去年11月に「ウェブ時代の文章読本 2013」というイベントに参加しました。あの「やまもといちろうBLOG」のやまもといちろう氏と、「小鳥ピヨピヨ」の清田いちる氏をゲストに、ウェブでテキストを上手に書く、面白く書くということについて論じるという内容で、大変面白かったです。

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聞き手が、ライブドアブログの事業責任者・佐々木大輔氏と、日経BPの編集者・竹内靖朗氏というネットサービス側の人と紙の本を作る側の人というのもいいですね。このお二人の話もすごく勉強になりました。

で、メモりながら聞いていたらとんでもない長さになってしまったので3つに分けてきました。


前編
ウェブ時代の文章術とは? やまもといちろう氏と清田いちる氏に聞いてきた : Blog @narumi

中編
「切込隊長が、やまもといちろうになるまで」--ウェブ時代の文章読本より : Blog @narumi

そしてこれが後編で、終わりです。今回はウェブにある名文を紹介しあって、いろいろ言ってみよう、という回です。有名ブロガーからTwitterのつぶやき、そして匿名ダイアリーまで、実はウェブってすごい文章がごろごろしているんですね。

◆◆◆

 
佐々木:ではこの後は時間の許す限り、竹内さんからいっぱい推薦いただいていますので、これぞというのを。これ推薦された方どなたですか?

私の時代は終わった。

いちる:僕ですね。天才・加藤はいね。加藤はいね先生、今年からは年に5回更新するって、この前メールいただいたので楽しみにしています。

やまもと:メールきたんですか?

いちる:加藤さん、メールすると返事結構くれますよ。

やまもと:やばいですね。

いちる:しかもメールもあの調子なんです。

佐々木:メールもあの調子(笑)

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 左から佐々木さん、竹内さん、いちるさん、やまもとさん


いちる:さっき、すごく書き直している、推敲しているという話ありましたけど、確かにそうだと思うんですけど、一方で初稿からほとんどこのノリ出ていると思いますね。 

やまもと:そうなんだ。彼女がかつがれてきた患者の頭の手術をするときに間違えて下の毛を剃ったというエピソードがあるんですけど、あれを読んでうちの家内が激怒しましてね。医療行為をしている人間として、それは許すまじみたいな。冗談の通じない人も世の中にいるんだという。 

いちる:あれで怒る人珍しいですよね。 

やまもと:でもあれは、やってはいけないことらしいですよ。医療機関的には。まあそれはそれとしても、あそこまで読ませて笑えるの難しいですよね。 

佐々木:珠玉のエピソードならもちろんそうだと思うんですけど、今日の趣旨的にこの加藤さんの文章、スタイル、書き方の何がそれだけ優れていて、これだけ面白いんでしょうか。 

やまもと:量産ができないですよね。量産して読み流してアハハという感じの人ではまずない。非常に綺麗につくりこまれた美術品をみるみたいなニュアンスですよね。 

いちる:すごい短くしてリズムをつくっていますよね。たとえば「脇腹がつった」っていうのは本当だったら、5行くらいだと思うのに、「ヌーーーー、つってかな。ヌが出た」、ヌが出たって書けないですよね。でも、「ヌが出た」に至るまでにたぶん、3行くらいのやつをこの4文字にしているのかなって思うんですよね。 

風よ!炎よ!雷よ!我が剣となって、この悲しみの大地に処女を貫け!ゴゴゴゴゴゴッ! - 私の時代は終わった。 
http://d.hatena.ne.jp/ikkou2otosata0/20131007/1381099271


「ヌ――――――!!!」
つってたかな。
ヌが出た。

「先生!攣ってる攣ってる!!」
つって。


やまもと:
たぶん、本当にヌが出たんだと思うんですよ。実体験であり、組み合わせの妙というか、人間の頭で考えたものではないものもちゃんと入っているのですごい説得力なんですよね。 

いちる:2ちゃんの流行りテキストで、「俺が中学生の時、理科の教室に入っていろんな薬を嗅ぎながらこれはやばいぜと知ったかぶりして、いろいろ嗅いでいた。そしたら、その中に本当にすごく劇薬みたいなのがあって、嗅いだ瞬間倒れた」みたいなネットケースがあって、その表現の仕方が「嗅いだ瞬間に『エン!』って言って、俺は倒れた」と書いてあって、「エン」とか「ヌ」とか普通だとそういう思いつかない擬音。 

佐々木:リアリティですよね。表現の工夫というよりか、その場にいて…。 

いちる:文章表現的に擬音に逃げるってちょっと悔しいと思うんですけど、このくらい独特の擬音だったらアリかなと。 


「“紙”は加藤はいねに勝てない」

佐々木:雑誌、書籍の編集者的に、こういう文章を直したり、編集したりすることはないかもしれないんですけど、どう読めるんですか。 

竹内:こういうのは、かなわないですよね。要するに紙とか、オーソライズされたものではちょっと収録できないようなものなんですけど、これを紙のフォーマットの方になんとか加藤さん来てくださいって努力しても、これより面白くならないんですよ。だから、紙的にはもう負けているんです。 

いちる:じゃあ、ネットですごく面白い人の一部というのは紙にはなれない? 

