東京のJR亀有駅から徒歩3分ほどの場所にある「亀有香取神社」(葛飾区)。鎌倉時代から700年以上続くこの小さな神社の境内には、「ラ・ローズ・ジャポネ」という平日でも行列ができるパティスリー(洋菓子専門ベーカリー)がある。神社の中にパティスリーがあるのはかなり珍しい。両者の「縁結び」のきっかけは何だったのか。亀有香取神社の宮司、唐松範夫さんと、ラ・ローズ・ジャポネのオーナーパティシエ、五十嵐宏さんに話を聞いた。
参拝者の減少に悩む宮司
唐松さんは2003年、先代である父の急逝により、20代後半で宮司に就任した。突然の就任で戸惑いは大きかった。しかも参拝者数が年々減っていた時期だ。
就任後、唐松さんはお祭りなどを通じ、地域との関係を今まで以上に深めるとともに、神社が漫画やアニメで人気の「こち亀」(こちら葛飾区亀有公園前派出所)にも登場していることに着目した。10年には作品の主人公である「両さん」の像を境内に設置し、“アニメ絵馬”も始めると、次第に海外含め旅行者も訪れるようになった。
だが唐松さんはこう語る。
「アニメ聖地として知られるようにもなり、次第に参拝者は増えていたのですが、今度は境内設備の不足や老朽化など、参拝者をお迎えする体制が厳しくなっていると感じるようになりました」
これからの神社としての在り方とは何か。この問い掛けが唐松さんの頭から離れることはなかったという。
「大きな神社には門前通りがあり、そこには団子屋や甘味処(どころ)があります。当神社にも参拝者に喜んでもらえる場所を設け、新たな人の流れを作り出したいと思ったのです」
そんな折に出会ったのが五十嵐さんだった。
世界大会でも活躍するパティシエ
五十嵐さんは国内の洋菓子店でパティシエとしてのキャリアをスタートし、後に渡仏してさらに修業を重ねた。帰国後は東京都内の五つ星ホテルの製菓長として腕を振るい、10年には洋菓子の世界大会で優勝も成し遂げている。近年も日本代表チームの団長を務めるなど活躍中だ。
そんな五十嵐さんは12年、「住み慣れた地元に恩返ししたい」と葛飾区金町にラ・ローズ・ジャポネを開業した。わずか7坪の店だったが、五十嵐さんの評判を知る客が連日来店し、瞬く間に人気店となった。
一番人気は世界一を勝ち取った「ピクシー」。他にも洋栗のクリームが軽やかなモンブランやフルーツをカラフルに使ったケーキなど、フランス菓子の技巧を駆使した品々で多くの常連客をとりこにした。
「神社の境内に出店してほしい」
その常連客の一人が唐松さんだった。唐松さんは学生時代にアメフトで鍛えたがっしりした体格の持ち主だが、実は甘いもの、特にケーキに目がない。同店のケーキのおいしさに魅了され、月に何度も足を運ぶようになったのだ。
「体格がいいのでプロレスラーが来たかと思いました」
五十嵐さんは最初の出会いを笑いながら語る。唐松さんはスーツ姿で来店することが多かったため、まさか神社の…
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