BRAHMAN Tour 2018 梵匿 -bonnoku- @Zepp Tokyo 6/13
- 2018/06/14
- 00:25
AIR JAMムーブメントの中に確かにいたとはいえ、かつては「孤高のバンド」的なイメージが強かったBRAHMAN。しかし最新アルバム「梵唄 -bonbai-」では盟友である細美武士を始め、様々なゲストミュージシャンが参加するという、ここへきてバンドとして新たな扉を開いた。
リリース後の武道館ワンマンもそのゲストミュージシャンが多数出演したが、全く休むことなく(というか「休む」という言葉はこのバンドの辞書にあるのだろうか)、ツアーがスタート。この日のZepp Tokyoは2daysの1日目、ツアーとしても東北の会場を残すというセミファイナル的な位置。
その重要なライブの対バンに招かれたのは、なんとキュウソネコカミ。「TOSHI-LOWさん」というTOSHI-LOW賛歌を生み出したバンドであるが、果たして招かれた鬼ヶ島で鬼たちにどう立ち向かうのだろうか。
・キュウソネコカミ
BGMとしてやたらとthe HIATUSの曲ばかりが流れるという細美武士推しの中、19時過ぎにSEが流れ、キュウソネコカミの登場。それぞれ異なるBRAHMANのTシャツを着たヨコタ、タクロウ、ソゴウ、オカザワの4人が先にステージに現れると、セイヤが出てくる前に音を鳴らし始める。キュウソのものにしてはあまりにも重過ぎるそのサウンドは、まさかのBRAHMAN「不倶戴天」のカバー。するとTOSHI-LOWを意識してか、いつもより明らかに緊張感のある面持ちのセイヤがゆっくりとステージに現れ(やはりBRAHMANのTシャツを着ている)、BRAHMANがこの曲に込めた怒りを叫びまくるのだが、改めてこうしてカバーを聴いても、全くサウンドに弱さを感じない。というかむしろものすごく強い。その強いサウンドに触発されるように、BRAHMANのファンも次々とダイブしていく。
基本的にはBRAHMANの原曲を100%リスペクトしながらも、ヨコタのキーボードの音色がキュウソならではのサウンドにしているのだが、先日のMONOEYESとの対バンでは「Run Run」をカバーしていたらしい。それもきっとこの曲のように、キュウソのバンドサウンドの強さを感じさせるものだったんじゃないだろうか。
こうしたカバーはともすると「媚びている」と思われがちであるが、キュウソのカバーは全くそうした下心を感じさせない。それぐらいに演奏から原曲とバンドへのリスペクトを感じるし、ただ媚びるだけならこんなにカッコいい演奏にならない。何よりも細美武士やTOSHI-LOWに絶対に見抜かれる。その精神とバンドの技術と努力の跡がしっかりと見える。
「今日は45分、このテンションで行かないと俺は死ぬ!」
と早くもテンションを振り切っていることをセイヤが宣言したため、おなじみの曲たちもいつもよりもはるかにハードかつパンクに。(それはサウンドにおいても演奏しているメンバーの姿や表情においても)
やはり序盤はややアウェー感が強かったが(前の方のブロックはキュウソのファンも多かったのか、振り付けやコーラスをわかっている人もかなりいたが)、
「俺たちの「サブカル女子」を聴いたTOSHI-LOWさんが「なんでみーちゃん(細美武士)の曲はあるのに俺の曲はねーんだよ」って言ってきて、後輩としては冗談と思って受け流せなかった」
と曲ができた経緯を伝えて、セイヤが上半身裸になって
「俺は見ての通りにヘナチョコだ!だからパンチしたりはしないでくれ!軽いエルボーくらいなら許すから!」
とTOSHI-LOWのように客席に突入した「TOSHI-LOWさん」ではTOSHI-LOWが客席に突入するのと全く同じように観客がセイヤの方に向かってダイブしまくり、セイヤが何度も落下するというとんでもない状況に。それでも落下するたびにすぐに引き上げるというあたりはさすがBRAHMANのファンたちである。
