APIの重要性
開発コンテストで選ばれたものを見ても、外部審査員の考えを聞いても分かるように、APIの重要性がはっきりしてきている。「“こんなAPIがある”というアイデア勝負になりつつある。業務システムに活用するのであれば、APIのデータベースがしっかりあった方がいい」(横塚氏)
新野氏は「今回のコンテストは、APIの可能性を知らしめるものと言える」と解説。谷口氏も「APIの普及は、システムをどう開発するかではなく、システム開発の難易度を下げた」とメリットを解説した。横塚氏も「APIを使うことで、少しでもいいから動くものを作れるようになっている。動くものを見ているとアイデアが湧いてくる」とAPIの重要性を説いた。
早稲田大学 理工学術院 教授 山名早人氏
山名氏もAPIの可能性に言及した。今回の開発コンテストで大学から出てきたものの中には大学のサーバに問い合わせるアプリもあった。
大学内で開発された技術でどのように利益を獲得するかということが、この数年で問われるようになっている。そのひとつとして、学内で開発された特許を民間企業に移転するための技術移転機関(Technology Licensing Organization:TLO)が活用されるようになっている。
こうした背景を踏まえて、学内で開発された技術の利益獲得策として、APIを活用することもできると山名氏は指摘した。例えば、大学の外でも使えるAPIを学内のサーバに置いて、1日数回までのアクセスは無料として、それ以上に対しては課金するというビジネスモデルが想像できる。
“マイクロサービス化”の未来
現在、モバイルやネットサービスで活用されているAPIだが、これはXMLで書かれていた“Webサービス”が、現在はREST形式になったと言い表すことができる。いわば「(Webサービスのインターフェース記述言語である)WSDL(Web Services Description Language)でやろうとしたことが軽くなった」(日本IBM ソフトウェア事業SWテクニカル・セールス企画部長兼ソフトウェア・クラウド担当部長の牧裕一朗氏)のがRESTful APIとも言い表せる。
「Publickey」編集長 新野淳一氏
WSDLといえば、連想されるのがサービス指向アーキテクチャ(SOA)だ。
谷口氏によると、2014年初頭から米国では“マイクロサービス化”が大きく話題になっている。マイクロサービス化とは、システムを小さなサービスとして分割していく発想と言える。逆に言えば、マイクロサービス化は、かつての「SOAと同じ」(谷口氏)ともいわれている。小さなサービスを組み合わせるという発想は、今回の開発コンテストで賞を獲得したアプリなどにもあると谷口氏は指摘した。
それでは、“PaaS+API”は、企業の情報システムにどのような変化を与えていくのだろうか? この問いに対して横塚氏は「分かれていくことは間違いない」と明言した。
「勘定系などをきっちりと守るチームと顧客との関係をどう作っていくのかを考えるチームに分かれていく」
経済環境がデジタル化していく流れの中で、ビジネス部門と一緒になって顧客との関係を改善し続けるチームが必要になってくるという考えだ。実ビジネスでのフロントツールとしてITを活用することが前提であり、ITとビジネスはもっと密接な関係を築くことが求められるようになるとしている。
「IT部門に任せていればいいと考えるビジネス部門の企業は滅んでいくのではないか」(横塚氏)
薮田氏も横塚氏の考えに同意を示し、基幹系などを守るチームとPaaS+APIで顧客との関係を築き上げていくチームは、IT部門の中では混ざることはないだろうと予測した。「相互理解が必要だと思う」(薮田氏)
ただ、この2つのチームは「融合することはなく、新しい時代が開かれることになる」(横塚氏)。「工場部門と販売部門はスキルや仕事のスパンが違うために融合させてはいけない」(薮田氏)
将来のシステムのあり方として新野氏と谷口氏は、こうした可能性も指摘した。「これから基幹系もクラウドに載っていくだろう。外部のサービスと連携するようになる」(新野氏)。そこから「クラウドに載った基幹系はモノリシックではなく、分割されてマイクロサービス化していくという予感がある」(谷口氏)