大学時代の友達からメールが届きました。
チャイコフスキーの序曲1812年の収録されてるCDでお薦めある?
最近、映画で公開された「のだめカンタービレ」の劇中でこの曲が使われたようです。彼も映画を観て、影響を受けたようです。せっかくなので、自分の持っているディスクを比較試聴してみました。
ロリン・マゼール盤
チャイコフスキー:1812年
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
曲名リスト
1. 大序曲「1812年」op.49●ベートーヴェン:
2. ウエリントンの勝利op.91●チャイコフスキー:
3. スラブ行進曲op.31 ※〈CDテキスト〉
Amazonで詳しく見る by G-Tools
珍しい合唱曲付きバージョンです。演奏は並。きっちり押さえるところは押さえて、実に堅実な演奏をしてくれます。10 分以降のクライマックスで、合唱が入る都合上テンポが遅くなります。それが気に入るかどうかが、この演奏を楽しめるかどうかの分かれ目になるでしょう。気にならなければ、クライマックスに入る合唱部分が曲を更に盛り上げてくれるのでお気に入りの一枚になると思います。大砲の音はしっかりとマイクに入っていて、一番大砲らしく聞こえました。大砲の音だけ楽しむのであれば、おすすめの一枚です。
コンスタンティン・シルヴェストリ盤
Silvestri: The Collection (Box Set)
Bela Bartok
ボーンマス交響楽団。
コンスタンティン・シルヴェストリの 10 枚組ボックスに含まれています。Amazon だと 10 枚で 8000 円ほど。割安感はありますね。
シルヴェストリ盤は怪演というのでしょうか? 本来、「1812 年」はナポレオン軍を防衛するロシア側の戦いを描いた作品なのですが、何故かカリブの香りがする演奏になっています。演奏するのは、ボーンマス交響楽団。イギリスの交響楽団です。どこをどう間違えれば、そうなるのか分からないのですが、とにかくカリブの香りがするのです。もちろん、「寒さ」も感じます。でも、その寒さはロシアの寒さではなくて北欧のそれのように感じます。不思議です。怪演です。
盛り上がり所の大砲は、一番派手かもしれません。スピーカーがちゃんと鳴らせるかどうかは別にして、バンバン鳴らして景気がいいです。でも、もしかしたら、この大砲もカリブの海賊達が打っているのかもしれません :p
カラヤン盤 (1966 年録音)
チャイコフスキー:1812年
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
曲名リスト
1. 大序曲「1812年」op.49
2. スラヴ行進曲op.31
3. 幻想序曲「ロメオとジュリエット」
4. イタリア奇想曲op.45
Amazonで詳しく見る by G-Tools
流石帝王カラヤン。こういう曲をやらせるとメチャクチャ上手いです。マゼールも上手なのですが、一枚上を行きます。表現の細やかさ、緩急の付け方、盛り上がりの出し方。どれも一流です。
曲は合唱から入ります。しかし、合唱が入るのは曲頭だけです。マゼールのようにクライマックスに合唱は入りません。これは合唱が入るとテンポが遅くなって、曲の盛り上がりに欠けるという判断でしょうか? カラヤンの意図は分かりませんが、クライマックスもテンポを落とさず演奏し切っていて気持ちの良い演奏に仕上がっています。
ただ、大砲の音はいま一つマイクに入り切っていないようです。他の演奏が良いだけに、少々不満を覚えるかもしれません。
カラヤン盤 (1958 年録音)
カラヤンの The Complete EMI Recordings Vol.1 (87 枚組) に収録。フィルハーモニア管弦楽団。ステレオ録音。
66 年録音と比べると、演奏・録音の質ともに低いように思われます。かわりに、66 年のカラヤンにはない勢いと、とても良くマイクに入った大砲の音を聞くことができます。ボックスを買おうとすると大変入手が難しい上に、値段も半端ではないので、余程のことがなければ手を出さないでも良いでしょう。ただ名演の一つであることは確かです。
メンゲルベルク盤 (1940 年録音)
The 20th Century Maestros (Box Set)
Johann Sebastian Bach
コンセルトヘボウ管弦楽団。モノラル録音。