曲が終わってステージに戻ったセイヤは明らかに体力を使い果たしており、このスタイルで平然とライブをやっているTOSHI-LOWのフィジカルの強さが改めて浮き彫りになるが、それでもセイヤは己に気合いを入れ直して、「DQN~」で再び客席に突入。しかしながら今度はセイヤ目がけてダイブしてくるような人は全くいないというあたり、本当にBRAHMANのファンは空気が読めるというか、ただ暴れたいだけ、目立ちたいだけという人が全くいない。
「今日の目的地は、ミラーボールの下だ!」
と言うと、客席真ん中の上に輝くミラーボールの下まで支えられながら到達し、
「俺はこうやってみんなに支えられて立つボーカルの中では最も体重が軽い男だ!みんな、支えてくれてありがとうー!」
と、自らをしっかりと立たせてくれたBRAHMANのファンに心からの感謝を告げる。心なしか、というよりも明らかに序盤よりアウェー感は薄くなっていた。あたかもいつものキュウソのライブハウスでのライブのようだった。
「今日、楽屋にいたら、TOSHI-LOWさんがなぜかボクシンググローブとミットを持ってきて(笑)
「おうセイヤ、お前はもっと強くならなきゃダメだ!」
って言われてTOSHI-LOWさんの打撃をミットで受けて。俺ライブ前に死ぬんかな!?って思って(笑)
その後に俺にグローブ渡してきて、俺がパンチすることになったらスタッフが動画を撮り始めて。そしたらTOSHI-LOWさんが
「憎っくき細美武士の顔を殴ってると思え!次は細美武士のボディーだ!打倒細美武士だ!」
って言い始めて(笑)
そんなこと全く思ってないですから!(笑)
でも、こうして最近本当に強い2人と一緒にライブやらせてもらって、俺もせめて大切な仲間くらいは守れるくらいに強くなりたいと思った」
と、笑いを交えてから自身の心の奥底にある想いを口にした。それはまるでTOSHI-LOWのMCのようだった。
そしてヨコタがいつにも増してステージを端から端まで走り回りながら観客を盛り上げまくった「ハッピーポンコツ」で
「次は俺たちのツアーにBRAHMANに出てもらいます!その時にはまたみんな見にきてください!」
と叫び、会場全体から拍手と歓声が上がった。キュウソの男らしさは間違いなくBRAHMANのファンに伝わっていた。だからこそ、ロックバンドのことを歌った「The band」は本当に感動的だった。その感覚は、まさしくBRAHMANのライブの時に感じる感動と全く同じものだった。
キュウソがただ面白いだけ、ただ笑いを取ろうとするだけのバンドだったら、TOSHI-LOWも細美武士も絶対に自身のツアーに呼んだりしない。どんなに自分の名前が曲に使われていたとしても、そんなバンドは相手にすらしないはずだ。
でも両者ともキュウソというバンドをちゃんと認めているから、こうして2マンの相手にキュウソを呼んでいる。見た目ではわからない、キュウソのメンバーの人間性を、しっかりと理解してくれているのだ。その音楽が、ライブがカッコいいものであることも。サンボマスターもキュウソを自身の対バンライブに呼んでいたが、自分たちがカッコいいと思うことを曲げずに、信念を持ってバンドを続けていれば、そうした背中を見ていた先輩たちもその姿を見てくれるし、認めてくれる。なぜならキュウソのメンバーはTOSHI-LOWや細美武士と同じタイプの人間だからである。もし、TOSHI-LOWが15年遅く生まれていたら。逆にセイヤが15年早く生まれていたら。2人は全く同じような人間になっていたかもしれない。
そうしてキュウソに未だについている良くない先入観を覆していった先には、この男たちのような将来が待っている。キュウソは間違いなくこれからもっとカッコいいバンドになる。
1.不倶戴天
2.MEGA SHAKE IT!!
