あいみょん AIMYON BUDOUKAN -1995- @日本武道館 2/18
- 2019/02/19
- 00:40
もはやその名前の特異さが全く違和感にならないくらいに、2018年にアルバムを出していないにもかかわらず、2018年の音楽シーンの顔となったのは、米津玄師とあいみょんの2人だろう。年末には紅白歌合戦にも出演という状況での初の日本武道館ワンマン。普段のライブではバンドを従えているが、
「初めての武道館は1人でやるって決めてた」
と本人がインタビューで語っているとおりに、今回は弾き語り。しかもセンターステージで360°客席という武道館のキャパをフルに使ったものになっているが、その本人の言葉からはずっと前から武道館に立つイメージを持っていたことがわかるあたりはさすがである。
アリーナ中央に八角形の高いステージが鎮座し、その上にはどの位置からでも見えるように4面のスクリーンが設置されているが、特別だったり派手なセットは全くないように見える。
それにしてもすごい数の人である。武道館では数え切れないくらいにライブを見ているが、360°客席(しかもセンターステージ)というのはそうそう経験がないし、武道館って13000人も入る会場だったのかと今更ながら驚く。それ故にトイレの列が物販の列並みに長い。(普段は多くても10000人くらいで、設営次第では8000人くらいの時もある)
19時を少し過ぎると急に場内が暗転し、ステージ中央のマイクスタンドにピンスポットが当たる。しかしそこにはまだあいみょんの姿はなく、どうやって登場するのかと思っていると、北側の通路から黄色いジャケットにパンツという鮮やかな衣装を着てステージに登ってギターを持つと、
「「もう離れないで」と
泣きそうな目で見つめる君を
雲のような優しさでそっとぎゅっと
抱きしめて 抱きしめて 離さない」
というサビのフレーズを歌い、2018年を代表するヒット曲にしてお茶の間にあいみょんの名前と音楽を轟かせた「マリーゴールド」からスタート。あいみょんの頭上には照明が当てられているのだが、よく見るとあいみょんの足元には花の形をした黄色い照明が。間違いなくそれは「マリーゴールド」そのものであり、至ってなんの変哲も無いステージがあいみょんのためだけの特別なステージになる。
2階席からだと本人の表情まではスクリーン越しでないとなかなかわからないが、逆にこの照明による演出はアリーナの人は見えなかったであろう。実に粋な、どの位置から見ても視覚的印象が変わる演出である。
あいみょんの声も実に伸びやかで、歌い始めた時はパラパラと手拍子も起こっていたがすぐになくなった。ほかの音で聞こえなくなるのがもったいないくらいに武道館いっぱいにその歌声は響いていた。
現代の世界のポップミュージックに通じるR&Bやヒップホップのサウンドを取り入れたアレンジの「愛を伝えたいだとか」もアコギとボーカルのみというこのスタイルだと際立ってくるのはやはりメロディと歌。あいみょんの音楽の最も素晴らしいのはなんなのかというのがこのそぎ落とされた形によってハッキリとわかる。
「ようこそ〜!みんな果たし状は持ってますか?(この日の物販で売られていたタオルは「果たし状」という武道館だからこそのデザイン)
…おかしいな、果たし状を持ってない人は入れないはずなのにな」
と果たし状タオルを持ってない人の多さに首を傾げながら、切なさに包まれる「わかってない」、観客に促してから裏拍の手拍子とアコギの演奏にあいみょんのリズミカルな歌が乗る「満月の夜なら」と、序盤からヒットシングルもアルバム収録曲も交えた幅広い選曲。
最初は南側を見て歌っていたあいみょんはステージ中央を回転させ、何曲か歌うと向きを変えることで一方向だけでなく、東西南北全ての方向から真正面で見える時間を作る。あいみょんは歌う時に目を瞑って歌ったり、あるいは目線を真横に向けながら歌ったりと、見る角度によって様々な発見があるのだが、「風のささやき」「恋をしたから」ではスクリーンを使わず、椅子に座ったあいみょんをピンスポットが照らすのみという極限までそぎ落とされた形で演奏される。観客の目線が向くのは歌っているあいみょんの姿のみ。だからこそ歌っているあいみょんも、それを見ている観客の集中力も最大限に高まっていた。
