「なんとかさん」という名で活動しています。主にナンセンスな物語を公開しています。
作品紹介:
ナンセンス物語
★郵便受けの愛 ★曲がる鼻 ★バードとボーン ★お気に召すまま
★くだらねぇ ★いろどりじゅーす ★おもめのしょうせつ ★じんにん
★さんぷる ★みゃーみゃー猫魂 ★姉 ★でたらめフレーム
★理性の悲鳴 ★トリック ★もっと前に ★のっぺりサンドイッチ
★ある色 ★吹き出し ★切実なチョコレート ★ピーマンと玉ねぎのワルツ
★ちょこれゐと ゐず びゅうてぃふる ★デリケート ★わらいばなし ★けっかい
★かびんとほこり ★夢VS夢 ★あれとこれ ★怪獣が
★五雷食堂のカレーライス ★短絡的思考の見本 ★疎遠な仲間達(酔っ払い?) ★ごった煮
★そうあれる瞬間 ★かちろん ★流行らないそう ★お約束
★とことんなつ ★扇子 ★難扇子 ★フラジャイルに囚われて
★り婦人 ★ようせい ★人力にゃんこ ★熱さまし
★流れるもの ★あてなし ★ノスタルジックな人形劇 ★猫のような人
★じょうけんはんしゃ ★吠える獣 ★蛇年に ★王様は過剰装飾
★ネコ話 その1 ★もしもし亀さん ★つくしんぼう ★おち
★すりこみのーと ★オンリー ★だんでぃずむでいらいと ★あめらんこりー
★切れない包丁 ★張り出しケンジ ★だきあわせベッドタウン ★飛べるねとべる
★背中で語るな ★要素はよそう ★話にならない話 ★虚しさの奏でる音
★まっさらな ★さるディニーニャ ★禁じに近似 ★無内容の
★はんてい ★私という君 ★ぜんひてい ★シーディー対いーえふ
★類型A ★何とも言えない味 ★ガラクタの町 ★あれれ
★顔に酢 ★あそびたいのさ ★オチない ★「意味がない」という事の体験
★関係ない関係 ★いやな食事会 ★ガムの思い出 ★ぐにゃにゃするもの
★ありがとう畑 ★にゃんにゃんこにゃんこ ★正気の沙汰 ★余白に込めた思い
★何だ乱打 ★らいふ ゐず ちょこれゐと ★激しく無駄な、エトセトラ ★苺の友達
★ちょっとだけメッセージ ★アツい子 ★我々が住んでいる世界に、住んでいる、我々とは呼びたくない我々
★ちょこれいと まいんど ★ねこかわさんの動画 ★そばの蕎麦屋 ★ぐちいんふるえんす
★けちょんけちょん ★TNTな毎日 ★足りてますか?エナジー ★馬鹿者どもの共演
★ぷりいずぷりいずへるぷみい ★ちょこれーと・りたーんず ★ねこかわさんの動画(後) ★気分爽快
★父親として ★「そうかい」感 ★食にまつわるエレキテル
★めんどめんど ★超絶 ★ぎりぎりに虹 ★失敗
★手に入れた経緯 ★かのデリバリーを待ち ★都合をつけてボルドネス ★はしごして、おくのほそみち
★楽しく踊る ★立て掛けて窓際 ★よく分からない絆 ★吉岡家の食卓~肉喰いジルバ~
★安定C ★めらねったー(前編) ★めらねったー(後編) ★金物細工師的な
★南国気味 ★げえむ談義 ★結社とたらこ ★黄金旅程のその後で
★ふくらし粉バーゲンセール ★作戦ダイナキント ★ホロスコープ越しのマイウェイ
★べたなんじゃー ★さぷらいず・干し芋 ★弾丸ボッシュート ★ちょこれいと・りばいばる
★あず・ゆー・らいく ★スーミーとの出会い ★斜交いに蓮買いに カニカマと匂い ★雨雲にアイニージュー
ガララシリーズ
★憂いのガララ ★流離のガララ ★魅惑のガララ ★眠りのガララ
★お嬢様の退屈 ★運命のガララ ★ガララの里 ★ガララ対策委員会
★ガララ輸送計画 ★ガララの明日 ★ガララの旅 ★安らぎのガララ
完結
そらまちたび
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫ ⑬ ⑭
完結
徒然ファンタジー
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27 28 29
30 31 32 33 34 35 36 37 38
39 40 41 42 43 44 45 46 47
48 49 50 51 52 53 54 55 56