竹内:紙でこれに匹敵するような面白さをだそうとすると、すごく頑張ってもできないんじゃないかというのがあるんですよ、こういうのを読むと。 

佐々木:それはどういう違いなんですか。 

竹内:上司にどう説明したらいいの?というのはあります。サラリーマン社会でつくっているので。 

佐々木:ああ、そういう。 

やまもと:まったく違う方向から責めてきましたね。 

竹内:というのは、こういうのを読むと感じますね。 

いちる:今はネットですごい2大テキスト巨塔といったら、やまもといちろうと、加藤はいねだと思う。 

やまもと:何と比べているんですか? 

いちる:文体ですよ。 

やまもと:これは一品ものですから、かなわないですよ。このクオリティを毎日書いたら天才だと思うんですけど。たぶん、ひねり出すには命削っていると思うんですよね。絶妙な自虐センスなんです。 

いちる:はいねさんに言わせると誕生日とクリスマスと映画を観た時にブログを書くって言ってますね。メールですけど。 

やまもと:年5回しか書かないのはそういう理由なんですか? 

いちる:かもしれない。どうなんですかね。 


ブログにある“自虐のパワー”とは

佐々木:今回、文章読本をテーマにやりたいと言った理由でもあるんですけど、僕、大学の卒論を文章読本でやったんですね。その時にネットの文章はなんで面白いのかというのをテーマにしたんです。結論はでなかったんですけど1つ、キーワードとして出たのが、偽悪と自虐。 常の自分よりも貶めることかなというのが、割と共通点としていろんなものを見てると思ったんですけど、今日そういうつもりで来てなかったんですけど、やまもとさんと加藤はいねさんって、自虐と偽悪のそれぞれのワントップというか。 

やまもと:ひどいけなされよう(笑)。 

佐々木:(笑)。でも偽悪じゃないですか。こんなにいい人だと思わなかったとリアルで会うと言われるというのはネットだと悪ぶって…。 

やまもと:そういうつもりもないんですけどね。 

佐々木:そうなんですか。そういう風に見えたんですけどね。 

いちる:自虐のパワーというのは、佐々木くんと同じように感じました。ブログはじめたばっかりの時に、ココログというサービス立ち上げた時に、眞鍋かをりさんにブログを書いてもらって、眞鍋かをりさんが当時、今もかもしれないですけど自虐めちゃくちゃうまいですよね。それで、すごい文章がおもしろくて、自虐ってアリなんだとすごく思いましたね。 

やまもと:あと、このタイミングでいうのあれなんですけど、すりつぶすんですよ。書き手は、自分自身を。つぶれた人って書けなくなっていくんですよ。それで消えていくんですよ。

佐々木:あの人消えて惜しかったなというのは…。 

やまもと:いますよ。サワダスペシャルとか、たぶん知らないかもしれないですけど、消えた人というのがいて、もちろん、いずれ才能は尽きるのでそういう人はいるのかもしれないけど、あまりにも消えすぎだと思うんですよね。結構いなくなってますよね。 

いちる:いなくなってますね。 

やまもと:昔でいうと、テキストサイトやっている人が全滅したりとか。 

いちる:「腐女子の行く道、萌える道」とかね。 

やまもと:そんなのありましたね。 

佐々木:あれは燃え尽きたんですかね。 

いちる:燃え尽きたんでしょう。 

佐々木:あれは新しかったですよね。 

いちる:天才でしたね。 


速水健朗さんとフモフモさん

佐々木:では次いきましょう。これの推薦は?


【A面】犬にかぶらせろ!: アップルが広告上手だなんてホントか?


