チーム、スタッフ、そしてみんなに本当に感謝します。ありがとう!」
と椎木はかつてないほどに素直に自分たちの周りにいる人たちへの感謝を告げ、さらに
「さっき救ってやる、って言ったけど、俺たちの方がみんなに救われてます」
とまで言った。それはこのバンドから聞くことになるとは思わなかった言葉だった。でも椎木は確かにこの日そう言った。目の前に自分たちの音楽を聴いてくれていて、ワンマンに来てくれる人たちがこんなにいる。ライブハウスのイメージが強いマイヘアがアリーナでワンマンをやって得た最も大きなものはその実感を得られたことなんじゃないかと思う。
だからこそ
「My Hair is Badで1番温かい歌」
と言って演奏された「いつか結婚しても」はこの日最大の大合唱を生み出していた。
そしてバンドは次の街へ向かう。一年のほとんどをライブをして生きているバンドだから。ライブが終わったら次のライブへ、次の街へ。そんな想いが込められた「音楽家になりたくて」で終わりかと思いきや、
「やっぱりもう1曲やります!」
と言ってトドメとばかりに「エゴイスト」を演奏すると、山田がスティックを客席に投げ入れた後もなかなかステージから去ろうとしない椎木。その姿はもうちょっと長くここにいたいと駄々をこねる子供のようだった。なんとなく、椎木がたくさんの女性から支持されているのがわかったような気がした。
ホームランは野球の華だ。王貞治や松井秀喜の例にもれず、いつだってホームランバッターは野球少年のヒーローだった。
しかしメジャーリーグにおいてはデータ解析が進み、「一定以上の打球速度と一定の打球角度で打ち上げたボールはホームランになりやすい」という「バレルゾーン」に打とうとする「フライボールレボリューション」がバッティングの主流になっている。
(イチローが引退会見時に「野球が頭を使わなくていいスポーツになってきている」と言っていたのも、ある意味では小技や戦略を一切使わずに大味な試合になりがちなこのトレンドに対してのことだと思われる)
しかしマイヘアはそうしたホームランの打ち方を技術や練習ではなく、本能で体得しているかのようだ。だからこそこの日の「燃える偉人たち」のアクシデントのようなワンバウンドするかのようなボールですらホームランにすることができる。
アリーナクラスでライブができるバンドは得てしてホームランを打つようなライブができるバンドばかりだが、その中でもマイヘアの飛距離は随一だと思う。それはドカベンで言うならば数の山田太郎ではなく飛距離の岩鬼正美。ロックバンド界の岩鬼的な存在であるマイヘアは横浜アリーナを超えて横浜スタジアムまで届くくらいの特大ホームランを放った。
素晴らしい歌詞と言葉の強さを持っているバンドだとは思っているが、決して共感しているわけではないし、自分はあらゆる面で椎木には全然似ていないと思う。だから熱にうなされるほどではない。そう、このバンドに抱く思いは、ずっと微熱。
1.惜春
2.グッバイマイマリー
3.18歳よ
4.微熱
5.愛ゆえに
6.接吻とフレンド
7.真赤
8.悪い癖
9.運命
10.卒業
11.アフターアワー
12.クリサンセマム
13.ディアウェンディ
14.元彼氏として
15.燃える偉人たち
16.フロムナウオン
17.裸
18.戦争を知らない大人たち
19.芝居 (新曲)
20.次回予告
21.ドラマみたいだ
22.告白
encore
23.いつか結婚しても
24.音楽家になりたくて
25.エゴイスト
次回予告
https://youtu.be/1Kab8gpgjd4
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