ゴキブリをゾンビ化する寄生バチの毒を特定

ドーパミンと併存、パーキンソン病の治療に役立つ可能性も

2018.02.14
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エメラルドゴキブリバチ(Ampulex compressa)は、ゴキブリの脳に針を刺し、その意思決定過程をのっとる特殊な毒を注入する。(PHOTOGRAPH BY ANAND VARMA, NATIONAL GEOGRAPIC CREATIVE)
エメラルドゴキブリバチ(Ampulex compressa)は、ゴキブリの脳に針を刺し、その意思決定過程をのっとる特殊な毒を注入する。(PHOTOGRAPH BY ANAND VARMA, NATIONAL GEOGRAPIC CREATIVE)
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 研究者たちは長年にわたり、自然界の毒を有効利用しようと努力してきた。米カリフォルニア大学リバーサイド校の昆虫学と神経科学の教授であるマイケル・アダムス氏もその1人だ。このたび、ゴキブリをゾンビ化させる寄生バチの毒を新たに特定した氏の論文が、1月19日付けの科学誌「Biochemistry」誌オンライン版に発表された。(参考記事:「生物の毒が人間を救う」

 エメラルドゴキブリバチ(Ampulex compressa)は、ゴキブリに毒液を注入して、意のままに操ることができる寄生バチだ。

 このハチが宿主を確保するときには、まずはゴキブリの胸部を刺し、毒により前肢を約5分間麻痺させる。その間に、次にゴキブリの脳を刺す。するとゴキブリは30分ほど活発に身づくろいをしたあとに、自分の意思では動けない「寡動」という状態になる。(参考記事:「世にも恐ろしい 心を操る寄生体」

 米カリフォルニア大学リバーサイド校の昆虫学と神経科学の教授であるマイケル・アダムス氏は、「麻痺しているわけではないのです」と言う。「ハチに誘導されれば歩くことができます」

 ハチは、ゴキブリの触角を引っ張って自分の巣穴まで歩かせ、ゴキブリの体内に卵を産み付ける。その7~10日後、ゴキブリの体内を食べ尽くて幼虫が外に出てくる。(参考記事:「アリを「ゾンビ化」する寄生菌、脳の外から行動支配」

寄生バチとパーキンソン病

 一方で、ヒトのパーキンソン病は脳細胞が徐々に死んでゆく神経変性疾患だ。ドーパミンという神経伝達物質を作る細胞が変性し、ドーパミンが不足してさまざまな症状が生じる。

 寡動はパーキンソン病のおもな症状の1つだ。ほかには手足のふるえ(振戦)、筋肉の緊張、体のバランスを保てなくなる障害などもある。原因は現時点では不明で、薬物療法や外科手術が行われているが、根本的な治療法はない。

 アダムス氏らは今回、エメラルドゴキブリバチから毒液を採取して成分を分析した。その結果、ドーパミンと、これまで知られていなかったタイプのペプチド(短いアミノ酸配列)が含まれていることが明らかになった。新発見のペプチドは、アンピュレキシン(ampulexin)と名付けられた。アンピュレキシンは、ハチがゴキブリを操る上で重要な役割を果たしていると考えられ、将来のパーキンソン病研究にも役立つ可能性がある。

 パーキンソン病の患者に見られるように、アンピュレキシンがゴキブリのドーパミンの生産を妨げている可能性がある。(参考記事:「蚊は叩こうとした人を覚えて避ける、はじめて判明」

次ページ:卵を産み付けなければゴキブリは回復

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