竹内:これは僕が。速水健朗さんという方がはてなダイアリーに書いていたものなんですけども、僕ははてな村の人たちに知り合いが多くて、はてなあたりからネットのテキストって入ったんですけど、これは2005、6年かな、すごく面白かったんですが。 

やまもと:速水さんの、打率の低さと長打力のすごさというんですか。書いていることは9割9分おもしろくないんですけど、たぶん狙っていない何かですごく面白い文章を書くじゃないですか。あと、ちゃんとした下調べの結果からひねり出される、豪快つまらない文章とか。こんなに調べてて、なんでこんなにつまらない文章書くのみたいな。 

竹内:調べるのがすごく好きなんです。まず年表をつくるので。 

やまもと:彼は調べる能力はすごいのかもしれないですけどね。 

竹内:だから、文章そのものを堪能しようとするとたぶん物足りないと思います。 

やまもと:あれは、なんなんですか? かといって、文章が下手かというとむしろ逆で、ちゃんと1つの意味で読める文章を意図的に書いているようにも読めるし。 

竹内:真面目なんじゃないですかね。つまらないというけど、このことを大切だから言わなきゃみたいな感じじゃないですか。 

いちる:プロのライターだからというのもあるんでしょうね。 

やまもと:にしても、もうちょっと面白く書けるだろうという時ありますけどね。なんで本来だったらもうちょっと面白く書きのようのあることをね。 

いちる:時々すごく面白いですけどね。 

やまもと:そうそう。すごい長打力を、すごい飛距離だなというのはあるけど、たまに絶望するんだよな。 

佐々木:では次ですね。これは先ほども話題に出ました、フモフモさん。これはどなたの推薦ですか?

中田さんの旅…旅人が「旅人と言えば誰?」アンケートで第3位になった件。 : スポーツ見るもの語る者~フモフモコラム


いちる:僕ですね。フモフモさんは隊長にちょっと似ているんですよ。隊長みたいな、さまざまな知識がないというだけで、スポーツ、あるいはスポーツ選手について、毎回ものすごい長文のコラムを書いているんですけど、大量生産するにもかかわらず、どれも面白い。 

佐々木:僕、面識があって、いろいろ聞いたんですけど、やっぱり集めているデータが半端ないですよね。普段やっているスポーツの中継なんかほとんど撮っていますし、あと今は人気になりすぎたので、テレビ画面のキャプチャーをというスタイルをやめちゃったんですけど、当時はどのシーンでどうだったというのを全部はっていくんですけど、彼のPCの中にたとえば「大林素子 背が高すぎる件」で常にいじる、そういうフォルダが常に画像のスクリーンショットで膨大にたまっていて、いつどんなニュースがあっても書けるようにしてある。 

やまもと:彼はどういう仕事をしているんですか? 

佐々木:それは言えないんですけど、文章という意味ではプロの人です。 

いちる:プロなんだ。 

やまもと:そうなんだ。 

佐々木:そういう仕事をされています。ただ、スポーツの仕事ではないので、家に帰って夜中やっている方です。 

いちる:この方、本当にブログに時間かけてますよね。 

佐々木:ものすごくかけてますね。私がたまたま知り合ったスポーツライターが、この人のブログをみると嫉妬するから見ないという人がいて、そこまでかと思って。 

いちる:この中田さんというは、彼がずっと何年も何年も追いかけていじっている感じで、サッカーの中田を、サッカーをやめたあとで、ちょっとあれ?と思ってたけど、なかなか意識に登らなかったことを、中田さんというシリーズですべて言い表していて、旅人・中田さんが、またこんなことをしでかしたみたいな感じで。 

佐々木:テンプレートがあるんですよね、「世界の田中」という名前を読み間違えられたテロップで必ずしめるというテンプレートがあって。 

いちる:これで、中田さん面白いと思う俺は間違っていなかったんだという自信をもったという。 

竹内:すごい体現止めですね。 

佐々木:そういうのが気になるんですね。 

竹内:紙にすると、結構体現止めってイライラするんですよ。 

いちる:そうなんだ。「ですます」とか、「である」にした方がいいということですか? 

竹内:その方がいいとされていますね。でも文章って絶対こうじゃなきゃいけないというルールはないので、たとえば縦書きの紙にして体現止めばっかりという小説も世の中にはあるし、それで読ませる文章をかけたら天才だと思います。 

いちる:ちょっと歌の歌詞みたいな。 


平野耕太のツイートは天才

佐々木:はい、じゃあいきましょう。これはTwitterですね。 

やまもと:これは、私ですね。この平野耕太って天才だと思うんですよ。 



佐々木:みんな大好きなようです、これ。 

やまもと:この人ヤバイですよね。日本語で140字書かせたら、たぶんこの人上の0.1%に入るくらい、天才的な表現力を持っている人だと思うんですよね。 

佐々木:このあと、何枚かスライドあるので、このあともお願いします。あ、これ大好きです僕。


やまもと:結構ね「あ、そうなんだ」って完結するんですよ。 

佐々木:美しいですよね。 

いちる:Twitterで140字で完結する天才って何人かいますよね。 

佐々木:わざと時間も持ってきたんですけど、「0時43分」というのがリアリティありますよね。 



やまもと:あるある。これもなんていうんですかね。ある意味、加藤はいね的ではあるんですよ。ただ、やはり目線が男で文脈がしっかりしているんですよ。そこには1ミリも主体性がなくて、必ず客観性というか対象物があるんです。 

