未発表オリジナルの創作小説・イラストを募集します。
創作物の紹介ではなく、書き下ろしでお願いします。
最も優れた作品には200ptを差し上げます。
応募者全員に共通する課題テーマは「萌え」(具体的には、少なくとも一人は美少女キャラが登場すること)、
課題モチーフは、「秋」「メイド」「ウェイトレス」「ウェディング(ドレス)」「ゴシックロリータ」のいずれか選択(複数可)してください。
400字程度(一割程度の誤差は可)の日本語文章、または最大400kb(メジャーなデータ形式)の画像・音声・動画等を、回答で掲示(画像等はリンク)してください。
投稿作品は「萌え理論Magazine(http://d.hatena.ne.jp/ama2/)」または「萌え理論Blog(http://d.hatena.ne.jp/sirouto2/)」への転載をご了承ください。
その他細かい事項はhttp://d.hatena.ne.jp/ama2/20060922/p1を参照してください。
『Wanna Be a Goth Girl』
おまえはわかってない。
着ればいいってわけじゃないんだぞ。
「うん」
それを着ているあいだは感情を顔に出しちゃいけない。
笑ったりしちゃいけないんだ。
「うん、がんばる」
肌も白くなきゃだめだ。
外に出る時は日傘をずっと差さなきゃだめだ。
「ずっとさすよ」
夏でも黒い服なんだぞ。
すごく暑いぞ。
「あたし、がまんする」
本当に大変なんだぞ。
それでも、どうしても着るのか?
「だって、すきなんでしょ?」
そりゃ、好きだけどさ。
ああいうのは空想の――。
彼女の柔らかい指が、ぼくの唇をそっと閉じた。
「あついの、がまんする。
ひがさも、さす。
ぜったいに、わらわない。
だから、ね?
わたしをおよめさんにしてね」
ほら、やっぱり無理だよ。
こんなに嬉しそうに笑ってる。
タイトル:ウェディングには早いけど。
今日は、志願する高校の文化祭の日。
わたしは幼馴染の裕史と遊びに来ていた。
「おっ、『コスプレ写真館』だって」
裕史に言われて、お店の中に入った。
「あゆむは何か着たい服でもあるのか?」
「えっとねぇ」
「分かった。メイド服だろ?」
「それは裕史の要望でしょ。後で着てあげるから、先にこれ着たいなぁ」
と言い、わたしはウェディングドレスを選んだ。
着替え終わると、裕史もタキシードに着替えていた。
わたしは裕史の所へ行こうとした。が、
「はわわっ!」
ウェディングドレスの裾を踏んだらしく、豪快にこけてしまった。
「はぅぅ~」
「大丈夫か? ちょっと裾が長かったみたいだな」
裕史は優しく声をかけてくれた。わたしは泣きそうになった。
裕史の優しさじゃなくて、ウェディングドレスを着こなせない自分に対して。
すると、裕史はこう言ってくれた。
「大丈夫だって。今は着こなせなくても、将来きっと着こなせるようになるからさ。そしたら、俺はあゆむのウェディングドレス姿を、一番近い場所で見てやる」
悲し涙が嬉し涙に、変わった瞬間だった。
(終)
常連さんの一番乗り。四連続参戦。いつも投稿ありがとうございます。途中ですが、講評を始めてしまいます。
いつもツボを押さえて破綻もなく、平均点が高いですが、贅沢を言えば「お約束」からはみ出す何かが欲しいです。
ウェディングドレスが、女性のクラスレベルに結びついたRPG的装備になっています。そこで、まだ中学生のヒロインがドレスにこだわる理由(まあお嫁さん志向は普通ですが)まで踏み込みたい。
『初デート』
「あの、さ?」
「?」
「普段着はいっつもそんなんなの? ゴスロリっていうんだっけ?」
「そんなんなの」
「そう…」
「そう」
「…」
「…」
「あ、クレープ屋だ。食べる?」
「たべる」
「はい、どーぞ」
「はい」
「おいしい?」
「おいしい」
「…少しそこらへん歩いてみようか?」
「すこし」
さっと心地良い一陣の風。
ほんのり赤く染まった木の葉が舞い踊る。
その様子を見つめる彼女は、まるで赤子のように無邪気に見えた。
「よう、ハジメ。可愛い子連れて、デートか?」
「あぁ」
「…あの子が、例の?」
「そう」
「施設で、虐待にあってたんだろ? 感情は……取り戻せるんだろうか?」
「わからない……。でも、俺はあの子の傍に居るよ、ずっと。俺が守る」
「そうか」
「あぁ」
「いつでも相談にのるからな」
「ありがとう」
「兄妹初心者の二人に、幸あれ!」
素晴らしい仲間には、惜しみない感謝を。
新しい妹には、美しい世界を。
普段着はゴスロリ。「兄妹初心者」というフレーズが新鮮。普通のデートに意味を上書きする構成ですが、前半と後半で分裂した印象もあります。最後二行は読者が読み取れることなので、やや蛇足気味です。
設定はいいのですが、会話が単調なために、ヒロインの境遇の悲壮感が出ません。例えば「あぁ」「そう」は「彼は頷いた」と地の文でも書け、それで間が調整できますね。全会話型のハードボイルドタッチは意外と大変。
『移ろうということ』
9月も半ばになって、妹の唯がバイトを始めた。
職種はなんと、ファミレスのウェイトレス!
