青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない 総評
TV版の総評。
シナリオ全般について
ストーリーそのものの完成度も悪くないが、それよりも登場人物の会話に惹きつけられる。
小説は読んでいないけれど、これはおそらく原作者のセンスに違いない。
咲太の、話をはぐらかしつつ、ちょっと上手いこと言っちゃう感じとか、かなり好き。
主人公が内面イケメンなのも、好感度高し。
たとえばギャルゲーなどでは、ヒロインが主人公を好きになる理由が明確にされていない作品が存在する。
(ゲームの場合は「ヒロインは攻略可能」という暗黙の了解があるので、「好き」の理由を明示しなくても許される)
しかし、その場合のヒロインは、主人公のルックスに惚れたのでは?としか考えられず、もはや「ただしイケメンに限る」の物語になってしまう気がして、私はあまり好きじゃない。
それなのに、この青春ブタ野郎の言動がカッコよすぎるせいで、中の下くらいのルックスさえあれば物語が成立しそうな気さえします!
また、「思春期症候群」というファンタジー要素を、まるでこじつけみたいなトンデモ量子力学で説明してくるこの作品だけれど、実はこういうのって結構重要だったりする。
(少なくとも、これがあることで、ジャンルがファンタジーからSFに変わる)
そして、この作品のように、実在の場所を舞台にしてリアリティを重視する場合、そういった細かい部分を大事にすることで、物語の持つ説得力が格段に上がる。
最初から説明を放棄して読者に受け入れさせようとするのではなく、(たとえどんなトンデモ理論だろうとも)読者を納得させようとする、その姿勢が大事ということです。
(もちろん、実在の場所を舞台にしながらも、ファンタジーはファンタジーとしてそのままにしている作品もある。どちらがよいというわけではなく、その作品に合った姿勢があるということです)
それぞれのヒロインシナリオについて
5つのエピソードのうち、シナリオとしての完成度から言うと、「プチデビル後輩」古賀朋絵のシナリオが頭一つ飛び出ている。
朋絵のイマドキっぽいキョロ充JKなキャラクターと、咲太に恋するようになる過程、そして同じ日がループするというシナリオと、八方美人をやめて「なりたい自分になる」というオチの付け方。
これはギャルゲーマーもニッコリな、完璧な構成です。
咲太の「リーディング・シュタイナー」が発動するきっかけが「尻を蹴り合う仲」というのも、またいい。
次いで、「シスコンアイドル」豊浜のどかのエピソードがお気に入り。
評価したいのは、「大人気の実力派女優」と「デビューしたてのアイドル」な二人の関係を、「できる姉」と「ふつうの妹」という単純な姉妹関係の枠組みに収めきらなかった点。
特に、麻衣ののどかへの感情が、単純な「できる姉でいなくちゃいけない」という想いのみならず、「初めてのファンを喜ばせたい」という感情があって、それが彼女の人生の原動力になっているあたり、麻衣の想いの深さが伺える。
残念なのは、二人の和解が麻衣の自宅でのワンシーン、しかも会話ですべて終わってしまった点。
ちょっと駆け足過ぎたというか、複雑すぎる二人の事情は、もっとゆっくり解きほぐしてほしかったかなぁ……と思ってしまう。
(というか、アイドルな麻衣さんがもっと見たかった!)
これは枠が2話分しかなかったせいかもしれない。
同じ問題は、「ロジカルウィッチ」双葉理央のシナリオも抱えている。
彼女の抱えているトラブルとその解決、というシナリオそのものは完成されているのだけれど、こちらも2話分しか枠がないせいか、キャラクターの実際にとった行動が少なすぎる。
(その点、プチデビル後輩のエピソードでは、「デートごっこ」という大きなイベントが2回もあった!)
ただ、「自傷行為としての自撮り」をしちゃうヒロインはかなり斬新。
「バニーガール先輩」桜島麻衣のシナリオは、二人のラブ・ストーリーとして見れば、十二分な出来。
ヒロインの心に寄り添いつつ、彼女の問題を解決するのと同時に、自分の問題にも向き合おうとする。
麻衣さんが最後までデレなかったのもポイント高し。
残念なのは、記憶を失った咲太が、麻衣のことを思い出した理由に説明がなかった点。
「尻を蹴り合う仲」レベルのこじつけでいいから、なにかギミックがほしかった。
「おるすばん妹」梓川かえでのシナリオは、妹属性持ちの私には、異議があります。
というか、これは妹の問題を踏み台にした、麻衣シナリオだよね? 私はかえでシナリオが見たかったんだけど?
花楓にかえでの記憶が戻らないのは構わない。それならそれで、自分が「かえで」だったことに戸惑う花楓や、そんな妹を受け入れていく咲太を描いてほしかった。
そして最後は花楓が自分のトラウマを乗り越えていく様子が描かれて、初めてかえでシナリオでしょう!
なのに、花楓のエピローグがかえでの日記を読んで赤面している5秒間って、さすがに短すぎるよ……!
(欲を言えば、2年前は兄に対してフラットな感情を持っていた花楓だったのに、記憶が戻ったらなぜかちょっとブラコン気味に!?みたいな展開を希望していました)
総評:オープニングがすべて
SFチックな不思議現象をモチーフに、登場人物の心の問題を解決していく系アニメ。
こういう作品はぜんぜん珍しくない。「ココロコネクト」とかまさにコレだし、「物語」シリーズだってそうだ。扱っているテーマと物語の雰囲気で言えば、「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている」も同じジャンルだろう。
これらの作品が好きな人は、このアニメもきっと気に入る。
なので、この作品の魅力は、そこにはない。
この作品の魅力が詰まっているのは、オープニング。
藤沢駅前をダルそーに歩いている主人公、その全力疾走のシーンから入り、カバンを投げ捨ててまで走り続ける彼を、江ノ電が追い越していく。
途中で入るカットは、晴れ渡った湘南海岸を裸足で歩くセーラー服の女の子と、夕焼けの校舎、そして屋上で踊る野生のバニーガール。
最後は、小気味いいほどの「狙い撃ち」な音ハメでまとめてくる。
この青春全開なオープニングにそそられなかったら、たぶんこのアニメを見ても楽しめない。
逆に、このオープニングに惹かれたとしたら、あなたの期待しているものがこの作品には必ずある。
(江ノ島に青春っぽさを感じるのって、私がピンポン好き過ぎるせいですか?)
ジャンルは「夏」「湘南」「青春」「恋愛青春ドラマ」。
私の評価は、★4・佳作入選。
「青春ブタ野郎」っぽさが詰まったオープニングは、本当に傑作です。
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