それをいかに冷酷な目で見た上に、出だしから最後の落差で余韻を残させるか、ということに関しては、天才だと思うんですよ。だって、「道着着たプーチン」ではじまっていて、銃殺されて蜂の巣になって、「政治の世界はこんな甘くない」っていう結論ですよ。140字の中に何個ドラマが入ってるんだという。 

佐々木:これは僕も大好きですね。なんか、2回読み返しちゃいますよね。美しい構築物をみるような感じしますよね。 

やまもと:これが140字ちゃんと入っていて、しかも垂れ流されているんですよ。平野耕太は本当に天才ですよね。 

いちる:何者なんですか? 

やまもと:漫画家さんです。戦争ものとかを描いていらっしゃる。漫画は漫画でちゃんと面白いんですけど。それよりも何よりもこちらの才能がすごいですよね。 

竹内:表現があまり漢語的じゃないのに、これだけ詰め込めるってすごいですね。140字にぎゅうぎゅうに詰め込む人って、結構漢語的な表現を入れている。名前はいいませんけど。 

やまもと:ああ。ちゃんとストーリーがあるんですよ。情景が浮かぶんですよ。浮かんだ結果、何コレ?感が出るんですよ。やはり天才だと思うんですよ。これ真似できない。 

佐々木:プーチンのとか、絵しか浮かんでないですよね。文字に見えないですよね、なんか。

やまもと:しかも言いたいことは、ちゃんとしっかり最後にあって、まとまって完結しているんですよね。これツイッターですからね。ヤバイですよ。しかも字数余らせていたりするんですよ。 

いちる:こういうのみると時間かけて、長文のブログ書く気なくしちゃいますよね。 

やまもと:ここまでやれるというのはすごい才能だと思います。 

佐々木:自虐でも偽悪でもないようなスタイルですよね、すごく冷酷なというか。 

やまもと:対象物を冷徹に見据えるのみなんですけど、これは真似できないですね。人間として別のDNAを含んでいる感じがしますよ。 


クラシックな紙の技法はウェブで生きるか

佐々木:私から1個だけ。これ、すごい名文だと思って持ってきたわけじゃないんですけど、すごくこの前に評判になった「私はブラック企業の経営者だった」(すでに削除されている)という記事。その中身はともかくとして、ブコメの中で「名文だ」「名文だ」というコメントが多かったんですよ。なんでこれをみてみんな名文だと思うんだろう?というのが、ネットでどういうものが名文とされるのかなということのヒントになるのかなと思って持ってきました。

・私はブラック企業の経営者だったhttp://b.hatena.ne.jp/entry/blog.goo.ne.jp/lattice_anomaly/e/ff870f6ecb3086069aa30bbca8ce3600
(記事自体はすでに削除されていました) 

解説する時間もないんですけどお時間あったら読み返してみてほしいんですけど、パラグラフの先頭、これすごく長いテキストなんですけど、パラグラフの先頭を読んでいくだけで全部わかるようになっているんですね。リンクを開いてもらうとわかると思うんですけど、それもすごくよく書けているなと思ったりですね。 3カ月休みがない日が続いていた。問題になるのは私の労働基準法違反の方だというパラグラフの先頭を読んでいくだけで、言っていること全部わかるようになっていたりですとか。 

あとは1パラグラフ目の最後の「忙しいのは、無能な私の責任であるので不満はないし、業務は収束したので何の問題もないと。問題になるのは私の労働基準の方だ」と、次のパラグラフにいくんですけど、パラグラフの間をしりとりでつないでいくんですね。「問題もない」「問題になるかもしれないのは」という形で、パラグラフ付けるときに、なるべく断絶をなくしながら流れるようにつないでいっているとか、これは紙でよくやったりとか、夏目漱石の草枕でやっているやつなんです。

結構クラシックな紙の技法が詰め込まれてあるんですけど、言いたかったのはウェブでもみんなそういうものをみて、名文だなと思うんだなというのが発見で、冒頭のやまもとさんの話ではないですけど、紙でやられているスタイルがそのまま受けるんだなと。 

