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ありがとう、ありがとう・・・【スパイラル~推理の絆~ あゆひよ】

スパイラル~推理の絆~の歩とひよののお話です。
最終回後の、歩が死ぬ数日前のお話。

死にネタなので苦手な方は注意して下さい(^^;

****** ▼ 追記記事 ▼ ******












手紙が来た。



宛名は皆ばらばらで、
だけど

全ての手紙は
         同じ事を私に告げていた。


とてもとても、大切な事を・・・。






 ありがとう、ありがとう…







白い白い病室で、
鳴海歩は、窓から見える空を見ながら、
途絶えがちの意識を何とか保っていた。

医療器具が告げる血圧や心電図は、
明らかに危険な下降線を描き始めている。

成人までに死に至ると言われた身体は昨日23を超えた。
けれど24は超えられないだろうと歩は予感していた。

少年はずっと、諦めなかった。
青年になっても、決して…。
だからこの思いは、弱音や諦めではない。
――ただ、死神の足音が聞えてしまうだけなのだ。

病室のドアが開いた。
歩はもう、首を動かす事すら億劫だった。
誰が来たのかはじきにわかる。
きっと兄の清隆か、義姉のまどかだろう。
もしくはラザフォードか
ブレードチルドレンの誰かかもしれない。

そう思っていたから
自分を呼ぶ声に、歩は目を見開いた。


「鳴海さん」


…一瞬、少年時代に戻ったような気がした。

月臣学園の白い廊下が見える。

何時の間にか現れて、いつの間にか隣にいた少女。

可愛らしい顔で、緩いおさげがトレードマークで、
とても狡猾で、とても頼りになって
いつだって最後まで、笑顔で味方でいてくれた女の子。

会いたいと思わなかったと言えば嘘になる。
だから彼が現実に戻ってこれたのは、
自分の手を彼女の柔らかな手がぎゅっと握ってくれたからだった。

「・・・・・・・・・・・・!!」
「大丈夫ですか?
 気管支の影響でものすごくしゃべるのが辛いって聞いてます。」

歩がしゃべろうとするのを、彼女は止めた。
そのまま彼の顔が見える窓側に移動する。

さっきまで見つめていた青い空に、彼女の亜麻色の髪が割り込む。
目の前には、かつて見慣れていた女性の笑顔があった。
あの時に比べて目元は少し大人びてきていたけれども、
その笑顔は昔と変わらず少女めいていた。
           
「・・・な・・・ん…で…」
「皆さんから、手紙がきたんです。」

歩が問うであろう事を予めわかっていたのだろう。
質問の答えの変わりに、
彼女はもっていた鞄をあける。
そしてそこから出てきた手紙を扇状に広げて見せてくれた。

宛名はなじみのあるものばかりだった。

アイズ・ラザフォード、浅月香介と高町亮子、
竹内理緒、鳴海まどか、鳴海清隆。

そして、シャーロットをはじめとする、
沢山のブレード・チルドレンの名前。

それはこの7年間、
歩と一緒に歯を食いしばって頑張ってきた仲間達の手紙だった。

「皆さんが、私に手紙をくれました。
 私に鳴海さんの傍にいて欲しいと、わざわざ手紙を送ってくれたんです。」

彼女の言葉に、歩は自分の耳を疑った。
その言葉は、前提から間違っていたからだ。

鳴海歩は、一人で孤独に頑張り続けなければならない。
そして彼が孤独である為には、
彼女は決して傍にいてはいけない人間なのだから。

思わず反論しようとする歩を、彼女の人差し指が止めた。

唇にふれた指の感触に歩が固まった隙に、
彼女は手にしてた手紙を開く。

「どのお手紙も、皆同じような内容です。
 だから代表してラザフォードさんのお手紙を読みます。
 それを聞いてから、私を追いだすかどうか決めて下さい。」

そう語る彼女は嬉しそうだった。
嬉しそうに、誇らしそうに、
今にも泣きだしそうな顔で、彼女は歩にそう言った。

そして彼女が紡いた言葉は
彼のこの数年の、決して短くない努力に対する贈り物だった。



※※






お前に送る手紙に、挨拶は不要だろう。
何より時間が惜しい、
筆をとった理由だけを端的に記そうと思う。

ナルミアユムは、遠からずカノンと同じ所に逝くだろう。

ナルミアユムは確かに俺達の希望になった。
二十歳を超えても、俺も理緒も浅月も亮子も
自分を見失わず、それぞれの人生を生きている。

俺達の為に、苦しみながら必死に生き続けている
ナルミアユムの孤独と引き換えに。

――――――最後のユメをみせてやってほしい。

ナルミアユムの最後にお前がいたからといって、
もう今のブレードチルドレンは、揺るぎはしない。

ナルミアルムは、7年の孤独と引き換えに
俺達に希望を与えてくれた。
それは俺達が、俺達の希望の為に
ナルミアユムに強いた孤独だ。

…本当はもっと早く、お前の背を押すべきだった。
それは俺の弱さであり、罪だ。
お前なら、きっと、
ナルミアユムの最後を支えてくれると信じている。

…出来る事なら、
俺がナルミアユムに感謝していた事を
お前の口から伝えてほしい。

結局、俺は言葉として伝える事が出来なかった。
どう伝えれば伝わるか、わからなかったからだ。

もしお前がそれを告げてくれるなら、
俺の感謝はきっと、ナルミアユムに伝わるだろう。

願わくばこの手紙が一日も早くお前の元に届く事を。

ナルミアユムの最後の時間が
幸せなものになる事を心から祈っている。





※※




「・・・アイズ・ラザフォード」


名前で締められたその手紙を、歩は静かに聞いていた。

不思議と涙は溢れなかった。
彼は確かに歩にありがとうとは言わなかったけれども、
その青い瞳はいつも、歩に向かって何かを訴えていたから。
その気持ちが感謝である事に、
ずっと前から歩は気付いていたのだ。

