日弁連「保釈保証事業」の見えない担保力
2006年7月、当時の杉浦正健法相は、刑事施設の被収容人員適正化を図るとともに、犯罪者の再犯防止・社会復帰を促進するという観点から、保釈や未決勾留の代替制度を含む、刑事施設外処遇等の在り方について、法制審機会に諮問しました。同審議会は「被収容者人員適正化方策に関する部会」を設置し、同年9月から2009年12月まで26回にわたる会議を行っています。
日弁連は、内部で検討している「保釈保証事業」構想(「日弁連『保釈保証制度』事業構想の不思議」 「不透明な日弁連『保釈保証制度』事業構想」)を紹介する機関誌上で、この部会について、「保釈については何らの成果もないまま、審議を終了している」としています(「自由と正義」2011年1月号、「日本型保釈保証制度の実現をめざして」)。
しかし、この法制審部会では、その時点では具体化されていなかった前記日弁連構想に、関連することになるやり取りが出てきます。2008年5月23日開催の第15回会議。
「保釈保証金を取らずに保釈するということについてでありますが、そこでもちろんこの人とは接触してはいけませんとか、この人が身柄を引き受けますということについて、保釈保証金の没取というような担保措置がなくとも問題がない場合というのは、そもそも身柄を拘束しないのではないかとも思うわけであります」
「保釈保証金というものを仮になくすということを考えるのであれば、やはり、それに代わる効果的な実効力のある担保措置というのが考えられるべきではないのかな」
ここでは、前記日弁連の構想がモデルとしている韓国の保釈保証保険(「韓国『保釈保証保険制度』との距離感」)が紹介され、日本での制度的な可能性が議論されていますが、委員が最も引っかかっているのは、やはり「実効力のある担保措置」という点です。それがいらない状態は身柄を拘束しないでいい状態、つまり、あくまで保釈である以上、ここが生命線だという見方です。保釈条件を守らない場合の没取に代わる不利益措置として何があり得るかということにもなり、保釈条件違反に対する罰則規定という話まで出ています。
「韓国の保険の関係ですけれども、保険でうまくいっているから、保釈保証金というものが要らないのではないかというと、それはちょっとなかなか理解が直ちにしにくいように思われます。と申しますのは、保釈保証金の保険制度というのも、結局、求償権の存在が担保力を持っているという制度であると思われます。求償権も事実上行使していなくて、担保としてやっていないというのであれば、むしろそれは保釈保証金をなくすというのが普通の在り方なんではないかなという気がいたします」
「保釈保証金の保険という制度が、求償権を担保とする制度であるならば、それは結局形を変えているだけで保釈保証金の担保力ということにすぎないのではないか」
求償権の存在の担保力という問題が出てきます。実は、今回の日弁連の「保釈保証事業」構想で保釈が適正に運用されていくかどうかの一つのポイントが、この求償という問題です。日弁連が公表している同構想のスキーム(前出「自由と正義」)によれば、保証機関である全国弁護士協同組合連合会(全弁協)が裁判所の許可に基づき保証書を発行して保釈が実現した(刑事訴訟法94条3項)のち、裁判所が保釈保証金の没取決定をした場合、全弁協が没取決定額を国に納付するとともに、保証委託者に対し、求償権を行使するとしています。
問題は、この求償権の存在が、現実問題として、どのくらいの担保力を持っているのか、ということです。この点に関して、会内外からも疑問の声が聞こえてきます。ここが、現行主流の、保釈保証金の現金納付に見合う抑止力を持てるのかどうかということもできます。全弁協が損保会社を利用する仕組みであることは、保証委託者も承知しているなかで、どこまでとれるのか、どこまでとられると覚悟させられるのか、という話です。
日弁連の構想では、保証委託者には「被告人の弁護人、親族その他の関係者(被告人は除くものとする)」)が想定されていますから、求償は弁護人に対してもなされることになります。もちろん、これは弁護人にとっては、新たな負担であり、リスクです。この事業を全弁協による組合員弁護士への共済事業という位置付けもされるもようですが、この負担とリスクは、果たして理解が得られるものなのでしょうか。
この構想には、これまでも述べてきたように、不透明な点がいくつかありますが、法制審部会委員が言及していた点についても、決定的に不透明な印象を持ちます。
ただいま、「今回の日弁連会長選挙」「検察審の強制起訴制度」についてもご意見募集中!