いちる:なんか接続詞とか、副詞少なくていいですね。 

佐々木:しかも、紙っぽいかというとウェブっぽくもあるんですよね。その改行のつけかた、段落も改行2つ入れているものと、1つだけ改行しているものと意味の段落がちょっと変わっていたり、あと、途中で畳み込むような、ハイブリッド、クラシックなやり方と、「簡単だった、超簡単だった」とか、うけるというか名文だというがいっぱいつくのも何かわかるなというような。これ読まれました?竹内さん。 

竹内:最初の方しか読まなかった。長かったなという印象しか。 

佐々木:しかも続き3本くらいあるんですよね。この辺とかウェブっぽいですよね。 


「ぼんやり上手」に「Hello, World!」

いちる:似たような感じで、名文だ、名文だと言われていたので、「Hello, World!」というはてな匿名ダイアリー。あれ、本当に名文だなと思いますよね。 


2009-06-15 - ぼんやり上手


やまもと:ああ、「ぼんやり上手」。 

いちる:うまいですよね。 

やまもと:宮本さんでしたっけ? 

竹内:そうです。宮本さんという本業編集者の方で、今京都に住んでるんですけど、すごく作品が少ないんですけど、創作系でちょっと漫画も書いたりしているんですが、勝間和代さんと、夏目漱石の夢十夜を足して、これは第一夜かな? 

佐々木:第一夜ですね。 

やまもと:第二夜が面白かったですね。そして私は目を開いたで終わってしまう。うわ、これ来たずるいみたいな。やりやがったなみたいな。 

竹内:創作系で、本当はもっとたくさん書いてほしいなと思うんですけど、あまり知られていないけどまだまだはてなとかいろんなところで。 

やまもと:勝間さんの妖怪具合がいいんですよね。あれは、なんなんですかね。モチーフとして使いやすいんですかね。 

いちる:一時期、やまもとさんも多用してましたよね。勝間和代。 

やまもと:mixiをいじる前は勝間さんだったんですよね。とりあえず勝間さんを出しておけば、何か丸くおさまるんですよね。あの辺、池田信夫さんが挟まってたんですけど。今日ノビーと会ってしまって語りづらいですけど。池田信夫さんも、何かあると池田信夫さんを馬鹿にして終わるとなるとなんだか締まりがよくて、いいなという感じだったんですけど、勝間さんの何なんですかね。 

佐々木:どんなに書いても、本人の方が妖怪っぽいという。 

やまもと:妖怪っぽいですよね。それに安藤美冬さんが登っていくのかと思いきや、意外となりきらなくて、単なる普通の夢見がちな人たちと冒険に出ようみたいな。 

佐々木:ちょっと空いてますね、席がね。 

いちる:妖怪はもともと妖怪じゃないとなれないということですね。


ウイルスを中和しないワクチンを作ってみたら案外うまくいった件 - あなたのまわりの小さなともだちについて


竹内:これも私ですね。いろんな書き手として、最近研究者の方が書き手として登場していることが多くて、バッタ博士とか、くまむしさんとか。こちらは本当にウィルスの研究者の方なんですけど、本当に自分のメインの研究をすごくわかりやすく書いている。 

これ長いんですけど、ワクチンについて説明しているんですけど、こういう本当にメインストリームの研究している方が自分でここまでわかりやすく書けるようになったら、本当に新聞の科学部とか必要なくなるくらい、そういう人たちにも書いてもらいたいなと、私も理系なので、そういう風に読んでいて思いました。 


やまもと:理系なんですか? 

竹内:物理学科なんですけど。 

いちる:あの人そうですよね。リサ・ランドールって、「ワープする宇宙」でしたっけ? あれを書いた人は、最先端の研究者なんだけど、それを子供でもわかるように数学を使わないで説明することにパワーの半分を割いていて、すごい子供が読みやすい本とか。 

竹内:アメリカとかにはいるんですけど、日本でもブログでこういう風に出てきててちょっとそれは頼もしいなと思っています。これはスルーしていただいてもいいんですけど、マミペコの「はぁはぁブログ」ですね。 


『非公式RT責め』に感じた二十億光年の孤独 - はぁはぁブログ


やまもと:まみぺこさんも不思議な人ですね。 

竹内:ちょっとエッチで。 

やまもと:突き抜けた知能の低さが文章に出るんだけど、だけどそれを読んでいて不愉快じゃないという珍しい人ですね。 

竹内:だから本当は賢いのか、そうじゃないのかわからないという。 

やまもと:いわゆる世間一般の知能指数とかっていう尺度では測ってはいけないタイプの人ですよね。 

佐々木:ちょっと飛ばして「Hello world!」を。最後の方だったと思います。


"Hello world!"