3.メンヘラちゃん
4.ビビった
5.TOSHI-LOWさん
6.サブカル女子
7.DQNなりたい、40代で死にたい
8.ハッピーポンコツ
9.The band
The band
https://youtu.be/cP-ycyKl888
・BRAHMAN
そしておなじみのSEが鳴ると、KOHKI、MAKOTO、RONZIの3人がステージに現れ、3人が音を鳴らし始める。「梵唄」のオープニング曲である「真善美」だ。フェスでは逆にラストに演奏することもある曲だが、TOSHI-LOWが歌の直前でステージに登場し、
「さぁ 幕が開くとは 終わりが来ることだ」
と響くフレーズは終わりと始まりの両方にこれ以上ないくらいに相応しい。
「サン ハイ」
というコーラスをメンバーだけならず観客も一斉に叫び、早くもダイバーが続出した「雷同」と「梵唄」の収録順通りに曲が続き、演奏するメンバーの後ろにはバンドロゴが出現。MAKOTOは早くもベースを振り回しながら演奏している。
「東京2daysの初日!明日のことは明日考えればいいよ!今日を全力で、BRAHMAN始めます!」
というTOSHI-LOWの叫びでより一層の気合いが入ると、
「ここに立つ」
という曲の締めのフレーズと
「其処に立つ」
という歌い出しのフレーズを見事につなげてみせる「賽の河原」「BASIS」のコンボをはじめとして、やはりBRAHMANのライブのペースは凄まじい。これだけの物理的な運動量でありながら、全く間をおかずに次々と曲を演奏していく。しばしばアスリートに例えられたりするし、アスリートさながらにTOSHI-LOWは体を鍛えまくっているが、それはそのままBRAHMANとしてステージに立つことに直結している。
KOHKIのギターリフが印象的な自身のドキュメンタリー映画のテーマソングとなった「其処」、音源で参加した細美武士が何度となくフェスなどで共演した(この日はさすがになかったが)「今夜」と、メロディを聴かせるような曲では全くダイブが起こらずに、みんなひたすらに演奏するメンバーに向き合っている。この静と動のコントラストはバンドだけじゃなく観客も一緒になって生み出しているものであるが、それを1曲の中で表現してみせた「A WHITE DEEP MORNING」の後の「AFTER-SANSATION」からは再び「梵唄」の世界へ。ツアータイトルからも察せられたが、やはりこのライブの軸になっているのは「梵唄」なのである。
とりわけ音源ではまさに「怒涛」のごとくにスカパラホーンズのサウンドが新たなBRAHMANの姿を作り出した「怒涛の彼方」は4人だけで演奏されることでシャープに引き締まり、実にライブハウスらしいサウンドに。
そしてキュウソがカバーした「不倶戴天」の本家バージョンは貫禄すら感じさせるレベルであった。
不穏なイントロの「警醒」という怒りの曲が2曲続くと、やはりTOSHI-LOWは客席に突入し、先ほどのセイヤとは比べものにならない数のダイバーがTOSHI-LOWめがけて飛んでくる。その中の1人をマイクで小突いたのか、「ドン!」という音が鳴ると、カオスな時間の中に笑いが混ざっていく。
そのままTOSHI-LOWが観客に支えられたままで歌った「鼎の問」では、福島第一原発で働く人たちの映像こそこの日は流れなかったものの、
「桃源郷は嘘と消えた」
などの歌詞のあちこちから、またこれまでに何十回と見てきたあの映像からやはりいろんな感情を想起させざるを得ない。BRAHMANの楽曲は暴れられるだけではない、そうしたイメージが浮かぶ力と説得力を確かに持っている。
先日、福島第一原発の作業員の方が亡くなったというニュースがあった。それはもしかしたら、あの映像の中にいた、本当ならもっと幸せな人生があったはずなのに、
「誰かがやらなくちゃいけない、だったらその誰かになればいいんじゃないのかなって」