「私は兵庫県西宮市っていうところで育って。だから武道館っていう場所が東京のどこにあるのかっていうのは知らなくて。東京のどこかにあるっていうのは知ってたけど。
でも去年(正確には2017年の11月)に銀杏BOYZが武道館でライブやったのを見に来て。その時に漠然と、ここに立てたらいいな〜って思ってた」
と、あいみょんが武道館を初めて訪れたのが銀杏BOYZ初の武道館ライブの日だったことを語る。
自分の中で今でも忘れられないあの一夜を今ステージに立って歌っている人も見ていて、それがこの日に繋がっている。きっとこの日この会場の中にいたであろう、音楽をやっている人がいつか武道館に立つ日が来たら、この日のあいみょんのように、この日のライブを見てここに立ちたいと思った、とこのステージの上で言うのだろう。そうやって日本武道館は神聖な、いろんな人にとって特別な場所であり続ける。9月から改修工事に入るらしいが、新しくなってもそれはずっと変わらないはず。
「私には15年くらいずっと一緒にいる友達がいるんですけど、その子が去年上京してきて。酔っ払ってうちに来て
「うどん食べたいから作って!」
って言うから作ったら
「うどんなんか食べたくない!」
って言う意味わからへん子なんやけど(笑)
でもすごく良い子で。めっちゃギャル?ヤンキー?やから似た者同士ではないんやけど、なんかずっと一緒にいて。それで私が初めて誰かに向けて曲を作ったのもその子に対してで。その曲をやります」
と一人きりの弾き語りというスタイルだからゆえか至ってアットホームに自身のエピソードを話しながら、その友人の曲であるという「○○ちゃん」を演奏。
「可愛くなる努力は医者に頼っちゃったけど」
という、そこまで言っていいの!?と思ってしまう歌詞も全てリアルなその友人そのものだという。
「今日、席に置いてある袋の中にステッカーが入ってるのを見ました?…そう、クレヨンしんちゃんのステッカーです。(愛犬シロをギターのように抱えるクレヨンしんちゃんと並んでギターを弾く、クレヨンしんちゃんの作画にデフォルメされたあいみょんが並ぶステッカー)
クレヨンしんちゃんの曲を歌わせてもらうことになったんですよ。私は小さい頃からずっとしんちゃんを見て、しんちゃんからいろんなものを貰ってきて。「家族愛」をテーマにした曲はこれまでも自分の家族に作ってきた曲ではあるんですけど、この曲は野原一家の家族愛についても歌った曲です」
と言って演奏されたのは、初公開の新曲「ハルノヒ」。
「北千住駅の〜」
という歌い出しで始まる、確かに家族でいることの温かさを歌った曲なのだが、あいみょんの名曲製造モードは完全に継続中というか、もはや「マリーゴールド」クラスの曲がこれからも次々に出てくるんだろうな、と思えるくらいに一聴しただけで名曲確定クラスの曲。しかもそれは弾き語りという形態だからか今までのどの曲とも違うように感じるんだけど、でも懐かしさのようなものも感じるのは「家族愛」というテーマゆえだろうか。
まだ実際の曲のアレンジがどのようなものになるのかはわからないが、どんな曲であっても家であいみょんが曲を作る時はきっとこうしてアコギを弾いて歌いながら作っているわけで、この弾き語りという形はあいみょんの芯であり原点そのものである。だからこそ
「18歳の時に声かけられて、シンガーソングライターとしてデビューして。その頃は大阪の梅田の駅前で路上ライブやってて。すっごく嫌やったんですけど(笑)
でも2年前くらいまではまだ渋谷のTSUTAYAの前で路上ライブしてて。歌ってても全然みんな聞いてくれなかったけど、この曲をやると立ち止まって聞いてくれた」
という「貴方解剖純愛歌」もバンドサウンドの時と変わらぬ勢いと疾走感を持って響く。バンドアレンジは曲が求めた姿に衣装を着せてやったかのように。
あいみょんは
「貴方の両目をくり抜いて…」
と間違えて2番の歌詞を先に歌ってしまい、
「先に目をくり抜いてしまいました(笑)
解剖の順番的には先に腕ですね(笑)」
と歌詞の通りに猟奇的なことを言って歌い直すのだが、路上ライブの時に行き交う人々を立ち止まらせたのはそうした過激な歌詞や
「死ね」
と叫ぶサビのインパクトだったかもしれないし、それは本人も計算しての歌詞だったのかもしれないが、この曲は「死ね」と歌いながらも憎悪的な感情は全く感じない。インタビューで本人も「優しさがあると思う」と言っている通り、その言葉の向け先である相手に愛情があるからこそそう感じる。結局、相手と本人が結ばれたなら「死ね」と思わなくなるのである。
