奪三振から見える、野球の“今”|野球史

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“今の投手は、すっかり小さくなっちまって”。勝利数だけを見ていると、「もののけ姫」の大猪みたいに嘆きたくなるが、実は、それは一面的な見方に過ぎない。NPBは、確実に変化し、進化している。それを端的に表しているのが「奪三振」の記録だ。昨日時点での、NPB奪三振100傑。「SO9」は、9回あたりの三振数。「SO/BB」は三振を四球で割ったもの。「2011」は、現役投手の今季の三振数。SO9が8以上、SO/BBが3以上を赤字で示した。

上位の投手は、投球回数の多い大投手だ。しかし20位以内に4人の現役投手がいる。100位までで見れば11人の現役投手と7人の海外で活躍する投手がいる。注目すべきは、現代の投手のSO9の数字の高さだ。9点台の杉内俊哉、石井一久、8点台の和田毅、松坂大輔、ダルビッシュ有、井川慶、門倉健。

何となく、昔の野球は剛速球投手が三振をバッタバッタと奪っていたような印象があるが、剛腕と言われた金田正一も、稲尾和久も、村田兆治も、村山実も、SO9は大したことはないのだ。唯一、江夏豊だけが高い数字を示している。

我々が見ている現代の野球は、昔よりもはるかに三振シーンが多いのだ。これは、投手の球速が増したというよりは、変化球が多彩になったことを意味している。フォーク、スライダー、シンカー、チェンジアップ。さらに動く速球2シーム。恐らく、昔の強打者が今の投手に対戦したら、三振の山を築いたことだろう。SO9が歴代で断トツに高いのは野茂英雄。ただ一人10を超えている。彼の持ち味は重たい4シームと鋭く落ちるフォークのコンビネーションだった。彼も現代野球の投手だ。

SO/BBを見ていくと、さらに興味深いことが分かる。この数値はMLBでは非常に重要視されている。どんなに三振をたくさん奪っても、四球を出す投手は評価されないのだ。さすがに歴代の大投手でもコントロールの良さで鳴らした投手は、この数値が3を超えている。杉浦忠、土橋正幸は4を超えている。しかし、それをはるかに上回っているのが、上原浩治だ。かれはNPBの10シーズンで206個しか四球を出していない。空前のコントロールの持ち主だったのだ。

そして、杉内俊哉、和田毅、ダルビッシュ有の3人は、SO9が8を超え、SO/BBが3を超えている。奪三振100傑には入っていないから参考記録になるが、田中将大もこの数字をクリアしている。これが現代の投手の高いレベルを物語っている。過去の投手では江夏豊がただ一人、この数字を超えている。

現代の一線級の投手は、三振をどんどん取る上に、四球をほとんど出さないのだ。登板間隔は広く、年間に投げる投球回数は少ないが、マウンドに上がればほぼ完ぺきな投球を見せる。各打者は、昔に比べると遥かに攻略が難しい投手と対戦しているのだ。