唯は引っ込み思案の何ともおとなしい子だったから、
彼女に接客業がちゃんと務まるかどうか、僕は気が気じゃなかった。
「だからって、わざわざ見に来ることないのに……」
不満そうな唯の声。
休憩時間を利用して、外に出てきた。
「でも安心したよ。ちゃんとお仕事できてるね、それに」
彼女をちらりと見、
「唯のウェイトレス姿って、なんだか新鮮でいいな」
「あはは、ありがと。コーちゃんにそう言ってもらえると、嬉しいな」
遠慮がちに微笑む。
会話はそこでぷつりと切れた。
国道沿いのファミレスの裏からは、色あせた海が見える。
潮風が二人を煽った。
僕は、唯にバイトの理由を聞かなきゃいけなかった。
お金に困ってるなら、小遣いあげるよ。
瞬間、唯が飛び出した。
「うわぁ、コーちゃん、あれ見て」
高く澄んだ空。
水色の向こうに、見事ないわし雲が広がっていた。
「夏が終わったんだよ」
小さな背中がぽつりと呟く。
「変わらなきゃ」
どこまでも続く、空と海。
女の子は前だけを見つめていた。
(終)
潮風が来るファミリーレストランで働く爽やかな妹。「いわし雲」は秋の季語ですし、言葉に統一感があります。
課題の「秋」を「夏が終わ」る時期と位置づけ、「引っ込み思案」な妹が「変わらなきゃ」と心が「移ろう」と、物語のテーマを上手く消化しています。
妹が引っ込み思案なのは、「お金に困ってるなら、小遣いあげるよ」という兄にも原因がありそうで、そういう行間の広がりを感じます。惜しい点は意外性がないところ。
タイトル:ゴシック・ロリータ
少女の瞳は恐怖の色に染まった。汚れてもなお端正な顔立ちは、怯えに引き攣る。
少女の前に立つ二人の男、身を鎧で固め、悪意の篭もった嫌らしき笑みを浮かべる。
その時、少女は目を見開いた。少女にいまにも襲い掛からんとしていた男らの
そっ首が天を舞ったのだ。主を失い崩れ落ちる男らの身体。だが、その空隙の
向こうを見、少女の眼は曇る。そこに立つ血塗られた剣を構えた男の鎧もまた、
少女を襲おうとしていた者どもの鎧と同じ紋章が刻まれていた。
少女の眼差しと、剣を構えた男の眼差しが交錯する。男の眼差しが揺れ動く。
少女は怯え、後ずさった。男は、悲しげな微笑を浮かべ、汚れながらも
気品ある少女の姿と、その身に纏われた黒衣を見つめた。黒衣に刻まれた紋章は、
男が、共に和を結ぼうとしながらも果たせず、そして今は戦わねばならぬ敵の
ものだった。男は、胸から金色に輝く徽章を取り出すとそれを少女に放り投げた。
少女はそれを拾い上げる。
「それをもって川を渡れ。兵どもに出会った時はそれを見せ、
勅命の密使だと云え。お前の仲間達のところまで戻れるだろう」
「なぜ、私を助けてくださるのですか」
「お前は、私が遥か昔、愛した娘に似ているのだ、小さな野蛮人よ」
少女は走り出そうとし、そしてくるっと振り向いて、悲しげに微笑み、礼をした。
「ありがとうございます。ウァレンス皇帝陛下」
アドリアノープル、紀元後378年のことである――。(終)
後書き
ゴートの女の子(ゴシック・ロリータ)と皇帝のお話(フィクション)です…。
今回は重厚な歴史物。ゴートはゴシックのルーツですね。当時の衣装は現代のゴスロリとかけ離れていると思いますが、それを想像するのも一つの楽しみ方でしょう。
ドラマチックな展開で、過去の娘に重ね合わせたりと、人物の動機も描いており、掌編の中にも厚みを感じます。金色に輝く徽章を投げるとか、色々格好良い描写があります。字数が1.5倍位あってオーバーしているのが残念です。
13年ぶりに会った彼女は、顔だちに面影をのこしたままで、大人の女性になっていた。まっしろなスカートから、細いふくらはぎが伸びている。ぼくはそうやって視線を走らせては、彼女が一人の女であることをたびたび確認してしまった。