57 58 59 60 61 62 63 64 65
66 67 68 69 70 71 72 73 74
75 76 77 78 エピローグ
完結
・登場人物紹介
ステテコ・カウボーイ
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫ ⑬ ⑭ ⑮
完結
ボクらのぼんくら
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫ ⑬ ⑭
ナンセンセンス物語(ナンセンスなんだか意味があるんだかよく分からない物語)
★てつがくねこ ★秋晴れ ★けんりのねこ ★ぶんがくねこ
★隠れた王子 ★体験 ★あんばらんす ★こけしに焦がれる
★何でもない日 ★安眠枕 ★猫通り ★盛るミス
★こうこつねこ ★黒い羽根 ★保管 ★タンジェントの嗤い
★ねこつんでーれ ★動きだした時 ★政治口調 ★グローバルマン
★任意の戦い ★焼き肉の日 ★擬態男子 ★ハッピーアイランド
★けいさんねこ ★かしょうねこ ★ぐるめねこ ★最高のパスワード
★てれびねこ ★運命はなんぞ ★嫉妬して猫 ★春へ
★別の世界で ★ねこせらぴー ★捧げられた変奏 ★肩慣らしに捧げる不届きものの賛歌
★素敵なダイアログ ★魔法使いメリーちゃん ★固形物と供に ★夕陽の答え
★雪のない夏 ★いなかのまじゅつ ★風のない日 ★微妙なステージ
★いじわるにっき ★リマーク ★ここまで来た 一つの道
★貴方へ ★さがして ★憧れと空 ★頼もしい何か ★何処かに何かを
★なっしんぐ ★ナイーブな曇り ★そんな世界を ★こんなコーヒーのCMがあったら
★だけど、それは ★花火を見に ★演じ得る ★演じぇない
★休憩地点 ★TO YOU ★演じぇないⅡ ★呼び名 ★my dear
★リフリジレイター
境界の店
境界の店 白い猫 現実とファンタジー 猫との戯れ ニアミス 成長
進展 起りはじめる事 桜咲く 衝撃 コンサート終わり 朝河氏
『大宮望』 N市観光 一日の終わり 絵をめぐって 朝河氏の帰還
大掃除 「そら」 繋がる世界
完結
掌のワインディングロード
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫ ⑬ ⑭ ⑮ ⑯ ⑰ ⑱ ⑲ ⑳ ㉑ ㉒ ㉓ ㉔ ㉕ ㉖ ㉗ ㉘ ㉙ ㉚ ㉛ ㉜ 33 34 35 36
完結
カーテンの申し子
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫ ⑬ ⑭ ⑮ ⑯ ⑰ ⑱ ⑲ ⑳ ㉑ ㉒ ㉓ ㉔ ㉕ ㉖ ㉗ ㉘ ㉙ ㉚ ㉛ ㉜ ㉝ ㉞ ㉟ ㊱ ㊲ ㊳ ㊴ ㊵ ㊶ ㊷ ㊸ ㊹ ㊺ ㊻ ㊼ ㊽ ㊾ ㊿ 51 52 53
完結
物語: 「ATJ あなざー」
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫ ⑬ ⑭ ⑮ ⑯ ⑰ ⑱ ⑲ ⑳ ㉑ ㉒ ㉓ ㉔
完結
物語:「スカイ・ブルー」
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫ ⑬ ⑭ ⑮ ⑯ ⑰ ⑱ ⑲ ⑳
㉑ ㉒ ㉓ ㉔ ㉕ ㉖ ㉗ ㉘ ㉙ ㉚ ㉛ ㉜ ㉝ ㉞ ㉟ ㊱ ㊲ ㊳ ㊴ ㊵ ㊶ ㊷ ㊸ ㊹ ㊺ エピローグ
完結
物語:「アルブロガー」
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪ ⑫ ⑬ ⑭ ⑮ ⑯ ⑰ ⑱ ⑲ ⑳ ㉑ ㉒ ㉓ ㉔ ㉕ ㉖ ㉗ ㉘ ㉙ ㉚ ㉛ ㉜ ㉝ ㉞ ㉟ ㊱ ㊲ ㊳ ㊴ ㊵ ㊶ ㊷ ㊸ ㊹ ㊺
完結
小説: 「淡く脆い」
① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧ ⑨ ⑩ ⑪
⑫ ⑬ ⑭ ⑮ ⑯ ⑰ ⑱ ⑲ ⑳ ㉑ ㉒
㉓ ㉔ ㉕ ㉖ ㉗ ㉘ ㉙ ㉚
完結
短編
★見つめられて ★贈り物 ★気の早いクリスマス ★この世界は