「俺が行って収まるんなら、なんぼ線量食ったっていいって」
と言ってあの場所に行くことを選んだ人たちだったんだろうか。
「あんなに怒ってない「不倶戴天」をありがとう(笑)
でもMONOEYESの曲をやった時は、歌詞を完璧に覚えて歌ったって言ってたのに、今日は完璧に歌えてなかったな(笑)まぁ俺もあの曲を完璧に歌えない時もあるからしょうがない(笑)
窮鼠猫を噛む。ピンチになっても、強いものに逆襲できるっていう意味のバンド。今日も、ピンチをちゃんとチャンスに変えるライブやってたよ」
とキュウソを讃えるようにTOSHI-LOWが話し始めると、
「ビバラでキュウソのセイヤがホルモンの裏で人がまばらで。でもそれが悔しかったんじゃなくて、それに飲まれちまって、普段通りのライブができなかったことに落ち込んでて。俺だってそういうことあったよ。ステージ降りたら膝をついてしまうようなライブもたくさんあった。でも続けるしかなかった。でも続けたらいろいろ言われる。「インディーズの頃が1番良かった」とか「1stアルバムが最高だった」とか。
そう言われてても続けてたら、今回のツアーで初めましての人がいて、20年ぶりに来たっていう人もいた。俺たちはこれを望んでたんじゃねぇのかな。普段は要領良く生きれない奴らが、ライブハウスに集まっていっぱいになって。そいつらが「また明日からも頑張ろう」って思ってくれる。そんな夢みたいな景色のツアーだった。今日締めちまって、明日どうしようか?(笑)明日のことは明日考えればいい。
負け続けても、立ち上がり続けることが1番大事。震災にあっても、津波にのまれても、放射能に汚染されても、立ち上がり続けたあの街の歌。
最高の夜だった。次はキュウソのツアーで会いましょう」
と、やはりこの日も全ての観客の感情をかっさらっていった後に最後に演奏されたのは、かつて阪神大震災が起きた際にソウル・フラワー・ユニオンの中川敬が作った「満月の夕」。我々の世代としては、パンクにアレンジしたガガガSPのバージョンが最も馴染み深いが、それとはまた違った、BRAHMANの凶暴性ではなく、慈愛に満ちたアレンジ。兵庫県という阪神大震災の被災地で育ってきた、キュウソのメンバーはこの曲をどんな気持ちで聴いていたのだろうか。立ち上がってきた街の景色を見続けてきた男たちが、何も感じないはずがない。被災地に住んでいない、自分ですら感じるものがあったのだから。
TOSHI-LOWが深々と礼をすると、3人も次々とステージから去っていく。しばらくして客電が点いた場内には、細美武士とTOSHI-LOWによる、the LOW-ATUSの「虹を見たかい?」が流れていた。
学生から社会人になると、それまでよりはるか年上の先輩や上司とともに仕事や生活をしなければならなくなる。しかしそのほとんどは、「こうなりたい」という人ではなく、むしろ「こういう大人にだけはなりたくないな」という反面教師としてしか見れない人ばかりだ。しかし、キュウソにはBRAHMANのメンバーやMONOEYESのメンバーなど、「こうなりたい」という姿を見せてくれて、悩みを抱える自分たちの背中を押して、肯定してくれる、本当にカッコいい先輩がいる。それはとてつもなく幸せなことだし、BRAHMANからしてもそうした音楽性を真似るのではなく、精神を受け継ぐような後輩がいるというのは本当に嬉しいことだと思う。もはやエレファントカシマシくらいの国宝的バンドへの道が見えてきているが、また遠くないうちに、次はキュウソのツアーで。その時は会場が関東じゃなくても行くよ。
1.真善美
2.雷同
3.賽の河原
4.BASIS
5.EVERMORE FOREVER MORE
6.BEYOND THE MOUNTAIN
7.其限
8.今夜
9.A WHITE DEEP MORNING
