今月納めた「いのちの歴史」は福沢諭吉でした。
その時参考資料としてお借りした学習漫画で学研の「人物日本史」がありました。 漫画家は太田じろう先生(1923年生まれ 故人です)で、初版は1980年。 古い漫画家さんで「冒険ダン吉」の島田啓三先生らと東京児童漫画会を結成。 「こりすのぽっこ」や「快獣ブースカ」の初期設定、及び、コミカライズ作品を執筆。 「少年倶楽部」などで活躍されたようです。 何気なく読んでいたのですが、その画力の高さに驚かされました。 何気ない生活のポーズ。デフォルメされた漫画絵。 必要最低限の線で的確に対象を表す画力。 背景は全てフリーハンドでまるでスケッチのようにサラサラッと描いてある。 諭吉少年のピシッと伸びた背筋。着物の描き崩し加減。 ワタシも描いていてよくわからない脇差しがキチンと帯を通して差し込んでいるのが感じられます。 見ていてホレボレとしてしまいました。 で、Amazonのレビューではどんなことが書いてあるんだろう、はたして書いてあるのかな?と 調べましたら「西郷隆盛」のほうに二つありました。 そこには驚くべきレビューがあったのです。 絵柄は正直、言って失礼ですが、集英社のものと比べてつたないです。 びっくりしました。 この絵のどこがつたないのかと。 下書きだってきっとほぼ一発描き、ペン入れもすごく速いはずです。 人物、背景どれをとっても確かな画力。 本格的な絵の勉強もして相当数の絵を描いた人でないと描けない絵です。 というか今、学習漫画を描く人間でこれ以上のレベルの画力を持つ人がいるんだろうか?と驚いてしまいました。 (余談ですが拙著「食べ物のひみつ」のレビューでは 「読みにくく疲れるだけという感じがして読み続ける気にならない。昔のシリーズの方は、絵柄は古くさいがシンプルな線でマンガとしては読みやすく苦にならない感じがする。古くさい感じは、「味」と言い換える事が出来るかもしれない。」と書かれていてビックリ!でした。 こんなに古い絵柄でスタンダードな古くさい見せ方をしているのに・・・・。というか「新しい」なんて言われたことない!笑) ただ、問題がない訳ではなくて、漫画としてはやはり古い世代の漫画で、各エピソードに細かい笑いのネタが入っていて一つ一つにオチがついており、懐かしい雰囲気が一杯です。 そして地味な描き方なので、現代の漫画と比べて最後まで主人公の顔が印象に残らず、淡々としすぎています。 (地味な見せ方にも意味があって、昔の漫画はページ数が少ない上に読み切り形式だったので、 誰がどこで何をしているのかが一目でわかるように、一コマ内に絵の情報を盛り込まなくてはならなかったため、低い等身で全身を入れ、背景もキチンと描かれていたのです。太田先生も多分当時の感覚で描いていたんだと思います。 だからこの作品も絵の情報量は凄いです。集中線やアップなんて一切ありませんから。) ハタと「その他の学習歴史漫画のランキングはどうなんだろう?」と調べると ワタシども夫婦が推薦する小学館の「日本の歴史」はかなり下のほうにありショックを受けました。 トップは集英社のもので「(絵を)子供が気に入った」「わかりやすい」という評価がほとんどでした。 小学館のほうは、それこそ歴史的資料として間違いのないくらい検証がしてあり、時間もお金もかけて作ったものです。(絵の資料としては最適です!) メインの漫画家のあおむら純先生の画力も素晴らしいし、 「いい物を作ろう」という気概が作品から見て取れます。 ただ、その反面漫画的に派手な見せ方が出来なくなって全体的におとなしい印象になっています。 漫画だけど学術書に近い内容になっているので、小さい子供たちにはちょっと親しみやすさが足りないのかもしれません・・・・・ プロに受ける漫画と読者に受ける漫画は違うんだなぁ。と痛感しました。 自分の価値観に自信を持っていただけに、この結果にはショックでした。 特に子供向けの漫画は親しみやすさが一番だと思います。 そこで最近、自分の描いた作品を顧みますとこれが 「子供達にわかりやすい、良い作品を描こう」というのが一番に来すぎていて 肝心の絵(人物)が生き生きとしていないという結果に結びついているんだと気づきました。 漫画にとって一番の魅力がここにあるというのに。 「自分は何故漫画を描くのが好きなのか?」と考えた時 「自分で作ったキャラクターを動かしたい!」が一番に来ます。 真面目に作品に取り組むうちにそういった漫画のオイシイ部分が抜け落ちて 生き生きしたキャラクターでなくなり、それに引きずられるように とっつきにくい、面白みのない絵になっていることに気づきました。 史実に忠実であろうとすればするだけ、しっかりした絵を描こうと思えば思うだけ 上手い下手に拘れば拘るだけ 萎縮して縮こまり、自分の持ち味を殺すような絵になっていたのです。 せっかくいい作品を描こう!と力を入れても出来上がった作品に親しみ易さがなくなっていたら 子供達は読もうと思ってくれません。 