山田祥平のRe:config.sys

虎の子のiTunes




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 データの入れ物としてのファイルという概念は、OSが稼働するPCを扱う上で、長い間、欠かせないものだった。だが、その常識が少しずつ崩れつつあるように思う。もはやファイルを意識するというのは古い考え方なのだろうか。

●TigerからLeopardへ

 Mac OS X 10.5 Leopardの出荷が開始された。いったんは延期され半年遅れでの出荷開始だ。300を超える新機能を提供するという。デモンストレーションは何度も見ているが、自分で使ったことはない。だからさっそく入手して使ってみた。手元のMacBook Pro 17インチ(Intel Core Duo 2.16GHz、DDR2-667 2GB)にDVDをセットし、現Tiger環境を削除してのクリーンインストールだ。その上で、iLife08とiWork08を追加した。OSの新規インストールに要した時間は、1時間弱だった。そのうち30分は、DVDメディアのチェックに要したものなので、それをスキップすればもっと速いかもしれない。

 使ってみての第一印象は、言葉は悪いが「代わり映えしない」ということだ。あまりMacに詳しくないユーザーなら、もしかしたら、OSが変わったことに気がつかないかもしれない。操作中のさまざまな場面で派手な演出に出会うが、以前からそうだったように勘違いしてしまうくらいに自然なのだ。そして、その1つ1つの演出に、必然性すら感じられるのが心憎い。Windows XPを使い慣れたユーザーが、Vistaに移行したときには、とまどう場面が少なからずあるが、TigerからLeopardに移行しても、そういうことはほとんどないんじゃないだろうか。使用中のコンピュータのOSをユーザー自身がアップデートしたり、入れ替えたりするような時代ではないとは思うのだが、Leopardに限っていえば、そのメリットの方が多いように感じた。縁の下を支える部分の基本性能を強化するという当たり前のことをやり遂げながら、ドラスティックな変化の印象を与えず、それでいて使い勝手のよさと魅力的な新機能をエッセンスとしてちりばめた優等生的なアップデートだといえる。

●コンピュータの世界に偶然を持ち込むOS

 ご存じの通り、Mac OSのシェルはFinderだ。WindowsではExplorerに相当し、Finderを終了することはシステムを終了させるのと同義となる。

 さて、このFinderだが、新たにCover Flowをそのビューに加えたこともあり、まるで、iTunesのようだ。ウィンドウの左側にサイドバーが置かれ、デバイスや共有フォルダ、特定のフォルダ、スマートフォルダなどへのリンクが並び、2つのペインに分かれたメイン領域に、Cover Flowと詳細一覧が表示される。まさに、iTunesである。iPodのためにiTunesを使い慣れたWindowsユーザーなら、ほとんど違和感を感じないだろう。

 Finderのビューは、Cover Flow以外に、アイコン表示、リスト表示、カラム表示が用意され好きなものに切り替えることができる。アイコンは、ページの概念がないファイルはアイコンの右肩が折れ曲がった状態となり、ページの概念があるファイルはバインダーで綴じ込まれている。それぞれのアイコン、あるいは、Cover Flow内の表示は、アイコンの内容が反映され、選択してスペースキーを叩くと、その場でプレビューできる。プレビュー対応したファイル形式は、インターネット標準の多くの形式、Appleアプリの各種ファイル、そしてMicrosoft WordとMicrosoft Excelだ。非公式ながらMicrosoft PowerPointも、制限付きながらプレビューできる。ただし、Officeファイルに関しては、97~2003形式までの対応だ。

 Tigerは、スマートフォルダという概念で、ファイルの在処やフォルダ構造を無意味なものにしてしまったが、今回のプレビュー表示は、ファイル名すら無意味なものにしようとしているように見える。必要な書類を探すときに、ビジュアルな観点を重視し、論理的ではなく直感的に見つけることができるようにしたのだ。そのことによって、本来は出会うことがなかったかもしれない、何かのファイルを見つけてしまうようなこともあるかもしれない。あるはずのファイルを見つけ出す「必然」に加え、コンピュータの世界に、スマートな「偶然」の要素を持ち込もうとしているようにも見える。

