グループウェア国内最大手のサイボウズが、クラウドサービスのグローバル展開で実績を上げつつある。商材はまさに国産PaaSの「kintone」。“次なる一手”も視野にあるようだ。
過去の苦い経験を糧にグローバル市場へ再挑戦
会見に臨むサイボウズの青野慶久社長
「当社はかねて“日本発のグローバルソフトウェア企業”になることを目指してきた。ここにきてその手応えを強く実感している」――サイボウズの青野慶久社長は、同社が先ごろ開いた今後の事業戦略についての記者説明会でこう強調した。
サイボウズが今グローバル展開に注力している商材は、自社開発のクラウドサービスであるkintoneだ。グループウェアを主力製品としてきた同社が、これまで培ってきたそのノウハウを基に、自社のクラウド基盤「cybozu.com」上で手軽に業務アプリケーションを構築できるようにしたPaaSである。
同社が主力製品をクラウド環境で提供するための基盤としてcybozu.comのサービスを開始したのは2011年11月。2015年末時点で同サービスの契約社数は1万3000社を超えた。これを基に同社は従来の主力製品をSaaSとして提供するとともに、新たにPaaSとしてkintoneを投入。kintoneの契約社数はこの4年余りで年間倍増以上の伸長を続け、現在約4000社を数えているという。
kintoneのグローバル展開については、2014年から米国と中国の両市場で事業拠点を設け、マーケティングおよび販売活動を展開してきた。青野氏曰く「日本発のグローバルソフトウェア企業」を目指す同社にとってはまさに念願の動きだが、kintoneを前面に押し出した背景には、同社がかつて米国市場に進出した際に味わった苦い経験がある。
同社は2001年に米国でグループウェアのパッケージ販売に乗り出したことがある。だが、機能における文化的な違いなどから、結局、製品は受け入れられず、2005年に撤退を余儀なくされた。その経験から、青野氏は、文化に依存するアプリケーション領域ではなく、文化に関わらないプラットフォーム領域で勝負しないと、グローバル展開は難しいと痛感したという。kintoneを前面に押し出したグローバル展開の“再挑戦”には、こうした経緯がある。
AWSやAzureへのIaaS転換はあり得るか
そんな苦い経験をした青野氏が今回の会見では、「ここにきて手応えを強く実感している」という。
その根拠として同氏は、「現時点で企業名は公表できないが、世界各国に事業拠点を持つ複数のグローバル企業にkintoneが採用され、それらの企業の中でkintoneのグローバル展開が進みつつある。こうしたプラットフォームツールに目の肥えた複数の米国企業がkintoneを選んでくれている」ことを挙げ、「売り上げに大きく寄与するのはこれからだが、kintoneはグローバルで通用するとの確信を得た」と胸を張った。
こうした状況に対し、同社では米国拠点の人員を増強するとともに、事業体制全体の強化を図り、それこそ「日本発のグローバルソフトウェア企業」へとまい進していく構えだ。
だが、kintoneがグローバルで広く使われていくようになると、果たして現状のクラウド事業の仕組みのままで回していけるのだろうか。要はIaaSであるcybozu.comも増強し続けていくつもりなのかどうか。
そこで筆者は会見の質疑応答で、「今後のkintoneのグローバル事業拡大に向けて、cybozu.comの代わりにAmazon Web Services(AWS)やMicrosoft AzureなどをIaaSとして採用する考えはあるか」と青野氏に聞いてみた。すると同氏は次のように答えた。
「選択肢として慎重に検討している。パブリッククラウドをそのまま採用するのではなく、そのリソースをプライベートクラウドとして使える手立てもある。その方向で視野に入れており、柔軟に対応できるように考えたい」
筆者がこう聞いたのは、今後kintoneをグローバルに広げていくためには、AWSやAzureをIaaSとして採用するほうが得策ではないかと考えるからだ。もちろん、デメリットもある。
サイボウズがcybozu.com上でさまざまな自社サービスを提供しているのは、「インフラと一体化した形で自社サービスのコストパフォーマンスを追求するため」(青野氏)だ。もしAWSやAzureを採用するならば、「インフラの制約」と「コストパフォーマンスの追求」というトレードオフの落としどころを見出さなければならない。
青野氏は「検討中」と肯定も否定もしなかったが、もしIaaSをcybozu.comからAWSやAzureに移行するならば、これはkintoneのグローバル展開にとって大きな戦略転換となる。果たしてこれが“次なる一手”となるか。注目しておきたい。