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読書と映画

読んだ本、見た映画について感想を書いています。
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【書籍:SF】 アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

【評価】★★★★★

androids_dream.jpg
著書:フィリップ・K・ディック
出版:ハヤカワ文庫


本書を初めて手にしたのは、映画「ブレードランナー」を見た後、その原作と知ってからのことでした。
本書から受ける印象は、映画「ブレードランナー」のそれとはだいぶ異なるものでしたが、本書は本書で(というのも変な言い方ですが)、感銘を受ける作品で、何度も読み返す作品の一つです。

ストーリーは、核戦争により放射能汚染が進んだ近未来の地球が舞台。
多くの人類が火星など、他の惑星に移住する一方、地球にも少なからずの人類が生活しており、主人公デッカードも、その一人。
また、アンドロイドの開発技術が進んでおり、人類は、惑星移住のための労働力としてアンドロイドを利用しています。
そして、アンドロイドは、外見上は人間と区別がつかず、知性の面でも人間と同等、時には上回ることもありますが、感情面では人間と異なり、特に、他者に感情移入する能力に欠如しています。
アンドロイドの中には、惑星での過酷な労働を嫌って、人間を殺し、地球に逃亡してくる者も少なからずいるのですが、主人公デッカードは、地球に逃亡してきたアンドロイドを殺し、賞金を稼ぐことが生業。
ある日、火星から6名の最新型アンドロイドが、主人公デッカードの管轄地域に逃亡、彼らを仕留めるため行動を開始するデッカードですが、いつしかアンドロイド達に対し感情移入するようになり、自分の仕事に対する葛藤を覚え、苦悩しながら自身を見つめ直すことになる・・・

おおまかに言うと、こんな展開です。

本作に流れる大きなテーマの一つは、『感情移入、共感』だと思われます。
本作の設定では、人類は、自身の感情をコントロールするため、機械に頼っていて、その機械を使えば「職業人として冷静に対処し判断できる態度」だとか、「どんな状況でもテレビを見たくなる感情」だとか、希望するありとあらゆる感情を手に入れることができます。

また、一方で、人口密度の薄くなった地球では、人との接点が少なくなり、孤独を感じやすくなる状況ですが(そんなときは、さきほどの感情をコントロールする機械を使えば良いのですが)、それを癒やすため、他者とのつながりを感じることができる、「共感ボックス」なる機器も出てきます。

「共感ボックス」を使うと、同時刻に同じように「共感ボックス」を使っている人達と感情を分かち合うことができるというもので、「共感ボックス」を使っている誰かが喜びを感じていれば、全員が喜びを感じるし、反対に悲しみを感じている人がいれば、みんなが悲しみを感じるというもの。
「共感ボックス」は、人間の他者への感情移入できる能力を増幅することで、そのような体験を出来るわけですが、アンドロイドは、感情移入能力が欠如しているため、「共感ボックス」を使っても同様の体験はできないという設定になっています。

人類が、感情すら、機械で人工的にコントロールできるような時代になっていても、人間と非人間(アンドロイド)を区別するものは、「他者への共感、感情移入ができるか否か」という点にかかっているというわけです。

この「他者への共感、感情移入」の定義って、すごく難しく、かつ、人間的だなと思います。
「感情移入」の最たる例は、本や映画を見て感動したり泣いたりなんていう体験になるでしょうし、スポーツ選手やチームの活躍に一喜一憂するなんていうことも、広く捉えれば、感情移入の一つなのかもしれません。

また、「感情移入」の対象というのも、考えてみると複雑な気がします。
通常であれば、人や動物など、命ある物に対してということになるのではないのでしょうか(スポーツチームへの感情移入も、チームという無機質なものではなく、チームに所属する選手が対象になっていると考えれば、命ある物への感情移入となるのかなと)。

先日、将棋のプロ棋士がコンピュータに負けるということがありましたが、それを受けての感想として、「例え、コンピュータが完全に人間を超越したとしても、コンピュータ同士の対戦では興味はかき立てられない。心理戦も含めた、人間同士の戦いがあるからこそ、対局が面白いと感じられる」といった趣旨の内容を、結構目にした記憶がありますが、人間や生命を感じられるからこそ、ということがあるのかもしれません。

ただ、一部では、生命のない物に対しても感情移入ができないかと言えば、そんなことはないよなぁと思える点で、感情移入の対象が、生命ある物だけではないという複雑さを感じます。