★キープユアマインド ★酔え酔え ★夏のモノローグ ★色々な色
★空を見上げた気持ち ★春を告げる ★未知に満ち ★待ち詫びた日のこと
★high collar ★蝉時雨を浴びて ★エールの続き
あとは日記を時々書いています。
X(twitter) @nonsensky
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まなざしの先にある空の青はいくらか薄く、「うたかた」というフレーズが胸に残る曲のリズムのままに歩く。新たな年の始まりは想像していたものよりも心地よく、手渡させるものがどこかにあるよう。
世界
絶えず求めているというでもない。時々求める。色々なことを想う時間は、ないまぜなものを空に放つように。あたたかな光の中で、たしかに笑顔で。
・・・・・・
時折ささやきのような囀りが聞こえてくる。一呼吸ついた時間に心から願っているものの訪れを思い浮かべ、それが何だか甘い響きを持っているようにも。外気はまだ冷たいけれど、心強い言葉が立ち現れる。
『それも含めて世界とのダンス』
いくらかやれたように思う。
☆☆☆☆☆☆☆
お世辞にも寝相が良いとは言えない人間ではあるけれど、目覚めて上下逆さになっている事に気づいた時の驚きはそこそこのものだった。そんな冬の朝に、駅前の駐輪場で防犯の啓発活動に従事しているらしい地元のマスコットに出くわす。配られたクリアファイルには地元に縁のあるアイドルがプリントされていて、意外と価値がある品なのではないかと。
「ありがとう!」
景気付けにと思って声を掛けると、どことなく愛嬌のある柴犬をモチーフにしたマスコットが手を振ってくれる。こういう場面があると巷に溢れている『推し』の感覚が朧げながら浮かんでくる。そういえば知り合いにグッズの制作、販売を手掛ける業者の人がいたのを思い出した。本業には直接関係はないのだが、何かの参考になると思い、
『自治体などからローカルキャラのグッズ制作依頼とかって意外と多かったりするのですか?』
とメッセージを送ってみたりしたところ『売れ行きはやっぱり知名度に比例しますからね。私のところでは数はあまりないですね』との返答を得た。これが有名なキャラのご当地だと話は全く変わってくるのだろう。ほのぼのとした雰囲気とは裏腹に現実はシビアなものだと感じ。
そして何を思ったか、多少の絵心があるつもりの「一般人」は某サイトにマスコットの応援イラストを投稿してみたのである。バズらせるつもりなどは毛頭なく、またバズる気配もないだろうと思ってはいたが投稿した翌朝珍しく「いいね」が数件ついた。
<どうしてこんなに付いたんだろう?>
気になって少しリサーチしてみたところ柴犬のマスコット、半年前に誕生した『ワンダーラ』は地元名所の『湾』に掛けて命名されたキャラクターで舌をだらりと垂らす少しとぼけた表情が見方によっては『ちょっと危ない』感じに映るらしく、そういう視点で微妙に笑いを誘うらしい。実際、ネット上に投稿されている動画の中に【どうしてこうなった】という簡易のテロップが施されたものが存在し、その投稿の返信欄も思いの外盛り上がっている様子であることが分かる。
そして自作のイラストを見直してみたところ、『現物に忠実に』と心掛けた甲斐もあってその「ちょっと危ない」感じが意図せず現れている模様。念の為、現在は隣県に住んでいる姉の方に画像を送信し評価を求めたところ、
『なにこの変なキャラクター?りょうもおかしいって言ってる』
と返信が来た。5歳になる甥のりょうくんもそう言うのだから『インパクト』は間違いなくあるのだろう。そういう話ならばと、夜食のカップ焼きそばを頬張りつつ夜な夜な『ワンダーラ』の応援イラストを制作し始めるに至った。
☆☆☆☆☆☆☆☆
気候的にも『春の訪れ近し』という日々がやってきて、各所でイベントごとが増える時期。都合で市役所を訪れた際に一枚のパンフレットを手に取り、「これだ!」と思った。いそいそと姉に電話を掛ける。
『あ、もしもし?今大丈夫?』
『うん、大丈夫だけどどうしたの?』
