夢枕獏による山岳小説「神々の山嶺」。この作品の実写映画版のキャストが先日発表となり、ネットでも話題となりました。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150218-00000032-mantan-ent
この小説、以前に山岳小説やエベレスト関連の書籍を集中して読んでいた時期に読んだものだとばかり思っていたのですが、どうにも内容が思い出せない。
ということでKindleで試し読みをしてみた所、やはりこれは未読であったことが分かり、今更ながらに読んでみました。話題になった作品ですし評判通りの面白さで、通勤時間を使って数日で読み終えましたが、これだけの作品を既読だと勘違いしていたなんて、我ながら情けなくなります…。
有名な物語なので、内容の紹介は端折りますが、エベレスト初登頂の謎を残したまま行方不明となったイギリスの登山家、ジョージ・マロリーのカメラを切っ掛けに、その謎を追いかける日本人カメラマン深町と、同時代に生きる伝説の登山家羽生という2人の登山家を軸にストーリーは展開していきます。ミステリー要素も絡めながらも、綿密な取材が積み重ねられたと思しき骨太の山岳小説は、山やアウトドアに興味のある人間ならずとも、引き込まれてしまう作品でしょう。
さて、この小説には谷口ジロー氏による漫画版もあります。漫画版の存在は一応知っていたのですが、小説版を読んだことでこちらも気になってしまい、先週末に漫画文庫版をまとめ買いし、一気に読んでしまいました。
小説版の登山シーンの描写にも手に汗を握りましたが、谷口ジロー氏による作画の綿密さに驚かされます。小説版で読んだばかりのストーリーだというのに、これだけ引き込まれてしまうなんて! 小説を読みながら頭の中で描いていたネパールの雑踏、過酷な山岳シーン、そして深町というキャラクターのルックスが自分の想像とかなり重なっていたことに驚きました(羽生は想像よりも綺麗めかな)。小説版とはやや異なる味付けのラストも感動的で、小説を先に読んだ人でも充分に楽しめる作品でしょう。
あと、ネットでよく見るこのシーンの画像は、この漫画からの抜粋だったんですね。
2016年完成予定ので映画版では羽生を阿部寛が演じるということで、(背が高すぎる気はするものの)獣のような男臭さを感じさせてくれる演技を期待したいところ。ネットでは「佐藤浩市で」という声も多かったようですが、個人的には若い頃の佐藤浩市氏だったら羽生よりも深町にドンピシャかも。
岡田准一さんはやや若すぎる気もしますが、「軍師官兵衛」での老け演技も頑張っていましたし、期待したいですね。エベレストを含むネパールロケも慣行されるとのことで、無事撮影が進むことを祈っております。
エヴェレスト 神々の山嶺(かみがみのいただき) - 映画・映像|東宝WEB SITE
エベレストで起こった山岳事故を複数の証言から読む
さて、私はエベレストはもちろんネパールにも足を踏み入れたことはないのですが、この作品をかなりリアリティを持って楽しめたのには、1996年に起こったエベレストでの大量遭難事故についての書籍をいくつか読んでいたことがあります。ヒマラヤ商業登山(公募登山)についての是非を巡って紛糾する切っ掛けにもなったこの事故は、日本人の女性登山家(セブンサミット最後の挑戦がこのエベレストでした)が犠牲となったことでも、当時大きなニュースとなりました。
1996年のエベレスト大量遭難 - Wikipedia
マウンテン・マッドネス隊のガイドを務め、そのガイドとしての責務について事後に批判の対象となったアナトリ・ブクレーエフによる(G.ウェストン・デウォルトとの共著)「デス・ゾーン8848M:エヴェレスト大量遭難の真実」。ブクレーエフ氏は87年にアンナプルナで遭難死しています。
そのブクレーエフを自著で批判した、アドベンチャー・コンサルタンツ隊の顧客であったアウトドアライターのジョン・クラカワーの「空へ」。事故全体を捉えたレポートとしては分かりやすい作品なのですが、アメリカ人ライターによる(別隊の)ロシア人ガイドの露骨な批判がやや鼻につくと感じてしまったのも事実。
クラカワー同様にアドベンチャー・コンサルタンツ隊の顧客で、7800m台に置き去りにされながらも、奇跡の生還を果たしたベック・ウェザーズの「死者として残されて:エヴェレスト零下51度からの生還」。
極限状態から生還した彼等が語るエピソードは三者三様でそれぞれに食い違いも見られるものの、この未曾有の大事故について多角的に読むことができる興味深い書籍だと言えるでしょう。
アドベンチャー・コンサルタンツ隊の顧客であり、日本人2人目の女性エベレスト登頂者(そしてセブンサミッター)となりながら下山中に還らぬ人となった難波康子氏については、こちらの本に記されています。。
エベレスト、いかかこの目で見てみたいものですね。足腰が丈夫なうちにエベレスト街道のトレッキングに行くのが我が家の(私の?)夢の1つでもあります。