なぜアスペルガーの人はネット上だと見分けがつかないのか？

……というのが長い間疑問でした。でもやっと謎が解けた気がする。

アスペルガーを自称している人はいる。しかしネット上だと、ブログでもツイッターでも言うことはすっごく普通(≒いわゆる「空気が読めない」ではない)であり、というか普通の人よりむしろ表現が理性的・論理的に見えるのですね。

ぼくは知り合いにアスペルガーの人はいません。たぶん。自称している人はいないし、「この人、あれかな？」ってほど空気読めない感じの人もいない。なので、アスペルガーの人は対面ではコミュニケーションが取りにくいって話を想像するのが難しかったのです。オンラインだと極めてまともな人が、オフラインだとほんとうにぐにょんぐにょんになってしまうのか？　ネット上ではなぜ「空気が読めない」状態の文章にならないのか？

しかし、現在読み進め中のこの本に、ヒントを見つけることができました。

ユーザーイリュージョン―意識という幻想

でも引用しようと思ったら長かった！　概略を言うと、「空気が読めない」というときの"空気"とは何かについて非常に詳しく書かれているんですね。それはこの本では情報"information"に対する"exformation"ということばで表されています。日本語訳は〈外情報〉。これが"空気"です。

状況・状態を伝えるのにぼくらは言葉を使います。もちろん状況・状態のすべてを伝えきるなんて無理だから、情報を削ぎ落とし、選択し、圧縮する。でも、最後に残った情報は、元の情報から落とされたこの〈外情報〉を含んでいるものなのだ、とこの本には書かれています。情報の受け手は、受け取った情報から〈外情報〉について推測ができるのだと。コミュニケーションとは"話していることと話していないことのすべて"なのです。

そしてさらに著者は続けます。

つまるところ言語は、人間の生物的進化の過程では、ずいぶんと新しい発明にすぎない。人に会ったとき、相手が上品な言葉遣いで自己表現ができるかどうかを見極めるのが重要になるずっと前から、おとなしく振舞う人かどうかを見ぬくことのほうがはるかに大事だった。
〈外情報〉は情報より重要である。人が口にした言葉を理解するより、その人の頭で起きていることを知るほうが大切なのだ。

アスペルガーの人にとって不幸なことには、コミュニケーションにおいて大切なのは情報ではなく〈外情報〉なのです。そうこの本は言っている。

人間は動物から進化してきました。言語を獲得する以前、まだまだ動物さんだったころは、コミュニケーションは体の動きやら鳴き声の高低などで行われていたわけです。で、オフラインの、対面のコミュニケーションの場合には、情報が言語として伝えられるのは当然ですが、〈外情報〉の一部も、姿勢や身振り、視線や表情、声の調子などとして伝えられてしまうんですね。だから人と実際に会って話すと「話が早い」わけです。

ぼくは専門家ではないので、おそらく、としか言えませんが、アスペルガーの人は、この言語以外の部分で伝達される〈外情報〉の解釈に問題を抱えているのだと思います。そのため、言葉として伝えられたことが、情報の送り手が伝えたいことの全てだと思っている。それが「空気が読めない」ってことなんじゃないかと。

アスペルガーでない人はこの空気の処理をハードウェアで行ってるので、処理してること自体ほとんど気づかないんですね。でもアスペルガーの人は、たぶん、ここをかなりソフトウェアで代替してるんじゃないかなーと思う。この人は、言葉ではこう言っているけど、でもこんな表情をしている、だからきっと実際はこうなんだ、みたいな感じ？ それを毎回やっている。

しかしネット上だと、アスペルガーでない人も言葉でしかコミュニケーションができないわけです。だから、条件は対等になる。あんまり〈外情報〉に頼ることはできず、誤解されないように内容をきっちりつめ込まなくてはならない。でもそれって、アスペルガーの人がいつもやってることですよね。ぼくなんかは、解る人だけ解りゃいーかな、みたいな感じで、言葉削ぎっぱなしの部分とか多いんですけど。

そんなわけで、ネット上できちんとコミュニケーションを図ろうとする理性的・論理的な文章と、アスペルガーの人の文章とは、似てしまうのだ、だから見分けがつかんのだと思いました。まぁあくまでも、専門家ではない素人が勝手に推測して納得してるだけなんですけど。