「また京都、来たいなあ」
ごめん、俺、君をこんなふうに見てしまうところがあるんだ。だから、そんなことは言っちゃいけない。いや、いけないってのは俺の勝手だよな。いいんだ。いつでも来てよ。彼といっしょに来てくれたらいいな。結婚っていうのは、そういうことなんだろうな。
駅を下りると、ぼくは人込みの中に彼女を送るための準備をした。かつてぼくは中学生だった。そして彼女も、たしかに中学生だったんだ。
三回連続参戦。「無題(面影)」としておきます。京都を舞台に「結婚(式)=ウェディング」を切なく描いたお話。字数が余っていますが、今回はさらに淡白な書き方で、「萌え」というより「侘び」「寂び」の境地。
一方的に「俺」が「君」のことを「見てしまう」だけで、向こうからの関係がないので、やや単調な展開です。向こうは全然意識していないというのは現実的ですが、すれ違うとしても、せめてもう少し会話が欲しいです。
タイトル:『いやがらせ』
黒塗りの車が、午後の陽を浴びて走っている。
車のなかは、シートから天井から、黒と白のひらひらした飾りで覆われている。
ハンドルを握るのは、メイド服に包まれた腕。
後ろには、大きなウサギのぬいぐるみを抱えた少女が座っていた。少女もひらひらした服を着ていて、窓の外をずっと眺めている。
「ところでお嬢様、まだ伺ってなかったのですが。なぜこの格好なのでしょう」
メイド服は視線を自分の身へ下げる。白いエプロンに、黒髪が流れている。
「みんなに見せて笑いものにするために決まってるでしょ。あたしに黙って勝手に結婚して勝手に辞めてくんだから……」
少女は頬をウサギにきゅっと押しつける。
「ですから、私程度の代わりなどいくらでも――」
メイド服はミラー越しに後ろを見つめる。
「お嬢様。……泣いて、いらっしゃるのですか」
後部座席から、靴が飛んできた。口の横をかすって、フロントガラスにぶち当たる。
メイド服は苦笑して、頬をさする。
――カツラのロングヘアと絡み合いながら、ヒゲがざらりと音を立てた。
(終)
(432字)
(コメントより)運転手が女装しているのが作者の意図です。それで運転とロングヘアは説明できますが、男が結婚で辞めるのは不自然なので、メイドが男装している可能性も残ります。ヒゲはカツラではなく地毛であることを書けば決定的でした(「ざらり」がそうなのかも)。
使用人との別れが悲しいが、それを素直には言えないお嬢様。設定は良いのですが、細部にまで浸透していません。良家の育ちなら靴は飛ばさないでしょう。
『ぼくの彼女のロケットパンチ』
夏も終わったようで、日暮れには平屋の借家に涼しい風が入るようになった。
ぼくは床に正座をして、ソファでまどろんでいる彼女の寝顔を見つめた。
それから彼女の左手を持ち上げ、前腕部の真ん中あたりを中指ではじいてみた。いつものように、薄い皮膚の下から、カンカンと高い金属音が返ってきた。左耳をあててみる。ジィーと、わずかな機械音が聴こえた。心地よい音色だ。
手を握ったまま、視線を裏山に向けた。ミサイルでも打ち込まれたように、ところどころ地面が剥き出しになっている。数えてみると、きのうより穴の数がひとつふえていた。
いつの間にか目覚めていた彼女が、黒い瞳でぼくを見つめていた。
「ねえ、わたしの左手の秘密、知りたくない」
「し、知りたくない」
ぼくは首を横に振った。
「いくじなしね。秋は人を気弱にさせるって、だれのことばだったかしらね」
「し、知らない。調べておくよ」(おしまい)
