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馬場正博: 元IT屋で元ビジネスコンサルタント。今は「A Thinker(?)]というより横丁のご隠居さん。大手外資系のコンピューター会社で大規模システムの信頼性設計、技術戦略の策定、未来技術予測などを行う。転じたITソリューションの会社ではコンサルティング業務を中心に活動。コンサルティングで関係した業種、業務は多種多様。規模は零細から超大企業まで。進化論、宇宙論、心理学、IT、経営、歴史、経済と何でも語ります。

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なぜ救急車はタダなのか
救急車

救急車は無料タクシー?

「昔年寄り弱いものなし」というのは江戸時代の川柳ですが、年寄りが「近頃の若いものはなっとらん」というのは、今に始まったことではありません。

年寄りが若者への悪口を言うのは、「昔は良かった」と言われても、若者は昔を知らないので反論のしようがないということもあります。年寄りの方は、「昔は良かった」イコール、「自分たちは立派だ」ということになるので、悪い気持ちはしません。

そもそも若者の態度、行儀が悪いのは、赤ん坊が泣くのと同じくらい当たり前のことで、時代が変わればどうこうという話ではありません。年齢を重ねて物事を覚えれば、少しは礼儀作法が身に付きますし、エネルギーがなくなってくれば粗暴なこともしなくなります。

少年少女による凶悪事件があると、決まって「最近の親は悪い」「教育を何とかしなくては」という話になるのですが、少年少女による殺人、強盗のような凶悪事件は絶対数でも、人口当たりの発生割合でも、日本では戦後一貫して低下してきています。

記憶をたどってみても、電車で老人に席を譲る若者の割合が、昔より低くなったとはあまり思えません。町に落ちているゴミや落書きも昔は少なかったというのは、きっと何かの思い込みです。

「衣食足って礼節を知る」と言いますが、犯罪の発生率は国民の平均的な所得水準と大きく関係しています。昔の日本は所得も教育年数も低く、現在より公衆道徳の水準は高くなかったというのが実際でしょう。

ところが、昔と比べて明らかに悪くなっていると思われることの一つに、緊急性もないのに救急車を呼ぶということがあります。救急車の出動回数は東京だけをみても、ここ10年で3割ほども増加しています。

10年前と比べ救急車を呼ぶ必要が、3割も増えるというのは考えにくいことです。「タダなら使わなきゃ損、いっそタクシー代わりに」と思う人が多くなってしまったようです。

救急車だけでなく、最近はパトカーを「うちの猫が逃げ出した」といった程度のことで呼ぶ人が増えているそうです。統計的な裏づけを取るのは難しいのですが、ここでも「タダのものはドンドン使う」という気持ちが働いているようです。

公共財の負担は全員でしなければならない

救急車やパトカーに限らず、市場原理による価格設定で提供することが不適当なものを、公共財として無料ないし安価に供給する必要性は広く認められています。

極端な市場主義の考えの持ち主には、消防は損害保険会社が、警察は警備会社が代行したほうが効率が高いという人もいます。しかし、損害保険会社も保険のかかっている家の消火はするかもしれませんが、そうでない家の消火はしないでしょう。それでは、消火しないでほっておいたために、保険のかかっている家も含め町中が燃え尽きてしまうかもしれません。

かと言って保険のかかっていない家の消火もすれば、こんどは誰も損害保険に入らなくなります。少なくとも消火作業分の上乗せ費用は支払いを拒否するでしょう。拒否ができなくても、消防隊を持たず、安値を売り物にする損害保険会社が出現してしまいます。やはり、消防事業はタダで公共財として提供する必要があるのです。

自分の通る道路に対してしか料金を払わないと皆が言い出したら、道路はぶつぎれになって用をなさなくなってしまいます。学校教育も義務教育として非常に安価に全員に提供されることで、社会の安定度が増して、犯罪が減ったり、産業の生産性が高まるという効果があります。

一定水準の医療を公共財として提供することも大きな意味があります。アメリカは民間の医療保険に依存する割合が、他の先進国に比べ圧倒的に高いのですが、民間の保険会社はリスクの高い加入者を防ごうとしたり、疾病が契約時の申告漏れの事項によるものではないかの審査に、莫大な手間をかけています。

その手間にかかるコストの割合は医療費全体の4分の一程度に達していると言われています。これは、国民皆保険で公共財として医療が提供されていれば、まったく発生しないはずのコストです。市場原理は時として大きな非効率を招くのです(医療に関しては単なる経済的な非効率だけでなく、医療を受けられない多数の国民がいるという深刻な問題となります)。

ゴミ収集の有料化をしようという動きがありますが、このあたりをよく考えないと、とんでもないことになりかねません。有料でゴミを収集してもらうのをいやがって、ゴミを勝手に捨てる人が増えて、街中ゴミだらけになってしまう可能性があります。

ところが、公共財を無料ないし極めて安価に供給することの利益が大きい場合でも、問題はあります。タダにしたことで、平気で自分勝手にいくらでも使おうとする人が出てくるのです。そのような人が一定以上になると、システムそのものが崩壊してしまいます。

