エルの楽園

Twitterで垂れ流すには見苦しい長文を置きます。 あ、はてな女子です。

日本酒は水で薄めて飲んでいい

現在、趣味と実益を兼ねた日本酒普及企画に関わっている。美酒の名産地である福島のお酒とおつまみを毎月1セットお届けするというもので、おつまみはそれぞれのお酒の醸造元に選んで頂くのだ。わたしは福島の日本酒の飲みやすく香り豊かで味のバランスがとれているところをここ10年近く愛しており、本当に願ったりかなったりの企画である。ようやく一般公開の運びとなり、ここ3か月ほど週に5本の酒を飲み続けた甲斐があった。

本日からクラウドファンディングでこの企画の出資者を募集しているけれど、実のところ資金集めというよりプロモーションの意味合いが大きいので、個数限定ながら原価割れでリターンを提供している。日本酒にご興味のある方はこの機会にぜひどうぞ。

https://www.makuake.com/project/f-sake/


さて、本企画が一般にお披露目された記念に、この記事では日本酒が苦手なひとやアルコールに弱いひとにもお酒を楽しむコツをいくつか紹介する。
まず一つ目は「日本酒を水で割る」というものだ。


そもそも日本酒は絞りたての状態で、アルコール度数が20%程度になっている。この状態のものを「原酒」といい、これで出荷されるものも一部にはある。しかし大半は「割り水」といって原酒に水を加え、アルコール度数15%程度にして出荷されている。
水を加えてアルコール度数を下げる理由はその方がより飲みやすいからであり、どのくらい水を加えるかは各酒蔵のセンスや価値観による。基本的には各酒蔵で一番おすすめの濃度になっているのだが、アルコールが苦手なひとは更に自分で飲める度数まで水を加えても構わない。
今でいう清酒が一般的になる前、日本酒がほぼすべてどぶろくみたいな醪を潰すだけの製法だった頃は「練酒」と呼ばれていた。それを飲む場合、自分で好きな濃さに水を加えて飲むのが通例であり、大体5%程度にまで薄められていたと考えられている。日本酒の歴史をふりかえっても、水割りで飲むのは伝統に基づいた味わい方なのだ。梅酒をソーダで割る感覚で、濁り酒をソーダで割ってみるなどといった飲み方も面白い。

水を混ぜるのがどうしても気が引ける場合、水を飲みながらお酒を飲むと良い。醸造酒の場合、酒の体積の2-3倍の水を飲みながら飲めば二日酔いは回避できるとされている。日本酒の場合こうしたチェイサーは「和らぎ水」と呼ばれる。たまに「ウィスキーは大丈夫だけれど日本酒やワインは頭が痛くなる」というひとがいるが、大抵彼らはチェイサーを飲んでいない。蒸留酒に慣れていると醸造酒のアルコール度数が低く感じられ、チェイサーを飲む意義が感じられなくなるのだろうが、こうしたハードリカー専門の酒飲みほど意識的に水を飲んでいく必要がある。

どちらのやり方で水を取り入れるにしろ、お酒の味を損なわないためには軟水を選ぶとよい。日本の水道水は大抵軟水だが、ボトルドウォーターを飲む場合はサントリー『南アルプスの天然水』が硬度30程度と一般に市販されている水の中では最も柔らかい。


次のコツは器の選び方だ。お酒を飲む器によっても飲みやすさが大きく変化する。お酒は飲めるものの日本酒が苦手、というひとの場合、器を変えると飲める可能性が上がる。
一般的に日本酒を飲む場合、背の高く細いグラス、あるいはぐい飲みで飲む場合が多い。しかしこうした背が高く口が狭い器はお酒が空気に触れる面積が少ないため、日本酒独特の柔らかい香気を十分に感じられず、ただ揮発したアルコールのツンとした臭いが鼻につく恐れが高い。日本酒に空気を含ませるためにワイングラスを推奨される場合もあり、事実ワイングラスが向いたお酒もあるのだが、大抵日本酒の方がワインよりも香りが強い。したがってワイングラスだと匂いがやや強すぎる場合もある。

個人的には日本酒にもっともお勧めの器は平盃である。よく結婚式の三々九度などに用いられている、赤い平たい丸いアレだ。飲み口が広く空気にしっかりお酒を触れさせられるので、お酒の香りを引き出し、かつ匂いがこもらない。また薄いのでお酒を入れすぎることもなく、ゆっくりしたペースでお酒が飲める。特に燗酒の場合、平盃で飲むだけでお酒のグレードが2つは上がるくらい風味が改善される。
これは長野・佐久乃花酒造さん直伝の秘策である。器を変えるというただこれだけの工夫で日本酒が劇的に飲みやすくなるので、日本酒の風味が苦手というひとにお勧めだ。平盃を持っていない場合、醤油皿のような平たい小皿でもほぼ同じ効果が得られる。騙されたと思って一度試してみてほしい。

平盃には漆器やガラス製、陶器製など色々あり、好みで選ぶと楽しい。豆鉢感覚でついつい集めてしまう。酒器を揃えるのもまた日本酒の醍醐味だ。


最後は食べ物との組み合わせ方だ。合わせる食べ物との組み合わせ次第でお酒の味は劇的に変わる。ワインでは「マリアージュ」と呼ばれているが、単体で飲んで美味しいお酒も特定の食べ物と組み合わせると「????」といった味になったり、また単体では飲みにくいお酒もある食べ物と組み合わせるとスイスイと飲めてしまったりする。一般的には刺身やクリームチーズなどといったものが日本酒に合うとされているが、ヨーグルトやピザ、キムチ鍋やトンカツに合う日本酒だってあるのだ。
日本酒と一口に言ってもその味のバリエーションは広く、日本酒だから必ずこの食べ物が合うとは言えない。また特定の食べ物に合う日本酒が存在しないとも言い切れない。いつも飲んでいるお酒の味がおつまみ次第で劇的に変わるのも、また初めて飲むお酒に合うおつまみをあれこれ試すのも面白い。
何にせよ、お酒が苦手な場合は少量でも何か食べ物を口にしながら飲むとよい。自然とペースが抑えられるので急激に飲みすぎることがなく、また口の中の味がリセットされて飽きずに楽しめる。冷奴や茸のおひたしなどを用意すれば、油脂も肉も使わない低カロリーなおつまみとして楽しめる。野菜だけでサッとおつまみが作れるのも日本酒のいいところだ。


日本酒の楽しみ方に正解はない。嗜好品なのだから、自分が美味しく楽しめればそれが一番なのだ。
ただ、自分が一度飲んで美味しいと思ったお酒と似た味のお酒を探せる程度の知識があればより地雷を踏む確率が減るので、機会があればそのための情報も公開したい。


この日本酒定期購入プロジェクトでは初心者でも飲みやすい味の物を中心に選ぶつもりなので、これを機に少しでも日本酒愛好者が増えてくれると嬉しい。ぜひ、皆様も日本酒をより楽しめる工夫を教えてくださると幸いです。