「ロケットパンチ」が価値の大半を占めている作品。映画が銃と女なら、アニメはメカと美少女で出来ている、その醍醐味を体現しています。タイトルで完全ネタバレですが、ストレートにパンチが効いて正解でしょう。
寝ている間に手を調べるという場面は、題と共に印象が鮮烈に残ります。ただ、秋というモチーフが薄く、ゴスロリ+ロケパンにする手もありました。結末のオチも非常に弱い感じで、少女の今後が想像できると良いですね。
とりあえず萌えというのが未だによくわかりません。
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タイトル:『ハッピー・サンデー、スウィート・スウィート・エスコート・タイム』
「うわ!…お前、いくらバレエが好きだからって普段着にするか」
「ばーか、これはロリータ服ってゆーんだよっ」
栗色のおかっぱ頭に小さな帽子を乗せているこいつ、幼なじみの円(マドカ)は、かつて着ていた舞台衣装もかくやと思わせるピンクのワンピースに身を包んでやって来た。
「大体今日は普段じゃないしっ。待ぁちに待ったカップル割引デー!」
「大体俺らはカップルじゃないし。ただのいとこ」
そんな風に軽口を叩きながら受付で切符を買って、カップル席に座った。
銀幕の中のヒロインは洋館の地下室で怪物にドレスを引き裂かれ、半狂乱の悲鳴。
円とは言えば、ポップコーンを座席下に取り落とし、ひんひん怯えながら両手で俺の片腕にしがみついていた。
主人公に怪物が一刀両断されるまでそれは続き、ラストでは一転感動の涙。ハンカチと逆の手は最後まで離れなかった。
「まるでカップルだな、俺ら」
「…ちーん。礼央、ティッシュちょーだい」
「…前言撤回」
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こうですか!わかりません><
本文が丁度400字。題は長い割りに印象が弱く、また「、」に違和感が。『ハッピー・スウィート・エスコート』位でもいいでしょう。
「ちーん」は「くしゅん」みたいで意外と萌えかも。つかず離れずしがみつく、ヒロインの振る舞いがとても可愛らしいです。
せっかく映画館に来ているので、暗闇を活用したいところです。服のフリルが触ってドキッとするとか、視覚から触覚に切り替わるタイミングで動揺させる手はあります。
『秋は別れの季節』
「なんで別れようなんて言うの?」
彼女の涙声に俺は戸惑う。
「なんでって……特に理由は無いって言うか……」
「理由が無いなんて、あるわけないでしょ」
しかし、事ここに至るまでに、理由は考え尽くした。
大体なぜ俺がこんな事を考えなきゃならんのだ?
腹が立ってきて、いっそこの会話を止めてしまおうかと思った。
だが、俯いた彼女の端正な顔が悲しみに歪むのを見ていると、
何か言わなきゃという気になる。いつものように。
「あー、アレだ。そう、もう秋だしさあ」
「何、それ……」
「いや、つまり、秋だ……飽きた……」
彼女は一瞬の沈黙の後、顔を上げた。表情が素に戻っている。
「ダジャレですか」
「ハイ」
呆れた彼女は、芝居を終わらせてくれた。これでやっとデートが始まる。
彼女の我侭にはいつも振り回されていて、これもその一つだ。
普段から色々なパターンの別れを経験しておけば、実際にはそれが訪れないと思っているらしい。
バカだな。俺がお前に飽きるなんて有り得ないのに。
……それに、本当っぽい理由を言うと怒るくせに。(終)
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こんなんでいいですか。
ダジャレがクライマックス!
「こんなんでいいですか。」
いけないと思います!