10.AFTER-SENSATION
11.天馬空を行く
12.守破離
13.怒涛の彼方
14.不倶戴天
15.警醒
16.鼎の問
17.ナミノウタゲ
18.満月の夕
満月の夕
https://youtu.be/-Dl43HK2C74
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リリース後の武道館ワンマンもそのゲストミュージシャンが多数出演したが、全く休むことなく(というか「休む」という言葉はこのバンドの辞書にあるのだろうか)、ツアーがスタート。この日のZepp Tokyoは2daysの1日目、ツアーとしても東北の会場を残すというセミファイナル的な位置。
その重要なライブの対バンに招かれたのは、なんとキュウソネコカミ。「TOSHI-LOWさん」というTOSHI-LOW賛歌を生み出したバンドであるが、果たして招かれた鬼ヶ島で鬼たちにどう立ち向かうのだろうか。
・キュウソネコカミ
BGMとしてやたらとthe HIATUSの曲ばかりが流れるという細美武士推しの中、19時過ぎにSEが流れ、キュウソネコカミの登場。それぞれ異なるBRAHMANのTシャツを着たヨコタ、タクロウ、ソゴウ、オカザワの4人が先にステージに現れると、セイヤが出てくる前に音を鳴らし始める。キュウソのものにしてはあまりにも重過ぎるそのサウンドは、まさかのBRAHMAN「不倶戴天」のカバー。するとTOSHI-LOWを意識してか、いつもより明らかに緊張感のある面持ちのセイヤがゆっくりとステージに現れ(やはりBRAHMANのTシャツを着ている)、BRAHMANがこの曲に込めた怒りを叫びまくるのだが、改めてこうしてカバーを聴いても、全くサウンドに弱さを感じない。というかむしろものすごく強い。その強いサウンドに触発されるように、BRAHMANのファンも次々とダイブしていく。
基本的にはBRAHMANの原曲を100%リスペクトしながらも、ヨコタのキーボードの音色がキュウソならではのサウンドにしているのだが、先日のMONOEYESとの対バンでは「Run Run」をカバーしていたらしい。それもきっとこの曲のように、キュウソのバンドサウンドの強さを感じさせるものだったんじゃないだろうか。
こうしたカバーはともすると「媚びている」と思われがちであるが、キュウソのカバーは全くそうした下心を感じさせない。それぐらいに演奏から原曲とバンドへのリスペクトを感じるし、ただ媚びるだけならこんなにカッコいい演奏にならない。何よりも細美武士やTOSHI-LOWに絶対に見抜かれる。その精神とバンドの技術と努力の跡がしっかりと見える。
「今日は45分、このテンションで行かないと俺は死ぬ!」
と早くもテンションを振り切っていることをセイヤが宣言したため、おなじみの曲たちもいつもよりもはるかにハードかつパンクに。(それはサウンドにおいても演奏しているメンバーの姿や表情においても)
やはり序盤はややアウェー感が強かったが(前の方のブロックはキュウソのファンも多かったのか、振り付けやコーラスをわかっている人もかなりいたが)、
「俺たちの「サブカル女子」を聴いたTOSHI-LOWさんが「なんでみーちゃん(細美武士)の曲はあるのに俺の曲はねーんだよ」って言ってきて、後輩としては冗談と思って受け流せなかった」
と曲ができた経緯を伝えて、セイヤが上半身裸になって
「俺は見ての通りにヘナチョコだ!だからパンチしたりはしないでくれ!軽いエルボーくらいなら許すから!」
とTOSHI-LOWのように客席に突入した「TOSHI-LOWさん」ではTOSHI-LOWが客席に突入するのと全く同じように観客がセイヤの方に向かってダイブしまくり、セイヤが何度も落下するというとんでもない状況に。それでも落下するたびにすぐに引き上げるというあたりはさすがBRAHMANのファンたちである。
