マンガ大賞2017に柳本光晴さんの「響~小説家になる方法~」 圧倒的な才能見せる文学少女描く
マンガ好きの書店員らが選考員となって、2016年に出たマンガから多くの人に読んでもらいたい作品を選ぶマンガ大賞2017が3月28日に決定し、柳本光晴さんの「響~小説家になる方法~」(小学館刊)が大賞に輝いた。
3月28日に東京都内で開かれた授賞式には、作者の柳本光晴さんが登場。「過去の受賞者に誰ひとり知らない人がいなければ、読んだことのない作品もない中に並ぶ。嘘くさいと思いますし、恐れおおいです。ありがとうございます」と、恐縮しながら受賞したことへの感謝を述べた。
受賞自体についても最初は信じられなかった様子で、「仕事中に電話が来て『朗報です、マンガ大賞を取りました』と言われ、『誰が』『響が』と何度かやりとりしました」と柳本さん。ようやく納得して、「アシスタントとハイタッチをして喜んでいたら、その子が名言を言ってくれました。『先生、漫画は絵じゃないってことが証明されました』」。実際には絵もしっかりとしているが、受賞作は何よりストーリーがすごく、読んだ人の誰にも強烈な印象を残す。
「響~小説家になる方法~」は、15歳の高校生でありながら純文学の新人賞を受賞し、その勢いで芥川賞と直木賞に同時ノミネートされる偉業を成し遂げた鮎喰響という少女が主人公。漫画ではあまり取り上げられていない文壇の様子が描かれている。柳本さんは、この題材を選んだ理由を、「世間一般ではメジャーだが、漫画ではあまり扱われていない題材ということで、ちょうどあったのが小説文芸でした」と説明。「文章は絵に起こせないから誰も手を付けていなかったのでしょう。その時に、キャラクターに説得力さえ持たせられれば成立すると思いました」と話し、圧倒的な文学的才能を持った響という少女を創造した。
その響。自分がつまらないと思えば、文学賞の選考委員を努めるベテラン作家が相手でも正面から批判し、群がってくるマスコミには暴力すら辞さないため、たびたび問題を起こす。こう聞くと、暴力的で近寄りがたいキャラクターと思われそうだが、柳本さんは「僕は可愛いと思って描いています」と、読者には意外ともいえる解釈を示した。
気に入らない相手の指を折る、嫌な質問をしてくる記者には壇上からマイクを投げつけるといった振る舞いに及ぶが、それは自分の中にある基準に正直だということかもしれない。そして、「会う人と話していて言ってもらうのが、柳本さんは響と似ているねということです」。そう話す柳本さんの言葉からは、自分の中にある創作に対する真っ直ぐなスタンスといったものも伺える。
芥川賞と直木賞への同時ノミネートは、1951年に柴田錬三郎さんが発表した小説「デス・マスク」があるだけ。現在ではあり得ない事と思われがちで、描くことを敬遠してしまいたくなるのが普通だが、柳本さんは、「逆に言えば、過去に柴原錬三郎さんがされている。ある程度の面で漫画は現実を超えなくてはいけないので、変わったことをしている気はしない」と説明する。「できれば前例のないことを描きたい。嘘にならないようリアリティを持たせた上で、あとは面白くなるかどうかです」という言葉どおり、漫画は突拍子もない展開へと進んで驚きをもたらす。これからの連載が楽しみだ。
マンガ大賞の受賞作は、羽海野チカさんの「3月のライオン」や末次由紀さん「ちはやふる」など多くが映画化、アニメーション化されている。かつてないヒロイン像を持つ「響~小説家になる方法~」がもし映像化されるとしたら、響は誰が演じるのが相応しいのか。柳本さんは「マンガ大賞にノミネートされてから、ずっとそういう話しをしています。していただけるのなら誰でも良い。動くところがみたいです」と話して、実写やアニメーションなどへの展開を希望した。担当編集者によれば打診もあるそうで、とてつもない才能と激しい行動を見せるヒロインが動き、話す姿を遠からず見られるかも知れない。
今回のマンガ大賞2017には、一次選考があって、94人の選考員がそれぞれ最大で5冊までノミネートしたい作品を挙げる形で行われ、得票数で13作品が最終候補としてノミネートされた。その中には、前回2位の九井諒子さん「ダンジョン飯」や、「かくかくしかじか」でマンガ大賞2015を獲得したほか、「ひまわりっ ~健一レジェンド~」「ママはテンパリスト」「海月姫」「主に泣いてます」など、発表作品がことごとくノミネートされる東村アキコさんの「東京タラレバ娘」も入って、激戦の様相を見せていた。
選考員は、この13作品をすべて読んだ上で1位から3位までを選んで投票した。1位3ポイント、2位2ポイント、3位1ポイントとなっており、89人が投票して「響~小説家になる方法~」が67ポイントを獲得し、今回の大賞に輝いた。2位には岩本ナオさん「金の国 水の国」が64ポイントで付け、「ダンジョン飯」が63ポイントで3位、4位は小林有吾さん作で上野直彦さん協力の「アオアシ」が60ポイントと、上位4作品が僅差で並び接戦だったことを伺わせた。