いちる:これ本当にうまかったですね。半分創作なのかもしれないですけどね。自分の人生上がったり下がったりするのを割とさらっと読めるから短く感じるんですけど、字数数えてないですけど、一気に書いて、たとえば10年とかある人の人生を走馬灯のように一気に見たみたいなスピード感が素晴らしかったですよね。 

竹内:これすごかったですよね。 

佐々木:これだけ、今回出してもらったやつの中で匿名のというか、はてな匿名ダイアリー(Anonymous Dialy=増田)の記事なんですけど、やっぱり違いますよね。自分のアイデンティティでもって書いているものと、ここで書かれるものって、こっちの方がすごくクラシックな文芸っぽい感じがしますよね。 

いちる:さっきの文章読本の誰か忘れたんですけど、ちょっと気取って書く感じなんですよね。 

佐々木:そういうクラシックな形ですよね。 


素人の大ホームランが品質向上

やまもと:2ちゃんねるもそうだし、増田もそうだし、最近発言小町とかもそうだと思うんですけど、素人の人が1年に1回くらい大ホームラン打つという書き込みが、目にみえて品質が上がってきている感じがありますね。 

昔はスレタイですべてを表現するみたいな時代があったんですけど、あの時にいかに人に読ませるスレタイつくるかで頑張っていた時代があって、終わって2ちゃんねるも飽きたよねと言っている頃に、すごいのが出てきたりとかするんですよね。 「ドキュンの川流れ」とかですね。結構重大な事件だったのに、いかにもバカが増水した川に流されていったみたいなスレッドがたって、みんなが大爆笑、いっぱい人が死んじゃったみたいなのがあったりとか。 


いちる:「スレタイ大賞」とか、まだやってるのかな。半年に1度とかやってますよね。 

佐々木:まだあるんですかね。最近見ないですよね。 

いちる:最近の1位は、(ラオウ)って書いてあって、その隣に「ハッピーバースデーうーぬー」って書いてあって。くだらない(笑)。でもこのスレタイだけでいいじゃないですか。 

やまもと:今日取り上げてないですけど、「トピシュの告白」だったかな、ブログという舞台に今日移しましたみたいな。自分は発言小町で釣りばっかりやってましたみたいな告白をするものがあるんですけど、あの頃の釣りと今の釣りの違いみたいなものとか、ツリを見極めるときの着眼点とか、延々とノウハウを開示しているブログがあるんです。 


斗比主閲子の姑日記


あれをみて釣り師が学んでさらに巧妙なツリをリバースエンジニアリングしてやるようになって、「夫が付き合っていたのは義父でした」みたいな糞スレがいっぱいあって。あれは1つの文芸だと思うんですよ。 

いちる:みんなが読んでいるのを読んで学んでいっているというのはもちろんあるでしょうね。あと、誰でも1回はいいことが書けるというのは確かにあるんですよ。増田もそうだし、この前Twitterとか、Bloggerというサービスつくった人が「Medium」だったかな、新しいブログサービスつくったんですけど、それもそんな感じのコンセプトなんですね。 

Medium


「1回は書ける」というのを増田はすごくうまく表してますよね。増田がある前は2ちゃんだったんですよね。ただ2ちゃんは文字数制限があったり、やりとりがないと続けられなかったりして、こういうのできなかったんだけど、本当は1回こういうストーリーが俺の人生で起きたからこれ書きたいんだけどな…みたいなことを書くのに、最適な場所が生まれましたという発明なんだと思いますよ、増田は。 


消えていく名作“匿名ブログ”たち

佐々木:丸谷才一の本が決定版と言われていた時というのは、人がものを書く場所がなかったですよね。ものを書くというのは、本を書くとかすでに選ばれた場所に立っている人が、どうゆういい文章を書くかという話だったので、ちょっと気取って書けって言ったんですね。でも、誰でも書けるような時代になると、ちょっと気取って書くといやな文章になるんですよね、ブログでもなんでも。 

でも増田だけは、未だに自分が人生一回きりの、匿名ですけど、ステージにたってちょっと1曲やりますというのが唯一残っているところだと思うんですね。だから、ちょっと気取って書けというレガシーなアドバイスがまだ効く領域なのかもしれないですね。 

いちる:はてなブログでもありますよね。自分の正体を明かしていない人、さっきもでましたけど、24時間残念営業の人とかって、ちょっと気取って匿名で書く。でも匿名じゃないとちょっと気取って書けないですよね、恥ずかしくて。自分を明かしていると、偽悪に走ったり、自虐に走ったりしちゃいますよね。 