●似て非なるルックアンドフィール

 その一方で、FinderがここまでiTunes化してしまうと、その細かい振る舞いの違いがかえって気になってしまう。たとえば、Mac OSでは、Vista同様に、ユーザー名を持つ個人用フォルダ下に、デスクトップ、書類、ダウンロード、ライブラリ、ムービー、ミュージック、ピクチャ、パブリック、サイトといった目的別のデフォルトフォルダが用意される。WindowsもVistaになって、デスクトップフォルダの考え方が改められ、同様の階層構造を持つようになっている。

 ここから、ミュージックフォルダを開き、さらにiTunes、iTunes Musicとフォルダを開いていくと、Finderが個別の音楽ファイルの一覧を表示する。ところが、似ていると思っていたiTunesと、そのときのFinderでの個々のファイルの見え方は、似て非なるものだ。アルバムやアーティストといった音楽ファイル特有の概念をFinderは知らないからだ。

 ところが、フォルダ内の音楽ファイルの一覧時、ファイルにアルバムアートが設定されていれば、Cover Flowにもそのビジュアルが出現し、アイコンにも反映される。iTunesはアートワークをiTunes Musicとは別のフォルダであるAlbum Artworkフォルダに保存しているが、それがきちんと参照されるようになっているのだ。そして、フォルダ内の音楽ファイルを選択し、スペースキーを叩いてそれをプレビューすれば、OSとしてのLeopardがそのファイルをプレビュー、つまり再生を始める。また、ファイルをダブルクリックすると、iTunesが起動して、その曲を再生する。ところが、iTunesで、Cover Flow内のオブジェクトを選択してスペースキーを叩くと、再生と一時停止が切り替わるだけで、アクティブな再生中オブジェクトは切り替わらない。iTunes内では、ダブルクリックしないと、その音楽は再生されないのだ。

 iTunes Musicフォルダの階層構造では、アーティスト名を持つフォルダ下にアルバム名を持つフォルダが並び、その中に各楽曲ファイルが保存される。iTunesは、その構造を、さまざまな種類のビューで見せる音楽専用ビューアだということだ。さらに、iTunesはダイナミックに検索条件を変更できるスマートフォルダであると考えてよさそうだ。

●メタファの先にあるもの

 Appleとしては、個人用フォルダの下にある各種の目的別フォルダは、すでにレガシーなものであり、ユーザーが、そこを直接開く機会は、今後、どんどん少なくなっていくと考えているようだ。

 音楽を再生したいならiTunes、写真を見たいならiPhotoと、データの種類に応じて、専用のビューアを用意し、フォルダの階層構造を気にしないで、見たいデータオブジェクトを見つける手段を提供する。Finderは、これらのファイルのように明確ではない雑多なファイルを参照するための汎用ビューアだ。データオリエンテッドではなく、アプリケーションオリエンテッドな考え方だとも言えるが、そんな単純なものでもなさそうだ。

 だが、このことは逆に、雑多なファイルが混在するフォルダ整理を難しくさせる。たとえば、夏休みの旅行に関するファイルは、写真もムービーも行程を記録した文書も、同じフォルダに置いておきたいと思うだろう。このように、人間にとってしか秩序が見出せないフォルダ内容は、Finderで参照するのが合理的だが、ファイルの種類ごとに専用のビューアでファイルを参照することに慣れたユーザーは、それを億劫に感じるようになるかもしれない。もちろん、それはAppleの望むところではないはずだ。

 このように、Leopardには、これからのコンピュータが、どのようにデータを格納し、それをどのように人間に見せるかを試行錯誤するプロセスの真っ最中であることが、そこかしかに見つかる。ファイルをきちんと整理分類するという行為をいったん否定し、ただつっこんでおくだけでいいということを、いかに合理的に現実のものにするのかを模索し続けているようだ。Appleがそのためのエレガントな方法を見つけたとき、きっと、Mac OSはXIへと進化するにちがいない。

□アップルのホームページ
http://www.apple.com/jp/
□関連記事
【10月25日】アップル、Mac OS X 10.5 Leopardを発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/1025/apple.htm
【10月25日】【本田】Mac OS X 10.5 Leopardファーストインプレッション
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/1025/mobile396.htm
【6月13日】【WWDC】WWDC 2007基調講演詳報(2)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2007/0613/wwdc04.htm

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(2007年11月2日)

[Reported by 山田祥平]


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