ミュージシャンGacktさんの声で、思い通りの歌声が出せる――このような歌声合成ソフト「がくっぽいど」を、株式会社インターネットが7月末に発売する。2007年に大ヒットしたクリプトン・フューチャー・メディアのボーカロイド「『初音ミク』」と同じヤマハの音声合成技術「VOCALOID2」を使い、自然な歌声が作れるというのが売りだ。
また、パッケージのキャラクターを、「ベルセルク」などで知られる漫画家、三浦建太郎さんが手がけたことでも話題になっている。三浦氏はイラストを無償提供したといい、キャラクターの二次利用についても非商用かつ個人利用であれば構わないという。
プロのミュージシャンと漫画家がそれぞれ素材を提供しているにもかかわらず、がくっぽいどを使って作った楽曲やキャラクター作品をユーザーが自由に公開できるというのは異例と言っていい。がくっぽいどはどのようにして生まれたのか。また、なぜキャラクターの二次利用が可能になったのか。開発経緯を同社代表取締役社長の村上昇氏に聞いた。
インターネットは1988年9月創業。楽曲の制作、編集ソフトのパッケージ販売を主軸としており、作曲ソフト「Singer Song Writer」などを開発、販売してきた。また、ニワンゴが運営する「ニコニコ動画」向けに、静止画をつないで動画が作れるツール「ニコニコムービーメーカー」を開発した企業でもある。
がくっぽいどを開発しようと思ったのは、「VOCALOID2で作られた男性の声のボーカロイドがなかった。本格的なボーカルツールとして使えるものがあったらいいのではないか」と考えたためだという。クリプトンでは声優の声を使ったボーカロイドを開発しており、異なるジャンルを築くために、本物のミュージシャンの声を使いたいと考えた。
ただし、歌声を誰でも勝手に作れてしまうソフトに、歌手の協力を得ることは難しい。インターネットは付き合いのあったドワンゴと相談する中で、Gacktさんであればこの企画に理解を示してくれるのではないかと考えた。Gacktさんはそれまでもドワンゴで着うたや着ボイスなどを配信しており、ドワンゴとは親しい関係にあった。
Gacktさんは初音ミクについても知っており、がくっぽいどの話についても興味を示したことから、がくっぽいどの開発が始まった。
がくっぽいどは当初、6月中旬の発売を目指して進められていた。しかし、「用意していたイラストの方向性に対してGacktさんの納得が得られなかった」(村上氏)ため、新たなイラストレーターの選定を始めた。
Gacktさんとコラボレートして面白いクリエーターは誰かと考え、三浦建太郎さんがいいのではないかという話になった。Gacktさんが「ベルセルク」を好きだったことに加え、三浦さんがニコニコ動画のファンだったからだ。三浦さんは連載雑誌の奥付などに、よくニコニコ動画のネタを書いていた。
特に三浦さんにつてがあるわけでもない。けれども、イラスト決定までの納期は2週間となっていた。そこで「ダメもとで」(村上氏)、三浦さんを呼びだすアイデアをドワンゴに話したところ、「ニコニコ動画っぽいからぜひやろう」ということになり、ニコニコ動画の再生中に流れる「時報」を使って、三浦さんに連絡を求めた。
これに対して、「ベルセルク」を連載している白泉社のヤングアニマル編集部から連絡があった。「スケジュールが空いていない上に、締め切りが急すぎるので、多分無理だが、一応三浦先生に伝えるので企画書を下さいと言われた」(村上氏)。4ページ程度の企画書を送ったところ、三浦さんが興味を持っているようなので詳しい話を聞きたいという返答があり、村上氏はヤングアニマル編集部に説明に行った。すると、そこにはすでに、三浦さんの描いたラフスケッチがあった。
「ニコニコ動画という、素人が自分の作品を発表して評価される場所ができたことが素晴らしいと三浦先生が個人的にとても喜んでいること、普通はほとんどこういった仕事は受けないが、今回の件は受けると言っている、と告げられた」(村上氏)
こうして、三浦さんががくっぽいどのイラストを引き受けることが決まった。ただし、そこには条件が3つあった。「ニコニコ動画はユーザーが無償で作品を発表している場だから、自分もその世界に参加するときは無償で作品を提供したい。そして自分が作ったキャラクターはユーザーが自由に二次利用できるようにしてほしい。また、今回は仕事の報酬は受け取らない――と言われた」(村上氏)
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