やまもと:あの踏み越えていて面白いですよね。職業ブログなんですけど、低学歴の世界とか、最高ですよ。 

いちる:最高ですよね。どうしてなくなっちゃったんですかね。 

やまもと:本部から問題があったとか、文句があったとか。 

いちる:特定されたんですかね。 

やまもと:それはされたでしょう、いくらなんでも。たとえば、本気で調べろと言われたら、1日、2日で調べられると思いますよ。 

いちる:じゃあ、はてなには名作匿名ブログあるじゃないですか。あれも、あんまり目立つとつぶれちゃうのかもしれないですね、続々と。最近だと「引きこもり女子のいろいろエッチ」というブログが、全然エッチじゃないんですけど、まあ名文が多くてですね。 


ひきこもり女子いろいろえっち


竹内:これはネカマだって言われてましたよ。 

いちる:そういう感じで特定されてなくなっちゃうんでしょうね。 

佐々木:これはやまもとさんのやつ、これを推薦されたのは? 

魔法使いから盗賊に転職します: やまもといちろうBLOG(ブログ)


いちる:推薦したつもりはないですけど、僕ですね。これ名文だと思いますね。 

やまもと:これは私がはじめてセックスをした時の。 

いちる:すいません、ここに出ると思わなくて推薦しちゃったんですけど。たぶん、5分くらいで一気に書いた感じ。 

やまもと:そうです。かあちゃんがシャワー浴びている時に書いたんです。幸せだったんです。 

いちる:凝縮された35年間が、シャワーを待っている5分なり、10分なりに集約されているこの密度が素晴らしいんですよね。 

やまもと:そこから5年で子供3人ですからね。世の中変われば変わるものだなと思うわけです。 

いちる:やっぱり、ためると波動拳は強いなと。 

やまもと:どれだけ、超必殺技なんだという感じで、困ったものですね。 

佐々木:ちなみに、ここまでで推薦したけど語り逃した、これは言っておきたいというのはありますか? では会場からの質問にいたしましょうか。今、我々の方で事前に用意したものを中心に喋ってきたんですが、やまもとさん、いちるさん、竹内さんに、直接質問してみたいということがあれば。


「ガリバーとフロス」現象

質問者1:いつもブログ楽しんで読ませていただいているんですけど、1つすごく気になっていることがあって、ウェブの文章って今、読者からのリアクションが強ければ強いほどいいとか、たくさん読まれていればいいとか、すごく細かく数値化されていますよね。 歴史上そんなものは、存在しなかったわけですけど、そういった反応で測るようになっている。同時にスピードもものすごく早くなるとなった時に、3年も経つ頃には中に入っているネタが、3年後の人たちには共有不能になっちゃうんじゃないのかなと。

そうやってどんどん短くなっていくうちに、我々の住んでいる時代のウェブって大量に情報があるにもかかわらず、10年ぐらいあとの世代が読んだ時に、こいつら何の話してるんだろう?って、まったく共有不能なものができちゃったらどうなんだろうと。 それでもいいのかもしれないけど、何かこの美しさとか、僕らが体験している楽しさがどこにもならないというのも、ちょっと寂しいことかなと思って、速さ、リアクションの強さと同時に文章の美しさというのは、後世に伝わるものなのかなと、そのへんは気になりませんか? 

やまもと:そのへんの議論って、「ガリバーとフロス」という現象があってですね。いわゆるベストセラー現象は、すごい村上春樹とかたくさん売る一方で、クソみたいな本が1000部とかそういうレベルのものが大量にあって。すごく小さなクラスターが大量にあるにも関わらず、クラスターがありすぎるがゆえに、そこの情報に行きつく、もしくは何が流行っているんだというものを知りたい人たちによってベストセラーが生み出されるという両極端な現象を生んでいるという実情があるわけですよ。 

それって、ウェブの業界に限らず、ほかのあらゆるメディアで発生していることであり、我々の専門知識でも発生していることであり、昔は社会科学といったら、統一された社会科学のなんとなくの常識ってあったと思うんですけど、それが細分化され、新しい学問領域に開発され、細かく専門家していった結果、となりの専門性がわからないよという知識体系と似たような状況になっていきますと。 

それが、分野別もしくは年代別でフロスのようにどんどん小さくなっていくんだけど、でもある一定の局面になると、よりジェネラルなビッグヒットというのが一定の割合で出て、それが時代を作るという世界観があるんだと思うんですよね。あまりそのへんは悲観しなくて、いずれほっておいても誰かすごいブロガーが、すべての年代を網羅するような大事件を引き起こして、堀江みたいになってくれるんじゃないかみたいな。 

