コンテンツにスキップ

マイナス金利

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

マイナス金利(マイナスきんり、: negative interest rate)とは、経済学用語の一つであり、金利が0%未満のマイナスであるということ。

概要

[編集]

超低金利下や金融危機時などに、銀行預金よりも更に信用力のある通貨・債券金融商品などの取引で人気が高いことで価格上昇と金利低下が進み、「質への逃避(フライ・トゥ・クオリティ)[1][2][3]」からマイナス金利が発生することがある[4][1]。他にも大量の現金保有は保管・輸送コスト・安全面に問題があるため、利子を払ってでも、すぐに換金できる安全資産(現金など)であるほうが得だと判断する場合にもマイナス金利が発生することがある[4]。 2003年6月25日、日本で金融機関同士が短期資金の貸し借りを行っている無担保コール市場で、史上初めてマイナス金利が発生し、その後も頻発した[5]

欧州ではマイナス金利が定着しつつあり、ドイツオランダスイスフランスオーストリアフィンランドデンマークの短期国債で見られる。最初に国際入札でマイナス金利となったのはドイツであり、購入希望が殺到し、2012年1月初めに行った6カ月物のドイツ国債入札結果が-0.0122%であった[1]


自国内への投資や国内消費の活発化のため、中央銀行民間銀行が余剰資金を預けた際に、民間銀行に手数料の支払いを求める政策がマイナス金利政策である[4]

中央銀行がマイナス金利政策を実施すると、民間銀行など金融機関目線では、中央銀行の当座預金に資金を置いておくと金利を支払う必要が生じる。それを回避するため、金融機関は貯金から国債などへの投資行為が促進されるため、金利を低くさせる効果がある[6]

2012年10月時点の日本経済の問題として、巨額の現金が民間銀行や中央銀行の預金、国債などに滞留しており、株式などの投資・事業への融資には回されにくい状況である[1]。そのため、2016年1月29日に日本銀行(日本の中央銀行)がマイナス金利政策の導入を決定を受け、長期金利の利回りが低下すると民間銀行など金融機関は軒並み、借金主が支払う住宅ローンの金利を引き下げた[7]

政策金利でのマイナス金利政策

[編集]

マイナス金利政策とは国内投資・国内消費を活発化させるため、中央銀行が民間銀行による余剰資金の預金行為に手数料の支払いを求める政策である[4]

1970年代のスイスの中央銀行で金利政策金利として、初導入された[4]

2009年のスウェーデンの中央銀行で導入した[4]

2012年7月、デンマーク国立銀行がマイナス金利を導入した[8]

2014年6月5日、欧州中央銀行(ECB)は主要国・地域の中央銀行として、初めてマイナス金利政策を導入した[4]。中銀預金金利を-0.1%とした[9]

2014年10月23日、日本の財務省が実施した償還期間3カ月の国庫短期証券(短期国債)の入札は、平均落札利回りが-0.0037%となり、初めて日本国債入札でマイナス金利が付いた[10]

2014年11月28日、債券市場で日本の新発2年物国債の利回りが低下し、-0.005%と利付国債としては初めてのマイナス利回りとなった[11]

2014年12月18日、スイス国立銀行はマイナス金利を導入すると発表した[12]

2016年2月16日、日本銀行は日銀当座預金の一部にマイナス金利を導入した。同日の当座預金残高は253兆4290億円。そのうち、8.9%にあたる23兆1940億円がマイナス金利適用となった[13]。その結果、日本では国債利回りが急低下した[14]

2016年3月23日、ハンガリー国立銀行は、主要政策金利を1.35%から1.20%へ引き下げた事から、翌日物預入金利を0.1%から-0.05%に引き下げた[15]。翌日物預入金利は主要政策金利より1.25%低く設定すると定められている[15]

2016年5月現在ではEU、スイス、デンマーク、スウェーデン、日本、ハンガリーが政策金利でマイナス金利政策を導入している。その後マイナス金利をしているのは日本だけとなった。(2022年11月現在) [8][15]

2019年8月、デンマークでは、ユスケ銀行が手数料前金利が-0.5%の住宅ローンを発表[16]

スイス金融大手UBSは、スイス国立銀行マイナス金利政策の負担を個人顧客にも転換すべく、2019年11月1日より残高が200万スイスフラン(約2億2000万円)を超す大口個人預金口座を対象に、年0.75%の口座維持手数料を徴収する方針を固めた[17]

脚注

[編集]
  1. ^ a b c d マイナス金利 | 目からウロコの経済用語「一語千金」 | 連載コラム | 情報・知識&オピニオン imidas - イミダス”. 情報・知識&オピニオン imidas. 2023年12月19日閲覧。
  2. ^ 大和証券株式会社. “質への逃避 | 金融・証券用語解説集”. 大和証券. 2023年12月19日閲覧。
  3. ^ わかりやすい用語集 解説:質への逃避(しつへのとうひ)”. 三井住友DSアセットマネジメント. 2023年12月19日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g 日本大百科全書(ニッポニカ),知恵蔵. “マイナス金利(まいなすきんり)とは? 意味や使い方”. コトバンク. 2023年12月19日閲覧。
  5. ^ 神樹兵輔 『面白いほどよくわかる 最新経済のしくみ-マクロ経済からミクロ経済まで素朴な疑問を一発解消(学校で教えない教科書)』 日本文芸社、2008年、164頁。
  6. ^ 短期金利とは 1年未満の借金の金利、中央銀行が操作”. 日本経済新聞 (2023年3月25日). 2023年12月19日閲覧。
  7. ^ 「マイナス金利」を活かす。あなたの住宅ローンにも借り換えメリットが? - 住宅ローン(ローン)|SBI新生銀行”. SBI新生銀行. 2023年12月19日閲覧。
  8. ^ a b 金利がマイナス?ヨーロッパで不思議な現象”. 三井住友信託銀行 (2015年4月10日). 2015年4月13日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年1月29日閲覧。
  9. ^ “ECB、マイナス金利など追加緩和決定 総裁「終わりではない」”. ロイター. (2014年6月6日). https://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0EG1ER20140605 
  10. ^ “初のマイナス金利=品薄で買い殺到-短期国債入札”. 時事ドットコム. (2014年10月23日). オリジナルの2014年10月23日時点におけるアーカイブ。. https://archive.md/wqWQW 
  11. ^ “債券・短期概況 為替・金融 マーケット 2年債、利付国債で初のマイナス利回り”. 日本経済新聞. (2014年11月28日). https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL28HCA_Y4A121C1000000/ 
  12. ^ “フラン高阻止へマイナス金利=原油安で上昇圧力-スイス中銀”. 時事ドットコム. (2014年12月18日). オリジナルの2014年12月19日時点におけるアーカイブ。. https://archive.md/C2oL1 
  13. ^ “マイナス金利適用、当座預金の8.9%”. Qnewニュース. (2016年2月16日). https://qnew-news.net/news/2016-2/2016021702.html 
  14. ^ “黒田総裁が「ひとり総括」 マイナス金利の効果強調”. 日本経済新聞. (2016年8月30日). https://www.nikkei.com/article/DGXLZO06632720Z20C16A8EN2000/ 
  15. ^ a b c ハンガリー、マイナス金利導入 欧州で5例目”. 日本経済新聞 電子版. 2019年8月19日閲覧。
  16. ^ 住宅ローン借りると金利もらえる国も-マイナス金利がここまで”. Bloomberg.com. 2019年11月11日閲覧。
  17. ^ スイスのUBS、大口個人預金にマイナス金利 11月から”. 日本経済新聞 電子版. 2019年10月29日閲覧。

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]