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2008年 03月 30日
Nature 452 20 March 2008に掲載された Dreber, A. et al.の"Winners don't punish"がムチャクチャ面白い。その紹介を。
ゲーム理論の一番有名な問題は「囚人のジレンマゲーム」であろう。囚人のジレンマゲームは、ここやここを見ると概要がわかる。簡単にいうと、囚人のジレンマゲーム自体は、東西冷戦を背景として1950年代にランドコーポレーションの研究者が問題として提示したものだけれど、1970年代に政治学者であるロバート・アクセルロッド(Robert Axelrod)が、研究者の参加を募りコンピュータ対戦実験をして、ある戦略が優位になることを発表したことが有名になったキッカケだ。その後、アクセルロッドは理論進化生物学の権威であるウィリアム・ハミルトン(Wiliam D Hamilton)とともに、進化生物学的な文脈に協力という行為が生成する旨の論文を書いて、囚人のジレンマゲームを学問的に生物学として着地させることができた。ただし、協力が社会的な進化の過程として出現したと言った最初の人は、ロバート・トリヴァース(Robert Trivers)なのだけれど(トリヴァースの「生物の社会進化」は名著である)。アクセルロッドとハミルトンの論文は、ジャンルを超えていろんなところに引用されまくっていて、超有名である。で、その超有名なコンピュータ実験や論文の結果は次の通り:繰り返し型の囚人のジレンマゲームでは、協力には協力をもって迎え、騙されたら騙し返せという、「しっぺ返し戦略」が優位にたつ。 そして、Dreber, A. et al.の論文である。この論文では、通常の囚人のジレンマゲームは協力するか(C)、騙すか(D)の二つだけれど、これに罰する(P)を加えた実験デザインを施した。罰する(P)ためには、コストを払わなければならない。この場合、1のコストを支払って、罰する相手に4を支払わせる。ゲームのペイオフマトリックスは左の表どおりで、T1(ペイオフマトリックスはb)とT2(ペイオフマトリックスはd)という二つの実験を行う。 そして、学生を被験者として集めて、繰り返しの囚人のジレンマゲームを行わせたのだ。その結果が次のグラフだ。左の赤いやつがT1で右の青いやつがT2。上から順にペイオフと協力した回数の関係、ペイオフと騙した回数の関係、ペイオフと罰した回数の関係、そしてペイオフのランキング順に被験者を並べて、罰する回数をバーチャートにしたものである。 結論は次の通り: ・協力する回数とペイオフ、騙す回数とペイオフの間には相関がない。 ・罰する回数とペイオフの間には強い負の相関がある。 (傾きはT1では-0.042 p値は<0.001, T2では-0.029 p値は0.015) ・ペイオフランキング別罰した回数のバーチャートからわかるのは、ペイオフ上位者は 罰する戦略を選択しないということである。 さらに騙されたことに対応する反応として、罰を選択する確率とペイオフの関係をみると、下のグラフのように、明らかに負の相関があり、騙されたことの反応として騙しではなく罰を選択するとペイオフを悪くすることがわかる。相関係数は左が-0.81(p値<0.001)で、右が-0.92(p値0.015)である。 以上のことから、協力ゲームにおいては、敗者は騙されたら罰することを選択するが、勝者は騙すことを選択するということがわかる。つまり、勝者は罰せずしっぺ返し戦略を選択する一方で、ムダに罰を与える人間は敗者となるのだ。更には罰する人がいることによって、罰する本人だけでなく、ゲーム全体のペイオフも下がってしまうのだ。罰する本人のペイオフが低いのは、罰するという経済的に不合理なことを敢えて選択することだから当然なのだが、そういった罰する人の存在により、全体も不経済になっていくというのがこの論文の結果だ。 フリーライダーを罰することについては、経済心理学の文脈において、経済合理性とは相容れない人間の不合理な傾向として提示されてきた。それでも人間の社会において罰するという行為が存在するのは、罰することにより協力を促す効果があり、総じてみると全体のペイオフがよくなるからだろう、とされてきた。しかし、この論文では、罰することは全体のペイオフを減らすのだから、全体のペイオフを減じてまでなぜ罰する行為が社会的に進化してきたのかが説明がつかないのだ。そう、この点こそがこの論文が提示しているムチャクチャ面白い論点なのだ。 #掲載した図が汚い…。近くの図書館にあるNatureをデジカメで撮ったのが原因だが、 #そうせざるを得ない理由がある。その理由は、Nature本誌が高すぎるということだ。 #一冊¥7,000を大幅に超えるために一つの記事を読むためだけに買えないよ。 #年間だとあり得ない価格(¥367,500)だし。また、値段が高すぎるせいで最近は都立 #図書館も購読をやめまくっている。その中で武蔵野市立図書館は頑張っていると思う。 #というかさ、このプレプリントサーバーの主流の時代に、論文誌が儲け主義に走って閉鎖 #的になるってえのはどうなんでえ。NatureとかScienceはプレプリントサーバーに載せ #ただけで、掲載される確率が減るという話だし。だから、物理系ではすでにNatureとか #Scienceには信頼できないセンセーショナルな投稿しかされなくなっているのだ。 #物理系では論文がNatureに載っても、研究者の間で眉につばをつける状況がもう #20年前から起きているのだ。 閑話休題 最近、実験経済学や経済心理学の実験の論文の出版量がものすごい。もちろん分野自体が流行っているということがあるのだけれど、この分野のディファクトスタンダードともいうことができるツールがあるのも、論文数が急増している一つの原因だそうだ。僕はこの論文で知ったのだけれど、z-Toolsというチューリッヒ大学の研究者が開発した、Windowsアプリがそれだ。z-ToolsはWindows上で動作するサーバー/クライアントアプリで、計算機実習室などで用いることを想定している。サーバーが勝手に対戦相手をアレンジするので、クライアント側ではダイアログが出て質問に答えればいいだけだ。対戦相手もアノニマスのままで、データの結果をすぐに集計することができる。ゲームのパラメータ設定はGUIなので、特別な知識は必要としない。予め囚人のジレンマゲームや公共財ゲームがプリセットとしてあり、独自言語を実装していて実験デザインのカスタマイズも簡単にできる。今回紹介した論文もこのz-Toolsを用いている。もちろん使用は無料だ(しかし、論文に引用する義務がある)が、ライセンス合意書を郵送しなきゃいけないのが面倒だし、オープンソースソフトウェアでないのも気になる。 こういうのはスクリプト言語でチャッチャカチャと組んで、オープンソースとして公開したほうが、いろいろなプラットフォームに対応できるし、使い勝手がよいし、いろいろな知恵が手にはいるし、みんなが幸せになれるかもね。開発過程自体が「協力ゲーム」になるだろうし。じゃあ、お前がやれって?あ、はい、この分野への興味がこれからも続いたならば、マイTo-Doリストに入れようかと思っています。
by yutakashino
| 2008-03-30 22:04
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