ハイエナの雌に「ペニス」、雌雄どう判別?

動物の雄と雌との見分け方

2016.02.24
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鼻をすり合わせる、ケニアのマサイマラ国立保護区のブチハイエナ。雌のブチハイエナには偽の「ペニス」がある。(PHOTOGRAPH BY FRANS LANTING, NATIONAL GEOGRAPHIC)
鼻をすり合わせる、ケニアのマサイマラ国立保護区のブチハイエナ。雌のブチハイエナには偽の「ペニス」がある。(PHOTOGRAPH BY FRANS LANTING, NATIONAL GEOGRAPHIC)
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 今回の記事では、読者から寄せられたこんな「性の疑問」に答えてみたい。「ハイエナの雌雄を素人が見分られる方法はありますか?」

 アフリカにすむ捕食者ハイエナは、ずる賢い動物として有名だが、彼らは自らの生殖器にまでトリックを仕掛けている。

雌雄を見分けるポイント

 雌のブチハイエナは「長く伸びたクリトリスをもっており、これが雄のペニスに非常によく似ています」と、米ワイオミング大学の動物学者サラ・ベンソン=アムラム氏は言う。

 この「擬ペニス」のそばには、きちんと「睾丸」まで備わっている。実はこれは陰唇が結合してできたもので、中には脂肪組織が詰まっている。

 さて、それを踏まえたうえで、ブチハイエナの雌雄を素人が見分けるにはどうしたらいいのだろうか。ポイントは以下のとおりだ。

 ブチハイエナの雄と雌が、互いに興奮してあいさつを交わし合っているときには、どちらも勃起する。

「勃起したペニスの先端が尖っていたら雄です。先端がまっ平らな方が雌です」(参考記事:「勃起したザトウムシの化石、ペニスで新しい科に?」

 とは言え、そんなに細かい部分を観察するのは簡単ではないだろう。そこでドイツのライプニッツ野生動物研究所のヘリベルト・ホーファー氏が勧めるのはこんな方法だ。

「子供を産んだ雌なら、はっきりと見分けられるようになります。出産後の雌は乳首が突き出しているからです」

【動画】ハイエナの雌は「ペニス」をもつ?
雌のブチハイエナは雄にそっくりな生殖器を持ち、その擬ペニスから出産する。(解説は英語です)

 またベンソン=アムラム氏によると、体の大きさもポイントだという。雌は雄よりも体が大きい。また雄は腹部のラインが、後肢のあたりで上に向かって曲線を描いている。

 ちなみに、雌の擬ペニスはただぶら下がっているだけの代物ではない。ハイエナの子供は雌の擬ペニスを通って産まれてくるため、1匹目の子は「擬ペニスを引き裂いて」出てくる。だから破れた器官に残るピンク色の傷跡も、雌を見分けるポイントとなる。

ハイラックスは“歌”で見分ける

 性別を見分けるのが難しい動物は多い。一般に「体の大きさはあまり頼りになりません」とホーファー氏は言う。たとえばイヌやウマの仲間など、一夫一婦制の動物の多くは、体の大きさが雌雄とも変わらない。

 雄が交尾を勝ち取るために多くの雌に求愛をする種では、鮮やかな体色や装飾が見られる。ヘラジカの枝角やクジャクの尾がいい例だ。(参考記事:「動物たちのプロポーズ」

ケープハイラックス(写真は南アフリカの喜望峰で撮影)の雌雄は見た目がほとんど変わらないが、雄は雌にはない特徴を持っている。歌声だ。(PHOTOGRAPH BY ULRICH DOERING, ALAMY)
ケープハイラックス(写真は南アフリカの喜望峰で撮影)の雌雄は見た目がほとんど変わらないが、雄は雌にはない特徴を持っている。歌声だ。(PHOTOGRAPH BY ULRICH DOERING, ALAMY)
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 一方、つがいを作る種は激しい競争にさらされることが少ないため、「進化という点で言えば、性的な特徴をさほど目立たせる必要がありません」と米ペンシルベニア大学 博士課程修了研究者のアミヤール・アイラニー氏は言う。

 アイラニー氏はげっ歯類に似たアフリカの哺乳動物、ケープハイラックスを研究している。ケープハイラックスは一夫一婦制の動物ではないが、雌と雄の容姿がほとんど変わらない。唯一の違いといえば、雄の方が頭骨の横幅が広いことくらいだ。

【音声】雄のケープハイラックスの歌声を聞いてみよう。

 しかし見た目以外にもヒントはある。

 ハイラックスの雌雄を見分けるには、耳を使えばいい。雄は雌を引き付けるために歌を歌うが、雌はまったく歌わないからだ。(参考記事:「ハイラックスの尿が気候の歴史を解明」

 雌は雄の歌を聞いて相手を選ぶ。雄は派手な容姿を持たずとも、歌で自分をアピールできるわけだ。

匂いで見分ける

 米カリフォルニア州立大学ノースリッジ校のロバート・エスピノザ氏によると、ヘビの多くは雌雄を見分けるのが難しいという。

「これはおそらく、ヘビが交尾相手を見つける際、視覚よりも嗅覚に頼るためでしょう」

 トカゲもまた、その多くが「雌雄を見分けるのはほぼ不可能か、少なくとも極めて困難です」。しかし、なかには雌と雄の姿が大きく異なり、かつては別の種だと思われていたものも存在する。南米に生息するブラック・ラバ・リザード(学名 Tropidurus melanopleurus)がその一例だ。

 ブラック・ラバ・リザードの雌は、鮮やかな体色をもっているが、雄は色がごちゃ混ぜになったような地味な姿をしている。

ひなたぼっこをする雌のブラック・ラバ・リザード。ガラパゴス諸島。(PHOTOGRAPH BY CHRIS DEENEY, ALAMY)
ひなたぼっこをする雌のブラック・ラバ・リザード。ガラパゴス諸島。(PHOTOGRAPH BY CHRIS DEENEY, ALAMY)
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 このほか、性別を変える種も、特に魚を中心に多く見られる。たとえばナッソーハタは、雌として生まれた後、雄に変化する。(参考記事:性転換する魚「ブダイ」「クマノミ」

 さて、今回の結論はこうだ。野生動物に出会ったときには、「サー」でも「マダム」でもなく、「ヘイ、ユー!」とだけ言っておいた方が無難だろう。

 ただし「ユー」には英語で「雌ヒツジ(ewe)」という意味もあるため、雄のヒツジに会ったときだけは要注意だ。性別というものはかくもややこしい。

文=Liz Langley/訳=北村京子

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