焦点:キプロス支援策、ユーロ圏の長期存続に疑問浮上

焦点:キプロス支援策、ユーロ圏の長期存続に疑問浮上
3月25日、キプロスの金融支援策が混乱の果てに合意にこぎ着け、ユーロ圏崩壊の危機は回避された。ただしユーロの長期的な存続可能性に新たな疑問符が付くという代償を伴った。写真は2011年、ローマで撮影(2013年 ロイター/Tony Gentile)
[ロンドン 25日 ロイター] キプロスの金融支援策が混乱の果てに合意にこぎ着け、ユーロ圏崩壊の危機は回避された。ただしユーロの長期的な存続可能性に新たな疑問符が付くという代償を伴った。
キプロスの2大銀行で10万ユーロ超の大口預金が凍結されたことを、ユーロ圏各国の銀行の預金者は冷静に受け止めた。銀行部門の規模が過大でロシア財閥の預金を頼みとする、遠い小さな島国など、自分たちとの関わりは薄いと判断したのだろう。
イタリアとスペインの国債利回りは25日、概ね安定的に推移した。いざとなれば欧州中央銀行(ECB)が国債買い入れプログラム(OMT)を発動してキプロス発の危機波及を防ぐとの安心感を反映した動きだ。
スピロ・ソブリン・ストラテジー(ロンドン)のニコラス・スピロ氏は「北部欧州の債権国の思い通りだ。危機波及の懸念は、とりわけOMT導入後はひどく誇張されていると主張し続けてきたのだから。当面のところ危機の波及はない。市場は─その判断の正否は別として─OMTの信頼性と有効性を信じ続けている」と述べた。
しかしスピロ氏は、国際通貨基金(IMF)、欧州連合(EU)欧州委員会、ECBの「トロイカ」が当初、EUの預金保険で保護される残高10万ユーロ未満の小口預金への課税に合意したことで、危険な前例を作ったと指摘する。
欧州の中央銀行関係者は舞台裏で、そしてドイツの銀行は公に、キプロスの金融支援策による影響波及は抑えられるとの自信を示している。
ドイツ銀行連盟(BDB)のアンドレアス・シュミッツ会長は「キプロスの銀行セクターは大き過ぎるし、持続的なビジネスモデルを持たない。従って同国は特殊なケースと見なされるべきで、他の欧州諸国とは比較できない」と述べた。
しかしコンサルタント会社G+エコノミクス(ロンドン)を運営するレナ・コミレバ氏は、金融支援策によって「キプロスにおける1ユーロはユーロ圏のその他諸国における1ユーロと等価ではない」という残念なシグナルが発せられたと指摘。「これはユーロ圏銀行同盟の将来にとって、というよりむしろ銀行同盟不在の将来を告げる、金融システム上重要な合意であり、2014年のスペインの姿を暗示している」と話した。
<国債の買い手は注意せよ>
今回の支援合意は、ユーロ圏破綻銀行の債権者に対する態度が次第に硬化していることの証左ともなった。複数の高官によると、キプロス・ポピュラー(ライキ)銀行のシニア債保有者は損失を被り、バンク・オブ・キプロスの債券保有者も損失負担を迫られる。
キプロス問題を経た今、他のユーロ圏弱体国銀行の預金者や債券投資家がどのような対応を採るかが直近の不透明要素として浮上した。
ギリシャ危機はイタリアやスペインへの波及懸念を呼び、ドイツその他北部欧州国の安全な銀行への預金逃避を引き起こした。
その結果ユーロ圏の短期金融市場は細分化されたが、キプロス問題の勃発でこの状態はさらに長期化、悪化しかねない。
例えば1月、100万ユーロ未満の企業向け新規融資金利はドイツの2.8%に対してポルトガルは6.7%だった。
ECBが優先課題として明言しているのは、金融政策の波及メカニズムを修復し、緩和効果が一握りの国だけでなくユーロ加盟17カ国全体に行き渡るようにすることだ。
ドラギ総裁が昨夏、ユーロ圏救済にあらゆる手段を尽くすと宣言し、OMTを導入したことで、ユーロ圏内における資金バランスの南北格差は徐々に縮小しつつあった。
しかし今、キプロス問題の影響でこの動きが止まる危険性が浮上している。南欧で銀行の貸出金利が高止まりし、景気後退の深刻化を招く恐れがあるのだ。
ポルトガルのエコノミストやブローカーは先週、キプロスの預金者に対してユーロ圏当局者らが「賭け」に出たことについて当惑を口にした。
BPI銀行のチーフエコノミスト、パウラ・カルバリョ氏は「EUは周縁国が直面しているリスクに留意すべきだ。キプロスのような問題の決定責任者は、想定される結果について深く考えるべきだ」と批判した。
<成長、緊縮、連帯感>
Dif(リスボン)のシニア・セールス・トレーダー、ジョアン・ジ・デウス氏は、キプロス問題を最後に危機が幕を閉じる保証はないと指摘する。
キプロス問題の解決策により、ドイツ率いる「北部同盟」は南欧に対して財政規律と緊縮を求めて圧力を掛け続ける決意である、との認識が周縁国全体に浸透したと一部の専門家は受け止めている。景気後退、財政目標達成の失敗、成長抑制的な緊縮財政という悪循環を招くリスクを冒してもだ。
従って本当の危機波及リスクは、オフショア金融という産業を失うことで深刻な不況に向かいつつあるキプロス経済の崩落をきっかけに、トロイカが要求する厳格な政策への反乱に火がつくことだ。
ギリシャを除き、南欧諸国における失業増大と年金削減に対する抗議活動はこれまでのところ平和的なものだった。しかし連帯意識が欠如しているように見えるドイツの態度に対し、反感は拡大しつつある。
投資銀行ダニエル・スチュワート(ロンドン)のチーフエコノミスト、アラスター・ウィンター氏はこうした観点に立ち、キプロス問題がユーロ崩壊に向けた大きな二歩目になったと見なされる日がいずれ訪れるのではないかと言う。
ウィンター氏によると第一歩目は、先月のイタリア総選挙で過半数の有権者が緊縮策に拒否を突き付けたことだ。
ウィンター氏は顧客向けリポートで「欧州諸国の市民はもはや戦争はしないとしても、辛い時期に助け合う意思もまた持たないということを、イタリアの有権者は正しくも指摘したのだ」と論じた。
(Alan Wheatley、Global Economics Correspondent)

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