なぜ囚人のジレンマにならないのか

むしろ、タダなのに全員が無制限に公共財を使おうとするわけではないことの方が、不思議なのかもしれません。囚人のジレンマでは、別々に尋問されている二人の囚人は「合理的」な判断の結果として、どちらも自白して重い罪になってしまいます。二人とも「一方が自白したら自分だけもっと重い罪になる」という恐怖に負けて、黙秘を続けることができないのです。

公共財も、「自分が使用を抑制すると、タダのりする奴だけが得をしてしまう」と考えると、使わなければ損なはずです。タクシー代わりに救急車を使い、娘の駅からの迎えにパトカーを呼ぶという連中が、少なくとも多数派にならないのはなぜなのでしょうか。

警察、消防という「お上」に対し、それなりの敬意と恐怖を持っている人が多いのは確かです。そのような気持ちと無縁な人が増えた結果が、「払う必要がない」と言って平然と給食費を払わない親が出てきた原因でもあるでしょう。

しかし、幸いなことに大部分の人は依然とし公共財のタダ乗りには節度を持っています。誰も見ていないところでも、公共財を破壊したり、だまって盗んでしまう人は、そんなにはいません。

ただ、いったん誰かが公共財の破壊を始めると、一般の人も抵抗感をあまり感じずに、後に続くようになります。アメリカでは「割れ窓理論」といって、軽微な犯罪意を徹底的に防止することで、犯罪の蔓延を防ぐという考え方があります。ガラスが1枚割れるのを見過ごさないことで、皆が平気でガラスを割るようになるのを止めさせようと言うわけです。

囚人のジレンマでは、同じゲームを繰り返すことで、ジレンマが解消されることがわかっています。ゲームが何度も行われるので、一度不誠実な行動に出ると、相手に報復され、かえって損をする可能性があるので、自分の利益ではなく全体の利益を考えて行動するようになるのです。

コンピューターでシミュレーションを行うと、このような場合の最適な戦略は、相手が裏切るまで誠実な対応を続け、相手が裏切ったらこちらも裏切ることで、相手を罰すればよいということがわかります。

割れ窓理論は、人々が公共財の使用法をめぐって、互いに囚人のジレンマのゲームを続けていることを示しています。どこの誰かはわかりませんが、「ガラスは割らない」というルールを破る奴がでてきたら、自分だけ真面目でも損なだけだと考えるのです。

救急車の問題はどうするか

救急車の話に戻すと、どうすれば不心得な救急車の利用を減らして、公共財としての救急車のシステムを維持することができるでしょうか。

有料化は一つの答えでしょう。有料道路だってあるのですから、公共財といえども完全に無料なものばかりではありません。

しかし、救急車は有料化すれば、無料タクシー代わりに使う人は減るかもしれませんが、図々しい奴が、「金がない」と言って支払わないこともあるでしょう。取立てがきちんとできなければ、「割れ窓理論」で皆払わなくなるかもしれません。

おまけになまじ有料化をすると、金を支払う人も、「金を払っているからいいだろう」と考えて、逆に利用に節度をなくすことも考えられます。イスラエルの保育園では、定刻を過ぎても迎えに来ない親に業を煮やして、遅刻に追加料金を取るようにしたら、安心して遅刻する人が増えてしまったという例が報告されています。救急車利用の抑止を考えると、少なくともタクシーよりは高く価格を設定する必要があります。

価格が高いと、こんどは相当状態が悪いと自分で確信できるまで救急車をない人も多くなるでしょう。ただでさえ、救急の受入拒否が問題になっているのに、出だしで遅れれば、手遅れになる人がますます増加する可能性があります。

八方ふさがりなのですが、「割れ窓理論」の考えに立つと、救急車を不要不急な状況で呼ぶのは、社会的なモラルに反すると粘り強く言い続けるのは効果があるでしょう。どんな状況でも自分の都合しか考えない不心得ものは、そんなに多くはありません。「常識」として救急車の乱用は悪いということが浸透すれば、システム崩壊まではいたらないと期待できます。

「囚人のジレンマ」を教育でちゃんと教えるのは効果があるかもしれません。単なる道徳として公共財の乱用を戒めるのではなく、自分のことだけ考えて、重い懲役刑を食らう囚人の話と、社会は「囚人のジレンマ」のゲームの繰り返しだということ、つまり公共財を節度を持って使うことは、自分の利益にもなるという理屈を教えるのです。

「情けは人のためならず」という諺があります。最近は逆に解釈してしまう人も多いのですが、情けは回りまわって自分の利益になるということです。モラルとして押し付けるのではなく、損得勘定に訴えて、相互扶助を勧めているわけです。

皆が「合理的」に囚人のジレンマに陥ることを防ぐために、同じように合理的に社会は連続型囚人ゲームで、必勝法は相手の利益を考えることだと理解できれば、皆もっと公共財を大切にするようになるかもしれません。もっともそれで本当に「黙秘を続ける」囚人が増えても困るわけですが。

囚人のジレンマについては以下の記事もご参照ください

少子化という囚人のジレンマ
メダカはなぜ群れる
チキンゲームと北朝鮮
タカ戦略とハト戦略
最後通牒ゲーム
地球温暖化を止めるには
高福祉それとも低負担
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 以前、KAT-TUNの中丸さんもみたとかいっていましたけど、うちもいまさらみました。 浅倉大介貴水博之access::ソノハナ;【2008/08/28 19:02】