照れ隠しの道具なんでしょうが、単純に、ダジャレでは萌えないですね。もう少し言うと、ダジャレで始まるのはいいとしても、ダジャレで終えるのはまずいです。
別れを練習するという行為は奇妙で面白いので、それを少しひねったらどうなるか興味深いです。例えば、練習している内に本当に別れそうになって、本気で引き止めるハメになるとか。
秋の夕陽をカーテンで遮ると、ロココ調の椅子に腰かけたその人はすっと片足を上げた。サキコは椅子に座りながらタイツを脱ぎ、こちらをむく。
(……そんなわけない。気づいてるわけない)
必死で動揺をおさえようとしても目は釘付けになっている。
そういえばこのクローゼット、横に机があり、卓上には彼女の父親の写真が飾られていた。そちらに微笑んだのだろう。
(そもそもこんなのは神様が悪いんじゃないか。不可抗力だ。僕はサキコを呼びにきただけなんだから)
役にも立たない懺悔をいくら繰り返しても時間はけっしてとまらない。
クローゼットの隙間から見える光景はとても甘美で、タイツを脱ぎおえたサキコは、次に女給服のボタンに手をかけた。
「早く着替えないと、ぼっちゃまを待たせてしまう」
夕陽の朱に照らされたサキコはこちらを見つめると、また薄く笑った。
(コメントより)題は『メイドさんといっしょ』。本文が真面目なので少し浮きますね。「クローゼットの隙間」とか…。内容の方は、偶然見てしまった、でも相手は知っているかもしれない…という魅惑的なシチュ。
メイドと(おそらく)「ぼっちゃま」の、何だか淫靡なシチュエーション。着替えの覗きと言ってしまえばそれまでですが、まずカーテンを閉めて、椅子はロココ調で、すっと片足を上げる、一連の流れにこだわりを感じます。
『めいどのみやげ』
九月二十日、彼岸の入り。男は独り畦道を歩いていた。気配を感じて後ろを振り返り、彼が言った。
「お帰りなさい」
「立場が逆ですよ」メイド服姿の少女が深々とお辞儀をする。「お久しぶりです、ご主人様」
館に入った途端、彼女が溜め息をついた。「ああ、お屋敷が荒れ放題」
「今は僕一人だから」
「そうですけど……」
「それより本当に済まない。僕のせいでお前を、し」彼女は彼の唇を人差し指で押さえた。
「ご主人様のせいではないです。だから、もうお気になさらないで。こうして一年に何度かお会いできるだけで私は幸せです」
「でも」「あ、お茶入れますね。お萩作ってきたんです。これが本当のホームメイド、なんて」
少女と過ごす七日間はあっという間に過ぎた。
彼岸の明けの夕暮れ時、二人は畦道を歩いていた。路傍に咲く彼岸花も心なしか生気を失い始めている。
「彼岸花の花言葉ってご存知ですか?」少女が訊ねた。
男は首を振る。
「なら宿題です。春までに調べておいて下さいね」微笑むと、彼女は燃えるように紅い夕焼けの中へと溶けていった。「次は牡丹餅をお楽しみに!」
花言葉:悲しい思い出 想うは貴方一人 また会う日を楽しみに
(489)
(おそらく)黄泉帰りものですね。彼岸のお萩がホームメイドで冥土の土産というわけです。叙述が非常に凝っていますが、タイトルがネタバレ気味だし、どんでん返しのサプライズに結びつかないですね。
こういう話では、生者との違い、更にその悲哀をはっきり示したいところです。例えば、主人は子供だったのが、今年ついに年齢や身長で追い抜かれてしまい、もう保護はいらないと決意するとか、決定的瞬間を話にすると絵になります。
「そして、いつものように」
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目覚まし時計が鳴る、いつもの朝。
俺は、耳元のジリリリという擬音を止めさせるべくその頭を叩く。
「もう、痛いよぉ」
いつもと同じような台詞を残して部屋を出て行った少女の朝餉を受けるべく、着替えを済ませて居間へ向かう。
朝の光景。台所に立つ彼女。味噌汁の香りが俺を食卓へ誘う。
同じ献立なのにどうしてこうも飽きないのだろう、とふと疑問に思い呟く。
「毎日違うものが食べたいって言う方が不自然なんじゃないかな」
片付けを終えたらしい彼女が答えた。彼女は、席に着くとすぐに玉子焼きに箸を伸ばした。
「玉子焼き、か。毎日毎日よく飽きないな」
「料理には、沢山の想い出が詰まっているんだよ」
黙って、少し俯いて玉子焼きを食べる彼女を見ると、俺はきまって彼女に話しかけることが出来なくなる。
まるで住み込みの給仕のようだけれど、お互いが望んだ関係だったはずだ。
本当に俺達の選択は正しかったのかと、彼女のその表情を見るたび心に疑問がよぎる。
「だから、今日も頑張れるんだよ」
気付けば彼女は、いつものように微笑んでいた。
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一応モチーフは「メイド」です。
三回連続参戦。住み込みで朝ごはんを作るメイド的な彼女。全国で二千万人は希望者がいそう。「ジリリリ」と口で言う場面がユニークです。
同居するきっかけが謎で、「お互いが望んだ関係」を築いた「俺達の選択」が気になります。実は夫婦だけど別居して、ときどき住み込みに来る、という可能性すらありえます。想像の余地を残すのは良いのですが、ある程度示さないと「たぶん幼馴染だろうな」と誘導されます。
『Wanna Be a Goth Girl』
おまえはわかってない。
着ればいいってわけじゃないんだぞ。
「うん」
それを着ているあいだは感情を顔に出しちゃいけない。
笑ったりしちゃいけないんだ。
「うん、がんばる」
肌も白くなきゃだめだ。
外に出る時は日傘をずっと差さなきゃだめだ。
「ずっとさすよ」
夏でも黒い服なんだぞ。
すごく暑いぞ。
「あたし、がまんする」
本当に大変なんだぞ。
それでも、どうしても着るのか?
「だって、すきなんでしょ?」
そりゃ、好きだけどさ。
ああいうのは空想の――。
彼女の柔らかい指が、ぼくの唇をそっと閉じた。
「あついの、がまんする。
ひがさも、さす。
ぜったいに、わらわない。
だから、ね?
わたしをおよめさんにしてね」
ほら、やっぱり無理だよ。
こんなに嬉しそうに笑ってる。
萌え強豪が参戦。一作品で一ジャンルを切り開く発想力に毎回驚かされますが、今回はゴスロリをスポコンにしたような独自の世界を展開しています。
「ゴスロリ関白宣言」という印象です。しかし、ゴスロリとおよめさんのイメージを上手く両立させるのは大変です。「ゴスロリの嫁」は可能でしょうが、所帯染みるとゴス的でロリ的なエッセンスが失われます。そこで、平仮名で喋る「彼女」の純粋さを介してギリギリ繋がっています。
題「幕間」
カーテンを舞台の幕と見立てれば、外の光景は当然、舞台である。
不用意に開けば、準備前の舞台同様、そこには常には見られないモノを見てしまう。
俺が秋の夜長に見たのは、マンションの狭間にゆれるメイド服と、あの子と、長い長い髪だった。
彼女は踊る。
速く、速く、回り、一瞬止め、すぐに逆回転、速く、速く、回る。
メイド服が揺らめく。
フリル付きスカートは、輪になって回る、回る、回る。
長い長い髪は舞う。
頭の振りに、付き合うように。あるいは、逆らうように。上に、下に、左右に。
自在に。
回転が全てを一つのうねりとして、しかし一度も絡まる事無く、動き、動き、動き、舞う。
それは一つの生き物であり、一陣の竜巻であり、しかし、まぎれもなく、あの子だった。
と。
停止。
余韻を残し動きが終わり、引き伸ばされた勢いは収束をみる。
最後の姿勢のままのあの子が聞いているのは、なんだろう。
ふと、気がつくと目が、あった。
俺が拍手の真似をすると、彼女は歓声の中、唇を
「ありがとう」
と動かして、嬉しそうに一礼をした。
<終>
「オオカミさんと七人の仲間たち」で再度自分の長い髪萌えを再確認。こんなことになりました。第一稿よりましなんですけれどね。やんまーにやんまーに。(意味不明)
なんかもう、萌えとかどうでもよくなってきた。(問題発言)
四回連続参戦。おしとやかなのがメイドのデフォルト属性なので、「踊るメイド」は意外と新鮮な印象です。踊る状況が全くの謎ですが、どうでもいいことかもしれません。
会話が多い中で動きを書く作品は貴重ですが、「回る、回る」と同じ言葉を連呼せず、踊るように書く手もあるでしょう。「黒い、長髪は、流れ、白い、フリル、揺れ、足は、動き、回転は、舞い、うねり、生きる、竜巻…」とか。それはそれで収拾が難しいですけど。
『恋する颱風』
迷惑ですよ、ね。
私って何でもかんでも目茶苦茶にしちゃいますから。
わかってます。私が嫌われて・・・憎まれてさえいるってことも。
でもこれが、ぐるぐる回って泣き喚くしか能のない私が、私だから……。
だから私は多くを望むつもりはありません。
でももし、もしもほんの少しの高望みが許されるなら、あなたのもとへ行きたい。
私は南太平洋の出なんですけど、物心ついたときからいつかきっとあなたのもとへって、そう思って頑張って発達してきました。
だから偏西風さんが背中を押してくれるって言って下さった時は本当に嬉しくて、それで。
それでもし。
偏西風に乗って、あなたへと続く島々を渡って、そしてあなたの背筋に沿って縦断できたら。
そしたらもう私は、消えてしまっても構わない……!