そういうある種の「ガリバー待ち」な時代に今きているのかなと思いますよね。それは、ほかのあらゆるメディア、テレビもそうだし、アニメのようなものもそうだし、文芸もそうだと思うんですけど、むしろでかいものを仕掛けていく人たちによるパワープレーの方が実は時代を切り開いていっていて、それを取り巻くようにたくさんのフロスが、わーっと世の中にちっていて、我々は意外とフロスの方に目がいっているんですけど、実際にはちゃんと文脈を引き継いでいるガリバーというのはいるんじゃないかなと思いますね。ややこしい話ですけど。 

いちる:歴史の試練に耐えうるテキストの量というのは、昔も今も変わらないかもしれないですよね。今すごいみんなが発信できるから、わーっと書いているけど、たとえば20年後、あるいは100年後に残る文章は結局、18世紀くらいに残っていたものとそんなに量的には変わりませんでした。 あとは埋もれますけど、さっきの専門家じゃないですけど、専門家が当時のノリを含めて分析してくれるでしょう、みたいなね。

ネットだと、今たぶんこれクラシックとして残るなと言われて、たぶん同意をすごく得られるのはサムライ魂の「中国のロボット」。 あれは数十年残るでしょうねとか、ポツポツと出てきて、それは歴史の試練を待っていればいいかなと。僕らは100後の人も読んで分かってもらえるだろうかではなくて、今この瞬間を楽しめばいいんだと思いますけどね。 

佐々木:その他の方からも質問ありますか。 


タイトルを先につけるか、後につけるか

質問者2:やまもとさんが以前、ゲーム業界のプレゼンをしていて、新清士さんが記事を書いたプロマネの話に非常に感銘を受けまして。僕はプログラマーをやってるので、ゲーム業界ではないのですが、あの記事に非常に感銘を受けまして。 日本にこんなプロジェクトマネージャーをしてくれる人がいるのかと、感動して。ただ、こういう人と仕事をしたいなと思ったんですが、よく見ると炎上案件しか扱っていないということだったので、これは嫌だなと(笑)。 

やまもと:そういうわけでもないですけどね。 

質問者2:そういうのをみて、本当はそれのお礼を言いたかっただけだったんですけど。先ほど、ハゲについてのブログを一気に書いたというのがあったと思うのですが、あれを一気に書いたとして、タイトルは先につけるものなのか、後からつけるものなのか、気になりまして。あの内容を一気に書いたとして、タイトルを先につけているとは思えなくて、後かなと思ったんですが、どうでしょう? 

やまもと:最初は、「おーいハゲ、ちょっとこい」だったんですよ。で、やめて、「孫正義がうらやましい」という題名に変えてます。 

いちる:最初に題をつけるタイプなんですね。 

やまもと:つけます。必ずつけて、書き始めて、後になって「いやこれもうちょっと違う表現あるんじゃないか」と思うと変えますね。 質問者2:では、推敲はしないけどタイトルは変えることはあると。 

やまもと:タイトルが一番重要な場合があるんですよ。タイトルで、その文章全部を言い表せるようなものに付け替えることはありますね。難しいのは、表現仕切ってもいけないんですよね。読まれないので。 一時期そのへん、原題とタイトルを変えた時のアクセス数の伸びの違いみたいなのを自分で計測したことがあったんですけど、タイトルだけは文章の中身に沿いながらも、かつ言い尽くさないようにしないといけないなというのはありますね。 

あと、一般にmixiさんとか、Yahoo!トピックスさんとかは一定の文字数しかタイトル使えないので、かえって長い方が読まれやすいというのがわかって、あんまり短くしないタイトルが増えました。それはここ2年くらいですけど。私のブログタイトルは長いと思いますね。 

いちる:この1年、2年くらいのトレンドで2ちゃんだと思うんですけど、今まで2ちゃんってタイトル、「○○さんの顔がすごいwww」とか書いたりしていたのが、この1年くらいは「○○さんの顔www」になってるんですよね。トレンドががらっと変わって、言い尽くさないのがどんどん縮まって。 

やまもと:言い尽くさない方が、なんだろうと思って見るのが大きいですよね。どうゆう論旨立てなのか、どうゆう内容なのか、どうゆう叩きなのか褒めなのかわからないようにしておくのがいいと思うんですよね。たぶんあれね、アルファルファモザイクとかがうまい具合にやっているんだと思うんですよね。ああいうトレンドって、むしろまとめ側がそういうものをうまく選別してやっているような気はしますね。 

佐々木:じゃあお時間も21時をまわりましたので、一旦このパネルディスカッションは終了で、本日はゲストで登壇されたお二人にあらためて拍手をお願いします。本日はありがとうございました。

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--次回予告
もう一回だけ言う。IT企業に勤めているなら『鮨 一新』にすぐ行くべきだ