これは僕が輸入車ディーラーにいた時の話です。
新車納車のために訪れた邸宅の敷地は映画の中でしか見た事も無い程の広さで、ため息しか出なかった。何千坪?いや、何万坪だ・・・
チャイムを鳴らし寺院のような門を開けて頂くと、にこやかにオーナーが出迎えてくれた。
「クルマはこっちに持ってきてくれます?」
案内されたのはサーキットのパドックのような長大なガレージだ。仕事柄、何人もお金持ちは見てきた。
・・が、この方はレベルがちょっと違う。
一台一台、区切られているシャッターの一つを開けていただき新車をガレージに入れる。中は区切られる事無く全てのクルマが見渡せる。空調も完璧だ。
それはそれは見事な高級車が並んでいる。ポルシェ、フェラーリ、ベントレー等々。まぁ、金持ちのガレージってのは大体こんなもんだ。珍しくもない。だが、ここのガレージはそれだけじゃなかった。
それは、ガレージの一番片隅に置かれていた。僕が納車した新車からは距離があり、良く見えない。
・・・・・赤く背の低いクルマ
無意識に近づく。 うっすら埃の被った綺麗なフォルム。
「・・・ミウラ??」
更に近づく。そしてシルエットを確認できる距離に達した時、軽い目眩を覚えた。そして全身に鳥肌!!
「イオタ!!」
頭が真っ白になる。思考が戻るのに数秒かかった。
オーナーに頼みこみクルマを見せて貰う。傷一つ無く色褪せてないラッカー塗料の外装!!
車内も見せて貰う。走行距離は17000km!!まるで新車のようなコンディション!!
車検証も確認する。ワンオーナー!!
シーサイドのステッカーまで当時のままだ。
何なんだ?これは?違和感。・・・1977年の夏を思い出す。誰もが夢中になったスーパーカーブーム。
「これね、僕の大学合格祝いに父が買ってくれてね。それ以来、手放せないでいるんだよ。」
家に帰り倉庫から「GENROQ」のイオタ特集の号を引っ張りだす。メモしたシャシーナンバーを照合。
ビンゴ!!
間違いなく本物だ!!世界に七台ある内の一台!それも消息不明とされてる二台の内の一台。
後日、一か月点検の際にオーナーに話を伺った。
キチンと車検も継続して受けており、費用は毎回カローラ一台分!!笑える事にトヨタのディーラーで受けてる!!嘘の様なホントの話だ。
車検後、少しだけ運転を楽しみイオタはまた二年の眠りに着く。この繰り返しで現在に至る。
イベントになど参加した事はないそうだ。それで消息不明扱いされてるのだろう。
ノンレストア、新車同様のイオタ・・・。 間違いなく世界一のコンディション。最も、もともと七台だ。
金があっても買う事が出来ない。 情熱だけでは維持すら出来ない。
あのイオタ、今もあのガレージで最高のコンディションを保ったまま時間が止まっているに違いない。
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2012/10/25 01:38:21