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電子書籍ビジネスの真相

電子書籍は「なぜ」消えるのか?--世間にはびこる俗説を斬る

林 智彦(朝日新聞社デジタル本部)2015年12月25日 08時30分
特集

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(C)caquatarkus | Dollar Photo Club

 こんにちは。今回は、「消える電子書籍」問題を取り上げたいと思います。

 というのも、こんなニュースを目にしたからで。

“「2015年12月31日24:00」以降、Newsstandでの『MacPeople』『アスキークラウド』電子版のダウンロードができなくなります。あらかじめお手持ちの端末に、『MacPeople』『アスキークラウド』のアプリ及び購入済の雑誌データをダウンロードをしていただきますようお願いします。”

 要するに「休刊して1年経ったからサーバから消すね。もし欲しい場合は自己責任でダウンロードして管理してくださいよろしく!」というのが、運営側の言いたいことのようです。

 現在の電子書籍には、いくつか重要な「欠点」があるとされています。その一つが、電子書籍を提供している企業などが、事業をやめたりすると、本が読めなくなってしまう、いわゆる「消える電子書籍」問題です。

 今回と似たような事例は、過去にみなさんもたびたび目にしていらっしゃると思います。

 2015年7月には富士通の「BooksV」がサービスを終了しました。少し遡りますと、2014年から2015年にかけて「エルパカBOOKS(電子書籍)」「地球書店」「ヤマダイーブック」「TSUTAYA.com eBOOKs」「BookGate」、そして日本以外のソニーの「Reader Store」が事業撤退しました。もう少し遡ると、2013年3月には、楽天の「Raboo」のクローズがありました。

 さて、こうしたニュースが報じられるたび、次のような「通説」がまるで「おきまり」のようについてまわります。

「電子書籍は、紙の書籍と違って本の『所有権』でなく『利用権』を買っているに過ぎない。だから今回のような問題は、今後も続く。これは電子書籍のどうしようもない欠点である。」

 いや~ハハハ。電子書籍支持派としては、困っちゃいますね。まるで、

「こんな欠点のある電子書籍を買う奴は、アホだ。」

 とでも言いたいかのようです。

 しかし、この種の「通説」に接して、筆者や、筆者の周囲の電子書籍の専門家は、いつも失笑半分、呆れ半分の気持ちで受け止めています(たとえば、ライターの鷹野凌さんはこんなふうに書かれています:「ヤマダイーブック閉鎖時の対処を記憶に焼き付けるとともに「事前の救済策」でユーザーの信頼を勝ち取ろう」)。

 なぜかというと、一般に、上のような「通説」は間違っているからです。

 どこがどう間違っているのか。今回は、その理由を2点に分けて詳しく説明させていただきますね。

「消える電子書籍」論がおかしい理由、その1~「消える」例はそんなに多くない

 理由その1は、最近の撤退例に限りますが、

  • たいていの場合は、手元の端末が使える限りは読み続けられる
  • また、特別な救済措置が講じられることが多い
  • 最近では、実質全額返金が珍しくない

 という点にあります。

 たとえば、冒頭の『MacPeople』の例では、手元の端末にダウンロードしたコンテンツは、端末が壊れない限りは読み続けることができます。これは、他の撤退例のでもほとんど同じです。

「端末が壊れたら読めないなんて! やっぱり消えるじゃないか!」

 とおっしゃいますか? でも、普通の本でも、壊れたり破れたりするじゃないですか。消える(なくす)ことだって、あります。

 たとえば筆者は「シドニアの騎士」という作品にはまっていたのですが、先日出た最終巻が、買ったはずなのにみつからない、読みたいのに、読めない……しかたないので買い直した、という事件がありました。

 いや、実は、中学生の息子が、部屋に持ち込んで読んでいただけだったんですが。

 まあこれは特殊な例ですが、コーヒーをかけてしまったとか、長期間保存しておいたら虫に食われたとか、背が取れてしまったなどの理由で、つかいものにならなくなる……などということは、紙本でもままあります。電子本に限った話ではありません。

 違いは、電子書籍の場合、本自体がどうにかなったという場合だけじゃなく、端末が使えなくなった場合にも読めなくなるという点ですが、これは、電子書籍だけの問題でもないですよね。

 たとえば、思いつくだけでも、ソノシート、オープンリールテープ、マイクロカセット、8ミリビデオテープ、ベータ方式のビデオテープ……などが筆者の周囲にありますが、このどれもが、今は中身を見る・聴くことが、難しくなっています。

 だから批判するとすれば、紙以外の記録媒体(特に、電子記録媒体)というものの儚さを指摘したうえでするべきであって、電子書籍のみを指弾するのはおかしいと思います(ウラを返せば、紙という媒体がいかに優れているか、ということでもあります)。

 次に、指摘の第二、第三点について。過去の「撤退」事件で、消費者からの苦情が多かったからか、最近の事業者撤退のケースで、「はい、もう読めなくなるよ、あとは勝手にしてね」という例は、まれになっています。

 実際、ブックスVでは、購入した金額全額分の「hontoポイント」がユーザーに提供されました。hontoポイントは、DNPグループの「honto電子書店」や、丸善ジュンク堂などのリアル書店で使えるポイントです。

 つまり「全額返金」です。ユーザーは、このポイントを使って、ブックスVで購入した電子書籍を、再度全点hontoで買い直してもいいですし、別の本を買ってもいい、ということになります。

 電子書籍の単価が買ったときと異なっていた場合には、損が生じる恐れがないわけではないですが、通常のケースでは、大丈夫でしょう。

 ブックスVと同じような対応は、2014年に事業を停止した、他の多くの事業者でもとられました。「エルパカBOOKS(電子書籍)」では、Pontaポイントで「全額返金」されました。TSUTAYA.com eBOOKsでは、業務提携先のBookLive!に「購入情報の移行」ができるようにした上で、移行できなかったコンテンツについてはTポイントにより「返金」の措置がとられました。

 日本以外のReader Storeでも、「ツタヤ」と同様に、楽天Koboへの「購入情報の移行」ができるプログラムを用意し、Reader Storeから送られてきたメールのリンクをクリックして、専用のページで手続きをすると、楽天Koboのアプリなどの「書棚」に、Reader Storeで購入した書籍が登録されるようになりました。

 それだけでなく、専用端末であるSony Readerからも、Koboのストアが利用できるようにし、さらに、Reader Storeでためたポイント(クレジット)も、Koboへ移行できるようにしました。

海外のKoboストアのReader利用者向け案内ページ
海外のKoboストアのReader利用者向け案内ページ

 つまり、Sony Reader端末などでReader Storeを利用していたユーザーは、Koboへの入会・ログイン手続きをすれば、

  • それまでに買った本を、Reader端末、Koboの端末、あるいはKoboのアプリ等で読み続けることができ、
  • Reader端末でKoboのサービスを利用でき、
  • 貯めたポイント(クレジット)もそのまま利用できた

 というわけです。

 いま一度図にまとめますと、以下のようになります。

Reader StoreからKoboへの移行の流れ  (Icons:Freepik, Yannick, Sergiu Bagrin from freepik. CC-BY 3.0)
Reader StoreからKoboへの移行の流れ (Icons:Freepik, Yannick, Sergiu Bagrin from freepik. CC-BY 3.0)

 さて、これでも、

「電子書籍は、紙の書籍と違って本の『所有権』でなく『利用権』を買っているに過ぎない。だから今回のような問題は、今後も続く。これは電子書籍のどうしようもない欠点である。」

 と言えるでしょうか? 「消える電子書籍」はどこへ消えたのでしょうか?

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