曲が終わってステージに戻ったセイヤは明らかに体力を使い果たしており、このスタイルで平然とライブをやっているTOSHI-LOWのフィジカルの強さが改めて浮き彫りになるが、それでもセイヤは己に気合いを入れ直して、「DQN~」で再び客席に突入。しかしながら今度はセイヤ目がけてダイブしてくるような人は全くいないというあたり、本当にBRAHMANのファンは空気が読めるというか、ただ暴れたいだけ、目立ちたいだけという人が全くいない。
「今日の目的地は、ミラーボールの下だ!」
と言うと、客席真ん中の上に輝くミラーボールの下まで支えられながら到達し、
「俺はこうやってみんなに支えられて立つボーカルの中では最も体重が軽い男だ!みんな、支えてくれてありがとうー!」
と、自らをしっかりと立たせてくれたBRAHMANのファンに心からの感謝を告げる。心なしか、というよりも明らかに序盤よりアウェー感は薄くなっていた。あたかもいつものキュウソのライブハウスでのライブのようだった。
「今日、楽屋にいたら、TOSHI-LOWさんがなぜかボクシンググローブとミットを持ってきて(笑)
「おうセイヤ、お前はもっと強くならなきゃダメだ!」
って言われてTOSHI-LOWさんの打撃をミットで受けて。俺ライブ前に死ぬんかな!?って思って(笑)
その後に俺にグローブ渡してきて、俺がパンチすることになったらスタッフが動画を撮り始めて。そしたらTOSHI-LOWさんが
「憎っくき細美武士の顔を殴ってると思え!次は細美武士のボディーだ!打倒細美武士だ!」
って言い始めて(笑)
そんなこと全く思ってないですから!(笑)
でも、こうして最近本当に強い2人と一緒にライブやらせてもらって、俺もせめて大切な仲間くらいは守れるくらいに強くなりたいと思った」
と、笑いを交えてから自身の心の奥底にある想いを口にした。それはまるでTOSHI-LOWのMCのようだった。
そしてヨコタがいつにも増してステージを端から端まで走り回りながら観客を盛り上げまくった「ハッピーポンコツ」で
「次は俺たちのツアーにBRAHMANに出てもらいます!その時にはまたみんな見にきてください!」
と叫び、会場全体から拍手と歓声が上がった。キュウソの男らしさは間違いなくBRAHMANのファンに伝わっていた。だからこそ、ロックバンドのことを歌った「The band」は本当に感動的だった。その感覚は、まさしくBRAHMANのライブの時に感じる感動と全く同じものだった。
キュウソがただ面白いだけ、ただ笑いを取ろうとするだけのバンドだったら、TOSHI-LOWも細美武士も絶対に自身のツアーに呼んだりしない。どんなに自分の名前が曲に使われていたとしても、そんなバンドは相手にすらしないはずだ。
でも両者ともキュウソというバンドをちゃんと認めているから、こうして2マンの相手にキュウソを呼んでいる。見た目ではわからない、キュウソのメンバーの人間性を、しっかりと理解してくれているのだ。その音楽が、ライブがカッコいいものであることも。サンボマスターもキュウソを自身の対バンライブに呼んでいたが、自分たちがカッコいいと思うことを曲げずに、信念を持ってバンドを続けていれば、そうした背中を見ていた先輩たちもその姿を見てくれるし、認めてくれる。なぜならキュウソのメンバーはTOSHI-LOWや細美武士と同じタイプの人間だからである。もし、TOSHI-LOWが15年遅く生まれていたら。逆にセイヤが15年早く生まれていたら。2人は全く同じような人間になっていたかもしれない。
そうしてキュウソに未だについている良くない先入観を覆していった先には、この男たちのような将来が待っている。キュウソは間違いなくこれからもっとカッコいいバンドになる。
1.不倶戴天
2.MEGA SHAKE IT!!