『この間りょうくん、『ワンダーラ』に会いたいって言ってたよね』
『言ってた。会えるの?』
『今月『ワンダーラ』とのふれあいイベントあるよ』
中の人などいない…『ワンダーラ』が参加するイベントにどれくらいの人が訪れるのかは未知数な気もするが、市のイベントだけあって参加費も無料だし自作のイラストがきっかけで甥のりょうくんの最近の推しは『ワンダーラ』になっていた。『ワンダーラ』関連で投稿されたイラストの数は2ヶ月余りで30件にのぼり、その半分は自分のものという特殊な状況ではあるが結構いい数字ではなかろうか。中でもそこそこ名の知れた絵師が『ワンダーラ』の特徴をやや過剰に強調した作品を投稿し、
『狂気が見え隠れする』
と『界隈』で受容されていったのはハイライトと思う。ただ、当然ながら個人的には『原作』へのリスペクトは一定数必要だと感じていて、自作のイラストはあくまで『忠実さ』をずっと心掛けている。忠実にすればするほど何かが際立ってしまうような気がしなくもない。イベント当日になり、
「おじちゃん!こんにちは!」
天使の血筋を引いている(と勝手に思っている)りょうくんが満面の笑顔を向けながらこちらに駆け寄って来てくれた。姉はいつものように困った表情でその様子を見守っているが、周囲を見渡しても同じような年頃のお子さんの姿は極端に少ない。姉が不安そうに、
「本当に『ワンダーラ』くるの?」
と訊ねてきたが、こちらも念の為市役所の人に確かめていたから大丈夫な筈である。そしてイベントがぬるっと始まり、いわゆる「うたのおねえさん」を思わせるようなマイクを携えた司会進行の女性と共に正面の壇に現れた『ワンダーラ』に一斉に視線が注がれる。好天に恵まれた屋外の会場にはまばらではあるが拍手が巻き起こり、キャラクターの紹介が始まったと思ったら意外なほどあっさり『握手会』が始まった。隣で目を輝かせているりょうくんの姿を見て、少し安堵したのと同時に嬉しくなる。
りょうくんと手を繋いで列に並び、壇上に上がり自分達の番が来て…
「絵にそっくり!!」
握手する直前、『ワンダーラ』の姿をまじまじと見たりょうくんが放った言葉に『ワンダーラ』も少し驚いた様子。二人でもふもふとした『前足』と握手をしながら司会の『おねえさん』に、
「実は私、『ワンダーラ』のイラスト投稿してたんですよ」
と照れながら告白。おねえさんは「ええぇ〜!ありがとうございます!」と結構なテンションで喜んでくれた。そして、何を思ったか『ワンダーラ』は突然近づいてハグをしてくれたのである。
【ありがとう】
あの時『ワンダーラ』から聞こえてはいけない「声」が聞こえたような気がする。なかなか渋い声だったように感じたが、なんだか可笑しいのと嬉しいのとで思いっきり笑っていた記憶。当然ながら、りょうくんもハグを求め、それ以後は求めに応じてハグをし続けた『ワンダーラ』。
「『プロ根性』って凄いよなぁ」
そう、なんとなく呟いた言葉を引き継いで姉がこんなことを言った。
「わたしもすっかり『推し』になった。グッズとか無いのかな?」
その日の会場では『ワンダーラ』の唯一のグッズである缶バッチが販売されていた。もしかしたら別なグッズが登場する日もそう遠くないのかも知れない。
何かの代わりに愛を叫ぶような事だとしたら、なんて自分でもどうしようもないなぁと思ったり。求め合うものがいつだって一生懸命なところにあって、たぶん今もそう。
微笑ましい気持ちで見ていてくれたらと思う。飾り方はよく分からないけれど、プレゼントを渡すつもりで。
新しい始まりに、ありがとう。
駅のホーム、隣で泣けてくるほど懐かしいCMソングを口ずさんでいる人がいたのを切っ掛けに、そのお菓子が今でも販売しているかどうか気になる。残念なことに数年前に諸事情で終売となってしまい、今や幻の味となってしまったことを知った。子供が好きそうなグミ、着色料で鮮やかな紫のぶどう味を好んでいた覚えがある。
「あー、覚えてるかも」
何気なくその事を彼女に話してみたら少し面倒そうな表情で記憶を思い出してくれようとしている。
