「WEBマンガ総選挙 pixivコミック10周年 特別編」第1位!『佐々木と宮野』の春園ショウ先生にじれったい恋模様の描き方を聞く
マンガ好きの投票で決まる「WEBマンガ総選挙 pixivコミック10周年 特別編」で、『佐々木と宮野』が見事第1位に輝きました。女顔がコンプレックスな腐男子・宮野とちょっと不良な先輩・佐々木のじれったい恋模様を描いた青春BL(ボーイズライフ)で、シリーズ累計部数200万部を超える人気作です。過去のWEBマンガ総選挙でも上位にランクインしていましたが、今回ついにグランプリ獲得となりました。
初恋にうろたえる男子高校生に胸キュン
── まずは「WEBマンガ総選挙」第1位おめでとうございます!
実は今もまだ実感が湧いていません。第1回のときからランクインさせていただきましたが、まさか1位なんて……。『佐々木と宮野』が皆さんに長く強く応援していただいている作品であることが実感できて、それが何よりうれしいです。
── 何かお祝いや、自分へのご褒美のようなことはしましたか?
考えもしませんでした……! 「皆さんのおかげで1位にしていただいた」という感覚なので、どんなお礼をしようとばかり考えていましたが、たしかに自分にプレゼントをしてもいいですね。何か好きなものを買おうかな(笑)。
── 春園先生の謙虚なお人柄が伝わるコメントですね。まだ『佐々木と宮野』を読んだことがない人に向けて、「こんなところがオススメの作品です!」というポイントはありますか?
日常やほのぼの、好きな相手の前だと態度が変わっちゃうキャラ、初恋にうろたえる男子高校生などが好きな方であれば、楽しんでいただけるのかなと思います。あとはオタクの男の子がテンション上がって早口になっちゃう感じとか? ありがたいことにマンガ本編のほかにもスピンオフやノベライズ、ドラマCD、アニメなど幅広く展開していただいているので、お手に取りやすい媒体で試しに触れてみていただけるとうれしいです。
佐々木の卒業式で終わる予定だったはずが!?
── 2015年2月からpixivで公開されている『佐々木と宮野のちょっとした話。』を商業連載化したのが『佐々木と宮野』です。pixiv時代も含めると実に7年以上も佐々木と宮野の物語を描いていることになりますが、その中で変化したところはありますか?
もともと『佐々木と宮野』は、佐々木の卒業式で終わる予定だったんですよ。でも「ふたりが付き合ってからも読みたい」という感想が読者さんから届き、卒業後も連載を続けることになりました。実際は両片思いといえど、佐々木にとっては片思いだった期間が長くて、「確かにここで終わるのは不憫かもなぁ」という気持ちが私自身も湧いてきたんですよね。
あとは連載の中で、佐々木の理性が強くなりすぎたかもしれません……。ずっと我慢をしていたから、付き合った後もみゃーちゃんになかなか手を出さないんです。作者としては、なんとか佐々木の理性を引っ剥がそうと頑張っています(笑)。
── ということは、2人のもっと踏み込んだシーンを描く構想があるということでしょうか……!?
掲載媒体的にどこまでやれそうか、今はラインを見極めているところです。描けるところまでは描きたいですね。
── やったー! これまで特に読者から評判が良かったシーンについても教えてください。
第36話『嘘。』で佐々木が宮野を押し倒すシーンです。この回が更新されたとき、普段の4倍、5倍くらいの量のリプライが届きました。pixivコミックさんに寄せていただいた感想コメントもすごく熱量が高いものばかりでした。2人が付き合い始めて、これまでと違うテイストを出してみようとした回だったので、「雰囲気がガラッと変わってドキドキした」と読者の方に言っていただけてうれしかったです。
5ページ丸々セリフなしの名キスシーン
── 春園先生ご自身のお気に入りのシーンはどこですか?