するとここでまさかの20分ほどの休憩タイム。映像こそなかったものの、あいみょんのラジオという設定でゲストに登場したのは先ほど紹介されて曲にもなった「○○ちゃん」。完全に日常の会話の延長という感じで、時にはピー音が鳴るような下ネタも混じりながらゲラゲラ笑って話す。静粛な空気すら感じるこの武道館でこんなことができるのは、あいみょんの弾き語りだからであろう。
ちなみに「○○ちゃん」はこの日会場に来ていたらしく、金髪ショートという出で立ちで
「みんなが想像しているよりはるかに可愛い」
という本人談。見つけられたら声をかけていいとのことだったが、わかった人はいたのだろうか。
そんなラジオ番組が終わると、今度は黄色いジャケットを脱いでTシャツ姿で登場し、西側を向いてアコギをかき鳴らして「憧れてきたんだ」を歌う。この曲のようにそもそもが弾き語り的な曲もあるが、その後にドラマ主題歌として大ヒットした「今夜このまま」をさらにしっとりした歌い方で披露。ドラマ自体は見ていないのでなんとも言えないところではあるが、明らかに、でも知らない人が聴いても違和感なく聴けるようにビールのことを表現したような歌詞が入っていたりと、「マリーゴールド」とはまた異なる形であいみょんの作家性の高さを感じさせる曲。
先日のテレビ番組に出演した際にも演奏され、
「日本武道館で日本一のアレを聞きたい!」
と言うと、歌詞が飛んでしまってやり直しながらも
「まだ眠たくないの」
というあいみょんの歌に続いて
「セックス!」
の大合唱が起こる。思わずクリープハイプの「HE IS MINE」を彷彿とさせるが、
「ナイスセックス!」
と歌い終わった後のあいみょんのリアクションは性的ないやらしさは一切なく、どこか清々しさすら感じる。
「どうせ死ぬなら二度寝で死にたいわ
欲を言えば 父ちゃんと母ちゃんに挟まれて」
という歌い出しが今のあいみょんの歌詞よりも幼さを感じさせる「どうせ死ぬなら」でアコギをロックにかき鳴らしながら声を張り上げたかと思ったら、ロマンチックかつアダルティックな「GOOD NIGHT BABY」とまるでジェットコースターの下りと終着地点間際のような緩急を歌とアコギだけでつけてみせる。しかもそれを計算ではなくて本能でやっているかのように見えるのがまた恐ろしい。
1人だけの緊張からか、武道館の魔物なのか、すでにこの日2回演奏をやり直していたあいみょんだが、「いつまでも」では途中で盛大に歌詞が飛び、
「ゴッホは死んでから天才って言われるようになりました。でも私はゴッホみたいになりたくない!死んでからじゃなくて、生きてるうちにちゃんと評価されてから人間らしく死にたい!」
と歌う代わりにまくし立てたのだが、それが逆にライブならではの熱量の高さに繋がっていた。その言葉はあいみょんの表現者としてのスタンスそのものでもあるが、今の立ち位置にまで来てもなお「評価されたい」と大きな声で口にしているあいみょんはどこまで行ったら満足するのだろうか。地球に生きている全ての人があいみょんの曲を聴いて「良い曲だね」って言うまでその瞬間は訪れないような気もする。
ひたすらにあいみょんの歌う姿のみを写していたスクリーンに初めて歌詞が映し出されたのはポエトリーリーディング的な歌唱の「生きていたんだよな」。それまでのアットホームな、ほんわかとした空気はどこへやら、生きることを真正面から歌うあいみょんの姿からは凄みを感じざるを得なかったし、スクリーンの上から垂直にステージに放たれた真っ赤な照明はまさに
「冷たいアスファルトに流れるあの血の何とも言えない 赤さが綺麗で綺麗で」
「彼女が最後に流した涙
生きた証の赤い血」
そのものであった。
冒頭同様に南側を向く体制に戻ると、
「初の武道館っていうことで初めてのことをやりたくて、この日のために新曲を作ってきました。今日のライブのタイトルの-1995-は私の生まれた年で。私は阪神大震災の2ヶ月後に兵庫で生まれたから、被害も凄かったみたいで。
そんな時でもお母ちゃんが私を産んでくれて、お父ちゃんと一緒に育ててくれて。今日も見に来てはいないけど、紅白よりも武道館のことをすごい喜んでくれて。やっぱり武道館ってあの世代の人たちには特別な場所らしくて。そんな私が生まれた年のことを歌った曲です」
