コラム:米デルが非上場化する本当の理由

コラム:米デルが非上場化する本当の理由
2月5日、買収ファンドのシルバーレイク・パートナーズによる米パソコンメーカー大手デルの買収は、完全に理にかなっていると言える。写真はデルのロゴ。2009年10月撮影(2013年 ロイター/Bobby Yip)
By Felix Salmon
米パソコンメーカー大手デルの創業者マイケル・デル最高経営責任者(CEO)と買収ファンドのシルバーレイク・パートナーズはなぜ、244億ドルもかけて同社を株式非公開化するのだろうか。IT・科学分野のジャーナリスト、クリストファー・ミムズ氏は先月執筆した記事の中で、そのヒントは、同社が昨年に約5億ドルで買収したシンクライアントベンダーのワイズにあり、すべての答えはクラウドにあると指摘している。
同氏は、非上場化が実現すれば、デルは四半期ベースで成長を求める株主のプレッシャーから解放され、シンクライアントとクラウドコンピューティングに再び焦点を合わせることで、驚異的な復活を遂げられるかもしれない、と言うのだ。
デルには現在約90億ドルの負債があるが、株式非公開化に伴ってマイクロソフトから20億ドルの融資を受け、金融機関からのファイナンシングパッケージで150億ドルを調達するため、その額は大きく膨らむことになる。
資本集約的なクラウドコンピューティングの分野で急成長を目指す企業にとっては、そうした負債の返済コストは重くのしかかってくるだろう。株式を非公開化せず、一般株主の目を気にしながら新たなクラウド戦略を発表する方が、デルにとっては得策だっただろうか。
そうではない。シルバーレイクのような買収ファンドは、明確な時間軸と出口戦略を持っており、買収した企業の業績が回復すれば、5─10年以内には相当の利益を手にその会社を手放す。一方、上場株式は永続的な資本であり、株式市場で取引される限り、その時間軸も永続的だ。
ここに2つの点を指摘したい。まず第1に、デルの株価が驚くほど安いという点だ。年間売上高は600億ドルで、純利益は25億ドルを超える。つまりシルバーレイクは、世界3位のパソコンメーカーを1株利益の10倍以下の値段で買収する計算だ。
そして第2に、負債も驚くほど小さいという点だ。ファイナンシングの条件は明らかにされていないが、利率は6%を超えることはないとみている。150億ドルの6%なら年間10億ドルを下回り、クラウドに投資する資金は十分に残る。
米グーグルと米アマゾンという強敵がいるクラウドコンピューティングの分野では、大きな市場シェアを獲得するのは簡単ではない。しかし、シルバーレイクが何を考えているかは明確に見て取れる。デルには、ワイズ買収で手に入れた180件を超える特許があり、莫大な顧客ベースがある。そして、クラウドでさらに資金が必要になった場合に切り売りできる事業もある。
IT業界では現在、売上高や利益を生み出していないような新興企業に莫大な資金が投じられている一方、大手企業の株式はかなりの割安水準で取引されている。シルバーレイクのような会社にとって、今回のデルの買収と非上場化は千載一遇のチャンスになる可能性を秘めている。率直に言って、シルバーレイクがここでデル買収に動かないなら、清算した方が良かったぐらいだ。
もちろん失敗してもおかしくはない。プライベートエクイティとは本質的にリスキーなビジネスだ。
しかし、シルバーレイクが一般株主に比べ、はるかに大きいリスク許容度を持っていることは一目瞭然だ。マイケル・デル氏が主要パートナーとして経営に関与し続けるならなおさら、一般株主にそっぽを向かれたデルを買収するのは完全に理にかなっている。
今のIT業界で大企業が大きなリスクを取るとすれば、アマゾンのようになるか、グーグルのようになるか、非上場化するかの3つしか選択肢はない。デルに残された道は明白だったと言える。
(5日 ロイター)
*筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*このドキュメントにおけるニュース、取引価格、データ及びその他の情報などのコンテンツはあくまでも利用者の個人使用のみのためにロイターのコラムニストによって提供されているものであって、商用目的のために提供されているものではありません。このドキュメントの当コンテンツは、投資活動を勧誘又は誘引するものではなく、また当コンテンツを取引又は売買を行う際の意思決定の目的で使用することは適切ではありません。当コンテンツは投資助言となる投資、税金、法律等のいかなる助言も提供せず、また、特定の金融の個別銘柄、金融投資あるいは金融商品に関するいかなる勧告もしません。このドキュメントの使用は、資格のある投資専門家の投資助言に取って代わるものではありません。ロイターはコンテンツの信頼性を確保するよう合理的な努力をしていますが、コラムニストによって提供されたいかなる見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab