小学4年生になる頃に…成績が逆転
幼児期に勉強中心の生活を送った子供たちが、その後どのように育ったか、アメリカのボストンカレッジで心理学の研究教授を務めるピーター・グレイ教授の興味深い論文があります。
その一つが、1970年代にドイツで行われた大規模な比較調査。アカデミックな教育を導入した幼稚園の卒園生と、導入していない幼稚園の卒業生について調べたものです。ここでのアカデミックな教育とは、小学校で習い始めるような学問的な学びのことを指します。
それによると、アカデミックな教育を導入した幼稚園に通っていた子供たちは、小学1年生時の学力テストでは他の子供たちよりも成績が良かったといいます。しかし、その後徐々にその差が薄れ、小学4年生になる頃には、比較されたすべての尺度で、アカデミックな教育を導入していない幼稚園に通っていた子供たちよりもスコアが低くなる結果が出たというのです。
特にリーディング、数学のスコアが低く、社会的・情緒的な適応度も低かったといいます。
これは、早期教育が思ったほど有益ではないということだけではなく長期的に見ると早期教育が弊害を引き起こす可能性がある証拠であると、グレイ教授は指摘しています。その弊害は、特に社会的・感情的な発達の領域に見られるとされています。
「語彙力」の差が浮き彫りに…
もう一つ、日本での研究をご紹介しましょう。お茶の水大学の内田伸子名誉教授らの研究チームが、決められた時間に先取り準備教育を行う「一斉保育型」と、遊びの時間を多く取る「自由保育型」の幼稚園や保育園の園児たちを対象に、読み書きの力や語彙力にどのような差があるかを調査したものです。
その結果、どちらの保育型でも読み書きの力に差はないものの、語彙力については「自由保育型」の園児たちの得点が高いという結果になりました。しかも、その差は3歳よりも4歳、4歳よりも5歳と、年齢が上がるほど開いていったのです。
読み書きや算数などの早期教育を受けていた園児たちの語彙力が低いのはなぜなのでしょう。
この研究チームでは、自由保育型の幼稚園での、子供たちの「知りたい」「やってみたい」という気持ちからくる能動的な行動や机上ではなく直接触れて感じた体験、遊びを通した試行錯誤の回数、お友だちとの言葉のやりとりなどが、より多くの語彙を脳に植え付けたのではないかと見ています。