とこのライブのために作られた新曲「1995」を初披露。自分であるということを歌った歌詞もスクリーンに映し出されていたが、何よりも最後には「ラララ〜」という歌詞のないメロディを観客にも一緒に歌わせた。
あいみょんの曲には歌いたくなるような曲がたくさんあるけれど、ライブでみんなで合唱するような景色が浮かぶような曲はなかった。合唱よりもあいみょんが歌うことで成立する曲ばかりだったから。しかしそのイメージはこれからこの曲がライブで育つことによって少しは変わってくるはずだ。初めて聴いたからこそ合唱のボリュームは今ひとつだったが、リリースされてみんながいつでも聴けるようになればもっと素晴らしい光景を生み出す曲になるだろう。
この日、その光景を担ったのは最後に演奏された「君はロックを聴かない」だった。あいみょんが
「みんな一緒に歌ってくれ!」
と言うと、サビだけでなく歌い出しから大合唱。サビではあいみょんがマイクから離れて観客に歌唱を委ねる瞬間も。その声には男性のものであろう低い声も多かったが、あいみょんの曲はキーが低いがゆえに男でも歌える。(自分もカラオケでよく歌う)
しかもこの曲の一人称は「僕」なのである。ロック好きな男性なら誰しもが経験したことがあるであろう「君はロックを聴かない」ということがわかってしまった瞬間。歌っているあいみょんは女性であるがゆえに女性から共感されるのは当然だが、この曲は女性も男性も主人公になれる。ロックが好きで仕方がない自分のための曲。だからこの曲はあいみょんの存在を知らしめる曲になったし、この日の会場にはWANIMAやFOMAREというロックバンドのTシャツを着ていた若い男性もいた。そうした音楽を好んで聴いている人たちにもあいみょんの音楽は刺さっているのである。それを証明するかのような大合唱だった。
ギターのシールドが絡まりながらもジャンとギターの音を締めて演奏を終えると、
「この360°の景色を私が独り占めしていいって言ってくれた人がおるんですけど、その人にもこの景色を見せてあげたいんで、呼んでもいいですか?路上ライブ時代からずっと一緒にやってきた、私のマネージャーです!」
とマネージャーをステージに上げて360°あらゆる角度の観客の歓声に応えるあいみょん。それまで一切そんな素振りはなかったが、明らかに涙ぐんでいた。決してステージで感きわまるような人ではないと思っていたが、この日の武道館は間違いなくこれまでのあいみょんの歴史の集大成と呼べるものだった。だからこそリリースされたばかりの最新アルバム「瞬間的シックスセンス」の収録曲は既発シングル曲だけにとどめ、それまでのあいみょんを自らの原点であり芯の部分である弾き語りという形で見せた。
そこから見えてきたのは、「サブスク時代の女王」と形容されることもあるように、この時代だからこそこうしてスターダムにのし上がったかのように思えるし、実際にタイミングや運も作用したかもしれないけれど、結局はあいみょんの最大の魅力は歌と、美しく素晴らしいメロディなのだ。そこが決してブレることがないというのを2つの新曲でもしっかり証明したからこそ、あいみょんはきっとシーンに出てくるのが10年早かったとしても、逆に10年遅かったとしても変わらずにこの位置、この規模まで来ていたと思う。こんなに素晴らしい曲を作れるような人はどんな時代であっても絶対に引っ張り出される。それはマネージャーのようにあいみょんの音楽を聴いて可能性を感じた人や、もっと大きな、運命のようなものから。
だからこの日武道館で鳴らされた曲たちはきっとどんなに時代が変わっても、何十年後も変わらずに名曲のままであり続ける。いつまでも、いつまでもこのまま。
第1部
1.マリーゴールド
2.愛を伝えたいだとか
3.わかってない
4.満月の夜なら
5.風のささやき
6.恋をしたから
7.○○ちゃん
8.ハルノヒ (新曲)
9.貴方解剖純愛歌 ~死ね~
第2部
10.憧れてきたんだ
11.今夜このまま
12.ふたりの世界
13.どうせ死ぬなら
14.GOOD NIGHT BABY
15.いつまでも
16.生きていたんだよな
17.1995 (新曲)
18.君はロックを聴かない
マリーゴールド
https://youtu.be/0xSiBpUdW4E