料理に例えれば「子供のために素材は国産で余計な添加物なしで体に良い料理を作ったのに 盛りつけ(見た目)を疎かにしてしまって食べてもらえない。」といったところでしょうか。 「ちゃぐりん」にはベテランの児童漫画家の先生も描いておられて、 中でもコロコロで活躍されていたMoo.念平先生は、子供心をわかっている作品で毎度「さすがだな。」と思わされます。 伝記漫画という枷はありますが、読者対象はコロコロを読むような子供だということを念頭において自分を変えていかなければ、と思いました。 今まで自分なりに考えて漫画を描いていましたが、それが一向に満足できるものにならないというのは、 つまり今まで自分が拘って来た方向が間違っていたということです。 今年の漢字は「変」でしたが、来年の自分に「チェンジ」を課していこうと決意しました。 「ちゃぐりん」とは違う仕事ですが、それを念頭において描いた絵です。 ワタシは元々こういう絵を描くのがメインでした。 楽しく!元気よく!を伝記漫画でもっと表現できたら・・・・と思います。
by mieru1
| 2009-12-29 23:26
| 漫画を描くこと
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Comments(7)
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おちゃずけ
at 2009-12-30 06:12
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みえるさん、ブログにコメントありがとうございます。
そして、今回のこのすばらしい「気づき」に感動しています。 どんなにベテランになっても自分をしっかり省みていろんな角度から 学んで気づいていける。 それだからこそ、みえるさんは、今まで、たくさんの壁を乗り越えて 続けてこられたのだなーと感服しております。 来年はますますみえるさんの活躍の場、広がることと思います。 どうかお体にはくれぐれも気をつけて頑張って下さい!! ・・・実はオフレコでお話したい事いっぱいあるんですよー(笑) ぜひいつかお会いしたいですぅ~
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mieru1 at 2009-12-30 21:42
>おちゃずけさん
一般的な商業漫画誌で仕事をしていない人間は編集者からの漫画のアドバイスは受けられないので、常に自分で自分の作品を批評していかないとなりません。 ですので自分で修正する習慣がついています。が、やっぱり他人の観点からズバッ!と忠告されるのとズレが生じてきてしまいます・・・ 他人から言わせれば一言で済むことが主観を通してみるとゴチャゴチャと言い訳がついてしまうというか・・・・ 更なるステップアップのために「今より良くなるにはどうしたらいいか?」を考えるのはフリーの人間には大切だと思います。 フリーは保証してくれるものは何もないので、自分のことは自分で責任を持たなくてはいけないしね・・・ >>・・・実はオフレコでお話したい事いっぱいあるんですよー(笑) ぜひいつかお会いしたいですぅ~ ええ、ワタシもおちゃずけさんとお会いして話したいこと一杯あります! 月初めは割とスケジュールにゆとりがあるんですが、池袋や新宿辺りでお会いできるでしょうか???(でもお子さんが小さいから難しいでしょうね。)
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yan_two at 2010-01-01 21:07
あけましておめでとうございます。
本年もみえるさんのご活躍をお祈りいたします。 この太田先生の諭吉、覚えてますよ!「まむし」のエピソードとかありましたよね。 実家に「人物日本史」シリーズがほぼ揃っていて、何度も擦り切れるまで読んでいました。 息子にも同じような本を読ませたいと思って書店に行くんですが、流行りなのか同人誌っぽい画風ばかりで 購買意欲が下がるんですよね…。別に同人が嫌いなわけではないけど、個性がないというか。 シリーズの中でも太田先生の作品が一番好きでした。絵が綺麗だし、 喜怒哀楽の表現も淡々としていて性に合っていたのかもしれません。 さっき検索してみたら、本シリーズが遺作になるんですね。 ttp://blog.livedoor.jp/tomooji/archives/51092383.html 既に多くの実績を積まれているのに、そこで慢心せずにさらに上を目指す みえるさんを尊敬します…!私も見習わないと(;´Д`)
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mieru1 at 2010-01-02 23:23
> yan_twoさん