どのシーンもその時々の全力を込めて描いていますが、ひとつ挙げるとすれば、第31話『明日。』で佐々木と宮野が初めてキスをするところですね。
── 5ページ丸々セリフなしで、印象的なキスシーンですよね。
当初はモノローグを少し入れるつもりだったんですが、担当さんに「ここは表情だけで伝えましょう」と提案されて、あのような形になりました。キャラクターの言葉にしきれない感情を表情や仕草、空気感で伝えたいという思いはあるものの、さすがに5ページ無言というのは勇気が必要でした。
── このキスシーンもですが、佐々木はいつも宝物に触れるように宮野に触れますよね。手の表現というのは意識しているポイントでしょうか?
高尾滋先生の『ゴールデン・デイズ』という作品で、主人公が相手の子に抱きしめられる場面があるんですが、「手だけで、これほど豊かに感情を表現することができるんだ」と気づかされました。そこから自分の創作でも手の仕草というのを意識するようになったので、「宝物に触れるよう」と感じていただけてありがたいですね。
── 佐々木と宮野は第6巻で晴れて恋人同士になります。かなり溜める構成ですが、「もっとスピーディに関係を進展させたほうがいいのかな?」と迷う瞬間はありませんでしたか?
── そんなじっくりしたペースの物語に読者の方々も寄り添い続けて、描き手と読み手の幸福な信頼関係を感じます。
本当に優しい読者の方々に支えられている作品だと感じます。
── 先ほど「自分のキャラでオタク活動をしているような感覚」という言葉がありましたが、それでは佐々木と宮野は春園先生の好きな要素を詰め込んだ組み合わせなんでしょうか?
それで言うと、平野と鍵浦のほうが私の本来の趣味と近いかもしれません。もはや佐々木と宮野は、推しCPというより、ずっと成長を見守ってきた子どものような存在でしょうか。だからこそ幸せになってほしいと思っています。
すれ違いなど、問題は先延ばしにしない
── 『佐々木と宮野』を描く上で意識していることはありますか?
キャラクター同士のすれ違いなど問題が起きたときに先延ばしにしないことです。たとえば現実で友達とケンカしてしまったとき、大体の場合、まぁ翌日には話し合いなど何らかの行動を起こすじゃないですか。社会人だといろいろ忙しくて時間がかかることもあるでしょうが、佐々木と宮野は学生同士ですし……。そのほうが展開を引っ張れて映えるかなと感じるときでも、基本的に「問題の先延ばし」はしないようにしています。『佐々木と宮野』に限らず、自分の創作全般で意識している部分ですね。
── なるほど。キャラクターたちが問題に真摯に向き合うからこそ「誠実な2人が誠実に関係を築いている」と感じられて、読者も自然と彼らのことが好きになっていくんでしょうね。
そう言っていただけて、ありがたいです。問題を先延ばしにしてもキャラの好感度が下がらないような描き方ができればまた違うのでしょうが、今の自分の技術では難しいんですよね。
── となると、宮野が佐々木の告白になかなか返事ができないところは描き方に悩んだのでは?
難しかったです……! なので宮野には「先輩のこともう少し考えたい」と佐々木にはっきり伝えてもらいました。すぐには返事できないことを予め宣言していれば、佐々木にとっても読む方にとってもストレスが軽減されるかなと。
── お話を聞いていると、「ずっと成長を見守ってきた子ども」だからこそ、たとえ物語が盛り上がるとしても2人が読者に嫌われてしまうような展開は避けたいのかなと感じました。
それはすごくありますね。キャラが嫌われるとしたら、それは私の描写に責任があるので申し訳ないです。
── 描きやすいキャラ、描きにくいキャラはいますか?
外見で言うと平野が描きやすくて、佐々木が描きにくいですね。最初に描いた設定画を見ながら、いまだに苦労して描いています。髪型のボリューム感や目が難しいんですよね。言動で言うと、半澤先輩も描くのが楽しいぶん、どんどん裏設定が増えてしまって、それらの整合性をつけるのが大変です。あとは宮野も「女顔でかわいく見られるのがコンプレックス」というのが根底にあるキャラなので、些細な語尾ひとつとっても「少しかわいすぎるかな? みゃーちゃんは、こんな言い方をしないんじゃないか?」と悩みます。
── 佐々木と宮野はそれぞれ違った理由で描きにくいんですね……!