私が持っている中で、一番古い演奏です。The 20th Century Maestros という指揮者の名演を集めた 40 枚組ボックスに集録されていました。Amazon だと新品で 1 万円を越えてしまいますが、中古だと 4000 円程度で手に入ります。録音の古い演奏ばかりですが、これは、という名演も含まれているので侮れないボックスです。
演奏は超一流です。古い録音ながら、ニュアンスの細やかさ、弦のしなやかさ、管の奔放さが伝わってきます。演奏だけを取れば、私は 66 年カラヤン盤よりもこちらを好みます。血の熱くたぎる名演です。
大砲の音は、録音が古いだけあって、全くマイクに入り切っていません。しかし、それが丁度良いのです。下手に大砲の音ばかり良く入っていたり、スピーカーが再生しきれないよりも、丁度良いバランスで大砲の音が入っていて、全体の演奏の流れを崩しません。「大砲」の音を聞きたいのならばともかく、「1812 年」の名演を聞きたいのであればおススメの一枚 (ボックス?) です。
カンゼル盤
Tchaikovsky: 1812 Overture & Other Orchestral Works [Hybrid SACD]
Pyotr Il'yich Tchaikovsky
曲名リスト
1. 1812 Overture, Op49
2. Polonaise From Eugene Onegin, Op.24
3. Capriccio Italien, Op.45
4. Marche Slave, Op.31
5. Waltz From Eugene Onegin, Op.24
6. Festival Coronation March
7. Cossack Dance From Mazeppa
Amazonで詳しく見る by G-Tools
この CD は、私が持っているものではありません。オーディオの試聴会で聞いたもので、その時のメモを参考に書いています。
カンゼル盤は、とにかく大砲の音がすごい。試聴会の席での蘊蓄では、空砲ではなく実砲を使って録音したとか。弾ける大砲。大砲の音だけ聞きたいという方は、カンゼル盤がピッタリです。目の前で大砲が打たれたようで、体が震えますよ。ただし、貴方のスピーカーがそれ程の音を出せるかどうかは別問題です :p
シモノフ盤
Tchaikovsky: Romeo and Juliet; Capriccio Italien; 1812 Overture
Pyotr Il'yich Tchaikovsky
この CD も、私が持っているものではありません。知人が持っているものを聞かせてもらったもので、その時の記憶を頼りに書いています。
シモノフ盤の目玉は、これまた大砲です。しかし、大砲の音が良く収録されているとか、音が大きいとか、実砲を使っているというのではありません。大砲の数がすごいのです。最後のクライマックス! 大砲がドンド〜ンと鳴るわけですが、シモノフはハチャメチャに大砲を鳴らしまくるのです。
シモノフ盤の詳細は過去記事をご覧下さい。
ドラティ盤
チャイコフスキー:管弦楽名曲集
ドラティ(アンタル)
曲名リスト
1. 大序曲「1812年」op.49
2. イタリア奇想曲op.45
3. 幻想序曲「ロメオとジュリエット」
4. スラヴ行進曲op.31
5. 歌劇「エウゲニ・オネーギン」op.24~ワルツ/ポロネーズ
Amazonで詳しく見る by G-Tools
ドラティ指揮ミネアポリス響の録音を私は聞いたことがありません。ここに挙げる理由は一つ。「ゆらこめ」という本でこの CD が紹介されていたからです。
少し引用しましょう。
いまから半世紀前の録音とは思えない恐ろしく高音質な盤です。この曲には後半に大砲が出てきますが、その背景となるナポレオン時代のものを実際に使っているそうな。それから最後に派手に鳴る鐘。その凄い迫力です。
他人に勧めるというより、いつか買いたいと思っている CD の一つです。
あとがき
駆け足で、自分の守備範囲内の CD を紹介してみました。
堅実に勧めるなら、マゼール盤かカラヤン盤 (66 年録音) でしょうか。2 枚目を買ってみたいなら、メンゲルベルク盤がお勧めです。大砲の音にこだわるなら、カンゼル盤が良いでしょう。
他にこの演奏もお勧めだよ、というのがありましたら、コメントなりトラックバックなり頂けると嬉しいです。