3.メンヘラちゃん
4.ビビった
5.TOSHI-LOWさん
6.サブカル女子
7.DQNなりたい、40代で死にたい
8.ハッピーポンコツ
9.The band
The band
https://youtu.be/cP-ycyKl888
・BRAHMAN
そしておなじみのSEが鳴ると、KOHKI、MAKOTO、RONZIの3人がステージに現れ、3人が音を鳴らし始める。「梵唄」のオープニング曲である「真善美」だ。フェスでは逆にラストに演奏することもある曲だが、TOSHI-LOWが歌の直前でステージに登場し、
「さぁ 幕が開くとは 終わりが来ることだ」
と響くフレーズは終わりと始まりの両方にこれ以上ないくらいに相応しい。
「サン ハイ」
というコーラスをメンバーだけならず観客も一斉に叫び、早くもダイバーが続出した「雷同」と「梵唄」の収録順通りに曲が続き、演奏するメンバーの後ろにはバンドロゴが出現。MAKOTOは早くもベースを振り回しながら演奏している。
「東京2daysの初日!明日のことは明日考えればいいよ!今日を全力で、BRAHMAN始めます!」
というTOSHI-LOWの叫びでより一層の気合いが入ると、
「ここに立つ」
という曲の締めのフレーズと
「其処に立つ」
という歌い出しのフレーズを見事につなげてみせる「賽の河原」「BASIS」のコンボをはじめとして、やはりBRAHMANのライブのペースは凄まじい。これだけの物理的な運動量でありながら、全く間をおかずに次々と曲を演奏していく。しばしばアスリートに例えられたりするし、アスリートさながらにTOSHI-LOWは体を鍛えまくっているが、それはそのままBRAHMANとしてステージに立つことに直結している。
KOHKIのギターリフが印象的な自身のドキュメンタリー映画のテーマソングとなった「其処」、音源で参加した細美武士が何度となくフェスなどで共演した(この日はさすがになかったが)「今夜」と、メロディを聴かせるような曲では全くダイブが起こらずに、みんなひたすらに演奏するメンバーに向き合っている。この静と動のコントラストはバンドだけじゃなく観客も一緒になって生み出しているものであるが、それを1曲の中で表現してみせた「A WHITE DEEP MORNING」の後の「AFTER-SANSATION」からは再び「梵唄」の世界へ。ツアータイトルからも察せられたが、やはりこのライブの軸になっているのは「梵唄」なのである。
とりわけ音源ではまさに「怒涛」のごとくにスカパラホーンズのサウンドが新たなBRAHMANの姿を作り出した「怒涛の彼方」は4人だけで演奏されることでシャープに引き締まり、実にライブハウスらしいサウンドに。
そしてキュウソがカバーした「不倶戴天」の本家バージョンは貫禄すら感じさせるレベルであった。
不穏なイントロの「警醒」という怒りの曲が2曲続くと、やはりTOSHI-LOWは客席に突入し、先ほどのセイヤとは比べものにならない数のダイバーがTOSHI-LOWめがけて飛んでくる。その中の1人をマイクで小突いたのか、「ドン!」という音が鳴ると、カオスな時間の中に笑いが混ざっていく。
そのままTOSHI-LOWが観客に支えられたままで歌った「鼎の問」では、福島第一原発で働く人たちの映像こそこの日は流れなかったものの、
「桃源郷は嘘と消えた」
などの歌詞のあちこちから、またこれまでに何十回と見てきたあの映像からやはりいろんな感情を想起させざるを得ない。BRAHMANの楽曲は暴れられるだけではない、そうしたイメージが浮かぶ力と説得力を確かに持っている。
先日、福島第一原発の作業員の方が亡くなったというニュースがあった。それはもしかしたら、あの映像の中にいた、本当ならもっと幸せな人生があったはずなのに、
「誰かがやらなくちゃいけない、だったらその誰かになればいいんじゃないのかなって」
「俺が行って収まるんなら、なんぼ線量食ったっていいって」
と言ってあの場所に行くことを選んだ人たちだったんだろうか。