「でもSNSか何かで最近それ見たような気がする」
「なんですと!?」
前々からやたら家電の良し悪しがすぐに分かるとか自分の彼女が意外と情報通であるとは思っていたが、関心の無さそうな商品もチェックしているとは驚きである。
「たしか…そうそう、F県のどこかで製造している工場があるとか無いとか」
「なんでそんなピンポイントな情報を持ってるの?」
「たまたまだよ、たまたま。ちょっと待ってて、今調べてみる」
と言ってスマホで何やら調べ始め、数十秒と経たないうちにF県ローカルのニュース記事を見せてくれた。
『ユニコーン菓子(株)』
記事の中では耳馴染みの無い企業の名前が登場する。全国でも販売しているような比較的メジャーなキャンディーやグミを製造する工場がF県のN市という所に存在するらしく、件の懐かしグミを販売していたこれまた知名度の高い会社が製造を終了した後、この『ユニコーン菓子(株)』からパッケージを変えてほぼ同じグミを地域限定商品として地元のスーパーなどに商品を卸しているそうだ。
「えっ?ってことはF県には同じ味のグミが売られてるってこと?」
「そういう事なんじゃない?知らんけど」
『いや、知ってるでしょ』という無粋なツッコミはこの際辞めにして、早速『ユニコーン菓子(株)』から販売されているというグミをネットでチェックしてみる。
「あ、マジだ!すげえ!」
地域限定とはいえ確かに現在も販売されているという『事実』に感動してしまう。それと彼女のリサーチ力にも同時に感動している。
「よかったね。ところで、来週どこか出掛けない?」
「F県行こう。車で」
「え?まさかグミのために?」
「さすがにそれはダメか。まあいいや、ネットでも買えるかどうか調べてみる」
彼女の言葉でグミが目的で県外に出掛けるというのもおかしいと感じてしまい、諦めて別の候補地を探していたところ「ちょっと待って!」と手で制された。
「もしかしてN市って、この間『ドライブイン』の番組やったところじゃない?」
「あ、そういえばそうだね。例のドキュメンタリーだよね」
「私、あのドライブインには行きたいと思ってたんだよね」
そう言って上目遣いでこちらを見つめている。昭和の雰囲気が今でも残っているN市の某ドライブインは番組放送後、反響で大賑わいだという。まさかグミと繋がる展開とは想像もしていなかったが、今思うと『N市へ行け』というお告げだったのかも知れない。
☆☆☆☆☆☆☆☆
土曜日、混雑を見越して早いうちから高速で一路N市へ。比較的隣県であった為、1時間もするとF県に入りそこからN市のインターまでそう時間は掛からない計算。助手席で「スタミナか?それともモツ煮か?」と呟いている彼女は、親切にも誰かがネットに投稿したドライブインのメニュー表の画像を見つめていた。
「調べたら、インター降りてすぐにスーパーあるんだよね。そこにあるだろうか?」
「あるんじゃない?なんとなく」
結果的に彼女のその予感は正しかった。N市のインターで降りて横に見えた真新しい装いのスーパーに車を停めて少しソワソワしながら入店して、菓子売り場でグミを見つけた時には「おおぉ!」と感動の声が出てしまった。
「ほら見て!ちゃんとあった!しっかり『ユニコーン菓子』だ」
裏のパッケージを見て現物を確認して見せると、彼女も嬉しそうに微笑んでいる。
「聡(さとる)のそういう顔見れて私も嬉しいよ」
『なんて出来た彼女なんだろうか』と思ったが、次の瞬間には顔が切り替わって「じゃあドライブイン行こうか!」と弾んだ声が飛んでくる。付き合ってそこそこ時間は経っているが、彼女このテンションは過去一かも知れない。恥ずかしげもなくグミを大人買いして、ホクホクした心地のままドライブインまで向かう。この時の自分は想像もしていなかった、到着したドライブインの混み具合に。バイパス沿いに存在するドライブインに到着したのは午前中にも関わらずギリギリ駐車できたというような状況で、店の外にも並んでいる人達が既にいた。
「え…やば、、、」