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「初めての武道館は1人でやるって決めてた」
と本人がインタビューで語っているとおりに、今回は弾き語り。しかもセンターステージで360°客席という武道館のキャパをフルに使ったものになっているが、その本人の言葉からはずっと前から武道館に立つイメージを持っていたことがわかるあたりはさすがである。
アリーナ中央に八角形の高いステージが鎮座し、その上にはどの位置からでも見えるように4面のスクリーンが設置されているが、特別だったり派手なセットは全くないように見える。
それにしてもすごい数の人である。武道館では数え切れないくらいにライブを見ているが、360°客席(しかもセンターステージ)というのはそうそう経験がないし、武道館って13000人も入る会場だったのかと今更ながら驚く。それ故にトイレの列が物販の列並みに長い。(普段は多くても10000人くらいで、設営次第では8000人くらいの時もある)
19時を少し過ぎると急に場内が暗転し、ステージ中央のマイクスタンドにピンスポットが当たる。しかしそこにはまだあいみょんの姿はなく、どうやって登場するのかと思っていると、北側の通路から黄色いジャケットにパンツという鮮やかな衣装を着てステージに登ってギターを持つと、
「「もう離れないで」と
泣きそうな目で見つめる君を
雲のような優しさでそっとぎゅっと
抱きしめて 抱きしめて 離さない」
というサビのフレーズを歌い、2018年を代表するヒット曲にしてお茶の間にあいみょんの名前と音楽を轟かせた「マリーゴールド」からスタート。あいみょんの頭上には照明が当てられているのだが、よく見るとあいみょんの足元には花の形をした黄色い照明が。間違いなくそれは「マリーゴールド」そのものであり、至ってなんの変哲も無いステージがあいみょんのためだけの特別なステージになる。
2階席からだと本人の表情まではスクリーン越しでないとなかなかわからないが、逆にこの照明による演出はアリーナの人は見えなかったであろう。実に粋な、どの位置から見ても視覚的印象が変わる演出である。
あいみょんの声も実に伸びやかで、歌い始めた時はパラパラと手拍子も起こっていたがすぐになくなった。ほかの音で聞こえなくなるのがもったいないくらいに武道館いっぱいにその歌声は響いていた。
現代の世界のポップミュージックに通じるR&Bやヒップホップのサウンドを取り入れたアレンジの「愛を伝えたいだとか」もアコギとボーカルのみというこのスタイルだと際立ってくるのはやはりメロディと歌。あいみょんの音楽の最も素晴らしいのはなんなのかというのがこのそぎ落とされた形によってハッキリとわかる。
「ようこそ〜!みんな果たし状は持ってますか?(この日の物販で売られていたタオルは「果たし状」という武道館だからこそのデザイン)
…おかしいな、果たし状を持ってない人は入れないはずなのにな」
と果たし状タオルを持ってない人の多さに首を傾げながら、切なさに包まれる「わかってない」、観客に促してから裏拍の手拍子とアコギの演奏にあいみょんのリズミカルな歌が乗る「満月の夜なら」と、序盤からヒットシングルもアルバム収録曲も交えた幅広い選曲。
最初は南側を見て歌っていたあいみょんはステージ中央を回転させ、何曲か歌うと向きを変えることで一方向だけでなく、東西南北全ての方向から真正面で見える時間を作る。あいみょんは歌う時に目を瞑って歌ったり、あるいは目線を真横に向けながら歌ったりと、見る角度によって様々な発見があるのだが、「風のささやき」「恋をしたから」ではスクリーンを使わず、椅子に座ったあいみょんをピンスポットが照らすのみという極限までそぎ落とされた形で演奏される。観客の目線が向くのは歌っているあいみょんの姿のみ。だからこそ歌っているあいみょんも、それを見ている観客の集中力も最大限に高まっていた。
「私は兵庫県西宮市っていうところで育って。だから武道館っていう場所が東京のどこにあるのかっていうのは知らなくて。東京のどこかにあるっていうのは知ってたけど。
でも去年(正確には2017年の11月)に銀杏BOYZが武道館でライブやったのを見に来て。その時に漠然と、ここに立てたらいいな〜って思ってた」
と、あいみょんが武道館を初めて訪れたのが銀杏BOYZ初の武道館ライブの日だったことを語る。
