シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

google検索は召喚術で、あなたの詠唱能力が試されている

 
 google検索は召喚魔法の呪文詠唱みたいなもので、googleはユーザーの詠唱能力を試している。熟練ウィザードのスペルキャストには、インターネットの森羅万象を。駆け出しの魔法使いが唱えたありきたりのワードには、ありきたりのものを。
 
 

「google検索はユーザーの詠唱能力次第」

 
 職場やオフ会で「ちょっとググってみて」と頼んだ時、打てば響くように情報や資料を見つけてくる人もいれば、「見つからないよ?ネットに落ちて無いんじゃない?」と一生懸命マウスのホイールを回している人もいる。手こずっている人を横目に別の人が一発で詳しいサイトを拾ってきて、仰天することもある。
 
 こうした違いは、もちろんパソコンやOSの性能差に由来するものではない。ユーザーがgoogle検索にどういう単語を打ち込んだか次第だ。「google検索が上手い人」とは「欲しい情報を探し出すのに必要な検索ワードを打ち込み、狙った情報を拾い上げてくる人」で、google検索の下手な人とは「上手いワードを打ち込めずに欲しい情報をgoogleから引き出せない人」だ。
 
 だから、google検索の上手い下手は魔法使いの呪文詠唱に似ている。
 
 偉大なグーグルウィザードは、googleという名の巨大な魔法の杖に絶妙のワードを入力し、森羅万象を明らかにする。ネットの奥底に眠る鉱脈を掘り当て、ときには女子中学生の精霊を眼前にかき集めてみせる。一方、駆け出しのグーグルユーザーは、ぎこちなくワードを唱え、wikipediaやyahoo知恵袋を呼び出すのが精いっぱい……。
 
 それでも、駆け出しの魔法使いが初級魔法に感動するのに似て、駆け出しユーザーにもグーグルという魔法の杖は十分に感動的で、魅力的ではある。慣れない手つきで一つ二つの検索ワードを入力し、wikipedia・yahoo知恵袋・ニコニコ大百科・食べログあたりを拾って眺めていても、十分すぎるほど情報が手に入る――それも、一生読み続けても飽きないぐらいの情報だ!!googleの力の一端に触れたビギナーのなかには、「俺は情報強者だ!」と思い込む人もいるかもしれない。
 
 けれども大半の人はやがて気づく。
 
 「googleは、ワードの組み合わせによって検索精度が上がる」
 「絞り込むワードを組み合わせるとグッと絞り込める」
 「マイナーな対象について検索する時と、メジャーな対象の細かい事を検索する時では、ワードの組み合わせ方のコツが違っている」
 「ネットの特定エリアを絞り込むワード*1が、強い威力を発揮する」
 「ワードの連想力の大小が、検索範囲の大小にそのまま反映される」
 等々………。
 
 
 こうしたノウハウに習熟してくるにつれて、google検索はいよいよ召喚術めいてくる。インターネットの片隅に眠る、矮小な自意識が生み出した奇跡のようなテキスト。「うちらの世界」の向こう側の「あちらの世界」を覗く窓。マイナーな学問分野についてのマイナーな文章。――そういった諸々を、眼前のディスプレイに召喚する奇跡の魔法が炸裂しはじめる。インターネットはつまらないという人もいるけれど、google検索だけでもまだまだ面白い。ただ、googleを魔法の杖たらしめるためには、ユーザー自身がgoogle習熟度を向上させ、気の利いたワード、自在な検索を可能にするワードをスラスラ連想できるようにならなければならない。それと、幾ばくかの好奇心。
 
 ただし、へたに想像力豊かな検索をやってしまうと、みたくもないアウタープレーンや、常軌を逸した精神を掘り当ててしまうリスクもある(このあたりも召喚術に似ている)。目当てのお宝を掘り当てたつもりが、巨大スライムを召喚してしまったり、ミノタウロスの迷宮を発見してしまったり。なまじ検索ワードを工夫しているからこそ、ほとんどアクセス数の無い辺鄙な場所につくられたヘドロの洞穴にテレポートしてしまうことがあり得る。
 
 人によって「みたくないもの」は様々なので、絶対的基準は無いけれど、google検索には「このワードだけは検索欄に入力してはいけない」「このワードを入れると高頻度でヤバいものを召喚してしまう」みたいな“禁句”がある。たぶん、最上級のグーグルウィザードは、こうした“禁句”も心得たうえであらゆるインターネットを照覧するのだろう。「このワードを除外すれば見たくないものを省ける」「このワードを混ぜ込めば、高確率で○○属性の悪魔を召喚できる」「このワードなら、都内に住んでいる二十代女性のアカウントだけを絞れる」etc……。そういった諸条件をすばやく想起し、思い通りに組み合わせる者こそ「googleを本当に使いこなしている」といえる。
 
 

google習熟度が上がるだけで、インターネットはかなり楽しくなる

 
 ということは、google習熟度が上がるほどインターネット娑婆世界の森羅万象に接近できて、好奇心を充たすチャンスが増える、ということでもある。インターネットが面白くないと思っている人のうち、google習熟度が低い性質の人は、google習熟度をあげ、ふだんあまり接触しない異文化プレーンの人々に接触してみるといいかもしれない。日本語圏のインターネットだけでも、ページランクの低い場所にはまだまだ不思議な文物や怪奇な人物が潜んでいる。
 
 もちろん、「インターネットは面白い/面白くない」論の「面白い」のなかには、「同じ文化・時代・感情を共有しているから面白い」「自分が見たいものを見せてくれるから面白い」といったニュアンスもあるだろうし、アウタープレーンの文物に触れるばかりが面白さでもあるまい。しかし、少なくともマンネリズムの回避という点では、google検索をどこまで使いこなし、希少性の高いテクストをネットの深淵から召喚できるか否かは結構モノを言うと思うし、一個人からみたネットの面白さ・風景といったものをかなり左右するものじゃないかとは思う。
 
 いつものタイムラインや巡回範囲を逸脱したものに出会いたい時には、まだまだgoogle検索は頼りになるし、呪文詠唱さえしっかりしていれば面白いものがザクザク召喚できる素晴らしい魔法の杖だ。一見、誰にでも簡単に使いこなせるように見えるgoogle検索だけれど、とても奥は深く、目指すべきグーグルウィザードへの道は遠い。
 

*1:例:「FC2」「はてな」「キリ番」等