うざい女ですよね。ごめんなさい。
でもこれが、私の気持ちです。
PS. 秋雨前線とってもお似合いでした。見蕩れちゃいました!水も滴るって言うんでしょうか・・・いいなあって。
それでは。
いつでもあなたを見つめています
あなたの風子より
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+1割以内に収めました。
やはしこういうのを混ざってたほうが楽しいんじゃないかと。
冥王星が実はメイドの星だとか考えましたが、そういうのも楽しいですね。アメリカの台風は女の子の名前が(昔は)ついていました。ビジュアル化がネックですが、風の精を出せば可能です。
擬人化…というか虚構性の高い文章は、導入部より現実に戻る部分が難しくて、「迷惑ですよ、ね。」辺りでは素直に感情移入できますが、「PS. 秋雨前線とってもお似合いでした。」以降は、ややくどく感じます。
『I'm wind "Wait"ress』
秋晴れ天高く、落葉を踏む、君の足音。
カサシャカサ、つたないステップ。
「転ぶよ」
「だーいじょっ、うわっ!」
案の定。転んだ君に手を伸べる。掴みながらはにかむあなた。
「へへ、ありがと。」
立ち上がる君、一瞬見つめ、目を逸らす。
いきなりの、突風に舞う、銀杏の葉。
あまりにも、美しいその光景に、息がつまって喋れなくなる。
黄色い嵐がおさまるも、君は並木を見回して、余韻を楽しむかのように……
その目はいつも涼やかに、人の心を射抜くんだ……
「知ってる? 銀杏の木って、オスの木とメスの木が別々なんだよね。」
そんな台詞にふと我を、取り戻して思い出す。はやく返事をしなくっちゃ。
「そっ、そうなんだ。」
「そう。だからね、銀杏のオスは自分の思いを伝えるのに、風を待つしかないんだ。いまの風で、彼らは上手く告白できたのかな?」
「……へー、たまにはロマンチックなこというんだね。」
言いながら、そうっと君の風下へ、あたしはずっと待ってるんだよ。
(了)
結局今回も参加してしまいました。よろしくお願いします。
四回連続参戦。萌やし賞の開催お疲れ様でした。作品の方は、銀杏をカップルに見立てたポエム風のお話。
微妙に韻文体が入ってますが、その場合特に会話の処理が難しくなります。詩の虚構性と会話の現実性が衝突して、「恋人たちの砂浜の追いかけっこ」みたいなクサさが出るからです。
銀杏は良い匂いがしないので、実際の並木道でロマンチックな雰囲気は難しいと思いますが、「秋の落葉」「風の告白」といった言葉を楽しみましょう。
『一つの難題』
彼女が今日が中秋の名月だというので庭で月見をすることにした。
「月きれいね」
月光を背負って、彼女は僕に笑いかける。
彼女が楽しそうだから、中秋の名月は来月だということは伝えない。
月明かりの中でくるりと踊ってみせる彼女。ゴスロリのフリルが秋の風にゆれる。
「ね、わたしってさ、かぐや姫みたいじゃない?」
月を背負って彼女は僕に微笑むけど、ゴスロリのかぐや姫なんて見たことがない。
「冗談だろ」
けど、そんな彼女の姿が十二単を着た姿とだぶる。
重たい十二単と薄手のゴスロリ。
背負った月光のせいだとしても、あんな重い服を着ているように見えるはずがないのに。
「ほらさ、わたしは、わがままだから。かぐや姫にそっくり」
ふてぶてしく言い切る彼女の姿に納得してしまう。
僕は笑って、
「かぐや姫はわがままじゃないだろ」
ポケットからとりだすとそれは彼女の背負う月光にきらりと光った。
これが、重みか。
僕のこの指輪はかぐや姫のめがねにかなうだろうか。
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超短編難しいです。
ゴスロリと十二単の組み合わせが斬新ですね。そう言われてみると、かぐや姫は宇宙人(ネタバレ)なのに、和風のファッションが似合うところが凄いなと、改めて思いました。「かぐや姫はゴスロリだった」という話も面白そう。
結末の指輪は唐突に思えますが、かぐや姫の求婚に見立てたのと、「ウェディング」に結びつけたオチでしょう。指輪が真珠で月のように光っていたとか、モチーフを有機的に結びつける余地はまだありそうです。