「……鳴海さん、お願いです。
 もし鳴海さんが迷惑でないなら、最後まで一緒にいさせて下さい。」

いつのまにか彼女の手はベッドの上にあった歩の手を握っていた。
自分の思いを、歩に伝える様とするように。

「鳴海さんはブレードチルドレンに立ち向かう力を与える為に
 孤独でありたいといいました。
 でも、皆さんはもう闘う勇気をもらったといってくれてます。
 彼らは今、鳴海さんの幸せを祈っています。
 その幸せに私が必要だと思ってくれています。」

それはどれだけの勇気だったのだろう。

「鳴海さんにとって、結崎ひよのがパートナーであったように
 私も鳴海さんのパートナーだったと、信じさせて下さい。」

出会った時から偽物である事を約束された少女は、
自分の中にある本物の気持ちをを伝えようと、必死に彼に訴えかけていた。

だから歩はその手を握り返した。
その思いに、答える為に。

「・・・・・・・・・な・・・ぁ…」
「鳴海さん?なんですか?」

途絶え途絶えの声を、彼女は止めなかった。
きっとそれは、大切な言葉である予感がしたのだ。


歩はずっと、後悔していた。
彼女に出逢ってたからは、これがただ一つの後悔だった。

「・・・ぁ………た…、な・・・ま……ぇ……は………」

掠れ掠れの歩の問いに、彼の手を握っていた彼女の手が震える。
歩はそんな彼女をじっと見つめていた。
彼に沢山の勇気をくれた彼女を。
今の彼自身を構成する全てを作ってくれた、ただ一人のパートナーを。


歩の視線の応えるように、亜麻色の髪が揺れた。
そして彼女は、言ったのだ。

「私の、名前は・・・・・・・・・・・」

…あの日のままの、少女のような笑顔で。









数日後、丘の上の教会で、
鳴海歩の葬式がしめやかに執り行われた。
死に顔はとても、幸せで穏やかな表情だったという。

教会の周りでは
沢山のブレードチルドレン達が泣いていた。
そして彼らは、彼らの救世主の最後を看取ってくれた女性に
何度も何度も繰り返した言ったのだという。




ありがとう、ありがとうと…。



(FIN)




…勢いで書いたけど、やっぱりスパイラルむつかしい…(滝汗)。

私は原作信者になってしまうとむしろ同人書けない人でして、
(AIRとかCLANNAD、スパイラルとかはこれだったりする)
ずっとこれは書きたいなあと思いつつ書けなかったお話でした。
久々に原作読みなおしてつい書いてみたのですが、
少しでも彼らのイメージに近いものがかけていたらいいなと思います。

原作の終わり方ももの凄く好きで、
最後歩がピアノを誇らしげに弾く所とか
はじめて読んだ時は涙がとまらなかったし、
歩がピアノを取り戻せて本当によかったなあって思います。

それでも、できたら歩の最後には彼女がそばにいてほしい。
そんな願いをこめて書いてみました。

あと、私はやっぱり本当の名前っていうのに思い入れがあって
いつか歩に、彼女の名前をいってほしいなあってずっと思ってました。
だから最後の数日、
歩と彼女が、本当の名前で向き合えたら素敵だなあって思います。

読んで下さって有難うございます(^^)




*** COMMENT ***

はじめまして。
最近スパイラルを読み返していて、ネットで検索してたらこちらを見つけました。
読ませていただき、もうただただ号泣です。。。
私はあまり深いことはわからないですが、世界観そのままに、原作者の考えが壊されることなく書かれていると感じ、感動しました!
2年前に投稿されていますが、思わずコメントです。ありがとうございました!

コメントありがとうございます!

はじめまして。
スパイラルは自分にとってもとても大切な作品なのでそういっていただけるととてもうれしいです。
ありがとうございます(^^)

歩の決意はすごく強くて、その強さは貫いてより輝くものだと思いますけど、
その努力が最後はちゃんと歩にもどってきてくれたらいいなあって
心から思います。
歩とひよののコンビは本当に永遠ですよね(^^)。

こちらこそコメントありがとうございました(^^)。

感謝を、、、

ナルミアユムとは少し違う、けれども似た形で、今、私は、孤独に苛まれています。
ふと、子どもの頃読んだ、「スパイラル」という作品が頭によぎり、たまたまここに流れてきました。本当に偶然。そして、素晴らしい作品に出逢いました。読んでいて、涙が溢れました。たまらなく美しく、あたたかく、優しく、そして、だからこそ切なく、、、
素敵な作品を、ありがとうございます。

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