『佐々木と宮野』の先に生まれた『平野と鍵浦』
── 社会人になってからBLにハマったと聞きました。どんなきっかけでBL好きになったのでしょうか?
昔からアニメやマンガが好きでBLにも触れてはいたんですが、周囲に勧められた作品を観る程度で、BLというジャンルそのものにハマっていたわけじゃありませんでした。でも会社を辞めて在宅で仕事をしていた時期、作業中になんとなく流していたBLアニメにドはまりしたんです。そこからは本屋さんに行ってもBLコーナーが気になるようになって、いろいろな作品を観始めました。
── どんなBLがお好きなんですか?
わりと幅広く読みますが、ハードな内容やバッドエンドのものよりはラブコメ系が好きかもしれません。
── もともとマンガ家志望だったのでしょうか?
はい。中学生の頃から毎年投稿していました。でも専門学生になり、いったん就職したほうがいいだろうと卒業後はゲーム会社へ。「佐野ことこ」名義で乙女ゲームの原画などを描いていました。やはり会社員になると忙しくて、マンガを描きたくても時間がありません。せめてもの気持ちで、通勤中に携帯電話で小説を書いていました。そうして書いた小説が『平野と鍵浦』です。
── 『佐々木と宮野』より先に『平野と鍵浦』があったんですね。
はい。在宅で仕事をするようになって時間ができたこともあり、BLにハマってからは友達の勧めでまた絵やマンガを描くようになりました。そんなとき『平野と鍵浦』を読み返して、「サブキャラの佐々木と宮野をくっつけたらおもしろいかも?」と思って描いたのが『佐々木と宮野のちょっとした話。』です。だから『佐々木と宮野』のスピンオフとして『平野と鍵浦』の連載がスタートしたときは不思議な感覚でした。
「WEBマンガ総選挙」1位記念の社会人パロ
── 春園先生にとって、商業媒体での初連載作品が『佐々木と宮野』です。これだけ幅広く展開される作品になるとは予想されていましたか?
全然です。ドラマCDのお話をいただいた時点で「まさか!」でしたが、さらにテレビアニメ化、舞台化、映画化で……。これは本当に偶然なのですが、私がBLにハマるきっかけとなった作品と同じ制作会社さんがアニメ版『佐々木と宮野』を担当してくださって、すごく光栄でした。
── ある意味、オタク人生の伏線回収というか。
本当にその通りです(笑)。
── 作家としての夢は一通り叶った形でしょうか? それとも実はまだありますか?
ドラマCD化やアニメ化といったことは想像すらしていなかったので、「夢」とは少し違う感覚かもしれません。10巻というのをひとつの目標に連載を続けていたので、その目標が叶いそうなのはうれしいですね。初連載でこんなに広げていただいて、『佐々木と宮野』はとても幸運な作品だと感じています。
── もともと卒業式で終わりを迎えるはずだった『佐々木と宮野』ですが、こうして佐々木が大学生になってからも物語が続いています。今は「続けられるところまでは続ける」という考えなのでしょうか?
佐々木が大学2年生になったところでのラストを予定していて、今はそこに向けて物語を積み上げているところです。30歳になった2人などの設定は頭の中に一応あるのですが、社会人編は世知辛い要素もいろいろ出そうなので……(笑)。
だから本編で描くかはわからないですが、「WEBマンガ総選挙」の公約として「1位になったら社会人パロを描く」と宣言していたことですし、あくまでパロディという形で大人の2人を描いてみたいですね。12月に刊行される『佐々木と宮野』第10巻の特典として社会人パロの同人誌みたいな小冊子をつくる予定です。
── 楽しみにしています! 最後に、これまで作品を応援してきたファンの方々にメッセージをお願いします。