車を降りたところで混み具合で断念して引き返してしまう人もいるくらいで、「やっぱりか」と彼女が言っているのはこれを覚悟していたという事なのだろう。とりあえず二人で列に加わり、入店できる時を待つ。ただし屋外は少し肌寒く、なかなか動かない列にしびれを切らしそうになる。
「あ、そうだひらめいた!」
彼女にそこで待ってもらったまま一度車内に戻り、ある物を手に舞い戻る。
「え?何か持ってきたの?」
「うん」
例のグミを持ってきたのだ。これを待ち時間に味わうのはいいアイディアだ。パッケージを開けて口の中に慎重に放り込む。嗚呼、その時感じた感情は何と言えば良いものだったろうか。圧倒的な懐かしさと、大人になってその思い出の味は子供の頃に感じていた甘酸っぱいような、胸にキュンとくる感情というか、そういうものがないまぜになって一遍に心に押し寄せる。奇しくもこちらも「昭和」を感じさせる古き良き建物という感じなので、タイムスリップしたような心地になれた。
「私にも頂戴」
彼女はそれを食べて「へぇ〜」という声を出していた。場面は少し特殊ではあるけれど、<こういうのもいい思い出になるよな>と思いかけたところで列が進み、念願叶って入店する事が出来た。テレビ番組でも中の雰囲気が伝わるように編集されていたけれど、全体的に年季が入って古びてはいるが最初時が止まっているかのような錯覚に陥る。感動しているらしい彼女はスマホで至る所を撮影している。『壁の傷みの具合』とかよく分からない場所さえも彼女の琴線に触れるらしい。
「最高です。今日ありがとう!」
お礼を言われたが、前払い式のドライブインの店内ではレジ前から列が続いている。自分にとっては新鮮な雰囲気だったので店の中を眺め回したり、店内で既に料理を待っている他のお客さんの様子を参考にしながら色々考えていたのでそこまで苦にはならなかった。
「スタミナ定食と、モツ煮定食」
自分達の番で注文を済ませ、お座敷のテーブルで料理を待つことにした。彼女は店内で売られているTシャツとかエコバックといったグッズに興味津々だった為、店内をうろうろしている。結果的に一人で待機している時間になったのだが、お座敷で隣合うテーブルに座っている小さな女の子としばし目が合う。女の子はどこか不思議そうな表情を浮かべつつも、途中から何故か嬉しそうに微笑みかけてくれる。天使ってこういう感じなのだろうかと思わずこちらも笑顔になってしまったが、そこでグミのことを思い出した。
昔、添加物を気にしてか母親に『グミはダメ』と言われる事が多かった。自分だったらともかく、子供の事を考えるようになれば与えるものにも気をつけるようになる。そこで少し調べてみると子供にも安心というようなグミも最近では販売されているとのこと。なるほど。
「ただいま」
彼女がグッズを抱えて戻ってきた。フォントが特徴的な「Tシャツ」は本当に着るつもりなのだろうか。前々から思っていたが、ちょっと変わった趣味のある彼女である。しばらくして料理が運ばれてきて、二人でお互いに二種類を分け合いながら味わう。どちらも美味であった。名残惜しくも店を立ち去ろうとした時に再びあの女の子と目が合う。「バイバイ」と手を振ってみると、その子も手を振ってくれた。
「子供って可愛いんだな。でもグミあげる時は添加物に気をつけないといけないんだってさ」
「え?子供欲しいの?」
「あー、欲しくなったかも知れない」
本当に何の気なしに言った言葉だったけれど、彼女が妙にソワソワし出したのを見て自分の言葉に秘められた『意味』に気づいた。
「あ、その…今すぐにとかではないけど…」
その言葉も何故かは分からないが意味深になってしまっていて、何かを誤魔化そうと車を運転しながら必死にグミを頬張るのだった。
求められているか、なんて事があるとしたらと思う。求められることはその関係の中では素敵なことで、欲しいものが「想ってますよ」の言葉だったらどんなにか望ましいものだろう。
いつも出来るだけ、いつも照れ隠しを押し殺すように、いつもよく分からないままで。
どこかコメディーのような、もっと大真面目なような、そんな中でもたぶん、「あなたが素敵だから」というセリフは声にしてみたい。