「あんなに怒ってない「不倶戴天」をありがとう(笑)
でもMONOEYESの曲をやった時は、歌詞を完璧に覚えて歌ったって言ってたのに、今日は完璧に歌えてなかったな(笑)まぁ俺もあの曲を完璧に歌えない時もあるからしょうがない(笑)
窮鼠猫を噛む。ピンチになっても、強いものに逆襲できるっていう意味のバンド。今日も、ピンチをちゃんとチャンスに変えるライブやってたよ」
とキュウソを讃えるようにTOSHI-LOWが話し始めると、
「ビバラでキュウソのセイヤがホルモンの裏で人がまばらで。でもそれが悔しかったんじゃなくて、それに飲まれちまって、普段通りのライブができなかったことに落ち込んでて。俺だってそういうことあったよ。ステージ降りたら膝をついてしまうようなライブもたくさんあった。でも続けるしかなかった。でも続けたらいろいろ言われる。「インディーズの頃が1番良かった」とか「1stアルバムが最高だった」とか。
そう言われてても続けてたら、今回のツアーで初めましての人がいて、20年ぶりに来たっていう人もいた。俺たちはこれを望んでたんじゃねぇのかな。普段は要領良く生きれない奴らが、ライブハウスに集まっていっぱいになって。そいつらが「また明日からも頑張ろう」って思ってくれる。そんな夢みたいな景色のツアーだった。今日締めちまって、明日どうしようか?(笑)明日のことは明日考えればいい。
負け続けても、立ち上がり続けることが1番大事。震災にあっても、津波にのまれても、放射能に汚染されても、立ち上がり続けたあの街の歌。
最高の夜だった。次はキュウソのツアーで会いましょう」
と、やはりこの日も全ての観客の感情をかっさらっていった後に最後に演奏されたのは、かつて阪神大震災が起きた際にソウル・フラワー・ユニオンの中川敬が作った「満月の夕」。我々の世代としては、パンクにアレンジしたガガガSPのバージョンが最も馴染み深いが、それとはまた違った、BRAHMANの凶暴性ではなく、慈愛に満ちたアレンジ。兵庫県という阪神大震災の被災地で育ってきた、キュウソのメンバーはこの曲をどんな気持ちで聴いていたのだろうか。立ち上がってきた街の景色を見続けてきた男たちが、何も感じないはずがない。被災地に住んでいない、自分ですら感じるものがあったのだから。
TOSHI-LOWが深々と礼をすると、3人も次々とステージから去っていく。しばらくして客電が点いた場内には、細美武士とTOSHI-LOWによる、the LOW-ATUSの「虹を見たかい?」が流れていた。
学生から社会人になると、それまでよりはるか年上の先輩や上司とともに仕事や生活をしなければならなくなる。しかしそのほとんどは、「こうなりたい」という人ではなく、むしろ「こういう大人にだけはなりたくないな」という反面教師としてしか見れない人ばかりだ。しかし、キュウソにはBRAHMANのメンバーやMONOEYESのメンバーなど、「こうなりたい」という姿を見せてくれて、悩みを抱える自分たちの背中を押して、肯定してくれる、本当にカッコいい先輩がいる。それはとてつもなく幸せなことだし、BRAHMANからしてもそうした音楽性を真似るのではなく、精神を受け継ぐような後輩がいるというのは本当に嬉しいことだと思う。もはやエレファントカシマシくらいの国宝的バンドへの道が見えてきているが、また遠くないうちに、次はキュウソのツアーで。その時は会場が関東じゃなくても行くよ。
1.真善美
2.雷同
3.賽の河原
4.BASIS
5.EVERMORE FOREVER MORE
6.BEYOND THE MOUNTAIN
7.其限
8.今夜
9.A WHITE DEEP MORNING
10.AFTER-SENSATION
11.天馬空を行く
12.守破離
13.怒涛の彼方
14.不倶戴天
15.警醒
16.鼎の問
17.ナミノウタゲ
18.満月の夕
満月の夕
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