展望2020年のIT企業

働き方改革に取り組む有力IT企業の狙い

田中克己

2016-10-28 07:30

 長時間労働の是正など働き方改革に乗り出すIT企業が少しずつ現れている。年商3000億円超のSCSKは、一早く残業削減や有給休暇率100%などに取り組み、“健康経営”へと舵を切った。生き生きとした働きやすい職場環境が、価値の高い創造的なビジネスを生み出すからだろう。

残業時間半減に成功したSCSK

 「この業界の特徴ともいえる長時間残業は、替えがたいものと思っていた」。SCSKで人事グループ副グループ長を務める小林良成理事は、2012年に始めた長時間労働の是正を感慨深そうに語る。人事部門が提案しても、現場は「プロジェクトを期日通りに仕上げるためだ」、「予算達成に必要なこと」などと理由をつけて拒む。それが大きく変わったのは、住友商事副社長の中井戸信英氏が2009年6月、旧住商情報システムの社長に就任してからだ。

 小林理事によると、中井戸氏は「ITを駆使して差別化を図り、日本企業の国際競争力を高める重要な産業」と思っていたら、IT企業の現状は大きく違っていた。「疲弊した社員がたくさんおり、活力を感じない」。毎晩遅くまで働き終電を乗り過ごすありさま。「付加価値を提供するというより、時間を売って、売り上げや利益を立てている」。自分が思っていたIT企業とのギャップを感じた中井戸氏は、働き方を変える決意をしたという。

 中井戸氏らは2011年10月、住商情報システムとCSKの合併を契機に、新しい働き方の追及を始める。「この機会を逃したら、改革は難しくなる、との思いがあったのだろう」と、小林理事は振り返る。最初の指示は残業時間を半減させること。人事部門は「実現可能な10%から20%を主張したが、中井戸はあくまで半減を要求した」(小林理事)。

 そこで、残業の比較的多い32部署を選び、2012年7月から9月の3カ月間、実施したところ、半分の部署が半減に成功した。「ノー残業デーや業務の見直し、会議の効率化など、やればできることが分かった」。

 フレックスタイム制、裁量労働制も導入済みで、小林理事は「画期的な施策ではなく、当たり前のことを実行しただけ」と語る。実は、残業をKPIの1つにし、役員評価の項目にした。承認も、残業時間の長さによって、課長、部長、役員、社長と変わる。月の残業時間は2008年度の35.3時間から2012年度に26.1時間に減る。

 次の指示は、有給休暇の取得率を9割(13日から18日)にすること。2013年度に、有給休暇20日、月残業時間20時間以内と目標を引き上げた結果、2015年度に有給休暇18.8日、月残業時間18日となる。「稼働時間が減れば、顧客への請求額が減る」と、役員や幹部が言ってきたら、「社員の健康を害してまで予算を達成するのか。できないのなら、そもそもビジネスモデルが間違っているので、見直す」と詰め寄る場面もあったという。

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