自分の中で今でも忘れられないあの一夜を今ステージに立って歌っている人も見ていて、それがこの日に繋がっている。きっとこの日この会場の中にいたであろう、音楽をやっている人がいつか武道館に立つ日が来たら、この日のあいみょんのように、この日のライブを見てここに立ちたいと思った、とこのステージの上で言うのだろう。そうやって日本武道館は神聖な、いろんな人にとって特別な場所であり続ける。9月から改修工事に入るらしいが、新しくなってもそれはずっと変わらないはず。
「私には15年くらいずっと一緒にいる友達がいるんですけど、その子が去年上京してきて。酔っ払ってうちに来て
「うどん食べたいから作って!」
って言うから作ったら
「うどんなんか食べたくない!」
って言う意味わからへん子なんやけど(笑)
でもすごく良い子で。めっちゃギャル?ヤンキー?やから似た者同士ではないんやけど、なんかずっと一緒にいて。それで私が初めて誰かに向けて曲を作ったのもその子に対してで。その曲をやります」
と一人きりの弾き語りというスタイルだからゆえか至ってアットホームに自身のエピソードを話しながら、その友人の曲であるという「○○ちゃん」を演奏。
「可愛くなる努力は医者に頼っちゃったけど」
という、そこまで言っていいの!?と思ってしまう歌詞も全てリアルなその友人そのものだという。
「今日、席に置いてある袋の中にステッカーが入ってるのを見ました?…そう、クレヨンしんちゃんのステッカーです。(愛犬シロをギターのように抱えるクレヨンしんちゃんと並んでギターを弾く、クレヨンしんちゃんの作画にデフォルメされたあいみょんが並ぶステッカー)
クレヨンしんちゃんの曲を歌わせてもらうことになったんですよ。私は小さい頃からずっとしんちゃんを見て、しんちゃんからいろんなものを貰ってきて。「家族愛」をテーマにした曲はこれまでも自分の家族に作ってきた曲ではあるんですけど、この曲は野原一家の家族愛についても歌った曲です」
と言って演奏されたのは、初公開の新曲「ハルノヒ」。
「北千住駅の〜」
という歌い出しで始まる、確かに家族でいることの温かさを歌った曲なのだが、あいみょんの名曲製造モードは完全に継続中というか、もはや「マリーゴールド」クラスの曲がこれからも次々に出てくるんだろうな、と思えるくらいに一聴しただけで名曲確定クラスの曲。しかもそれは弾き語りという形態だからか今までのどの曲とも違うように感じるんだけど、でも懐かしさのようなものも感じるのは「家族愛」というテーマゆえだろうか。
まだ実際の曲のアレンジがどのようなものになるのかはわからないが、どんな曲であっても家であいみょんが曲を作る時はきっとこうしてアコギを弾いて歌いながら作っているわけで、この弾き語りという形はあいみょんの芯であり原点そのものである。だからこそ
「18歳の時に声かけられて、シンガーソングライターとしてデビューして。その頃は大阪の梅田の駅前で路上ライブやってて。すっごく嫌やったんですけど(笑)
でも2年前くらいまではまだ渋谷のTSUTAYAの前で路上ライブしてて。歌ってても全然みんな聞いてくれなかったけど、この曲をやると立ち止まって聞いてくれた」
という「貴方解剖純愛歌」もバンドサウンドの時と変わらぬ勢いと疾走感を持って響く。バンドアレンジは曲が求めた姿に衣装を着せてやったかのように。
あいみょんは
「貴方の両目をくり抜いて…」
と間違えて2番の歌詞を先に歌ってしまい、
「先に目をくり抜いてしまいました(笑)
解剖の順番的には先に腕ですね(笑)」
と歌詞の通りに猟奇的なことを言って歌い直すのだが、路上ライブの時に行き交う人々を立ち止まらせたのはそうした過激な歌詞や
「死ね」
と叫ぶサビのインパクトだったかもしれないし、それは本人も計算しての歌詞だったのかもしれないが、この曲は「死ね」と歌いながらも憎悪的な感情は全く感じない。インタビューで本人も「優しさがあると思う」と言っている通り、その言葉の向け先である相手に愛情があるからこそそう感じる。結局、相手と本人が結ばれたなら「死ね」と思わなくなるのである。
するとここでまさかの20分ほどの休憩タイム。映像こそなかったものの、あいみょんのラジオという設定でゲストに登場したのは先ほど紹介されて曲にもなった「○○ちゃん」。完全に日常の会話の延長という感じで、時にはピー音が鳴るような下ネタも混じりながらゲラゲラ笑って話す。静粛な空気すら感じるこの武道館でこんなことができるのは、あいみょんの弾き語りだからであろう。
