世界中で「ボット」への注目が高まっている。ボットとは「ロボット」の略称で、人間がコンピュータで操作していた処理を、自動的に実行するプログラムのこと。中でも盛り上がりを見せているのが、メッセージを自動返信する「チャットボット」である。
4月には、LINEがボットアカウントを自由に開発できる「BOT API Trial Account」の無償提供を開始。Facebookも「F8」開発者カンファレンスで、Messengerのチャットボットプラットフォームを発表した。他にも複数のサービス企業がボットプラットフォームを開始している。
この流れは米国、日本だけでなく、筆者が暮らすインドにもあてはまる。インドの代表的なプレイヤーは、著名な投資ファンドであるセコイア・キャピタルから約2000万ドル(約22億円)を調達したチャット型パーソナルアシスタントサービス「Helpchat」だ。
世界中で注目と資金を集めているボット。しかし、インドでは早くもその将来性が揺らぎ始めている。
明暗が分かれつつあるというのも、代表的プレイヤーで順調に資金を集めていたHelpchatが先日、突然チャットボットを活用したサービス提供を中止したのだ。
Helpchatは、企業弁護士として活躍していたアンカー氏によって、元は「Akosha」という名称で2010年に開始されたサービス。当初は企業のクレーム対応を代行するものであったが、2015年7月にパーソナルアシスタントサービスとして生まれ変わり、サービス名も変更された。
Helpchatはチャットボットを活用し、多彩なサービスを提供していた。フードデリバリーやタクシー配車、映画チケット予約、美容院予約、ニュース、仕事探し、洗濯、電気製品修理……ここには書ききれないほどのラインアップをパートナー企業と提携して実現していた。3月までに累計200万ダウンロードを突破。先日も、毎月新規で15万ダウンロードを達成していると公表していた。
アクティブユーザーを特に引きつけていたのは、インドの人気コンテンツ「ABCD」のうちのAstrology(占い)、Bollywood(インド映画)、Cricket(クリケット)だ(ちなみにDはDevotion=宗教)。筆者もいちユーザーとして、映画チケットの購入のために利用したこともあった。
しかし、ここに来て突如、Helpchatはチャットボット機能の中止を発表した。CEOのアンカー氏によれば、その理由は「メッセージのやりとりが複数回必要となるチャットUIは、ユーザーに最適なサービスを最短で提供できない。ボットとのコミュニケーションに戸惑い、離脱するユーザーが多かったから」だという。
チャットボット機能が中止となり、Helpchatは実質的にはシンプルなポータルサイトになった。筆者の感触では、実際に使い勝手は良くなった。チャットを経由しなくなることで、操作がワンステップ減ったためである。たとえば、映画チケット購入の場合、言語やジャンルなどの希望をチャットで送る必要がなくなった。
機能性以外にも、Helpchatのチャットボットはインドで論議を呼んできた経緯がある。2015年10月、同社は人工知能を活用したチャットボットによるカスタマー対応の自動化とサービス機能の変更を推し進める際、それまで雇用していたチャット対応の在宅ワーカー約100人を突然解雇し、社会から大きな批判を浴びていた。
Helpchatによるチャットボット機能中止の件は、「機能性」と「雇用」という2つの観点でボットの問題点を浮き彫りにする形となった。今後、インド以外の国の「ボット」分野にどのように波及していくのだろうか。
(編集協力:岡徳之)
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