『にゃんこついん・おきゅうじします』
http://marie.saiin.net/~nitino/kitchen/image/j16.jpg
イラストの応募です。ウェイトレスさんをテーマに描いてみました。ふたごのねこみみさんにして見ました。宜しくお願いいたします。
イラストでこの会場を華やかにして頂きました。可愛らしいウェイトレスさん。髪と瞳と猫耳の色が全て違う双子ですが、性格も違うのでしょうか。二人のポーズが往年の「だっちゅ~の」。題の「にゃんこついん」が密かに良い響きだと思います。
『変わらない笑顔で』
また窓の外で音もなく葉が落ちた
いつでも私はここにいるでしょう
何月何日何曜日にあなたがここを訪れようとも私はあなたに会うでしょう
例えあなたが水曜日の夕方にしか現れない少女を追いかけていようとも
例えあなたが平日の学校では他人行儀な幼馴染と週末に親交を深めていようとも
だからこそあなたは此処へは来ない。
でも私はあなたを探さない
それが一番私が知っている私であり、あなたが知っている私でもあるから
それでも私は覚えているでしょう
いつの間にか私の日常に忍び込んで
すっかり景色を塗り替えてしまったあなたのことを
敷き詰められた落ち葉の路地の先にある、この小さな茶屋で
私は今日も着物を着付け、エプロンを締め、静かに湯気を立たせながら
心の何処かであなたを待っている。
(おそらく)「待つ女」ものですね。静かな印象の文で、健気さや一途さと共に、ほのかに恐怖も感じます。これは主に一人称独白体から生じた「見られる恐怖」の現象で、例えば男から待っている女を見た場合、女に対する恐怖は薄れます。
文体に気を使っていることが伺えます。細かい話ですが…、句読点は抜きで統一してしまった方があっさりします。「来ない。」「待っている。」の部分を強調することも微かな怖さに繋がっています。
――蜜を、塗ってくるべきでしたわね。
彼女は私の濡れた唇をなぞり、恐れなく牙に触れた。
私は、そのしっとりと真白い指が、温かい乳に変わり流れ落ちることを夢想した。
――私を捕らえ固め、千年琥珀に残しておけたでしょうに。こんな牙など、使わずとも。
そんな、と私は唇を震わせた。
言葉は出ない。けれど、彼女は私がそれを望まないと分かっている。
――ふふ。
柔らかい。
彼女の笑いも、唇から頬へ滑った繊手も、押し倒された寝台も、私に覆い被さった平均に満たぬ矮躯も。
その全てが信じられないほどに柔らかく、重かった。
私は、もう、腕を上げることさえ、できない。
――愛していると、お思いですか。死を望むとお思いですか。
返せぬ答えを待つ様に、彼女は私の目を見詰める。
数秒の後、瞼を下ろし顔を寄せてきた。
私は、精一杯の答えとして、彼女の鼻を甘く噛んだ。
――うぷっ!
呻き声と共に、彼女は大きく仰け反った。その隙に彼女の下から抜け出して、床に飛び降りる。
――ダメでしょネフェル!
妄想の相手に私を使うのは勘弁してほしい。パジャマ姿の彼女を部屋に残し、私は魚缶を食べに走り出した。
(了)
モチーフはゴシックロリータ。
「無題(千年琥珀)」としておきます。妄想の相手は(たぶん)猫だったという、本格的な叙述オチの流れですが、「牙」が人間以外の存在を強く指し示すので、冒頭で何となく分かってしまうのが惜しいですね。舌がざらついているとか、他の部分で責める手はあります。
仔猫の肉球を瞼に乗せることを梶井がやって、それをつげ義春が真似てますが、実は猫だったという以外にも、猫しかできない遊びをこっそり混ぜておくと楽しいですね。
萌え強豪が参戦。一作品で一ジャンルを切り開く発想力に毎回驚かされますが、今回はゴスロリをスポコンにしたような独自の世界を展開しています。
「ゴスロリ関白宣言」という印象です。しかし、ゴスロリとおよめさんのイメージを上手く両立させるのは大変です。「ゴスロリの嫁」は可能でしょうが、所帯染みるとゴス的でロリ的なエッセンスが失われます。そこで、平仮名で喋る「彼女」の純粋さを介してギリギリ繋がっています。