ちなみに「○○ちゃん」はこの日会場に来ていたらしく、金髪ショートという出で立ちで
「みんなが想像しているよりはるかに可愛い」
という本人談。見つけられたら声をかけていいとのことだったが、わかった人はいたのだろうか。
そんなラジオ番組が終わると、今度は黄色いジャケットを脱いでTシャツ姿で登場し、西側を向いてアコギをかき鳴らして「憧れてきたんだ」を歌う。この曲のようにそもそもが弾き語り的な曲もあるが、その後にドラマ主題歌として大ヒットした「今夜このまま」をさらにしっとりした歌い方で披露。ドラマ自体は見ていないのでなんとも言えないところではあるが、明らかに、でも知らない人が聴いても違和感なく聴けるようにビールのことを表現したような歌詞が入っていたりと、「マリーゴールド」とはまた異なる形であいみょんの作家性の高さを感じさせる曲。
先日のテレビ番組に出演した際にも演奏され、
「日本武道館で日本一のアレを聞きたい!」
と言うと、歌詞が飛んでしまってやり直しながらも
「まだ眠たくないの」
というあいみょんの歌に続いて
「セックス!」
の大合唱が起こる。思わずクリープハイプの「HE IS MINE」を彷彿とさせるが、
「ナイスセックス!」
と歌い終わった後のあいみょんのリアクションは性的ないやらしさは一切なく、どこか清々しさすら感じる。
「どうせ死ぬなら二度寝で死にたいわ
欲を言えば 父ちゃんと母ちゃんに挟まれて」
という歌い出しが今のあいみょんの歌詞よりも幼さを感じさせる「どうせ死ぬなら」でアコギをロックにかき鳴らしながら声を張り上げたかと思ったら、ロマンチックかつアダルティックな「GOOD NIGHT BABY」とまるでジェットコースターの下りと終着地点間際のような緩急を歌とアコギだけでつけてみせる。しかもそれを計算ではなくて本能でやっているかのように見えるのがまた恐ろしい。
1人だけの緊張からか、武道館の魔物なのか、すでにこの日2回演奏をやり直していたあいみょんだが、「いつまでも」では途中で盛大に歌詞が飛び、
「ゴッホは死んでから天才って言われるようになりました。でも私はゴッホみたいになりたくない!死んでからじゃなくて、生きてるうちにちゃんと評価されてから人間らしく死にたい!」
と歌う代わりにまくし立てたのだが、それが逆にライブならではの熱量の高さに繋がっていた。その言葉はあいみょんの表現者としてのスタンスそのものでもあるが、今の立ち位置にまで来てもなお「評価されたい」と大きな声で口にしているあいみょんはどこまで行ったら満足するのだろうか。地球に生きている全ての人があいみょんの曲を聴いて「良い曲だね」って言うまでその瞬間は訪れないような気もする。
ひたすらにあいみょんの歌う姿のみを写していたスクリーンに初めて歌詞が映し出されたのはポエトリーリーディング的な歌唱の「生きていたんだよな」。それまでのアットホームな、ほんわかとした空気はどこへやら、生きることを真正面から歌うあいみょんの姿からは凄みを感じざるを得なかったし、スクリーンの上から垂直にステージに放たれた真っ赤な照明はまさに
「冷たいアスファルトに流れるあの血の何とも言えない 赤さが綺麗で綺麗で」
「彼女が最後に流した涙
生きた証の赤い血」
そのものであった。
冒頭同様に南側を向く体制に戻ると、
「初の武道館っていうことで初めてのことをやりたくて、この日のために新曲を作ってきました。今日のライブのタイトルの-1995-は私の生まれた年で。私は阪神大震災の2ヶ月後に兵庫で生まれたから、被害も凄かったみたいで。
そんな時でもお母ちゃんが私を産んでくれて、お父ちゃんと一緒に育ててくれて。今日も見に来てはいないけど、紅白よりも武道館のことをすごい喜んでくれて。やっぱり武道館ってあの世代の人たちには特別な場所らしくて。そんな私が生まれた年のことを歌った曲です」
とこのライブのために作られた新曲「1995」を初披露。自分であるということを歌った歌詞もスクリーンに映し出されていたが、何よりも最後には「ラララ〜」という歌詞のないメロディを観客にも一緒に歌わせた。