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日弁連は、内部で検討している「保釈保証事業」構想(「日弁連『保釈保証制度』事業構想の不思議」 「不透明な日弁連『保釈保証制度』事業構想」)を紹介する機関誌上で、この部会について、「保釈については何らの成果もないまま、審議を終了している」としています(「自由と正義」2011年1月号、「日本型保釈保証制度の実現をめざして」)。
しかし、この法制審部会では、その時点では具体化されていなかった前記日弁連構想に、関連することになるやり取りが出てきます。2008年5月23日開催の第15回会議。
「保釈保証金を取らずに保釈するということについてでありますが、そこでもちろんこの人とは接触してはいけませんとか、この人が身柄を引き受けますということについて、保釈保証金の没取というような担保措置がなくとも問題がない場合というのは、そもそも身柄を拘束しないのではないかとも思うわけであります」
「保釈保証金というものを仮になくすということを考えるのであれば、やはり、それに代わる効果的な実効力のある担保措置というのが考えられるべきではないのかな」
ここでは、前記日弁連の構想がモデルとしている韓国の保釈保証保険(「韓国『保釈保証保険制度』との距離感」)が紹介され、日本での制度的な可能性が議論されていますが、委員が最も引っかかっているのは、やはり「実効力のある担保措置」という点です。それがいらない状態は身柄を拘束しないでいい状態、つまり、あくまで保釈である以上、ここが生命線だという見方です。保釈条件を守らない場合の没取に代わる不利益措置として何があり得るかということにもなり、保釈条件違反に対する罰則規定という話まで出ています。
「韓国の保険の関係ですけれども、保険でうまくいっているから、保釈保証金というものが要らないのではないかというと、それはちょっとなかなか理解が直ちにしにくいように思われます。と申しますのは、保釈保証金の保険制度というのも、結局、求償権の存在が担保力を持っているという制度であると思われます。求償権も事実上行使していなくて、担保としてやっていないというのであれば、むしろそれは保釈保証金をなくすというのが普通の在り方なんではないかなという気がいたします」
「保釈保証金の保険という制度が、求償権を担保とする制度であるならば、それは結局形を変えているだけで保釈保証金の担保力ということにすぎないのではないか」
求償権の存在の担保力という問題が出てきます。実は、今回の日弁連の「保釈保証事業」構想で保釈が適正に運用されていくかどうかの一つのポイントが、この求償という問題です。日弁連が公表している同構想のスキーム(前出「自由と正義」)によれば、保証機関である全国弁護士協同組合連合会(全弁協)が裁判所の許可に基づき保証書を発行して保釈が実現した(刑事訴訟法94条3項)のち、裁判所が保釈保証金の没取決定をした場合、全弁協が没取決定額を国に納付するとともに、保証委託者に対し、求償権を行使するとしています。
問題は、この求償権の存在が、現実問題として、どのくらいの担保力を持っているのか、ということです。この点に関して、会内外からも疑問の声が聞こえてきます。ここが、現行主流の、保釈保証金の現金納付に見合う抑止力を持てるのかどうかということもできます。全弁協が損保会社を利用する仕組みであることは、保証委託者も承知しているなかで、どこまでとれるのか、どこまでとられると覚悟させられるのか、という話です。
日弁連の構想では、保証委託者には「被告人の弁護人、親族その他の関係者(被告人は除くものとする)」)が想定されていますから、求償は弁護人に対してもなされることになります。もちろん、これは弁護人にとっては、新たな負担であり、リスクです。この事業を全弁協による組合員弁護士への共済事業という位置付けもされるもようですが、この負担とリスクは、果たして理解が得られるものなのでしょうか。
この構想には、これまでも述べてきたように、不透明な点がいくつかありますが、法制審部会委員が言及していた点についても、決定的に不透明な印象を持ちます。
ただいま、「今回の日弁連会長選挙」「検察審の強制起訴制度」についてもご意見募集中!
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