あけましておめでとうございます。 「まむし」ありますあります。「うなぎ屋」の話ね。 意外とくだけた・・というかいい加減なところもある人みたいですよね。(店の食器を持って来ちゃう) 学習漫画の歴史ものはワタシの世代ではまだなかったので、下の世代の方達が羨ましいです。(歴史嫌いだったので) 家の息子も資料で集めた歴史漫画で日本史が得意ですよ。刷り込む時期に読んでおくと記憶に定着していいんですよね。 それにしても yan_twoさんは太田先生の漫画が好きだったなんて通ですね。(笑)Amazonのレビュー、読み返したら内容に関しては誉めてあり、安心しました。(汗) 甥御さんのブログも読みました。そういえば、手塚治虫以前の漫画家は「画家」としての修行が必須だったんですよね。ですので長谷川町子先生をはじめとするシンプルな線で漫画を表現する人たちを「下手」扱いする現代人にがっかりします・・・・恥ずかしいですよね。
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mieru1 at 2010-01-02 23:32
>>同人誌っぽい画風ばかりで購買意欲が下がるんですよね…。
自分のオリジナル作品なら構わないのですが、「学習漫画」なのに風俗がデタラメだったりすると一気に萎えますね。西郷さんの髪型がツンツンヘアーだったりとか。アマチュア作家だと、実在の人物描写に力量が伴っていなかったり、顔ばっかりでその時代に生きている感じがしないんですよね。 そういう訳でどうしても嘘をついてまでもイケメン、美女に描けないワタシ・・・・ 「この顔だからこういう性格だったんでしょ!」と思うから。(シャネルもキツい顔してます) ーーワタシの実績なんて大したことないです。 いつになったら満足いく作品になるのか・・・ でもこの商売、満足したらそこで終わりのような気がします。 常に向上心、探究心が必要ですよね。(それも趣味の範囲) とにかく、昔の漫画家は上手いや!と感心しきり。 ワタシとは次元が違いますね。足下にもおよびません。(滝汗)
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和田少尉
at 2010-05-25 22:42
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先日はコメントへのお返事有り難うございました。
太田じろう先生の「福沢諭吉」懐かしいです!太田先生はこの他にも 「徳川吉宗」「西郷隆盛」をお描きになられていますね。20年振りに 読み直すとディフォルメも上手いし、シンプルで嫌味の無い絵、技術 がしっかりした素晴らしい作家さんだと改めて感じました。もうこういった 方は現れないかもしれませんね…(涙)その他に「織田信長」を描かれた「中島利行先生」も画力と画面構成力が大変素晴らしい作家さんです。 自分も絵描き仲間と話すのですが、作家側と読者側で感じる絵の素晴 らしさは相当な差があるのではないかと。最近「萌え系」の絵が流行り ですが、パロディなら兎も角「人物日本史」のような本がそうだったり すると本当にガッカリします。 脇差の挿し方のお話が出ていましたが、劇画家の「平田弘史」先生の 作品等も時代考証・当時の風俗の参考になると思います。太田先生は 1982年に亡くなられましたが、平田先生はご高齢ながら現在も現役で 活躍されておられます。「無名の人々・異色列伝」という作品がお勧めです! それではまた!失礼します。
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mieru1 at 2010-05-26 19:57
>和田少尉さん
さすが歴史マニア、この手の漫画もチェックしていたのですね。 今まで漠然と絵を描いてきましたが、年を取ってきたらきちんとデッサンがとれた上でのデフォルメの絵が自分はとても好きなんだな〜〜、と気づきました。 それまでは見た目の派手さや綺麗さに目を奪われがちでしたが自分もデッサンを意識して描くようにしていくうちに、今まで気づかなかった「絵の上手さ」に目が届くようになりました。 中島利行先生は知りませんでした。今度探してみます。 平田先生も数冊読んだことがありますが、ワタシは以蔵が主役の「人斬り」が一番好きです。 平田先生はああいう、報われない人を描くのが得意だと思います。(で、ワタシもそういう話に共感するのです。) 平田先生の絵は実際にその時代にいそうな実在感が素晴らしいですよね。 体型も当時の日本人ぽくて好みです。 時代劇でも今流行りの歴女向けの絵やアニメ調の絵だと自分としてはなんだかな〜〜、と思ってしまうので平田先生や70年代あたりの劇画だとしっくりくるので好きです。 お薦めの本、機会があったら是非読んでみたいです。 色々教えてくださり、ありがとうございます!
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