あいみょんの曲には歌いたくなるような曲がたくさんあるけれど、ライブでみんなで合唱するような景色が浮かぶような曲はなかった。合唱よりもあいみょんが歌うことで成立する曲ばかりだったから。しかしそのイメージはこれからこの曲がライブで育つことによって少しは変わってくるはずだ。初めて聴いたからこそ合唱のボリュームは今ひとつだったが、リリースされてみんながいつでも聴けるようになればもっと素晴らしい光景を生み出す曲になるだろう。
この日、その光景を担ったのは最後に演奏された「君はロックを聴かない」だった。あいみょんが
「みんな一緒に歌ってくれ!」
と言うと、サビだけでなく歌い出しから大合唱。サビではあいみょんがマイクから離れて観客に歌唱を委ねる瞬間も。その声には男性のものであろう低い声も多かったが、あいみょんの曲はキーが低いがゆえに男でも歌える。(自分もカラオケでよく歌う)
しかもこの曲の一人称は「僕」なのである。ロック好きな男性なら誰しもが経験したことがあるであろう「君はロックを聴かない」ということがわかってしまった瞬間。歌っているあいみょんは女性であるがゆえに女性から共感されるのは当然だが、この曲は女性も男性も主人公になれる。ロックが好きで仕方がない自分のための曲。だからこの曲はあいみょんの存在を知らしめる曲になったし、この日の会場にはWANIMAやFOMAREというロックバンドのTシャツを着ていた若い男性もいた。そうした音楽を好んで聴いている人たちにもあいみょんの音楽は刺さっているのである。それを証明するかのような大合唱だった。
ギターのシールドが絡まりながらもジャンとギターの音を締めて演奏を終えると、
「この360°の景色を私が独り占めしていいって言ってくれた人がおるんですけど、その人にもこの景色を見せてあげたいんで、呼んでもいいですか?路上ライブ時代からずっと一緒にやってきた、私のマネージャーです!」
とマネージャーをステージに上げて360°あらゆる角度の観客の歓声に応えるあいみょん。それまで一切そんな素振りはなかったが、明らかに涙ぐんでいた。決してステージで感きわまるような人ではないと思っていたが、この日の武道館は間違いなくこれまでのあいみょんの歴史の集大成と呼べるものだった。だからこそリリースされたばかりの最新アルバム「瞬間的シックスセンス」の収録曲は既発シングル曲だけにとどめ、それまでのあいみょんを自らの原点であり芯の部分である弾き語りという形で見せた。
そこから見えてきたのは、「サブスク時代の女王」と形容されることもあるように、この時代だからこそこうしてスターダムにのし上がったかのように思えるし、実際にタイミングや運も作用したかもしれないけれど、結局はあいみょんの最大の魅力は歌と、美しく素晴らしいメロディなのだ。そこが決してブレることがないというのを2つの新曲でもしっかり証明したからこそ、あいみょんはきっとシーンに出てくるのが10年早かったとしても、逆に10年遅かったとしても変わらずにこの位置、この規模まで来ていたと思う。こんなに素晴らしい曲を作れるような人はどんな時代であっても絶対に引っ張り出される。それはマネージャーのようにあいみょんの音楽を聴いて可能性を感じた人や、もっと大きな、運命のようなものから。
だからこの日武道館で鳴らされた曲たちはきっとどんなに時代が変わっても、何十年後も変わらずに名曲のままであり続ける。いつまでも、いつまでもこのまま。
第1部
1.マリーゴールド
2.愛を伝えたいだとか
3.わかってない
4.満月の夜なら
5.風のささやき
6.恋をしたから
7.○○ちゃん
8.ハルノヒ (新曲)
9.貴方解剖純愛歌 ~死ね~
第2部
10.憧れてきたんだ
11.今夜このまま
12.ふたりの世界
13.どうせ死ぬなら
14.GOOD NIGHT BABY
15.いつまでも
16.生きていたんだよな
17.1995 (新曲)
18.君はロックを聴かない
マリーゴールド
https://youtu.be/0xSiBpUdW4E
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フレデリック FREDERHYTHM TOUR 2019 〜飄々とイマジネーション〜 @Zepp Tokyo 2/20 ホーム
THE PINBALLS end of the days tour @千葉LOOK 2/17