さて、主人公デッカードは、アンドロイドを殺すという行為について、「アンドロイドは、他者への感情移入することができず、人間とは異なる存在。一見、生命を持っているようにみえても、実は生命を持たざる存在であるから、アンドロイドを殺すことに、何の呵責も感じる必要はない」といった感じの職業倫理を持って、自身の仕事にあたっています。

しかし、逃亡してきたアンドロイドの一人が、オペラ歌手に偽装し、素晴らしい才能を示しているのを見て、そのアンドロイドを殺すことに非常な躊躇を覚えます。
そして、逆に、そのアンドロイドを殺そうとする他の賞金稼ぎの方に、強い憎悪を覚えるという体験をすることになります。

この体験から、主人公デッカードは、ある種のアンドロイドに対しては、感情移入ができてしまうことを自覚することとなり、アンドロイドに感情移入してしまうことが、アンドロイドを殺す賞金稼ぎとしては致命傷になると悩むことになります。

それでも、アンドロイドに対する共感を持ちながらも、1日で、6人のアンドロイドを全て始末する主人公デッカード。
そして、その苦しみの中から、アンドロイドや本物と区別が付かない電気仕掛けの動物(タイトルの「電気羊」は、その種の機械の一つ)にさえ、わずかばかりであっても「生命」が存在するのだとの結論に達します。

この話は、突きつめると、「生命とは何か?」「生物とは何か?」という難題に行き当たるのだろうと思います。

現在でも、「生物」とは、代謝能力を持つ(食べ物を摂取して、生命活動のエネルギーに変換する)、自己増殖能力を持つ(生殖・繁殖能力のことですね)、恒常性維持能力を持つ(外界が変化しても、一定の状態を常に維持できるということ)、自己と外界を明確に隔てられている、といった条件を満たすとする場合が多いものの、「バクテリアは生物(生命)なのか?」など、議論は尽きないようです。

本書で出てくるアンドロイド達は、繁殖能力を持たないので、この定義からすると、「生物」からは外れる存在なわけですが、それでも主人公デッカードの結論は、アンドロイド達は「生命」を持つ存在というもの。

おそらく、その理屈は、
(1)自分が感情移入できる存在できたから、その存在は生命を持っている。
(2)感情移入ができた理由は、その存在が生命を持っているからだ。
と、よくよく考えてみると、循環論法に近いものであろうと思いますが、とにかく、その存在に対して「感情移入」ができるか否かが、その線引きになるということなのでしょう。

現在、コンピュータの発達により、コンピュータの知性(まだ、知性というよりは、計算能力というレベルかもしれませんが)が急速に高まる中、将来的には、感情面でも人間に匹敵する(少なくとも、人間が深い共感や感情移入ができる)ような存在が出てくるのだろうか・・・色々と想像が膨らむ作品です。


【『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』より】
 
アンドロイドも夢を見るのだろうか、とリックは自問した。見るらしい。だからこそ、彼らはときどき雇い主を殺して、地球へ逃亡してくるのだ。奴隷労働のない、よりよい生活。たとえばルーバ・ラフトのように<ドン・ジョバンニ>や<フィガロの結婚>を歌うほうをえらぶのだ。不毛な岩だらけの荒野、もともと居住不可能な殖民惑星で汗水たらして働くよりも。
 



【その他のレビューブログ】
「人間>動物・昆虫>超えられない壁>アンドロイド という厳然たる序列感など、独特の世界観にのめりこむこと間違いなし」とのコメントがありましたが、この「越えられない壁」とは一体何だろうと、本書を読むたびに考えさせられます。

28543034
http://d.hatena.ne.jp/newslife/20090103/1230952599

探本めんさが
http://d.hatena.ne.jp/honokajimon/20130506/p1

文学どうでしょう
http://ameblo.jp/classical-literature/entry-11163467107.html

理系TOIEC930
http://retoeic930.wordpress.com/2013/05/15/%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AD%E3%82%A4%E3%83%89%E3%81%AF%E9%9B%BB%E6%B0%97%E7%BE%8A%E3%81%AE%E5%A4%A2%E3%82%92%E8%A6%8B%E3%82%8B%E3%81%8B%EF%BC%9F/

回廊
http://magazine.kairou.com/06/column/electric.html

アマゾン カスタマーレビュー
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